公園へ行きましょう

  行楽日和の一日を獄寺と二人で過ごすため、公園へピクニックに出かけた。
  特に何をするとも決めていなかったが、すぐ近くのコンビニでお茶とお弁当を買って、まだ少し早い紅葉を眺めに行く。
  昼間だというのに……いや、それとも昼間だからだろうか、公園に人の姿はなかった。
「珍しいな。貸し切り状態みたいだよ、獄寺君」
  買ってきたお茶とお弁当をベンチに置くと、綱吉はうーん、と背伸びをした。少し汗ばんだ額に、吹きつける風が心地よい。
「秋だってのに、随分暑いっスね、今日は」
  暑がりの獄寺は、汗などかきませんといった表情をしているというのに、パタパタと手で顔のあたりを扇いでいる。
  お揃いのジーンズをはいているからだろうか、今日の獄寺はやけに色っぽく見えた。ダボダボのパーカーの襟のところからちらりと中を覗くと、白い首筋には夕べ綱吉がつけた朱色の印がうっすらと残っているのが見え隠れしている。
「暑くてもいいよ、獄寺君と二人でのんびりできるのなら」
  久々に二人一緒のタイミングで休暇が取れたのだから、文句などない。ベンチに腰を下ろした綱吉は、満足そうに弁当を手にした。
「それよりもお昼、食べようよ。せっかく買ってきたんだし」
  そう言うと綱吉は、弁当と割り箸を獄寺に手渡した。
  コンビニでもらってきたウエットティッシュでさっと手を拭いた獄寺は、割り箸を口にくわえてパキリと分ける。それを見てから綱吉は、自分の弁当を膝の上に置き、蓋を開けたのだった。
  しばらくは二人とも、食べることに夢中だった。
  肉団子の甘酢あんのタレがおいしいとか、野菜炒めのキャベツがしゃきしゃきしていておいしいだとか、唐揚げの味付けがなかなかだとか、そんな他愛もない話をポツポツと交わす。
  楽しいのは、好きな人と二人きりでお昼を食べているからだろうか。



  甘酸っぱいタレの味に食欲をそそられ、肉団子をもうひとつ、と綱吉は箸を伸ばす。
  肉団子を口元へ運ぼうとした途端、タレがボタリとこぼれ落ち、ジーンズの股のあたりにドロリとした染みが広がった。
「わ、甘ダレ零れたよ……」
  おろしたばかりのジーンズに甘酢あんのタレがべっとりとついた状態で、綱吉は困ったように声をあげた。
「これで拭いてください、十代目」
  すかさず獄寺が、ウエットティッシュを手渡してくる。
「ありがとう、獄寺君」
  受け取ったウエットティッシュで染みを拭き取りながら、綱吉はちらちらと獄寺の様子をうかがう。
  せっかく獄寺とお揃いのジーンズを買ったのに、染みをつけてしまったことが悲しくてならない。
  どうして零してしまったのだろうかと自分で自分に腹を立てていると、獄寺がそっと綱吉の手に自分の手を重ねてきた。
「お拭きしましょうか、十代目」
  そう言った獄寺の目が、どこかいやらしく綱吉を見つめている。
「どんなふうに拭いてくれるの?」
  顔を覗き込んでじっと淡い翡翠のような瞳をみつめていると、獄寺はゆっくりと顔を綱吉の股間へと近づけてきた。
  獄寺のすらりと通った鼻先が太股に擦れて、綱吉は急に股間に熱が集まっていくのを感じた。ゴクリと唾を飲み込むと、獄寺の髪にそっと手を差し込む。
「俺が……全部舐めて、きれいにします」
  わずかに掠れる声でそう宣言すると獄寺は、綱吉の股間についた甘ダレの染みをペロリ、ペロリと舐めだした。
  獄寺の手が縋りつくように綱吉のシャツを握りしめる。丁寧に甘ダレを舐める獄寺の口元からは、ピチャピチャという湿った音がしている。時折、顔を上げて上目遣いに綱吉の表情をうかがうのは、このまま続けてもいいのかどうか、確かめたがっているように思える。
「全部きれいに舐められたら、ご褒美をあげるよ」
  上擦った声で綱吉が告げると、獄寺はいっそう熱をこめて、綱吉の股間の染みを舐めだした。
  布地の下では綱吉の高ぶりが熱を持ち、ゆっくりと固くなりはじめていた。
「……っ」
  不意にピク、と綱吉の太股が震えた。きっと獄寺も今ので気づいてしまっただろう。ジーンズの下、下着に包まれた綱吉の性器が固くなって、もしかしたら先端に先走りを滲ませているかもしれないことに。
  だけどもう、引き返すことなどできやしない。
  このまま続けてもらわなければ、綱吉は体に籠もった熱を持て余すことになるだろう。
「……どうしますか?」
  綱吉の体の変化に気づいた獄寺が顔をあげ、尋ねてくる。綱吉は後頭部に回した手でぐい、と獄寺の顔を自分の股間へ押しつけた。
「続けて」
  いつになく強い口調でそう言うと綱吉はジーンズの前をくつろげる。
  獄寺が股間の染みを舐める合間に下着の中から固くなった自分のものを取りだすと竿を握りしめ、自分で何度か扱いた。すぐに先端に先走りが滲み出て、ヌルヌルとしてくる。
「ほら、こっちもきれいにして」
「わかりました、十代目」
  綱吉の言葉に獄寺は素直に頷いた。



