「どーっスか、十代目?」
声をかけると、自分の腰にしがみつく綱吉の腕の力が少しだけ緩んだ。
「うん、すごく楽しいよ!」
バイクの後ろに綱吉を乗せてタンデムするのが以前から獄寺の夢だった。
十六の誕生日に学校を休んで免許を取りに行き、この一年間は運転技術に磨きをかけることに専念してきた。ようやく、晴れてタンデムができるようになった獄寺は、嬉しくて仕方がない。
「恐かったらしがみついてくださってもいいっスよ」
何気なく獄寺が言うと、背後の綱吉はふふっ、と小さく笑った。バイクの排気音とヘルメットとで声を聞き取ることはできなかったが、なんとなくそんな感じがしたのだ。
「じゃあ、しがみついてるよ」
そう返した綱吉は、ぐいぐいと獄寺の腰にしがみついてくる。
嬉しいのは、綱吉と自分が恋人同士だからだ。こんなふうにバイクをダシにして公道でイチャイチャすることができるのが、たまらなく楽しい。綱吉も自分と同じ気持ちならいいのにと思いながら、獄寺はあてもなくバイクを走らせる。
綱吉とは、中学の頃からつき合い始めて、もう三年になる。
以前からバイクには興味があったが、そもそもの発端は中学時代、十年バズーカで未来の世界へ飛ばされた時にバイクに乗る機会があったからだ。あれ以来獄寺は、免許を取れる歳になるのをずっと待ちこがれていたし、同時に綱吉とタンデムできる日がくるのを楽しみに指折り数えていた。その夢が、ようやく叶ったのだ。
とは言うものの、タンデムシートの綱吉の体が、獄寺の背中にピタリと密着しているのが少しだけ恥ずかしい。
バイクを走らせていると、そのうちにライダースジャケットの裾から綱吉の手が、内側へと潜り込んでくる。
「手、冷たいですか?」
尋ねると、綱吉は「少しね」と、返してくる。
考えてみれば、自分は手袋をはめているが、綱吉は薄手のジャケットにヘルメットをかぶっただけだ。寒くないわけがない。
「どこかで休憩しましょうか、十代目?」
このままでは綱吉が、凍えてしまうかもしれない。
次に自動販売機かコンビニが見えたら停まろう。そう思いながらも獄寺は、そのまましばらくバイクを走らせる。
低めの排気音と、エンジンの振動に心地よさを感じていた獄寺だが、ふと気づくと綱吉の手は、ジャケットの中で好き勝手に動き回っている。
「ちょ……十代目? そんなに寒いんですか?」
綱吉の手を意識しないようにすればするほど、触れられていることを意識してしまう。手のひらが脇腹を這い回り、あばらの上をなぞっていく。それから……胸の先を軽く擦るように、服の上から触れてくる。
「んっ……!」
危うくハンドル操作を誤るところだった。
「十代目、公道っスよ」
ムッとして声をかけるものの、綱吉はしれっとしている。
「獄寺君、前見て運転しないと危ないよ」
そんなもっともらしいことを言ったかと思うと、また手が蠢きだす。
「十代目!!」
触られると、困ってしまう。
綱吉の指やてのひらが、きわどいところを掠めていくのがもどかしくてならない。
「……っ」
クニュ、と乳首を潰されて、獄寺はヘルメットの中で小さく声をあげた。
このままでは、本当に運転を誤ってしまいそうで危険なことこの上ない。悪戯をしかけてくる指を気にしないようにしながら獄寺は道端にバイクを停めると、クルリと背後を振り返った。
「十代目!」
いつになく声を荒げて綱吉の顔を覗き込むと、悪びれた様子もなく、ニコリと笑い返される。
「デートするならもっとそれらしいデートしようよ、獄寺君」
含みのある言葉に怪訝そうに顔をしかめると、「あそこ」と綱吉は指さして言った。
「ついでにあそこで休憩していこ?」
道から少し逸れたところになるのだろうか、ホテルの看板が見え隠れしている。その向こう、街路樹の奥まったところにはけばけばしい電飾のついた建物が。
「あそこ……ですか?」
いわゆるラブホテルらしき佇まいに、獄寺の体温が跳ね上がる。
自分だって期待していなかったわけではない。
だが、こんなふうにはっきりと言われると、恥ずかしさのほうが先に立ってしまう。
「ここからだとそう遠くないと思うんだよね」
確信犯的に言われて、獄寺は口の中にたまった唾液をゴクリと飲み干した。
「……わかりました、行きましょう」
綱吉の指に煽られた熱が、獄寺の体のそこかしこで燻っている。この熱を冷ます方法はひとつだけしかないことも、獄寺にはよくわかっている。
この悪戯の代償は高くつきますよ──胸の内でそう呟いて獄寺は、バイクを目的の場所へと走らせたのだった。
(2014.1.12)
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