ホワイトデーをジョットと二人だけで過ごしたいというGのために、山本が料亭を紹介してくれたのはつい先日のことだ。
あの青年はなかなかの好青年だ。そんなことを思いながらGは料亭の離れへと足を向ける。
山本の父の寿司屋を贔屓にしてくれる客の紹介だとかで、こちらの要望も随分と聞き入れてもらうことができた。
離れの座敷に通されたGは、まず座卓の美しさに目を惹かれた。脚の部分に豪華な彫りがあり、テーブル面の木目が美しい。
「すぐにお料理をお持ちしますので、ごゆっくりどうぞ」
料亭の女将はそう告げると、母屋のほうへと去っていく。身のこなしがたおやかな、上品な女性だ。
「さて、ジョットはいつ来るかな」
ポツリと呟いてGは、座卓の前に座る。四角くふっくらとした座布団の上に座るのだと教えてくれたのは、ボンゴレの血を受け継ぐ綱吉だ。
Gは座布団の上で胡坐をかき、運ばれてくる料理を一口、二口、口にする。
間を置いて運ばれてくる料理はどれも美味そうだ。何より、竹寿司の紹介があるからだろうか、Gの希望を聞き入れてくれているところが嬉しい限りだ。
早く、来い──Gは胸の内で呟いた。
恋人でもあるジョットが来るのが待ち遠しい。
口元にうっすらと艶めいた笑みを浮かべながらGは、目の前に並べられた料理と共に恋人の到着を待つことにした。
表の砂利道を歩くジョットの足音が微かに聞こえてくる。
離れの座敷に入るため、引き戸をガラリと開ける音がした。
Gは目を閉じ、静かに息を殺した。
座卓の上に裸で横たわるGの白い肌には、タイにマグロ、甘エビ、ウニ、イカ、タコが花びらのように美しく映えている。
「すまない、G。遅くなっ…た……」
言いながらジョットが襖を開ける。
ああ、驚いているなとGは思った。
我ながら馬鹿なことをしているなという自覚はある。だが、聞いてしまったのだ、シャマルに。日本には昔から女体盛りというものがあるということを。自らの肢体を器に見立てて刺身で飾り、好いた男に食べてもらうと想いが叶う、というジンクスがあるのだそうだ。
聞いてしまったら、やらないわけにはいかないだろう。
ジョットが自分のことを深く想ってくれているのはよくわかっているが、それを証明する手立てがない。同様に自分がジョットのことをどれほど想っているのか、それを証明する方法もまた、存在しない。 だったら神仏に頼るしかないだろう、とシャマルに半ば強引に言われて女体……いや、男体盛りを自ら進んでやってみた。
果たしてジョットがこれを気に入ってくれればいいのだが、とGはそっと目を開ける。
静かな部屋の中に響くのは、ローターとバイブの振動音だ。後孔に突き立てたバイブは黒いレザーの貞操帯で覆われている。貞操帯の中でこもった響きを奏でる振動音が、ローターの音と混ざり合って聞こえてきている。ローターのほうはふぐりに密着するようにしてペニスの根本にとりつけられている。
「……すごいな」
戸惑うようにぽつりとジョットが呟く。
がっかりさせてしまっただろうかとGはジョットの顔をまじまじと見つめた。
男なら絶対に喜ぶはずだとシャマルは言っていたが、あれは単なるリップサービス、嘘だったのだろうか。もしも嘘だったのなら、許さない。地獄の果てまでも追い詰めて、皮をはいで八つ裂きにしてくれよう。
恐る恐るGは尋ねた。
「気に……いらなかったか?」
ジョットはいや、そうではないと首を横に振る。
そうではなくて、嬉しいのだ、と。
恋人のあられもない姿を見ることができて嬉しいのだとジョットは告げた。
「では、召し上がれ」