  躊躇うことなく獄寺の唇が、綱吉の性器を口に含んだ。すぐに舌先が竿にからまり、ヌルヌルと側面を舐め上げる。
「っ、く……」
  綱吉の手が、もどかしげに獄寺の髪をやわやわと掻き乱した。
「ん、ん……」
  鼻にかかった声をあげながら獄寺は、綱吉の竿に丁寧に舌を這わせていく。亀頭の裏側から括れの部分にかけては特に丁寧に、何度も舌を往復させる。
「……おいしい?」
  尋ねると、竿を口に含んだまま、獄寺はコクコクと頷いた。
  甘酢あんと唾液と、それから綱吉の先走りで、獄寺の口元はベタベタになっている。それを綱吉は指で拭うと、自分の口へと運んだ。ペロリと舐めると、甘酸っぱい味がしている。
「ご褒美はなにがいい、獄寺君」
  獄寺の髪を撫でながら綱吉は、目を閉じた。
  いい天気だ。少し強いぐらいの日差しではあるものの、風は爽やかだし、ここには自分たち以外に誰もいないし、本当に心地良い。
「んっ……ぅ……」
  ちゅばっ、と音を立てて口を離した獄寺が、綱吉の頬に手を当ててくる。
「……キス、してください」
  請われるままにくちづけると、ヌルリと獄寺の舌が綱吉の口の中へと入ってくる。甘酸っぱい味は甘ダレの味なのか、それとも……。
「キスだけだよ」
  そう囁いて、綱吉は獄寺に口淫を続けさせる。
  ここが屋外でなければ、このまま獄寺を抱いていただろう。或いはもっと人目につかない場所なら、この先の行為にも及んでいたはずだ。だが、今さら場所をかえるわけにもいかない。
  従順な獄寺は、再び綱吉の性器を口に含んだ。
  クチュ、と湿った音を立てながら、大きく頭を振る。口角をきゅっと締めると唇で竿を扱き、喉の奥にあたるのではないかと思うほど深くくわえ込む。何度かえずくのを見たが、獄寺はフェラチオを やめようとはしなかった。
「じゅ、だぃ……ご褒美、くださぃ……」
  はあっ、と息をつきながら獄寺が口走る。
「ご褒美? なにがいい?」
  獄寺の髪を掴んで顔を上げさせると、彼ははっ、はっ、と息をあらげながら綱吉の竿に頬を寄せてくる。
「十代目の、これ……口の中に、欲し……っ」
  白くてほっそりとした獄寺の指が、綱吉の竿を愛しそうに撫でさする。
  先走りがトロリと先端から溢れると、獄寺の頬に白濁したものが筋を残していく。
「じゃあ、残さないようにきれいに飲んでくれる?」
  綱吉が言うと、獄寺は嬉しそうな笑みを浮かべて綱吉の性器にむしゃぶりついていった。



