「さて、それではG、お前の申し開きを聞かせてもらおうか」
そう言ってジョットは豪奢なテーブルの上に円筒形の浣腸器をそっと置いた。浣腸器は注射器に似ていてガラスでできており、その先端にはカテーテルがついている。そのすぐそばにはたっぷりと湯を入れた容量の大きな漏斗にも似た容器を吊るしたスタンドがあり、容器の下側からもやはりカテーテルがだらりと垂れている。それらの器具へとちらりと目を馳せたGは眉間に皺を寄せる。
「……申し開きはない」
言い訳をしても無駄だということはわかっている。この男は、指示に従わなかった部下へのお仕置きとして浣腸をしたいのだ。単なる見せしめだということもGは知っている。浣腸をされて悶える自分の痴態を見たいだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
「そうか」
冷たい声が部屋に響き、ついで服を脱ぐように告げられる。
身につけた衣類を脱ぐとGは、まとめて足元に落としていく。
上のシャツ一枚ぐらいはいいだろうとボタンも外さずそのままにしていると、無言でジョットが布地を左右に引き裂いた。ボタンがいくつか弾け飛び、床の上に転がる。
「これでいい」
満足そうにそう呟くと、テーブルに上体を伏せるように言われた。のろのろと言われた通りにテーブルに身を預け、尻を突き出す。シャツの裾を捲り上げ、尻肉を両手でわし掴むと、ジョットの顔をちらと見上げる。
浣腸器を手にしたジョットは冷たい眼差しでGを見下ろしていた。
「力を抜いて。少し冷たいかもしれないが、じっとしていろ」
無機質な声が頭上から降りてくる。
Gの下肢を覆うものは何もなく、ざらついた指が尻を掴むのが感じられると、わけもなく身体が震えた。
「恐いか?」
尋ねられ、Gは首を横に振る。
「嫌なだけだ」
ムッとして言い返すGの声はしかし、緊張に掠れている。
「挿れるぞ」
そう言ってジョットは、カテーテルの先端をぐりゅっ、と後孔に押し込んだ。
内側へと入り込んでくる違和感は不快で、腹立たしく思えるものだった。Gは眉間に皺を寄せて唇を噛み締める。屈辱的な姿勢を取らされていることにも憤りを感じる。
「ぁ……」
ブジュゥ、と音がして、微かに冷たい浣腸の液が腹の中に広がっていくのが感じられる。
ジョットは手早くことをすませる気はないようだった。じわじわと内壁に浸透させるかのようにゆっくりと時間をかけて、じわりじわりと浣腸器の中身を注入していく。
「んっ……」
薬液の中途半端な冷たさがもどかしく、腰を捩ろうとするとさらに強い力で尻を掴まれた。
「動くな」
やわらかな、しかし冷たい言葉がジョットの唇から洩れ出し、Gはその声の艶やかさにブルッと体を震わせる。
腹の中に満ちていく液体の感覚に、Gは眉を潜めずにはいられない。
「どうだ? どんな感じがする?」
おっとりとしたジョットの問いかけに、Gはますます眉間の皺を深くする。腸が煮えくり返るというのは、こういうことを言うのだろうか。
それでもこの男のことを自分は愛している。恋人として。
尻を掴む自身の指に自然と力がこもり、気付かぬうちに爪を立てていた。浣腸はまだ続いている。
そのうち、腹の底がカッと熱くなってきた。堪えきれずGは身を捩り、腰を小さく揺らす。
「あと少しだ、我慢しろ」
無感情な冷たい声が降りてきて、さらに大量の浣腸液が腹の中へと注がれた。
「あ……っ」
ブジュッ、と不快な音を立てて、腹に注がれる浣腸液が止まった。するりとカテーテルが引き抜かれ、反射的にGは肛門の筋肉をきゅっと締める。
「……どんな感じがする?」
再び、ジョットが尋ねてくる。
Gはちらりと恋人の顔を覗き込んだだけですぐに目を反らした。目の前にいる恋人をすげなく押し退けるとGは、下腹の不快感を払拭するため、目の前に立ち塞がる男を押し退け、トイレへ駆け込む。
内股で小走りにトイレへと駆けていく姿は、恋人の目にはどう映っただろう。 さぞかし滑稽な姿に見えただろう、この姿が。
