再会

「十代目ぇ〜っ!」
  久しぶりの再会に、獄寺は大袈裟すぎるほど大きな身ぶりで腕をさしのべ目の前の想い人に抱きつこうとしていく。
  苦笑いを浮かべながら綱吉は、それでも愛しそうに獄寺を見つめ返した。
「大袈裟すぎるよ、獄寺くん」
  そう言いながらもまんざらでもなさそうな綱吉の様子に、獄寺はホッと心の底で安堵の溜め息をつく。強引すぎるぐらいにアピールしていかなければ、目の前の想い人はなかなか本心を見せてはくれない。いや、そうではない。あまりにも真っ直ぐすぎる人だから、獄寺がその機微を読み取るのがなかなかに難しいというだけか。
  しかし獄寺が大きく腕を広げて想い人の身体を抱き締め……ようとした瞬間、ボン、と小気味良い音がした。あっという間に白煙があたりに立ち込め、想い人の姿が見えなくなる。
  目をすがめて獄寺は、綱吉の姿を探した。もうもうと立ち込める煙に視界を遮られて、綱吉の姿はどこにも見えない。すぐそこ、手を伸ばせば届くところにいたはずなのにと獄寺は、眉間に深い皺を刻んだ。
「……十代目?」
  恐る恐る声をかけると、白煙の中からにゅっと手が延びてきた。綱吉の手だ。安心した途端、その手が獄寺を探すかのようにひらひらとして、ついでぐい、と腰を引かれた。
「うわっ……?」
  真っ白な煙の中でたたらを踏んだ獄寺は、何かに──おそらく綱吉に、身体をぶつけていた。縺れ合いながら床の上に二人して転がり、ようやく白煙の中から抜け出した時には、獄寺が綱吉の上に乗り上げるような体勢になっていた。
  慌てて綱吉の上から身体を退かそうとして、獄寺はふと気付いた。
  自分の体がどこかしら変化したような感じがする。ブカブカじゃねえか、と思わず獄寺は口に出しかけた。着ている服が大きいのか、それとも自分が小さいのか……と、そこまで考えてから獄寺は、しゃくりあげるような声を出した。
「ん、なっ……!」
  そうだ。この感覚には覚えがある。忘れるはずがない。おそらくあの爆音と白煙はランボの十年バズーカの仕業だ。
  慌てて立ち上がろうとしたところで、綱吉の手に腕を引かれた。
  綱吉はしごく真面目な表情で尋ねてきた。
「獄寺くん。これ、なんのサプライズ?」
  ぐい、と引かれた獄寺の体が傾いで、綱吉のほうへと前屈みになる。
  綱吉に覆いかぶさるような体勢になった獄寺は、ははっ、と空笑いを零した。
  掴まれた手に触れる指の感触が、心地よかった。強いぐらいに手を引かれ、さらに前へとのめると綱吉の唇がすぐ目の前にある。
  ボソボソと獄寺は呟いた。
「再会を祝して……です」
  会いたかったのは、本当のことだ。たかだか二週間の出張で大袈裟すぎやしないかと山本からは揶揄われるが、会いたい気持ちに嘘はない。それに、気持ちの優しい綱吉のことだ。自分が出張で不在の間にあっちやこっちやそっちの女に手を出していないとも限らないではないか。それなのに、ランボのせいで自分は十年も以前の姿に戻ってしまっている。意識だけが現在のままで、不便なことこの上ない。
「ああ、そうだね」
  綱吉は頷いた。
「お帰り、獄寺くん。出張お疲れさま。君が戻ってきてくれて嬉しいよ」
  甘い囁きが獄寺の耳元を掠めていく。
  それから、触れるか触れないほどの優しキスが頬に与えられた。
  元の姿のままなら、このまま綱吉と部屋にしけこんで、あれやこれやとするのだが、この姿ではままならない。綱吉と会えたことは嬉しいのだが、この姿のままでとはあんまりだ。獄寺はムスッと頬を膨らませた。