この日の為に用意した料理だ。すべて味わわせてやりたいとGは思う。何もかもすべて食べ尽した後には、Gをも食らう。
ジョットはこの行為をどう思っているのだろう。こんなふうに裸になってテーブルの上でじっと横たわったままの恋人を、彼はどんなふうに見ているのだろう。
「甘エビが美味いな」
器用に箸を使ってジョットは甘エビを口に運んでいる。時々、箸の先が乳首を掠めていくのがもどかしい。
「ん、ぁ……」
身を捩ろうとすると、腹のあたりを指の腹がなぞり下りていく。
「これは……誰の入れ知恵だ?」
十代目の小僧ではないだろう、とジョットが言えば、Gは従順に頷くしかない。
「誰に言われた?」
尋ねながらも、ゆっくりとジョットの手が貞操帯にかかる。ぐい、ぐい、と貞操帯を尻に押し付けられると、バイブがよりいっそう深いところを掠めていく。
「んはっ、く、ぅ……」
勃起したGの性器の先端にある小さな孔から、トロトロと先走りの汁が零れそうになる。
「気持ちよさそうだな、G。ホスト役がこんなことでどうする。うん?」
ヴヴヴヴ、とこもった音を立てながらバイブがGの内壁を刺激する。気持ちいい。ペニスの先端が熱くて、蕩けそうだ。
「こら、まだイくな」
言いながらジョットは刺身のつまを選り分け、つまの隅っこに飾られた菊を取り上げた。
「栓をしておこう」
そう告げるが早いか菊の茎をGの性器の先端にぐりぐりと押し付けていく。
「んあっ……あぁ……」
「まだ、イくな」
上擦った声でジョットが言う。
押し殺した微かな声がGの唇から洩れ出す。明らかな恋人の善がり声に、ジョットは口元に僅かに笑みを浮かべる。
「ひぅっ、ぅ……」
身を捩ろうとするものの、座卓の上に乗った不安定な姿勢では、思うように姿勢を変えることが出来ない。Gは困ったように両手で座卓の端を握り締めた。
ローターとバイブの振動がより強く感じられる。座卓の隅に置いてあったリモコンを、ジョットが手にしたようだ。
「これから、どうしてほしいんだ?」
勿体ぶって尋ねるジョットが憎らしい。ぎろりと睨み付けると、甘い笑みで交わされる。
「このまま、いっそ道具だけでイってみるか?」
リモコンの出力を最大にすると、ローターとバイブの振動がより激しいものへと変化した。知らぬ間に乳首がつん、と立ち上がり、菊の花で栓をされた先端の隙間からはダラダラと先走りが伝い溢れてきている。
「や……、め……」
自ら仕組んだこととは言え、このままでは生殺しの状態で苦しすぎる。Gは懇願するような眼差しをジョットに向けた。
「も、許して……」
中途半端な気持ちよさと苦しさとが、辛い。バイブでは最奥に届かず、ただ機械的に中を掻き混ぜられ、無理に気持ちよくされているだけでしかない。ふぐりに取り付けたローターも、同じだ。愛撫されているのとは異なる快感がGの身体を支配していくのが、どこか腹立たしい。
「許して? オレは、何もしていないぞ」
自分でしたことだろうと言いながらジョットの手が、菊の花を摘まむ。そのまま孔を抉るようにぐりぐりと花の茎で尿道口を弄られ、Gは思わず声を上げた。
「ぁ、あ……やめっ、んんっ……」
腰から下腹にかけて、熱っぽい塊がずん、と重くのしかかったような感じがする。Gは膝を立て膝にしたままだらしなく股を広げ、腰を揺らし始めた。
「も、イきたっ……お願っ……ジョット、もっと奥に……」
腰を揺らすのは、気持ちのいいところを突いてほしいからだ。痺れるようなもどかしい快感ではなく、もっと生々しい快感が欲しい。バイブではなく、熱くて、太い……。
「前……じゃ、なくて……」
「ん? 何?」