  結局、公園でフェラチオをさせただけでは収まらなかった。
  公園の隅にある公衆トイレに獄寺を連れ込むと、個室に籠もった。
  いつもとは違う場所、しかもいつ誰が来るともわからない場所での行為に、二人ともひどく燃えあがった。
  下着ごとジーンズを足下まで引きずり下ろした格好の獄寺に、後ろから立ったまま、綱吉は挿入した。
  上は着たままなのが、いやらしい。パーカーの内側に手を潜り込ませ、滑らかな白い肌を綱吉は愉しんだ。胸の先に指をかけると何度もグニグニとにじり潰し、こねくり回した。
  抑えめの獄寺の喘ぎも色っぽかった。
  公衆トイレで……しかもここは公園だ。もしかしたら小さな子どもたちが親に連れられて遊びにやってくるかもしれない場所の片隅で、自分は獄寺を犯している。
  その背徳感は何よりも心地よく、綱吉に大きな快感を与えた。
「十、だ……っ」
  壁についた獄寺の拳が、きつく握りしめられている。
「気持ちいい?」
  耳元に尋ねかけると、獄寺は頷く。そうしながらも獄寺は目尻に涙を浮かべている。
「嫌……?」
  もう一度尋ねると、獄寺の涙はポロリと頬を伝い落ちていった。
「ちがっ……」
  慌てて獄寺の手が背後へ伸ばされ、綱吉の腰を引き寄せようとする。
「……もっと、動いてください」
  屋外でのフェラチオで、獄寺のほうも収まりがつかなくなっていたのだろう。自分から腰を揺らし、綱吉を促してくる。
「じゃあ、声、我慢してて」
  そう言うと綱吉は、大きく腰を動かし始めた。



「ピクニックに公園は向かないかもしれないね」
  公園のベンチに腰かけて、綱吉が呟く。
  いつの間にか日は暮れかけ、西の端から少しずつ夕焼けが広がり始めている。
  獄寺のほうはと言うと、綱吉の膝に頭を乗せ、ベンチに寝そべっていた。
「……そーかもしれませんね」
  はあぁ、と二人同時に溜息が出る。
  次に二人の休暇が合った時は、部屋で一日ゴロゴロすることにしよう。そうすれば、途中でイチャイチャしたい気分になったとしても、こんなふうに困ったことになることはないだろう。
  ぐったりと力の抜けた獄寺の頭に手をやり、手触りのいい銀髪を綱吉は何度も指で梳いてやる。
  少しひんやりとした夕方の風が吹いてきていた。
  二人がトイレの個室から出てきてしばらくすると、小さな子どもたちが若い母親や姉弟たちと一緒に遊びにやってきた。子どもたちのあげる楽しそうな声を聞きながら、二人はベンチでぼんやりとしていたのだが、少し前に皆、それぞれの家へと引き上げていった。
「ご褒美が……」
  ポツリと、目を閉じたまま獄寺が呟いた。
「ん?」
  髪を梳く手を止めて綱吉は、獄寺の顔を覗き込む。
「ご褒美のキスがあれば、もっと嬉しいんですが……」
  そう言われて綱吉は、さっきのあれだけでは足りなかったのかと苦笑した。
  自分としては結構頑張ったほうだと思うのだが。
  キョロキョロとあたりを見回して周囲に人の気配がないことを確かめてから綱吉は、そっと獄寺の唇に、自分の唇で触れたのだった。



(2013.10.10)



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