鼻の先にちょん、と唇で触れてキスをすると、獄寺は決まり悪そうに視線を逸らした。
「もっと……ちゃんと、キス…してください」
こんな表情の獄寺を可愛いと思ってしまう自分はどうかしていると、綱吉は思う。相手は男だ。自分だってもういい歳の大人だというのに、いったいなにを考えて可愛いなどと思うのだろうか。
もちろん、獄寺のことは大切な恋人だと思っているし、恋人のことを可愛いと思うことは悪いことではない。それでも、気になってしまうのだ。自分は間違っていないだろうか、と。勘違いをしたまま、獄寺のことを恋人と思いこんでしまっているのではないだろうか、と。獄寺の、自分に対する盲信的な優しさにつけ込んで、無理につきあうようにし向けてしまったのではないだろうか、と。
「ちゃんとキスしてるよ」
そう言って綱吉は、獄寺の鎖骨に舌を這わせる。
白い肌が、炎の照り返しを受けて茜色に染まっている。どこもかしこも、きれいな茜色だ。
「獄寺君は、どこにキスされたいの?」
舌でペロリと肌をなぞりながら、乳首に辿り着いた。乳輪を軽くつついてから突起の部分を口に含むと、ピクン、と獄寺の体が震えた。
「ん、ぁ……」
下肢に這わせた手は、獄寺の竿を扱いていた。先走りを竿に塗り込めるようにして手を動かすと、クチュクチュと湿った音がする。
「ゃ……」
微かな獄寺の声が聞こえないかのように、綱吉は手の動きを大きくした。強弱をつけて竿を扱くと、浮き上がった血管がビクビクとしているのが手のひらに感じられる。ぬめりを帯びた竿は、今にも弾けてしまいそうなほど硬くなっている。
「舐めて欲しい?」
ひとつひとつ、綱吉は確認する。
獄寺が気持ちいいのかどうかを確かめるように、ゆっくりと行為を進めていく。
「舐…めて、くださ……」
言いかけた獄寺の下肢に移動すると綱吉は、躊躇うことなく性器に唇をつける。青臭い先走りの味を確かめるように、チュウ、と吸い上げる。先端の窪みに溜まったものを舌で掬い上げ、丁寧に舐め取っていくとそれだけで獄寺は啜り泣く。
「あ、ぁ……」
綱吉の髪に指を差し込み、なにかを堪えている獄寺の目元が妙にいやらしく見えた。
先走りがたらたらと溢れ出し、竿だけでなくその後ろのほうまでもしっとりと濡らした頃合いを見計らって綱吉は、するりと後ろの窄まりに指を当てた。
「ここ、もっとドロドロにしてあげるね」
そう言うと窪みの中に慎重に指を押し込んでいく。
二人が抱き合うのは、ずいぶんと久しぶりだ。綱吉も獄寺も、それぞれに果たさなければならない責任がある。すれ違うことのほうが多いくらいのつきあいをしているということに、二人とも気付いていた。
だから、獄寺に余計な負担はかけられない。
柔らかな袋をすっぽりと口の中に含んで転がすと、根本を舌でつついた。たらりと零れ落ちる先走りは苦くて、濃い味をしている。そのまま綱吉は舌を這わせて蟻の戸渡をチロチロと舐め、窄まりへと辿り着く。人差し指の第一関節を飲み込んだだけの後孔が、ヒクヒクと蠢いている。
太股の柔らかな肉を吸い上げ、鬱血の跡を残してから、後孔近くに舌を這わせた。
「ん、あ……じゅ…代目……」
ずり上がって上体を起こそうとする獄寺の気配を感じたが、綱吉は気にせず襞の中を指でやわやわと掻き混ぜた。
途端にきゅっと括約筋が締まり、綱吉の指が締め付けられる。
見られているのはわかっていた。後ろ手に手をついて、獄寺は体を起こすと綱吉の愛撫をじっと眺めていた。
「そんなにじっと見つめられたら恥ずかしいよ、獄寺君」
顔を上げて綱吉が言うのに、獄寺は怪訝そうにしている。
「そうですか?」
じっと見られていることで、罪悪感のようなものが綱吉の中に沸き上がってくる。
「恥ずかしいよ」
綱吉がそう返すと、獄寺は嬉しそうに微笑んだ。
「俺もです、十代目」
ゆっくりと体を繋げた。
挿入の瞬間、少しだけ獄寺が体を強張らせて、切なげな眼差しで綱吉を見つめる。
「どうしたの?」
尋ねると、獄寺は甘えるように綱吉の体に腕を回し、鼻先をすり寄せていく。
「奥までぜんぶ、挿れてください」
