唇に触れる綱吉の指がゆっくりと頬をなぞり、顎を伝い下りていく。
パジャマのボタンに指がかかり、ひとつひとつ前を広げられていく。
ここまでは、大丈夫だ。
前回、綱吉に抱かれた時もここまでは問題なかった。多分、その先も。喉元に唇が下りてきて、鎖骨のあたりを吸い上げられた。チリッ、と痛みが走り、皮膚を吸い上げられた。跡が残ればいいのにと、ぼんやりとした頭で獄寺は思う。
「じゅ、ぅ……」
片手をついて身を起こすと、獄寺は自分で着ていたものを脱いだ。綱吉の手が下着のゴムにかかるのをそっと自身の手で押さえると、自分からすべて脱ぎ捨てる。
「十代目も、脱いでください」
それとも、と獄寺は綱吉の顔に自分の顔を近付けていく。
「俺が、脱がしてあげましょうか?」
悪戯っぽく尋ねると、綱吉は少し照れたように自分で脱ぐよと返してくる。
素早く着ていたものを脱いでお互い裸になると、ようやく肌を合わせて抱き合うことができた。
肌が触れ合い、ぬくもりを直に感じることが出来て獄寺はホッと息を吐き出す。綱吉のにおいがして、少しずつ気持ちが安らいでいく。張り詰めていた気持ちが和らいで、なんだかとてもあたたかな気持ちになってくる。
「会いたかったです、十代目。ずっと……ずっと、十代目にお会いできる日のことばかり考えていました」
任務半ばで前線を離脱しなければなかったことに対する複雑な気持ちももちろん、あった。自分が失敗したことで他の者たちにも迷惑をかけた。だから罰として綱吉と連絡を取ることができないのではないかと悩み始めていたところに、この再会だ。
こんなに幸せでいいのだろうか。
こんなに……満たされていて、いいのだろうか。
「十代目……」
綱吉の背に手を回してぎゅっと抱きしめると、またキスされた。
必死になってキスに応えているとそのうち、ドン、ドン、とドアを誰かが叩いているのに気付く。
チェッ、と舌打ちをした綱吉が、離れていく。
もっと抱きしめていてほしかった。今は離れないでいてほしい。獄寺が手を伸ばして綱吉にしがみつこうとすると、またしてもドアを叩く音がする。
いったい誰だよ、とぶつくさ文句を言いながら綱吉は素早くパジャマの下だけを身に着けてドアのところへと行く。
黙って綱吉がドアを開けたその向こうには、雲雀が立っていた。獄寺は素早く寝たふりをする。
「これ。夕方渡そうと思ったんだけど、忘れてたから」
つっけんどんに雲雀が何かを差し出し、綱吉は「ありがとう」と受け取った。
獄寺はベッドの中でじっと息を殺している。
狸寝入りをしていれば少しは誤魔化されてくれるだろうかと淡い期待を抱いていたが、雲雀相手にそれは無理な話だったようだ。
「明日、帰るんだよね? あまり盛りすぎないようにしたほうがいいと思うよ」
どうでもいいような口調でさらりと釘をさされた綱吉は絶句していた。
「ん、なっ……」
獄寺も、ベッドの中で密かに眉間に皺を寄せた。大きなお世話だ、と胸の内で呟く。
こんなくだらないことをわざわざ言いに来たのだろうか、雲雀は。
なんて下世話な奴なのだろうと思っていると、綱吉が我に返ったようだ。
「大きなお世話です!」
まさに獄寺が思っていたとおりの言葉を放ち、ドアの締まる音が響く。バン、と音がして、足音を響かせながら綱吉がベッドに戻ってくる。
「信じられない。なんであの二人、こんなにデリカシーがないんだろう」
憤慨しながらも布団を捲ると綱吉は、獄寺にのしかかった。
「ちょ、っ……十代目?」
慌てて綱吉の体を押し返そうとするが油断していただけに、獄寺のほうが分が悪い。あっさり組み敷かれてしまう。
普段の綱吉とは違い、乱暴な手つきでぐい、と押さえつけられ、噛みつくようなキスで唇をこじ開けられた。
「ん、っむ……ん……んっ……」
一度は抵抗をしようとしたが、気がかわった獄寺はぎゅっと綱吉の体を抱きしめる。
舌を絡めて綱吉の唾液を啜り取りながら、両足を絡めていく。
「じゅ、っ……ん、ぁ……」
キスの最中に抱きしめる腕の角度が変わり、ぐりっ、と体勢が入れ替わったところで不意に獄寺の肩の痛みが強くなった。
「いっ……じゅぅ……痛、い……っス」
蚊の鳴くような声で訴えたところでようやく綱吉は我に返ったようだ。
治りきっていない肩の引き攣れに悶絶する獄寺から、慌てて綱吉は身を離す。
「ごめっ……だ、大丈夫?」
サイドボードの灯りをつけて、獄寺の肩に綱吉は手をやった。
「ここ……暗がりでも傷が残ってるの、わかるもんなんだね」
