情事の後のひとときが、獄寺は好きだ。
我ながら女々しいような気もするが、この時間がいちばん安らぐのだ、獄寺は。
綱吉とは、中学時代からのつきあいがある。同い年の友人として、そしてボンゴレ十代目候補とその右腕としての期間を経て、ずっと続いてきた。もう十年になる。
しかしつい最近、綱吉との関係に新しい関係が加わった。
中学時代から憧れていた綱吉に気持ちを告げ、ようやく晴れて恋人同士となったのはほんのひと月ほど前のことだ。
慣れないながらも男同士のつきあいを始め、キスを交わすこともごく自然にできるようになり、セックスもするようになった。
昔から好きで好きでたまらない相手だったから、キスだけでなくセックスに対しても嫌悪感を抱くことはなかった。どちらかというと獄寺は、綱吉に触れてもらうことが嬉しくてたまらない。
今も、そうだ。
事後の倦怠感に包まれながら獄寺は、綱吉の唇が自分の髪やこめかみ、目尻や鼻先に触れてくるのがたまらなく幸せに思えてならない。
「気持ちいい、って顔してるよね、獄寺君」
言いながら綱吉の腕が、獄寺の頭の下に潜り込んでくる。まるで腕枕をしてもらっているような体勢に、気恥ずかしさを感じた獄寺は首を竦める。
確かに、気持ちいいことにかわりはないのだが。
「あの……」
言いかけた獄寺の耳元に、綱吉が唇を寄せてくる。
「なに?」
耳たぶを掠めるようにして囁かれ、獄寺の体にビリッと電流のようなものが走る。
「あ……っ」
慌てて綱吉の顔を押しのけようとすると、手を掴まれた。
「ねえ、獄寺君。オレたちつきあいだして一ヶ月が過ぎたけれど……この間の交際一ヶ月記念の時に約束を破ったお詫びがまだだっただろ?」
「ああ、そう言えばそうっスね」
真顔で綱吉が言うものだから、獄寺も真面目に返してしまう。今の今までの甘い雰囲気は、綱吉に限ってそんなことはないとは思うが、もしかしてふざけていただけなのだろうか。
「でも十代目、俺は十代目のそのお気持ちだけで充分嬉しいし、満足してますから……」
綱吉の頬へと手を伸ばし、獄寺は柔らかな笑みを口元に浮かべる。
ボンゴレ十代目として誰よりも忙しい綱吉が、獄寺のために気を遣ってくれているのだと思うと、それだけで充分だった。たった今、獄寺が口にした言葉に嘘偽りはない。
「遠慮しないでほしいんだけどな」
困ったように小さく息を吐き出して、綱吉は苦笑した。
「でも……」
言いかけた獄寺の唇に、綱吉の指が触れる。
「しーっ。オレ、獄寺君に一緒に暮らそう、って言いたいんだけど……それも、言っちゃダメ?」
ダメかな? と尋ねられ、獄寺は起き上がろうとした。
寝そべったままの姿勢で聞くような話ではないように思われた。そんなことをしたら、目の前にいる綱吉に失礼だと獄寺は思ったのだ。
「ダメじゃ、ない……っス」
暗がりの中で、相手の細かな表情や顔色までは見えなくてよかったと、獄寺は思う。今の綱吉の一言で、獄寺の顔は真っ赤だ。耳たぶが燃えるように熱いから、絶対に首のあたりまで赤くなっているはずだ。
「本当に?」
綱吉の指は、獄寺の下唇をそろりとなぞってそのまま顎の下へと下りていく。喉仏を辿り、鎖骨の窪みをくすぐり……ゆっくりと胸の尖りへと近づいていく。
「……っ」
恥ずかしくて獄寺は、唇をきゅっと噛みしめた。
今、自分が真っ赤なのも、綱吉の指を気持ちいいと思っていることも、知られたくないと思う。
「ねえ、獄寺君。言って」
綱吉の指が、獄寺の乳首にそっと触れた。胸の先を指の腹で軽く押し潰したかと思うと、指で挟んでくりくりとこね回す。
「んっ……」
