綱吉の誕生日に、とっておきのワインをプレゼントした。
恐ろしいほど値の張る年代物のワインを口実に獄寺は綱吉の部屋に上がり込み、一緒にワインを飲んだ。飲みながら、白蘭からもらった媚薬をそっと自分のグラスに落とし込み、飲み干す。
もしこの企みがバレたらどうなるのか、自分でもわからない。だが、胸の内に想いを秘めたままでは報われないこともまた事実。この想いを告白することが叶わないなら、せめて一度だけでもいい。綱吉に抱かれたいと、獄寺は切望している。
その後でなら、事実を知った綱吉にどう思われても構わない。たった一度でいいからと、秘めたる想いを胸に獄寺はかねてからの謀を実行に移した。
媚薬を口にしてからも、獄寺はワインをふたくち、みくちと口に運んだ。何食わぬ顔でワインを飲み干し、勧められるがままにチョコレートを食べた。誕生日のプレゼントに、誰かからもらったチョコレートらしい。
チョコレートを齧った途端、口の中にドロッとした甘ったるい味が広がり、獄寺の目の前がくにゃりと歪む。
あっ、と思ったときにはもう、目眩と酩酊状態に包まれていた。
なにがどうなったのかわからないぐらいフワフワとしたいい気分で獄寺は綱吉を上目遣いに見上げる。
「十代目ぇ、俺、酔っ払ったみたいっス」
呂律の回らない状態でそう告げると、獄寺はふにゃんとしただらしのない笑みを浮かべる。
媚薬は、予想していたよりも早い勢いで獄寺の身体を支配していく。初めに、理性が呆気なく陥落した。次に体だ。体温が上がり、ほんのりと熱を帯びたような体はうっすらと汗を纏い始める。
「じゅうらぃめぇぇ……」
媚びるような調子で綱吉を呼び、手を差し伸べる。すると綱吉の手がすぐに獄寺の手を取り、ぐい、と身体ごと引き寄せた。
ポスッ、と綱吉の胸に飛び込んだ獄寺の身体に、訳の分からない震えが走る。
男の胸元に頬を擦り寄せ、獄寺はうっとりと呟いた。
「十、代目……俺、十代目のことが好きです。好きすぎて頭ン中どうにかなりそうなぐらい、好きなんス」 「知ってるよ」
耳たぶを掠める綱吉の熱い吐息が、そう返してくる。
これは自分にとって都合がいいだけの、夢ではないだろうか。
ぼんやりとした頭で綱吉のにおいを感じつつ、獄寺は男の身体にぎゅっとしがみつく。
「……十代目に、抱かれたいっス」
感極まったように切ない声でそう獄寺が呟くと、腰を抱く綱吉の腕に力が加わる。
「ここでいいいの? それとも、寝室に行く?」
ねっとりとした声で尋ねられ、獄寺は甘い吐息をつく。抱かれたい。ぐちゃぐちゃのドロドロに溶かされて、啼かされたい。綱吉の熱くて硬いもので中を抉られ、激しく突き上げられたい。息もできないほどに強く揺さぶられ、イくのは想像もつかないほど気持ちいいはずだ。
「……も、我慢…できな……っ」
発情し、欲にまみれて上擦った声で獄寺はそう告げた。
「ここ、で……」
さらに強い力で綱吉のスーツにしがみつくと、腰の辺りが既に硬く張り詰めているのが感じられる。獄寺自身も同じだった。媚薬のせいなのか体が熱っぽく、どこに触れられても気持ちがいい。
「抱いてください、十代目。ここで構いません」
今、ここで抱き合いたい。
寝室に向かう僅かな時間の間に、もし綱吉の気が変わってしまったら。ふと我に返り、熱が覚めてしまったら、こんなチャンスはもう二度と巡ってはこないだろう。
獄寺は自らベルトを緩め、緊張でもたつく手で自身のスラックスを下着ごと床の上に落とした。
「はゃ、く……」
自然と声が小さくなるのは、怯えているからだ。男の自分に触れるのを綱吉が拒否したらどうしようと、恐れているからだ。
下半身を剥き出しにした獄寺を綱吉は優しく見つめながらぽそりと呟く。
「本当はいやらしいんだね、獄寺くん」
言いながら手を伸ばした綱吉は、獄寺から上着を脱がし、ネクタイをしゅるりと取り去る。シャツ一枚の姿になった獄寺の股の間では、いつの間にかほっそりとした性器が首をもたげて先走りを滴らせている。
「ここでいいんだね、本当に」
確かめるように綱吉が再び確認の言葉を投げかける。
「……は、い」
つっかえながら返事をする獄寺に、綱吉は微笑みかけた。
「拒否は許さないよ」