再生した皮膚の手触りですぐにわかった。恐る恐る触れてくる綱吉の手つきに、獄寺の体がピク、と震える。
「あ、の……あんまり触らないでください」
下から見上げてくる獄寺の表情が色めいて見えて、綱吉は込み上げてきた口の中の唾をゴクリと音を立てて飲み込む。
「獄寺くん……」
怪我が治りきっていないということはディーノだけでなく獄寺を治療した医師からも聞かされていたが、やはり無理をさせていたのだろうか。獄寺自身は続きを望んでいるように思えるが、もしかしたらまだまだ本調子でないのかもしれないと綱吉は、伸ばしかけた手をふと止める。
「やっぱり、やめておいたほうがいい?」
尋ねられて獄寺は、首を横に振る。
「嫌です」
せっかく続きを始めたのに、こんなことでやめたくはない。獄寺は綱吉の差し伸べかけた手を取り、自身の口元へと持っていく。
「このまま、してください。痛かったら痛いって言いますから」
怪我ぐらい、どうということはない。外観的にはもう治ってきているのだ。再生した皮膚が引き攣れるのと、筋肉が凝り固まってしまったために少し腕の可動域が狭まってしまっているだけなのだから。
「じゃあ……あまり無理はさせないようにするね」
改めてそんなふうに言われると気恥ずかしい感じがして、それを誤魔化すために獄寺はぐい、と綱吉の体を引き寄せた。
「大丈夫です」
そう言った獄寺の言葉が、綱吉からのキスでかき消される。
互いに相手の存在を確かめるかのように顔や体に触れながら、キスを交わした。
やっと、あの時の約束を果たすことが出来るのだ。
しっとりと汗ばんだ肌も、立ち上る精のにおいも、唇の端から零れる吐息も、どれもすべてが愛しくてたまらない。
「……十代目」
キスの合間に綱吉の指が後孔を確かめるように触れてきた。すり、となぞっては、離れていく。それを何度か繰り返したかと思うと、最後にくにっ、と指先が襞の中心に突き立てられた。
「痛くない?」
耳元で、綱吉が尋ねる。
獄寺はコクコクと頷いた。
恥ずかしいから、いちいち聞かないでほしい。
「っ……」
中を探る綱吉の指が、泣きたいぐらいにいやらしくて、優しい。獄寺は唇を?みしめると零れそうになる声をこらえる。
あの時、すんなりと繋がってしまっていたらこんなふうに恥ずかしさを感じることはなかっただろうか。
クチュクチュという湿った音に耳を犯されながら獄寺は、綱吉の指に中を犯されている。恥ずかしくて恥ずかしくて、獄寺はシーツにしがみつこうとした。
「ぁ……あ、ぁ……」
縋るものを求めて投げ出した手に、ふと何かが当たる。
閉じていた目を開けて枕元へ視線を向けると、さっきまでなかった何かが置いてあるのに気が付いた。
「十代目、これは?」
声をかけると、綱吉の動きが止まった。
「これ、何です?」
指先に当たったのは、小さな紙の箱だった。
さっき、部屋にやってきた雲雀が綱吉に手渡したものらしい。
おおよそ雲雀には似つかわしくない行動だったなと獄寺は思う。
「あ……それね」
わざわざ起き上がって綱吉は、小箱に手を伸ばした。
「ディーノさんと雲雀さんから、獄寺くんへの快気祝いだってさ」
サイドボードの灯りに照らされた綱吉の顔がニヤッと笑う。いつになく意地の悪い笑みで、綱吉は獄寺を見つめてくる。
「どうする? 使っちゃう?」
小箱を手に、綱吉が尋ねる。
「使う、って……?」
わけがわからずに獄寺が怪訝そうな顔をしていると、綱吉は小箱を開けて中から小さな袋を取り出した。
「これ、見たことある?」
袋をピッ、と引き裂いて、中から綱吉が取り出したのはコンドームだった。
本当に、下世話な連中だ。ディーノといい、雲雀といい。だけど獄寺は少しだけ、そんな二人に綱吉とのことを気遣ってもらい嬉しくも思う。
「オレ、実は使うの初めてなんだけど」
と、綱吉が告げると、獄寺は貸してください、と身を起こし、コンドームを受け取る。
「つけてあげますね、十代目」
手慣れた様子で獄寺は、綱吉の性器にコンドームを装着した。
「もしかして、慣れてる?」
「昔、シャマルに教えてもらったんスよ」
シャマルに教えてもらったのはダイナマイトの扱いだけではなかったのかと、綱吉は少しだけ不機嫌そうに顔をしかめた。
素知らぬ顔をして獄寺は、コンドームを装着した綱吉の性器を口に含む。
ピチャリ、と湿った音を立てて獄寺は綱吉の性器を舐め上げる。
事が終わったらゆっくりと、シャマルのことを問い詰めてみよう。綱吉はそんなふうに思ったのだった。
|