寝室の襖は開け放したままだ。隣の部屋から洩れてくる灯りが、どことなく獄寺には気恥ずかしい。
布団の上に転がされると同時に、綱吉の体がのしかかってきた。
「初めての時って、どんな気持ちだった?」
耳元に唇を寄せ、綱吉が尋ねてくる。
そんなことをいちいち訊かないでほしいと獄寺は思う。あの時のことは、思い出すだけでも恥ずかしくてたまらないというのに。
「忘れました」
しれっとした顔で返してやると、チュ、と唇を奪われた。
片腕を獄寺の顔のすぐ脇について、綱吉は笑っている。
「あの時の俺のにおい、まだ覚えてくれている?」
あの時、しがみついた綱吉の体から漂ってきたのは、うっすらとしたコロンの香りと汗のにおいだった。思い出した記憶を確かめるように獄寺は、綱吉の首の後ろに腕を回し、ぎゅっと男の体を抱きしめる。
今、ほんのりと鼻腔をくすぐるにおいは、石鹸の淡いにおいだ。あの時とはたぶん、少し違う。甘えるように綱吉の耳たぶに舌を這わせてから、獄寺は喉を鳴らした。
「二人で一緒に気持ちよくなりましょう、十代目」
キスの合間に、浴衣の合わせ目からするりと綱吉の指が忍び込んでくる。
しなやかな動きを見せる指先は獄寺の指と違い、ごつごつとした男の指だ。獄寺のほっそりとした手と比べると、綱吉の手は随分と力強く見える。
「んっ……」
片膝を立てて綱吉の腰に足を絡みつかせると、押しつけられた部分が固さを増すのが感じられた。布越しではあったがその下に確かに息づく熱を感じて、獄寺は深い溜息をついた。
「灯り、消しませんか?」
唇が離れたところを見計らって獄寺が言う。
綱吉は微かに笑った。あの時もそうだった。キスの合間に獄寺が灯りを消してほしいとねだると、綱吉はやんわりとそれを拒否したのだ。
「隣の部屋の灯りが差し込む中でエッチするのって、興奮しない?」
耳元に囁きかける綱吉の唇が、獄寺の耳たぶをやさしく掠めていく。気持ちいい。悔しくて獄寺は、綱吉の手をやんわりと抓る。
「下品なことを言わないでください、十代目」
腹の底でグツグツと血が煮えたぎっているような感じがした。
「……だって」
綱吉は控え目に獄寺の首筋に唇を押しつける。チュ、チュ、と音を立てながらゆっくりと唇を滑らせる。獄寺が着ていた浴衣の胸元を大きく左右にはだけると綱吉は喉元と鎖骨にもキスをした。
「下品なことを言おうと思って言っているわけじゃないんだけどな」
そう言いながら綱吉は、さらに唇を滑らせる。
チュ、とまた音を立てて、今度は乳輪の縁に唇を押しつける。
「あ……」
ビクン、と獄寺の体が跳ね、一瞬、綱吉のほうへと胸を突き出すような格好になった。
「こんなふうに獄寺君が誘いかけるからだよ」
だから俺は、いつも困ってるんだと綱吉は言う。
別に誘っているつもりはないのだと言いかけたものの獄寺は、もしかしたら誘っているのかもしれないと思い直した。早く目の前の人の熱を感じたい、肌を重ねたいと、いつも思っている。もしかしたらそんな気持ちが表れているのかもしれない。
突き出したままだった胸の先を、綱吉の舌がベロリとねぶった。
舌の先で立ち上がった乳首の根本をザリザリと舐めあげられ、それからやさしく口に含まれた。ぐちゅ、と湿った音を立てて、綱吉の唇が乳首に吸いついてくる。もう一方の乳首は、人差し指と親指とに挟まれて、きゅっ、きゅっ、と擦られている。
「はっ……ああっ!」
身を捩って綱吉の愛撫から逃れようとすると、ますます深く吸いつかれた。
綱吉の手がゆっくりと獄寺の浴衣を開いていく。しっかりと結ばれたままの帯がなければ、とっくに獄寺は素っ裸にされていただろう。
綱吉の愛撫は気持ちよかった。同時に恥ずかしさを覚えるのは、隣の部屋から中途半端に差し込んでくる灯りのせいだろうか。
獄寺は夢中で体を捩った。綱吉の指も、舌も、獄寺の体をあっという間に熱くさせる。間断なく与えられる刺激が辛くて、もどかしくもある。
はだけた浴衣をさらに掻き分け、獄寺は自分の下着に手をかけた。ダークグレーのボクサーパンツの前立て部分をなぞると、布地の下で硬くなったものがピクン、と震える。
「あ、あ……」
溜息をつくと同時に声が洩れた。
すぐに綱吉は、獄寺の手の動きに気づいた。
「気持ちよさそうにしてるなと思ったら、こんなことしてたんだ」
目の前の乳首をピン、と軽く弾いた綱吉の手が、忙しなく動く獄寺の手に重ねられる。
「ん、あ……」
少しかさついた手が、獄寺の手を包み込んだまま、前立てをなぞっていく。先走りの滲んだ下着は、わずかに湿り気を帯びていた。
「一人だけで気持ちよくなろうとしてたの、獄寺君?」
綱吉が手を動かすと、獄寺の手の下でペニスがヒクン、となる。下着に滲んだ先走りの量が増えるにつれて、グチグチと卑猥な水音を立て始める。
「ん……ちがっ……」
首を横に振り、獄寺はなんども口を開けては閉じた。しっかりと唇を噛み締めていないと、上擦った声が零れてしまいそうだった。
「くちびる」
そう言って綱吉は、手の中に包み込んだ性器を獄寺の手ごとぎゅっ、と握りしめる。