優しく告げる綱吉の瞳は無表情で、何故だか怖かった。綱吉がボスたる所以だ。
獄寺は何度もこくこくと頷いた。
すぐに綱吉の手が獄寺の腰を掴んできた。両手でがっちりと腰を掴まれ、シャツ越しに背中にキスを落とされる。
チュ、と音がして、優しく背筋に沿ったキスが腰のあたりまでおりてきて、シャツの裾をたくしあげる。大きなてのひらが背中をなぞりながら肩甲骨のあたりまで上がり、そこからまた唇がチュ、チュ、と音を立てながらおりてくる。腰のあたりまで綱吉の唇がおりてきたところで、獄寺はすぐそばのテーブルに手をついた。
腰を、背後の綱吉の方へつき出すようにしてテーブルにしがみつくと、すぐさま綱吉の手が前へと回された。張り詰めた性器を節くれだった手で包まれ、やわやわと揉みしだかれる。
「ん、んっ……」
鼻にかかったくぐもった声が洩れるのが恥ずかしい。背後の綱吉は、空いているほうの手で獄寺の腰を抱え直した。チュ、と音が響く。今度は尻に唇がおりてきた。時々、皮膚をチロチロと舐め上げながら尻の狭間へと舌が移動していく。
「あ、ぁ……」
はふっ、と息をつき、獄寺は両手を強く握りしめる。声が洩れないように歯を食いしばると、さらに深くテーブルにもたれる。
「じっとしてて」
そう言うと腰を抱えていた綱吉の手が、尻肉を掴んだ。きゅっ、と肉を掴まれて、同時に狭間に舌が差し込まれる。
クチュッ、ヌチュッと音を立てながら後孔を舐められるのは、気持ちがよくて、恥ずかしい。声が洩れそうになるのをこらえて獄寺は拳に力を込める。
ニュルン、と舌が襞の隙間から中へ潜り込んできて、内壁をざりざりと舐め上げる。
「ん、っ……」
腰を捩るとさらに深いところをに舌が侵入してきて、ぺちゃぺちゃと舐め回され、いやらしい音が獄寺の耳に響いてくる。
「……っ、か…ら……」
啜り泣きながら獄寺が音を上げるのにも構わず、綱吉は舌を動かし続ける。
ゾクゾクするような快感が腹の底から込み上げてきて、獄寺の身体中を駆け巡る。
ちゅぱっ、と音がして、舌が抜け出していく感触に体が淫靡に震える。前を揉みしだく手は絶妙な力加減で、獄寺が達しかけるとは素早く離れていく。
「あ……やっ……」
身をくねらせ、背後の綱吉へと手を伸ばしかけた獄寺の体はしかし、ぐっ、とテーブルに押さえつけられた。
「じゅ、ぅ……」
言いかけた獄寺の片膝を掬い上げると綱吉は、テーブルの上へと足を引き上げさせる。
「やっ……こんな格好……」
片足をテーブルに上げると、後孔がひくつくところも、唾液で濡らされたところも、綱吉にはっきりと知られてしまう。
戸惑い、思わず身じろいだ獄寺がテーブルにしがみつくようにして手を伸ばすと、すぐ近くにあったワインのボトルに手が当たる。カタン、と音がしてボトルがひっくり返りそうになるのを綱吉の手がすんでのところでキャッチした。
「そうそう、おいしいワインをありがとう。もっと飲んでくれていいんだよ?」
言いながら綱吉はコルクの蓋を歯で齧って素早く抉じ開け、瓶に口をつけて残っているワインを口にする。
「すごく美味しい。ほら、獄寺くんも飲んでごらんよ」
とぷん、とワインが瓶の中で揺らぎ、獄寺の尻にたらたらと零れ落ちる。
「んっ、ぁ……」
血のように赤いワインが白い皮膚を伝い狭間へと落ちていく。
「……ほら」
そう言うと綱吉は、器用に獄寺の後孔に瓶の口を押し付ける。ぐい、と先端が襞を押し広げ、赤い液体が襞の隙間から中へと注がれる。
「や、あぁ……」
逃げようとすると、前に回されたもう一方の手が陰茎をぐっと握り締めてきて、獄寺は逃げることもままならない。
「たっぷり飲ませてあげるからね」
優しい口調でそう告げると綱吉は、ゆっくりとワインのボトルを傾ける。
「あっ、あっ……入って……中、入ってくるっ……」
ワインの冷たさに身を震わせながら獄寺はテーブルにしがみつく。
注がれたワインがじわり、と内壁に染みてきて、そうすると身体のそこかしこが何故だか熱くなってくる。さらに増した酩酊感に、獄寺はああっ、と声を洩らす。
「すごいね。後ろの口でワインをこんなに飲んだのに、まだ足りないみたいだよ」
ワインの瓶が離れていくと、ヒクヒクと後孔が収縮を繰り返した。赤い滴りを零すそこは、ワインではない別のモノを欲しているようだ。