獄寺が黙っていると、綱吉の手はさらに下へと移動していった。かわりに唇が、胸へと吸いついてくる。
「ぁ……」
身を捩り、綱吉の唇と指から逃げようとすると、体を押さえ込まれた。
「返事がまだだよ、獄寺君」
綱吉の声は、とても優しい。泣きたくなるほど甘くて、獄寺はブルッと身震いをした。
「俺……」
嬉しいけれど、本当にいいのだろうかと不安にもなる。
もともと綱吉は、獄寺のことを恋愛の対象としては見ていなかった。一方的に獄寺が、自分の気持ちを綱吉に押しつけていった結果のような感じがしていたのだ。だから本音を言うと、綱吉の申し出は天にも昇るほど嬉しかった。いつかは一緒に暮らしたいと思っていたが、まさかこんなに早く、それも綱吉のほうから言い出してくるだろうとは獄寺は、思ってもいなかったのだ。
「俺?」
綱吉が、獄寺に先を促す。
手は、休まずに獄寺の腹をなぞり、臍のあたりを何度も往復している。そのさらに下の陰毛を時折、指がいたずらに梳いてくる。
「……嬉しいっス、十代目」
十四の歳で出会って以来、寝ても覚めても綱吉のことを考えてきた。ずっと、好きだった。男としてももちろん、惚れていた。その想いが伝わり、恋人としてつき合いを始めて一ヶ月が過ぎたばかりで同居の話だなんて、どう考えてもうますぎる。
「夢じゃないっスよね、これって」
おそるおそる綱吉に尋ねたら、呆れたように笑われた。
それからいくつものキスが、獄寺の唇におりてきた。
覆い被さってくる体を抱きしめると、もう一度キスされた。
その合間にも綱吉の手は、ゆっくりと獄寺の体を辿っていく。
「十代目……」
はぁ、と息をつくと、綱吉は微かに笑って枕を取り、獄寺の腰の下へと差し込んでくる。 「ちょ、あの……十代目……」
指と唇で触れられただけで、獄寺の腰には熱が溜まってきていた。ついさっき抱き合ったばかりなのに。いや、だからこそ、だろうか。
「困ります、十代目」
腰を掴まれ、獄寺は慌てて綱吉の手を引きはがしにかかる。
こんな状態で触られたりしたら、体の熱はますます上昇するに決まっている。
「オレは困らない」
頑として綱吉は、獄寺の言葉を聞き入れようとしない。
頬にチュ、と音を立ててキスをすると綱吉は、ゆっくりと獄寺の肌を唇で辿っていく。さっき指で触れてにじり潰した獄寺の乳首にチュウ、と音を立てて吸いつくと、今度は焦らすことなく下へ、下へと唇をずらしていく。
「っ……十代目……」
枕を腰の下にあてているから、体が不安定でならない。ちょっと身じろぎをしようとすると、それだけで体が揺れるのだ。獄寺は両手でシーツにしっかりとしがみついた。
「ね、さっきしたばかりだから、まだ柔らかいよ」
確かめるように綱吉の指が、獄寺の窄まった部分の縁に引っかけられる。襞を伸ばすようにしてぐにぐにと指の腹で押されると、獄寺の中がキュウッ、と締まるのが感じられる。
「ぁ……」
さっき、したばかりなのに──言い訳がましく口の中でぼそぼそと呟いておいて、獄寺は綱吉の手を掴もうとする。
「ヒクヒクしてるよ、獄寺君」
言いながら綱吉は、獄寺の尻の狭間へと顔を寄せた。
「十、だ……っ!」
クチ、と湿った音がして、獄寺の窄まりに、ぬるりとしたものが押し当てられた。生暖かくてざらりとした感触のものが、キュッと窄まった部分をこじ開けるように、ざり、ざり、と触れてくる。 「やっ……ぁ」
逃げようとして体をずらそうとすると、腰の下に挟んだ枕からずり落ちそうになり、慌てて獄寺は両腕でシーツを握りしめる。綱吉のほうも、獄寺の不安定な姿勢に気づいているのか、執拗に窄まりを舌で突いたり舐めたり、時には唾液を塗り込めるような仕草を何度も繰り返す。