「あ…痛っ!」
咄嗟に片足を立てて、獄寺は股間を庇おうとする。
「くちびる、噛まない」
怒ったように綱吉は言った。慌てて獄寺は噛み締めていた唇の力を緩める。
「傷がついたらどうするんだよ」
ムッとした表情で綱吉は、獄寺の唇を覗き込んでくる。噛み締めていた獄寺の下唇に、綱吉の舌が這わされる。ピチャ、と音がした。唾液を含んだ綱吉の舌が、丁寧に獄寺の唇を舐めていく。
「んっっ」
ジュッ、と音を立てて獄寺は、綱吉の唾液を啜った。甘いと思った。唇も、舌も、同じように甘い。綱吉の唾液はおいしい。獄寺はうっとりと目を閉じて、綱吉の唇をなんども甘噛みする。綱吉の舌が獄寺の唇をペロリと舐めると、それだけで体が震えそうになる。唇も粘膜だからだろうか、触れられるだけで気持ちよく感じてしまう。
口を開けて物欲しそうに舌を突き出すと、ちょん、と舌先が触れてくる。
「キスは後でね」
綱吉に窘められ、獄寺は小さく頷いた。
綱吉の手は、獄寺の太股をぐい、と押し上げた。
不格好に開脚されられた足の間に綱吉の体がある。綱吉の鼻先がボクサーパンツの布地を掠めていく。盛り上がった竿の側面を舌で舐められ、獄寺は腹の底に熱が集まってくるのを感じた。
「やっ……」
布地は、綱吉の唾液によってじっとりと濡らされていく。先走りが擦れてヌルヌルになった下着の内側と、綱吉の唾液とでべっとりとなった外側と。どちらの側もたっぷりと水分を含んでいる。
「気持ち悪い、です」
眉間に皺を寄せて獄寺が告げると、綱吉は下着に手をかけてさっと脱がしてしまった。硬くなっていた獄寺の性器は下着に擦られてプルンと顔を出すと、その勢いのまま天を向いた。
「は、あ……」
畳の上に放り出された下着が、どこかいやらしく思える。
「恥ずかしいです、十代目。も、やめ…──」
足を閉じようとしたものの、綱吉の体に阻まれて獄寺は足を閉じることができない。せめて股間だけでもと隠すように手を伸ばすと、綱吉の手が、竿をぐい、と腹のほうへと押しやった。
「あああ……!」
ドク、と先走りが溢れる。先端の割れ目に滲んだだけでは足りなかったのか、ポタリ、ポタリと獄寺の腹の上に白濁したものが零れ落ちてくる。
獄寺が身悶える姿をひとしきり観察してから、綱吉は竿の根本に唇を押しつけた。玉袋を口に含み、コリコリとした感触を楽しむ。ジュゥッ、と音を立てて竿の側面を吸い上げられると、それだけで獄寺は甘い声をあげる。先走りが溢れて、竿を伝って根本のほうへ零れていく。すぐに先走りは獄寺の尻のほうまでべっとりと濡らしてしまった。
息が乱れて思考が定まらないのは綱吉のせいだと、ぼんやりとした頭で獄寺は考えた。
「獄寺君、まだ早いよ」
不意にそんな声がかけられたる。
獄寺は、いつの間にか閉じていた目をのろのろと開けた。
やさしい笑みを浮かべた綱吉は、太股の内側のやわらかいところに唇を押し当てている。 片手で獄寺の竿を扱きながら綱吉は、もう片方の手で後孔を探り当てた。窪んだ部分を指先が探り当て、ぐにぐにと襞の隙間にねじ込まれていく。
「ああ…あ、あ……」
大きく体を捻ると獄寺は、綱吉の手から逃れようとした。
ぐちぐちという湿った音に、恥ずかしさがいや増す。彼にはなんども抱かれているというのに、どうしてこうも毎回、羞恥心を感じるのだろうか。
獄寺の体に潜り込んだ綱吉の指は、襞を伸ばし、内壁をぐるりとなぞる。なんども抱き合っているうちに獄寺の感じるポイントをすっかり覚えた綱吉は、好きなように指を動かす。前立腺の裏の部分を軽く押したりなぞったりしたかと思うと、奥の深いところを指の先でやんわりと引っ掻いたりする。
「や……十代、目……ダメです、そこ。ダ、メ……」
はーっ、はーっ、と獄寺は息をついた。綱吉の指が悪戯に内部を蠢くと、そのたびごとに獄寺の体は跳ね上がるほどの快感を感じる。体はしだいに熱を持ち、獄寺の意識がぼんやりとしてくる。そのうち、綱吉の唇が竿の側面だけでなく、性器全体をぱくりと口にくわえた。ざらざらの舌に竿の裏側を舐められ、吸い上げられると、腰が勝手に揺らぎだす。
「ダメ……十代目……」
忙しなく綱吉が指を動かすと、獄寺の尻の筋肉がきゅっと締まった。綱吉の指を食いちぎらんばかりの力で銜え込み、飲み込もうとしている。
どうして、と、獄寺は思った。どうしてこんなに体が疼くのだろう。羞恥心と、快感と、それから少しばかりの後ろめたさを感じながら獄寺は、綱吉を求めている。
もっと奥、深いところまで指ではないもので触れて欲しいと、腹の底に集まった熱がざわめいている。
「ん、ぅ……」
きゅうっと獄寺の尻の筋肉が収縮した途端、綱吉の指が内壁を引っ掻きながら引きずり出された。
「あ、あ……!」
達しそうになった瞬間、綱吉の口がさっと獄寺のペニスから離れた。
物寂しいような、焦れったいような感覚に獄寺の目の前に火花が飛んだような感じがした。
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