「来ないのか?」
低く、不機嫌丸出しの声でGはベッドの中から恋人に声をかける。
すぐそばのソファに腰をかけたジョットはワインを楽しみながらちらりと恋人のほうへと視線を向けた。
「触るなと、そう言われたからな」
拗ねたように呟くとジョットは、ワインをあおり飲む。
「だから、それは……っ」
言いかけたもののGは先ほどのことを思い出してムッとした表情を作る。
そもそもこの男はデリカシーに欠けすぎている。誘いをかけようとすると無粋なことをしでかしてくれる。いつもそうだ。
これでは気持ちが萎えてしまったとしてもおかしくはないだろう。
「なあ、G」
ワイングラスを手にした男が、悠々とした足取りでこちらへと近付いてくる。あれは、何かよからぬことを企んでいる時の顔だ。穏やかな表情に柔らかな笑みを浮かべてはいるものの、目は笑っていない。 「お互い、気持ちよくなれればそれでいいじゃないか。お前は、あれこれ細かいことに拘りすぎる」
そう言われてGは、さらに眉間の皺を深くする。
この男のこういうところが、苦手なのだ。よく言えば気さくなのだろうが、悪く言えば大雑把すぎるきらいがある。特に色事に対しては、その時の雰囲気だとかあれやこれやを気にかけることもなく、直截的な言葉を平気で口にする。それどころか、まるで獣の如く気が向けばところ構わず不埒な行為に及ぼうとする。
そういうのが嫌だと言いながらも呆気なく流されてしまう自分は、淫乱なのだろうか。
それともやはり、この男がすべての悪行の原因なのだろうか。
とにもかくにも、声をかけられれば悪い気はしない自分がいる。あの手この手で言い寄ってこられると、あっさり足を開き体を許す自分がいる。
これでは駄目だ。このままではいけないと思いながらも、男に抱かれることを待ち望むのはおかしいだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えていると、覆いかぶさるようにしてジョットが身を屈めてくる。 「G」
艶のある声で名を呼ばれ、Gは柄にもなくドギマギする。
唇を奪われ、舌先でざらりと唇を舐められると身体はすっかり懐柔され、堕ちてしまいそうになる。
「気持ちよくなれればそれでいい……だろ?」
唇の隙間からそう言葉を押し出すとGは、諦めたようにジョットの身体に腕を回した。
もう、あれこれ悩むだけ無駄なような気がする。だったら今のこの状況を愉しむべきだろう。恋人と共に。
「そのとおりだ」
低く喉の奥で囁き返すとジョットは、Gの唇をさらに深く貪った。
(2018.1.1)
(2018.11.6加筆修正)
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