二ヶ月ぶりに、仕事ではなくプライベートで彼に会うことができた。
誰に、とは言わない。
口にしたらきっと怒られるだろうから、あまり嬉しそうな顔をすることもできない。
インターフォンが鳴って、ドアが開く。
「おかえり」
出迎えようとしてガタガタと音を立てて椅子から立ち上がりかけた途端、机の足に爪先をぶつけたディーノは床の上に蛙のように這いつくばってしまった。
「痛っ……」
カチャリという鍵の音と、あからさまなため息が耳に届く。
よろよろと立ち上がるとディーノは満面に笑みを浮かべ、ドアの前に立つ男の体を抱き締めた。
「会いたかった、キョウヤ」
鼻を鳴らして、男の首筋に唇を押し当てる。
「懐かないでくれる、鬱陶しいから」
雲雀が頭を押しやろうとすると、ディーノは笑ってさらに抱きついていく。雲雀の華奢な体が、一瞬の躊躇いを見せ、すぐに諦めたように腕を回す。
「相変わらず無様だね」
二ヶ月ぶりだというのにつれない態度の恋人にも、ディーノはにこやかに笑い返すばかりだ。 「会えて嬉しいよ、キョウヤ」
二ヶ月前に雲雀がイタリアを訪ねてきた時には、二日ほどしか一緒にいることができなかった。
しかし今回は、違う。雲雀の時間が許す限りは一ヶ月間べったりと、一緒にいるつもりでディーノは日本にやってきたのだ。
抱きしめる腕に力を込めて、ディーノは雲雀の耳の下に鼻先をつっこんだ。耳たぶを甘噛みし、舌先で首筋をなぞるとピクリとほっそりとした体が揺らいだ。
本当は、もっと気の利いた言葉を交わしたかった。
恋人としては、当然だろう。雲雀のためにこうしてイタリアからやってきたのだ。与えられるご褒美のことを考えると、ディーノの顔はついつい緩みがちになってしまう。
「あんまりベタベタしないでくれる?」
含み笑いを浮かべて、雲雀は言った。
「なんで?」
怪訝そうにディーノが尋ねるのにも、雲雀はひどく素っ気ない。
「臭いから」
そう言えば、と、ディーノは自分の臭いをかいでみる。
飛行機に乗る直前まで、ホテルの一室で缶詰状態になって会議をしていた。会議が終わると会議室を飛び出し、身支度を整える間もなく最終便の飛行機に乗り込んだ。
丸一日分の汚れと疲労感を身にまとっているような感じがする。
鼻を鳴らしてにおいをかいでいると、嫌そうに顔をしかめた雲雀がギロリと恋人をにらみあげた。
「どいてくれる?」
冷淡な口調に、ディーノの背筋がゾクゾクする。
押し退けようとする手をやんわりとおしとどめ、ディーノは返した。
「つれないな。俺たち、恋人同士なんだぜ?」
二ヶ月ぶりの逢瀬だというのに、雲雀は何を苛立っているのだろうか。
そっと顔を近づけると、諦めたのか、雲雀の手がディーノの後頭部に回された。髪の中に差し込まれた細い指の感触が心地よくて、ディーノは微笑んだ。
雲雀の赤い唇が、ディーノの唇に寄せられる。
触れるか触れないかの距離で、低い声が尋ねかけてきた。
「イタリア男は尻軽だって聞くけど、浮気してなかっただろうね?」
あれは断じて浮気ではないと、ディーノは思った。
反論しようとすると、唇で唇を塞がれる。
恐る恐る舌を突き出し、雲雀の口の中に差し込むと、きつく吸い上げられた。絡みつく雲雀の舌はねっとりとディーノの舌を捕らえて、なかなか離そうとはしなかった。
「ん……ぅ……」
すげない態度を見せたものの、唇は貪欲にディーノを求めている。
濃紺のスーツを脱がせようと雲雀の肩に手をやると、さらに激しく唇を求められた。
「ん、んっ……」
ネクタイを緩め、シャツのボタンをひとつ、ふたつ外してやる。シャツの合わせ目から手を差し込み、肌に直接触れると、雲雀の体が怯えた小動物のようにビクンと震えるのが感じられた。
「スーツが皺になる」