腹の底がじわり、じわりと熱を帯びてくると同時に、直腸を何かが降りようとする不快な状態が増してくる。 個室に飛び込むとGは、便意がなくなるまで便座に座っていなければならなかった。それもまた腹立たしいことだ。お仕置きとはいえ、自分がこんな目に遭うことが許せないぐらい怒っている。だが、それでも時間が経てば恋人を許してしまう自分がいる。男同士で不毛な関係だが、それでも構わない。愛しているのだ、あの男を。
腹の中にあった便がすっかり出きってしまうと、尻を洗う。指先で肛門の周囲をマッサージするように洗い、それから中に指を入れる。第一関節まで挿入してぐるりと内壁を緩めるようにして洗うと、Gはようやく個室を後にする。
再び元の部屋に戻ると、ジョットは未使用の浣腸器を前に何か思案しているようだった。
「まだ、するのか?」
Gが尋ねると、ジョットは何食わぬ顔で返してくる。
「お仕置きだからな」
やはりお仕置きはまだ、続くのだ。
Gは諦めたように息を吐き出すと、テーブルの上に腰を下ろした。
テーブルの上に仰向けに寝そべるとGは、恥ずかしげもなく大きく足を開いた。
両の膝の裏に手を差し込み、膝頭が腹につくほど強く自分のほうへと引き寄せると下腹部があらわになる。今しがたトイレで排泄をしてきたばかりの場所をジョットの目の前に晒すのは恥ずかしかったが、そうしなければこの男は許してはくれないだろう。
スタンドを引き寄せると慣れた手つきでジョットは再びカテーテルをGの後孔に挿入した。
「今度はもう少したっぷりと注いでみようか」
艶のある優しい声がそう告げると、カテーテルを止めていたクリップが外される。チョロチョロとカテーテルを通して生温い水が腹の中に注がれるのを感じて、Gは小さく呻き声を上げる。
今度の浣腸は、容量が多い。途中で漏斗のような入れ物を取り換えて、一リットルの浣腸を二回、合計二リットルのぬるま湯がGの腹の中に注がれた。不快感は今なお続いており、ぽっこりと腹が膨れるぐらいの量の浣腸をされてGは、目を白黒させている。
「苦しいか?」
心配などしていないような声でジョットは尋ねてくる。
まるで内臓がせり上がってくるかのように思えて、Gは苦しそうに息を吐く。白い肌には脂汗が浮き上がり、胃の中のものが今にも込み上げてきそうな様子だ。
「……苦し、く……など……」
それでも唇を噛み締め、掠れた声でGが強がると、ジョットは満足げに喉を鳴らして低く笑う。
「そうか」
ジョットはそう呟くと自身の前を寛げ、中から勃起した性器を取り出した。
「お仕置きは、お仕置き。ご褒美は、ご褒美だからな」
そう言い訳をするように囁くとジョットは、Gの後孔に押し込んであったカテーテルを素早く引き抜いた。
「ん、ひっ……!」
思わずGは声をあげていた。ヒリつくような痛みは、中の襞を捲りながらカテーテルが引き抜かれたからだ。
それからジョットはズボンの中から取り出した自身のものを二、三度軽く扱くと、Gの後孔に押し当てる。
「そら、これはご褒美だ」
無機質な冷たい声が部屋に響くと同時に、Gの後孔を押し広げながら太いものが突き立てられた。
「んあっ、あ、あぁ……!」
ブジュッ、といやらしい音を立ててジョットのものがグリグリと中に捩じ込まれる。根元まで押し込まれ、前後左右に激しく揺さぶられてGはヒィヒィとくぐもった声をあげて善がる。
自身の膝裏を掴む手に力を込めてGが爪を立てると、白い皮膚に赤いみみず腫れが幾筋も走る。
「や、めっ……も、やめっ……」
ヒクッ、と喉をしゃくりあげながらジョットを見上げるGの瞳は涙で潤んでいる。
それでいてGの性器は緩やかに勃起の兆しを見せていた。硬くなりかけた竿の先端に透明な汁を滲ませ、ふるふると震えている様は酷く淫猥でエロチックに見える。
「いやらしいな、その表情」
気持ちいいんだろう、と微笑みかけながらジョットは、Gの唇を激しく貪る。
内壁をゴリゴリと抉られ、勃ち上がりかけた陰茎はジョットの腹筋に擦られ、Gは息も絶え絶えになっている。苦しくて、気持ちが悪い。それなのに、気持ちいい。そう、今この瞬間、確かにGは快楽を感じている。
舌で口腔内を犯しながらジョットがジュルジュルと音を立てて唾液を吸い上げると、Gはすすり泣きながら赤黒く腫れ上がった性器を震わせた。完全に勃起した竿の先端から、恥ずかしそうにポタポタと先走りを撒き散らす。