上擦った声で獄寺がねだるのに、綱吉は黙って応えた。ぐい、と腰を押しつけ、一息に獄寺の奥まで突き上げると、内壁が綱吉の性器をきゅっと締め付けてくる。
「あ、あぁ……」
乱暴に体を揺さぶると、艶やかな喘ぎ声を洩らして獄寺の後孔がキリキリと綱吉を締めあげた。強い力ですがりついて、まるで綱吉を虜にしてしまうかのような勢いだ。
「ね、食いちぎられそうだよ」
そう言って綱吉は、獄寺の後孔をするりと指でなぞった。皺の隙間に爪を立てて軽く引っ掻くと、筋肉が収縮を繰り返す。深い部分へと引きずり込まれるような感覚に、綱吉は目眩を感じた。
「や……」
綱吉の腹に当たっていた獄寺の性器が、ヒクン、ヒクンと引きつるように震えている。先走りが綱吉の腹を濡らし、獄寺自身の腹も濡らしていた。
「十代目……」
誘い込むような色合いの瞳が、じっと綱吉を見つめている。
「獄寺君の中、熱くて気持ちいい」
うっとりと綱吉は告げた。
なにを思ったのか獄寺は綱吉の胸をぐいと押しやり、自分の股間から結合部までがしっかり見えるようにした。
「一緒に気持ちよくなりましょう、十代目」
眉間に皺を寄せた獄寺の表情は、真剣だった。
綱吉のことが好きだと、獄寺は全身で訴えている。
銀色の絹糸のような髪も、淡い緑色の瞳も、白い肌も、ほっそりとした指も。なにもかもすべてが、綱吉をまっすぐに見つめているような感じがする。
嬉しいと綱吉は思った。
そして、愛しい、とも。
獄寺の真摯な眼差しが、なによりも愛しいと思った。
全身で綱吉を求め、綱吉を慕ってくるこの恋人は、いったい自分をどう思っているのだろうか。ボンゴレ十代目である綱吉だから、獄寺は自分をここまで慕ってくれるのだろうか。それとも、綱吉だからここまで素直に自分の愛情を表現しようとしているのだろうか。
「俺のこと、好き?」
どさくさに紛れて綱吉が尋ねると、獄寺は笑って頷いた。
幸せそうな甘い笑みに、綱吉はドキッとした。
「はい。大好きです、十代目」
少し掠れた声で、獄寺はそう返した。
声が震えているのは、限界が近いからだろうか。
獄寺の奥深くに埋めた綱吉自身も、限界が近かった。
息を荒げながらもキスをすると、獄寺もすぐに応えてくる。舌先を絡め、綱吉は獄寺の口の中へと唾液を零した。
コクリと喉を鳴らして、獄寺は唾液を飲み干す。
おいしそうに口元に笑みを浮かべて、綱吉の唾液を味わっている。
「もっと……ください」
獄寺が、言った。
すぐにまた獄寺にキスをし、舌でペロリと唇を舐める。今度は掠めるように唇をなんども合わせ、相手の舌が口の隙間に見えると唇でやんわりと挟み込んだ。
「ん……ん、ぁ……」
綱吉が捕らえた舌を強く吸い上げると、獄寺の体が大きく震えた。
と、同時に腹の間にあった獄寺の性器がひくついて、二人の腹をねっとりとした精液で汚していく。
肌寒さを感じて綱吉が目を開けると、暖炉の炎は消えかけていた。
慌てて新しい薪をくべ、火を起こしてやる。
床の上で丸くなって眠る獄寺の体に毛布をかけ直してから、綱吉はその隣に潜り込む。
外は薄暗かったが、いつもより寒く感じられる。裸で床の上で眠ってしまったからだろうかとふと窓の外に視線をやると、薄灰色に白んできた空から、白いものが舞い落ちてくるのが微かに見えた。
「あれ……雪?」
呟いてもういちど毛布から出ようとしたところで、獄寺が薄目を開けた。
「……十代目?」
寝ぼけ眼の獄寺は、舌っ足らずにそう言ってごそごそと起き出そうとする。
「まだ早いから寝てていいよ」
起き出してしまったら、獄寺は恋人としてではなく、守護者の一人としての表情になり、綱吉のそばから離れていってしまうだろう。
綱吉は獄寺の額にそっとキスをした。
「もう少しだけ、こうしてようよ」
そう告げると毛布の中に潜り込み、獄寺の体にそっと腕を回した。
「──…はい」
従順に頷く獄寺は、今はまだ、恋人の顔をしている。
窓の外ではゆっくりと、世界が白く塗り替えられていくところだった。
END
(2009.12.22)
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