「じゅっ……じゅ、ぅらい、めぇ……」
ねだるように綱吉を呼ぶと獄寺は、肩越しに男の顔を振り返って見た。
優しいヘイゼルの眼差しが、真摯に獄寺を見つめ返している。
「隼人……っ」
我慢できないとばがりに綱吉は獄寺の名を呼ぶと、ワインのボトルをテーブルに置き直した。それから自身のスラックスの前を寛げて、硬く昂ったものを取り出す。
「濡らさなくても大丈夫だよね」
言い訳をするように呟くと、綱吉は熱く滾ったものを獄寺の後孔に突き立てた。
じゅぷっ、と淫らな音をあげながら綱吉の剛直が獄寺の内壁を擦り上げる。
「ひうっ、ぅ……」
一瞬、獄寺の身体が大きく震える。
綱吉は力強いストロークで獄寺の中を掻き混ぜた。ぐちゅっ、ぬちゅっ、と淫音が響き、激しく内壁を抉る。
「あ……あぁ……気持ちいぃ……」
片足をテーブルに乗せたまま、獄寺は気付かぬうちに自ら腰を揺らし始めていた。綱吉が中を抉るのに合わせて腰を押し付け、さらに奥深い部分への快楽をねだる。
「じゅぅらぃめ……き…気持ちっい、いっ……あぁっ…奥……もっと奥、つぃて、くださっ……」
テーブルを掴む手が、ブルブルと震えている。汗で滑りそうになるのを何度も掴み直して獄寺は、綱吉の責めに耐えている。
「奥? 奥がいいんだ?」
ひとりごちると綱吉は、テーブルに上げた獄寺の膝を掴んだ。そのままさらに激しく腰を打ち付けると、ワインで濡れた結合部が泡立ち、ジュプジュプといかがわしい音を立てた。
「ひ、やっ……激しっ……」
テーブルが軋んで、ギシ、と音を立てる。
汗で滑る手で獄寺は尚もテーブルにしがみつく。もどかしいのは、こんな不安定な場所だからだろうか。それとも、もっと激しく突き上げて欲しいからだろうか。
グジュグジュと泡立つ音が響くのに合わせてテーブルがカタカタと音を立てる。その度に獄寺の身体はテーブルからずり落ちそうになる。しがみついた手が滑りかけたところを綱吉の大きな手が捕らえると、後ろ手にひとつにして纏めて掴まれた。
「あ……ぁ、じゅぅだ……ぃ、め……」
身じろいだ獄寺の体を綱吉はずぶずぶと深く抉る。
後ろ手に掴まれた手首の痛みと、無理な姿勢に獄寺は小さく呻き声を上げる。
「ぅあ、あ……」
それでも綱吉は構わずに腰を打ち付けてくる。
ぱちゅん、ぱちゅん、と淫音が響くたびに快楽に陶酔した頭で獄寺は羞恥を感じる。まだ、理性の欠片が残っているのだろう。
「も、だめぇ……じゅ、らぃめぇ……」
呂律の回らないまま言葉を口にしながら獄寺は背後の綱吉を振り返った。
「キス……キス、してぇぇ……」
掠れた声でそうねだると、穏やかな笑みを浮かべた綱吉が顔を近付けてくる。
「蕩けてやらしい顔になったね、隼人」
優しくそう告げると綱吉は、激しく唇を求めてきた。
苦しい体勢で唇を合わせると、さらに強く腰を押し付けられた。
腹の中をごりごりと掻き混ぜられ、訳がわからないぐらいに気持ちがよくなったところで唇を割り開いた舌が絡みついてくる。唾液ごと舌を吸い上げられるとくちゅうっ、といやらしい音がして、獄寺の腹の中を掻き混ぜていた綱吉の剛直がぶわりと膨れ上がる。
「んあっ、はっ……おっき…ぃ……」
ヒクヒクと後孔がひくつき、中に潜り込んだ綱吉を締め付ける。
「ぃっ……イく……イく、も、イくから……」
啜り泣きながら獄寺が腰を揺らすと硬く腫れ上がった性器が白濁を噴き上げる。
と、同時に獄寺の中でも綱吉の性器がビクン、と大きく震えて射精した。ビュッ、ビュッ、と内部に放たれた性は熱くてドロリてしていて、獄寺はその感触に感極まったように何度も体を痙攣させた。
震えながら獄寺は、綱吉の白濁を腹の中にたっぷりと注ぎ込まれた。
何も考えられないぐら気持ちよくて、たまらない。
「もっと……」
と、腰を押し付け体を摺り寄せると、今達したばかりの綱吉の竿が、腹の中で再び硬度を取り戻すのが感じられる。
「……隼人」
耳元に囁きかけてくる声は優しくて、甘い声だ。
獄寺はああ、と声を洩らすと淡い笑みを浮かべて愛しい人に微笑みかけた。
(2018.11.5)
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