焦らすようにジョットの手がGのふぐりを掴み、揉みしだく。根本に取り付けたローターが肌をビリビリと震わせ、Gは腰をビクビクと震わせる。
「中……ナカ、突いて……っ、ひぁっ……ジョットので…奥、まで……」
座卓を掴んだまま身を反らそうとすると、まだ肌の上に残っていた刺身がポタリポタリと畳の上に飛び散る。
立て膝にした足がカクカクと震え、突き立てたバイブをさらに奥のほうに飲み込もうと内壁が収縮を繰り返す。
「ん、やっ……中に、くれっ……ジョ…ッ、ト……中、に……熱いのっ……」
Gの懇願に気を良くしたジョットは、白い肌に唇を這わせた。臍の周囲に飾り付けられているのは、薄く丁寧に切り分けたタコだ。含むと弾力のある、しかしそれでいて柔らかな蕩けるような身が口の中に広がるような感じがして、ジョットはまた淡く笑う。
「どれも美味だな」
ジョットはくちづけながら肌をゆっくりと辿りおりていく。
ふとGが下腹部へと視線を向けると、菊の花がゆらゆらとゆらめいていた。込み上げてくる先走りが、先端の孔に押し込まれた茎を押し返そうとしている。茎はそう長いものではない。ほんのわずかなとっかかりしかない。きっとGが達せばあっという間に花は抜け落ちてしまうだろう。
「くはっ、ぅ……」
爪先で座卓の天板を軽く蹴ると、まだ胸の上に残っていた刺身が乳首の端に当たるのが感じられた。
「ジョット……ジョット……」
啜り泣くように恋人の名を呼ぶと、ジョットのほうも同じように気付いたらしい。Gのもう一方の胸にまだ刺身が残っていたことに。
「ああ、これは美味そうだ」
これはフグの刺身だと女将は言っていた。向こう側が透けて見えるほど薄い身は、小皿に用意した薬味入りのポン酢で召し上がってくださいと彼女から聞いている。
「どうやって食べれば?」
「そこの……小皿の……」
ジョットが尋ねるのに、Gは視線を逸らして返す。
察しのいいジョットは小皿に気付くと箸を手に取った。器用な箸捌きでフグの刺身を救い上げると、箸の先でつん、と乳首をつついてくる。
「刺身の向こう側で赤く熟れているのが丸見えだぞ」
ぐりぐりと苛められ、勃起した乳首が箸の先に挟まれさらに尖っていく。
「んん、っ……それ、やめっ……」
Gが身を捩る。ジョットはそれを見て満足げに喉を鳴らした。
「すごいな。腹筋がこんなに震えている。中でいやらしくバイブを締め付けているんだろう、G?」
飾ってあったフグを食べ終えるとジョットは、Gのふぐりの根本に取り付けてあったローターを外した。次は、バイブだ。思わず腰を揺らして膝を大きく開くと、ジョットがふふっ、と笑ってGの乳首に舌を絡めてくる。
「もう少し愉しませてくれ」
そう言うが早いか、ベロン、と乳首を舐め上げ、次いで舌の先で勃起した小さな赤い突起をレロレロと舐め上げる。
「甘エビとフグの味が残っている。フグのほうがあっさりした味だな」
ジョットは唾液を絡めてジュッ、と音を立ててどちらの乳首も吸い上げてから唇を離した。
もどかしさを含んだ熱が腰のあたりで渦巻いてる。
ぐったりとなった身体はどこに触れられても気持ちよく、素直に声が上がってしまう。
「も、抜いてくれ……」
貞操帯を外してもらったものの、バイブはまだGの中を凌辱している。太くて無機質な玩具に中を掻き混ぜられ、あと少しのところでイけないまま、放置されている。
「ジョット……も、やめ……」
掠れる声で懇願すると、ジョットの手がバイブにかかった。
「ひあっ……」
小さく声を上げたGの竿の先端で、菊の花が可憐に揺れる。
「これも、食べていいのだろう?」