  それでも綱吉は、獄寺の姿を気にする様子もなく、いつもと変わりなく触れてくる。
「この姿でするのって、ちょっと新鮮だよね」
  悪戯っぽく綱吉は告げた。
「本当は、この姿の獄寺くんに触れてみたかったんだ」
  そう言いながら綱吉の手が、獄寺のブカブカのスーツを脱がしにかかる。
  ネクタイを緩め、ワイシャツのボタンをみっつも外せばジャケットもワイシャツもすぐにはだけてだらしのない格好になってしまう。
「や、あの、十代目……?」
  この姿なんでそれはちょっと、と言いかけたところを、想い人の唇が塞いでくる。
  クチュッ、と音を立てて口の中に綱吉の舌が潜り込んでくるのに、獄寺は素直な反応を返した。拒むべきはここだったのにと思ってももう遅い。綱吉の手が獄寺の腰をさらに引き寄せた。互いの太腿に当たるのは、硬くなり始めた相手の欲望の証だ。
「じゅ……ぅ……」
  掠れる声で獄寺は綱吉を押しとどめようとした。
  だが、普段の獄寺ならともかく、今の獄寺に綱吉に抵抗し得るだけの力があるはずもない。あっさりと抵抗を封じられ、腰を抱かれた。足を絡めたままくるんと床の上に転がされ、体勢が入れ替わる。
  焦って綱吉の体の下でもがけばもがくほど、さらに強い力で伸しかかってくる。
  這う這うの体で獄寺が音を上げると、綱吉は低く喉の奥で笑った。
「じゅっ、代目……退いてください」
「ダメ。今触っとかないと、次はないかもしれないから」
  そう言って綱吉は、獄寺の肌にじかに唇で触れてくる。はだけたシャツも、カチャカチャと音を立てて外されたベルトも、いつの間にか床の上に投げ出されている。
  いつもより大きく感じられる綱吉の手が、獄寺の肌の上を這い回っている。なまじ気持ちがいいから質が悪いのだ。的確にポイントを心得た綱吉の指使いに、獄寺の背筋にゾクリと震えが走った。
「子どもの体してても、やっぱり獄寺くん、オレのことちゃんとわかってるんだね」
  綱吉は不意に、フフッと笑みを零した。
  節くれ立った長い指が、着ていたものを剥ぎ取られた獄寺の下肢に触れている。
「や、あの、それは……」
  なんとか体を捩って綱吉の手から逃れようとすると、今度は尻のほうへと手が回される。獄寺は、途端にこみあげてきた唾をゴクリと飲み下す。
  無防備な獄寺の耳朶に歯を立てると、綱吉はやんわりと甘噛みした。
「逃げるな、隼人」
  強制ではない。綱吉の声は穏やかで、手は、優しい。無理矢理に抱こうとしているわけではないということは獄寺にもわかった。体に伸しかかる力はいつの間にか緩んでいた。獄寺が本気で抵抗しようと思えば、そうできるほどに。
「……時間、そんなにないんだからさ」
  綱吉の甘い囁きに、獄寺の体の緊張が解けていく。
  そうだ、思い出した。十年バズーカの効力なら、獄寺も知っている。こんなふうに触れあっているうちに、遅かれ早かれ元の姿に戻ることができるはずだ。だから、実際には最初から抵抗する必要などなかったのだ。
  そう気付いたものの、後孔をこじあけようとする綱吉の指から、獄寺は逃げずにはいられない。いつもより綱吉の指をきつく大きく感じるのは、自分の体が十年前の体格になっているからだ。無理にこじあけられたら皮膚が裂けるかもしれない。
  眉間に皺を寄せ、唇を噛み締めて獄寺は体を捩った。やはり抵抗できるうちは抵抗したほうがいい。綱吉は今の自分の体に興味を持っている。ただ単に触るだけならともかく、よからぬことを考えてるような気がしてならない。腰を捻り、獄寺は綱吉の下から逃げようとした。
  すぐに大きな手が片方の太腿を掴んできた。