「ダメ……十代目、ダメっスよ。汚い、から……」
シーツを握りしめる指に力を込めて、獄寺が囁くような声で訴える。
「ナニ言ってんのさ、獄寺君。さっきはゴム着けてしたんだから、汚くなんてないよ」
言いながら綱吉の片方の手が、獄寺のペニスを握りしめる。体のあちこちを綱吉に触れられて硬くなりかけていた性器が、綱吉の手を感じた途端、ビクン、と大きく震えた。
湿った音が獄寺の尻の間で響いている。
時々、綱吉の手がいたずらに獄寺の性器を扱いてくる。その度に獄寺の体は枕からずり落ちそうになり、みっともなく大きく広げた足がふらふらと不安定に揺れているのが目に入る。
恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないのに、やめないで欲しいと思っている自分がいる。 啜り泣くようなくぐもった声が次から次へと洩れてきて、獄寺の唇の端からたらりと涎が伝い落ちていく。
「あ、ぁ……」
ピチャ、ピチャ、とわざと音を立てながら綱吉は、獄寺の窄まりを舐める。執拗な舌の動きに、獄寺の前が硬く張り詰めていく。
「ん、く……ぅ」
不意にぬぷ、と舌が獄寺の中に潜り込んできて、内壁を舐めあげた。腹の底で籠もっていた熱が、沸騰しそうなほど急に温度を上げる。
「ふ……っ、あ……」
爪先をきゅっと丸めて快感の波をやり過ごそうとすると、それに気づいた綱吉が顔を離した。チュクッ、と音を立てて舌が窄まりの中から出ていくのを感じると同時に、獄寺は深く大きく息をついた。肩で息をしたいのに、腰の下の枕が気になって、思うように息ができない。
「気持ちよくてたまらない、って顔だね」
小さく笑った綱吉の唇が、獄寺の臍の脇に落とされた。チュ、と皮膚を吸い上げ、朱色の印を残していく。
「それはっ……」
それは綱吉のせいだと言い返そうとして獄寺は口を開きかけた。
「しーっ。黙って、力抜いてて」
綱吉は微かに笑いかける。
獄寺の腰を両手で鷲掴みにした綱吉は、膝立ちになった。獄寺の尻の奥、窄まった部分に先走りの滲む自らのペニスを押し当てると、何度か先端をこすりつけた。
「じゅ…う……」
シーツの上に肘をついた獄寺が、そのままの姿勢で逃げを打とうとする。
「ダメだ。逃がさない」
低く腹の底から唸るような声を出すと綱吉は、ゆっくりと獄寺の襞の中心へ切っ先をめり込ませていく。
「あ……あぁ……」
上体がぐらぐらして、恐い。肘に力を入れると獄寺は、必死になってシーツにしがみつく。
「ねえ、獄寺君。中がヒクヒクしてるよ」
綱吉の太股が、獄寺の太股の下に潜り込み、尻を掬い上げる。焦らすように腰を揺らしながら獄寺の内壁を擦り上げ、いいところを探している。
「や……言わな…い、で……」
啜り泣く獄寺の体をぐい、と自分のほうへと引き寄せると綱吉は、大きく腰を動かし始めた。
「あ、あ……っ」
獄寺の中が、きゅうきゅうと綱吉を締めつける。
張り詰めていた獄寺の前が、苦しそうに震えている。
綱吉は、獄寺の片足を自分の腰に絡みつかせると、空いたほうの手で目の前で硬く勃ちあがったペニスを握りしめた。
「ん、ぁ……」
きついぐらいに握りしめた手を上下に動かすと、獄寺の太股の内側が引きつれそうなほどピクピクとなる。ペニスの先端、尿道口がぱっくりと開き、透明なトロリとした先走りが滲み出してくる。 「気持ちいいんだね、獄寺君」
恥ずかしいから言わないで欲しかった。だが、気持ちいい。このまま手を止めずに、弄っていて欲しい。獄寺は口の中に溜まった唾を飲み込んだ。
「もっと……もっと、突いてください、十代目」