押し込まれたジョットの性器は何度もGの中を擦りあげた。抉るようにして前立腺を行き交いながら、直腸を攻める。鰓の張ったカリが柔らかな襞をゴリゴリと攻め立てると、それだけでGの中は激しく収縮を繰り返し、挿入された生ぬるい水がジュプッ、ジュプッ、と淫音を奏でながら結合部から洩れ出してくる。 「や……ぁ、ダメ、だ……」
ふるふると首を横に振りながらGは、唇をきつく噛み締めた。
「も、ダメ……だ……中、掻き混ぜな、ぃ…で……くれ……」
ジョットの竿によって腹の中の水が掻き混ぜられ、苦しくてたまらない。ぽっこりと膨らんだ腹がはち切れそうな感じがする。
「許しっ……ゅる、許してくれ……ジョット、頼む……」
壊れる、と口走るGの眦にうっすらと涙が滲む。
ジョットは息を荒げて腰を激しく動かした。これでもかと言わんばかりにGを揺さぶり、翻弄する。内壁を抉り、直腸を擦り上げ、強いストロークで腰を振った。
「ヒッ、ぁ、あ、あ……」
内臓ごと掻き混ぜられるような強烈な感覚に、Gは意識を飛ばした。自身の膝の裏を掴んだまま身体を強張らせたGの陰茎の先端から、しょしょろと小水が洩れ出す。
ジョットは一際大きくGの中を突き上げると、白濁を放った。
大きく首をのけ反らせ、小刻みに四肢を痙攣させるGの中からジョットは性器を引き抜いた。ズルズルと竿を引きずり出すと同時に、Gの腹の中に溜まっていた大量のぬるま湯とジョットの白濁が入り混じったものが溢れ出てくる。最初はちょろちょろと、それから滝のようにプシャァァ、と音を立てて勢いよく排泄する。腹の中のものが全て出てしまうまで何回もGは、腹筋に力を入れていきまなければならなかった。最後はジョットに腹を押されながら中のぬるま湯を後孔からじょろじょろと排泄するところを視姦され、いたたまれない気持ちでいっぱいにならざるを得なかった。
「気持ち良さそうに出せたな」
ニヤニヤ笑いを浮かべながらジョットが声をかけてくる。
体力を使い果たしたGは裸のままでテーブルの上に寝そべっていた。床に広がるお漏らしの後始末もしなければならないというのに、悠々とした態度のジョットにはただただ腹が立つばかりだ。
だが、それでもこの目の前の男を自分は愛している。こんな男でも……いや、こんな男だからこそ、日頃のあの取り澄まして聖人然とした態度がらしく見えてくるのかもしれない。
「疲れた。眠い」
ブスっと顔をしかめてGが言い捨てる。すぐさまジョットの腕が壊れ物を抱き上げるように恭しく脱力したままのGの身体を抱き上げて、寝室へと運んでいく。
風呂場で手早く身体を洗われ、ベッドに押し込まれたGは、甲斐甲斐しく世話を焼かれる。悪くはないが、どこかしら気恥ずかしさを感じないでもない。
きっとジョット自身、今頃になって何らかの罪悪感が込み上げてきているのだろう。
ぼんやりと天井を眺めながら、Gは呟いた。
「……ズルい奴だな」
本当に狡い男だ、ジョットという男は。
利己的な満足感のためにGを辱しめ、抱く。そこには、自身の快楽のみを追求する姿しか見えてこないというのに、行為の後に見せる優しさの片鱗をどう表現したらいいのだろう。
「ズルい男は嫌か?」
そう尋ねながらジョットは、Gにくちづけを落とす。
「嫌いじゃないな」
即答するとGは、軽く溜め息を吐いた。
自分はもう、この男にこんなにも深くのめり込んでしまっている。
一人の人間として尊敬していることも事実だが、それ以上に愛情を感じている。
そしてもっとたちの悪いことに自分は、ジョットとの背徳的な行為を望んでいる。凌辱されることを良しとし、望んで酷いことをして欲しいと思う自分がいる。
だが、こんなことを許すのはこの男ただ一人だ。
「……ジョット」
ベッドの中から腕を伸ばすとGは、ジョットの身体に腕を回す。
「今度は優しく抱いてくれ」
被虐的なセックスもいいが、ただ気持ちいいだけのセックスも好きだ。今はただ、ゆっくりと快楽に溺れて眠りたい。
Gの願いを汲み取ったジョットは、ゆっくりと顔を近付けキスをした。
(H31/3/9)
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