  逃げられないと、獄寺は思った。綱吉の手は力強かった。がし、と掴まれた瞬間に獄寺は、自分はこのまま綱吉のいいようにされてしまうだろうと思い知った。綱吉の意志は強く、こんな時だというのに獄寺を魅了した。これから自分は綱吉に犯されるのだとわかっても尚、目の前の想い人のことを獄寺は尊敬していたし愛していた。この男になら何をされても構わない、たとえ殺されても……そんな不謹慎なことを考えながら獄寺は、口の中に溜まった唾を飲み込んだ。
「あの、十代目……」
  恐る恐る声をかけると、綱吉は艶やかな笑みを向けてきた。
「大丈夫だよ、獄寺くん」
  優しく、穏やかな声だった。
「大丈夫だから、オレに任せて」
  宥めるようにそう告げられて、獄寺の最後の砦も崩壊してしまった。
  全身の力を抜くと獄寺は、綱吉に協力するかのように四つん這いになり、尻を突き出した。すぐに綱吉の手が双丘を這い回り、ぬるりとしたものが後孔に触れてくる。綱吉の舌だった。
「ん……っ」
  自然と獄寺の腰が揺れて、綱吉を誘う。
「十だっ……め……」
  あっ、あっ、と甘い声を洩らしながら獄寺は、思わせぶりに腰を揺らした。
  襞の内側に綱吉の舌がもぐりこみ、ヌルヌルと内壁をねぶり、湿らせていく。
「んっ、ぁ……」
  子どもの身体だろうか、大人の身体だろうが、獄寺の身体が綱吉の愛撫に反応を示すのは確かなことだった。間違いなく自分は、欲情している。想い人である、目の前のこの男に。
  綱吉の舌がじゅぷじゅぷと音を立てて後孔を舐め回し、すっかり解れてしまうよりも早く、獄寺の身体は変化し始めた。骨の節々がきしみ、身体が元の体格へと戻っていく。うっすらと目を開けると、獄寺の視界は白煙に包まれていた。
「十代目……十代目……っ」
  うわごとのように掠れた声で綱吉を呼んだ。綱吉の舌がずるりと後孔から引きずり出される感触に獄寺はブルッと全身を震わせ……その瞬間、十年バズーカのあの響きが耳の奥に反響したような感じがした。
「あ、ぁ……」
  はあっ、と息を荒げた獄寺が四つん這いのまま顔を上げると、背後に綱吉がいた。獄寺の腰をしっかと掴んで、今にも挿入しようとしているところだった。獄寺はいつの間にか元の姿に戻っていた。
  綱吉は獄寺の視線に気付くと、穏やかな笑みを向けてきた。
「お帰り、獄寺くん」
  唇の形だけで綱吉はそう呟くと、獄寺の後孔に自身の竿を捻じ込んだ。
  ぬめった感触がして、ついで皮膚の裂けるようなピリピリとした痛みが感じられた。綱吉の竿が自分の中に納まっていく。硬くて、大きな質感のものに体を串刺しにされ、腹の中を満たされ、獄寺は幸せに陶酔していた。
「十、だ……」
  四つん這いになった獄寺の上体が、ぐらりと傾いで床へと沈み込む。
  綱吉はそれを待ってから腰を動かし始める。獄寺の浅いところも深いところもたっぷりと擦り上げ、執拗なほどに突き上げ、最後には白濁を放った。
  獄寺もほぼ同じタイミングで白濁を放った。床を汚してしまったという罪悪感がほんの少しだけ獄寺の脳裏をよぎる。
  身体を捻って綱吉を見ると、彼は嬉しそうに獄寺の首筋に鼻先を埋めてきた。
「お帰り、獄寺くん。君が帰ってきてくれて嬉しい……」
  気怠げな綱吉の呟きは、次第に小さくなっていく。
  獄寺は仰向けになると、綱吉の身体を抱きしめた。
「俺も、お会いできて嬉しいっス」
  そう、獄寺は綱吉の耳元に囁きかけた。静かに、優しく。早々と眠り込みそうになっている綱吉の邪魔をしないように。



(2016.5.2)


BACK