唇を離した途端、上擦った声が訴えてくる。
「大丈夫」
そう言ってディーノは、雲雀のジャケットをするりと腕から引き抜いてやる。
部屋の隅に置かれた鏡台に投げかけたものの、ジャケットはだらしなく床に落ちてしまった。 目を細めて雲雀が何か言おうとするのを、ディーノは甘い言葉で誤魔化した。
「気にするな。後でクリーニングに出せばいい」
心底嫌そうに雲雀は、恋人を睨み付けた。
ドアに押しつけられたまま、キスを交わし合う。
体の火照りが辛いほどだ。
雲雀が自分から動き出すことはなかったが、ディーノの髪に差し込んだ指先は、明らかに誘っている。
キスの合間に洩れる甘い声も、ディーノに触れられて固く尖った乳首も、そして股間の膨らみも、何もかもすべてが、誘っている。
「俺は尻軽じゃないってこと、証明してやるよ」
ディーノが低く呟いた。
カチャカチャとベルトの金具が音を立てている。雲雀はうっとりと目を閉じて、ディーノのされるがままになっている。
「……言い訳なんか必要ない」
少し掠れた雲雀の声は、艶めいている。
「だってあなた、僕が帰国する日に沢田綱吉と会っていたよね」
断定するように、雲雀は言った。
確かにディーノはあの日、綱吉と会っていた。ボス同士の大事な話し合いがあったのだ。雲雀が帰国する日だということも、ディーノは知っていた。だが、恋人よりも自らのファミリーに重きを置くことは、決して悪いことではないはずだ。
「彼と一緒だったよね、あなた」
恋人の僕を放っておいてと、雲雀は拗ねた表情をする。
「一緒だった、って……仕方がないだろう、仕事なんだから」
そう言ってディーノは、雲雀の下衣を下着ごと引きずり下ろした。
「そう言えば、獄寺隼人も一緒だったっけ」
半分勃ちあがりかけた雲雀の性器に手を添えて、まだ頭をもたげ始めた状態の竿をゆっくりとディーノは舌先でなぞっていく。
「どっちが好みなの?」
ドアのノブに手を這わせ、雲雀は尋ねる。
「どっち、って……」
口の中でもごもごと呟いて、ディーノは黙り込む。
「それとももう、二人とも食べちゃったの?」
カチ、とノブが音を立てる。雲雀の長くほっそりとした指先が、煽るようにドアノブをなぞっていく。
「あのな、キョウヤ。ツナはかわいい弟分だし、ハヤトだって、俺の恋愛の対象外なんだぜ?」
そこんとこ、わかってる? そう言い足した途端、雲雀の膝蹴りが飛んでくる。それをディーノはあっさりかわすと、目の前の白い肌に唇を寄せた。
「食べるなら、こっちがいいな」
鎌首を持ち上げた雲雀の性器にパクリと食らいつくと、ディーノは強く吸い上げた。
唾液を絡め、唇で竿を扱いてやると、白い膝がカクカクと揺れるのが感じられる。
「ねえ、キョウヤ。俺は尻軽じゃないし、こんなにキョウヤのこと愛しているのに……キョウヤは俺のこと、信じてくれてないんだ?」
ディーノは唇を離すと、恨めしそうに上目遣いに雲雀の目を覗き込む。
指先で亀頭をぐりぐりと擦ると、唾液に濡れたせいか、すぐにじんわりと精液が滲み出してきた。青臭いにおいに、ディーノの口元が嬉しそうに緩む。
「ん……ぁ……」
腰が揺れるたびに、雲雀の口から甘い嬌声が洩れる。
ディーノはそれを、嬉しそうに眺めていた。
「ねえ、信じてくれないの?」
そう言うと、先端の割れ目の部分に爪を立て、キリキリと穴を広げようとする。
「んっ、ぃ……っ……」
唇を噛み締める雲雀の表情が艶めかしくて、ディーノは溜息をついた。
会いたかったのは、この雲雀だ。
精液の滲む先端を舌先でペロリとひと舐めする。痛いのか、気持ちいいのか、雲雀は唇を噛み締めてディーノを睨み付けている。
いい表情だと、ディーノは思った。
NEXT
(2009.5.16)
(2024.5.1加筆修正)
|