「前は?」
思わせぶりに尋ねたかと思うと、綱吉の指の先が獄寺の尿道口をキリキリと引っ掻く。
「やっ、あ……ぁ、ぁ……」
頭を逸らし、首を大きく左右に振りながら獄寺は乱れた。
先端に滲んだ先走りがつーっ、と竿を伝い落ちていく。
「もうイきそう? ちょっと早くない?」
言いながらもどこかしら綱吉は嬉しそうで、前を弄る手も、腰の動きも、獄寺には強い刺激となって襲いかかってくる。
「十だ、ぃ……」
きゅうきゅうと獄寺の中が締まる。中に潜り込んだ綱吉の性器を包み込み、締めつけ、奥へ奥へと飲み込もうとしている。
「ねえ。一緒に暮らしたら、もっと気持ちいいこと、できるよ?」
腰を大きく突き入れながら綱吉が囁く。
「あ、っ……」
気持ちいいこと。今よりも、もっともっと、気持ちよくなれること。一瞬にして獄寺の頭の中で、綱吉の言葉が現実味を帯びたような気がする。
「十代目……十代目……」
綱吉の腰に巻きつけた足に力を入れると、自然と獄寺の中が締まった。奥のほうを突き上げていた綱吉のペニスが瞬時に反応して、いっそう硬さを増す。
「いっ……痛……」
うわごとのように喘ぎながらも獄寺は、綱吉の腰に回した足の力を緩めることができない。それと同時に、中を擦り上げてくる綱吉の性器への締めつけを、緩めることもできない。
「十代、目……」
頭の中が真っ白になって、獄寺の思考がとぎれとぎれになっていく。
腹筋がヒクヒクと震えて、腹の底でわだかまっていた熱が、全身を駆けめぐっているような感じがする。
腰骨と腰骨がガツガツと音を立てるほど激しく、綱吉は突き入れてくる。
嫌ではない、痛いよりも気持ちいいほうが大きくて、獄寺は綱吉の動きについていこうと、ともすれば崩れそうになる肘に力を入れる。
「一緒に……十代目、一緒、に……」
呂律の回らない状態で獄寺が口走った途端、パシャッと腹の上に白濁が放たれた。獄寺の精液だ。ペニスの先端がヒクヒクと震えて、ドロリとした精液が腹から胸のあたりにかけてを汚していく。 と、次の瞬間、綱吉は喉の奥で低く唸ると、さらに大きく獄寺の中を穿った。
「ああっ……!」
綱吉の腕に抱えられたほうの獄寺の足がビク、と揺れて爪先まで丸まった。
「……獄寺君!」
獄寺の腹の中にも熱いものが広がっていく感触がした。
互いの息が落ち着いてきたところで、再び綱吉が獄寺の耳たぶに齧りつきながら尋ねてきた。
「それで……さあ、獄寺君。オレと一緒に暮らしてくれる気になった?」
綱吉の声が耳の奥に響き、獄寺は咄嗟に首を竦めた。
「やっぱり、嫌?」
心配そうに獄寺の顔を覗き込んでくる綱吉の眉間には皺が寄っている。
「嫌だなんて、そんなこと……」
そんなことはあり得ないと、獄寺は思う。自分はもうずっと綱吉に惚れているのだ。男同士ということで悩んだこともあったが、綱吉が自分の気持ちに応えてくれるよりもずっと昔から獄寺は、彼についていこうと決めている。なにがあっても絶対、綱吉のそばを離れない、と。
「じゃあ……」
言いかけた綱吉の首にしがみつくと獄寺は、甘えるように鼻先を擦りつけた。
「十代目と一緒に暮らした……ぃ……」
最後まで言い終えるよりも早く、綱吉の腕が獄寺の体に回された。強い力でぐいぐいと抱きしめられ、獄寺はもぞもぞと綱吉の腕の中から逃げ出そうとする。
「じゃあ早速、引越業者を頼まなくちゃね」
そう言が早いか綱吉は深く唇を合わせ、獄寺の息があがるまで口の中を蹂躙し続けたのだった。
(2013.8.31)
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