あむ、と口を開けるとジョットは、竿ごと菊の花を口に含んだ。ジョットの口の中で花びらが散らされ、Gの竿に絡みついてくる。
「んはっ…あ、ぁ……」
ジョットの舌がざりざりとGの竿を舐め上げる。同時に、後孔に突き立てたバイブを激しく動かされ、尻の奥から快楽の熱が込み上げてくる。
「イ、く……」
放出できない熱が苦しくて、Gは目を潤ませた。
「イく……イきたっ……」
その瞬間、ジョットの手がバイブを奥へ押し込んだ。
「ん、くはぁ……あ、あ、イ…けなっ……イかして……」
ヴヴヴヴ、とバイブの振動がGの奥を掻き混ぜ、内壁をゴツゴツと突き上げる。両足を高く掲げ、つま先までピンと伸ばして力を入れても、Gが達することはできない。
「ああぁ……き、もち……いぃ……イって……イってないのに、気持ち、い……」
Gが大きく首を左右に振ると、ジョットは仕上げとばかりにすばやくパイプを引き抜いた。ぬちゃっ、と湿った音がして、ローションと腸液が入り混じった汁にまみれたバイブが畳の上に投げ出される。卑猥に蠢き、振動しながら畳の上をバイブが転がる。
「愉しんだか、G」
ジョットは自身の唇をペロリと舐め上げると下着ごとスラックスをずり下ろした。既に硬くそそり立っている性器を軽く扱くと、濃厚な精液の匂いがあたりに漂う。
「お前の望みはこれだろう」
Gの後孔にピタリと自身の性器を押し付けると、ジョットは前戯もなしにぐいぐいと強引に押し込んでいく。
「んあぁぁっ……ジョット……おっき……」
上擦った声でGが口走る。
「これが欲しかったんだろう?」
いやらしく蠕動を繰り返すGの内壁をゴリゴリと擦り上げながら、ジョットは最奥を突き上げた。
「あ、あぅ……ん……っは、ジョット……」
のろのろとGの腕が上がり、ジョットの背中を抱きしめる。高く掲げたままだった両足を恋人の腰に絡みつかせるとGは、煽るように腰を振り始めた。
「もっ、と……ナカ、ごりごりって……もっと硬くして、ナカ、に……」
菊の花の栓がなくなったGの性器が、二人の腹の間でトロトロと先走りを振り撒いている。
「一緒に……ジョット……」
両手でジョットの頭を捕まえると、Gは噛みつくようなキスをした。
ジョットの腰が大きく震え、Gの中でペニスが嵩を増す。ドクン、ドクン、とペニスが脈打ちのGの内壁を白濁で汚していく。
「あ、あぁ……」
同時にGの性器も白濁を放っていた。ジョットの腹にドロリとしたものを放っただけでなく、Gの顎の先にまで白濁は飛び散った。
「すごいな、G。いやらしくて、眩暈がしそうだ」
そう言ってジョットは、Gの唇をやんわりと吸い上げた。
ことが終わるとあっさりとしたもので、Gはさっさと身支度を整え、後始末をジョットに任せてさっさと料亭を後にした。
いや、そうではない。照れていたのかもれしない。
ある種の気まずさに駆られて、つい恋人を残したまま、その場を立ち去ってしまったのだ。
一人になると、火照った身体に夜風が気持ちよかった。
ひらり、と何かが視界の隅で揺れたような気がして、Gは顔を上げる。雪だ。桜の花びらかと見まごうばかりの白い雪が、夜空をひらひらと舞っている。
「ああ、雪か。綺麗だな」
ふと、背後で恋人の声がした。
背中からぎゅっと抱きしめられ、Gは穏やかに微笑んだ。
やっぱりこの男と一緒にいるのがいちばんだ。
「そうだな、ジョット」
呟いてGは、恋人のコートの袖にそっと唇を押し当てた。
(2020.03.03)
(加筆修正2020.05.01)
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