同居一夜目

「少し早いけど」
  そう言って声をかけてきたかと思うと綱吉は、獄寺の背中からぎゅっと抱きついてくる。
「じゅ……十だ、ぃ……」
  耳たぶをペロリと舐めあげられ、獄寺は咄嗟に首を竦めた。
  綱吉に触れられるのは嫌ではない。嫌ではないが、恥ずかしい気持ちがいまだに大きく、こんなふうにいきなり触れられると、ドキドキしてしまう。
「明日も忙しくなりそうだし、そろそろ休もうか」
  耳元で喋らないでほしいと獄寺は思う。
  みみたぶを、綱吉の吐息や唇が掠めていく。触れられた部分、吐息のかかった部分だけがカッと熱くなったような感じがして、困ってしまうのだ、本当に。
「そう……っス、ね」
  心臓が、ドキドキしてくる。
  今夜からは毎晩、綱吉と一緒のベッドで休むことになるのだと思うと、柄にもなく緊張してしまう。
  数えるほどでしかないけれど、綱吉とは何度かセックスをしている。一緒のベッドで朝まで過ごしたことだってあるというのに、こんなふうにドキドキするのはどうしてだろう。
  つきあってひと月と言えば、まだまだ蜜月に等しい期間だと以前、姉のビアンキが言っていた。ターゲットにされたのは、確か了平だっただろうか。あの時、了平はビアンキに散々横槍を入れられていた。つきあってひと月の彼女との仲をより親密なものにするために……などど言っては、二人の間を引っかき回すようなことをしていたのだ、あの姉は。
「あの、十代目。やっぱり一緒のベッドを使わないとダメっスか?」
  恥ずかしいのは、綱吉と一緒のベッドを使うからだ。
  昨夜、綱吉の言葉と雰囲気に乗せられて、ついうっかり獄寺は、綱吉と一緒に暮らしたいと本音を吐露してしまった。朝になったら綱吉はいつになく上機嫌で、引っ越し業者の手配などで忙しそうにしていたのだが、まさかこんなに素早くことを運ばれてたしまうだろうとは思ってもいなかった。
  午後には獄寺の荷物が綱吉の部屋に運び込まれており、二人の寝室にはいつの間に購入したのか、新しいダブルサイズのベッドが置かれていた。
「せっかく新しいベッドを買ったんだから、一緒に寝ようよ」
  それに、と綱吉は言葉を続けた。
「なんだか朝からバタバタしてて疲れたよ、今日は」
  ほぅっ、と息をつきながら綱吉は呟く。
「お疲れでしたら十代目、どうぞ先に休んでください」
  渡りに船とばかりに獄寺がすかさず声をかけると、腕を掴まれ、腰をがっちりとホールドされた。
「せっかくだから一緒に休もうよ、獄寺君」



  逃げようと思えば、逃げることは可能だ。
  獄寺が本気で嫌がっていることがわかると綱吉はたいていは、さっと引いてくれる。抱きしめる腕の力を緩めて、獄寺を解放してくれるのだ。
  だが、今日はいつもと少し違うことが獄寺にもわかった。
  同居初日ということで、お互い、どこか緊張しているのかもしれない。
  いや、そうではなくて……どちらかというと綱吉は、楽しんでいる。獄寺と二人きりの夜をどうやって過ごそうかと、あれやこれやと考えることに夢中になっているような感じがする。
  ちらちらと綱吉の様子を観察していると、不意に体ごと抱き上げられ、寝室へと連れ込まれた。いつもは非力なくせに、こういうことだけはやけに素早い。
「ちょ、十代目……」
  抵抗らしい抵抗もできないままにベッドに下ろされたかと思うと、すぐさま綱吉がのしかかってくる。
「重っ……」
  もぞもぞと体をずらそうとすると、チュ、と音を立てて唇が奪われる。
「ん、ん……」
  何度も唇を合わせているうちに、獄寺の体から抵抗が抜けていく。同居することになって嬉しいのは自分も同じだし、こういうことになるのを予想していなかったと言えば嘘になる。自分だって少しは期待していたのだから。
  獄寺の体から力が抜けたことで気をよくしたのか、綱吉がようやく顔をあげ、今度は獄寺の顔を覗き込んでくる。
「……やっぱり、嫌?」
  不安そうに眉間に難しそうな皺を寄せている綱吉を見ると、さしもの獄寺も嫌とは言えなくなってしまう。
「いいえ。嫌じゃないっス」
  しごく真面目な顔をして返すと、綱吉は小さく笑った。
「よかった。じゃあ……オレのお願い、きいてくれる?」
  獄寺の髪を弄びながら、綱吉が尋ねてくる。
  綱吉の頼みならなんだってきくつもりはあるが、こんなふうに前もって尋ねてくるあたり、なにかよからぬことを考えてるのではないだろうかと思ってしまう。
  うかがうように綱吉の顔を覗き込み、それから獄寺ははーっ、と息を吐き出す。
  結局のところ自分は、綱吉の頼みを聞き入れてしまうのだ。昔からそうだ。綱吉の言葉になら、盲目的に従ってきた。そういう部分を綱吉自身が嫌がっていたことを獄寺は知ってるが、それでも、綱吉の言うことならなんでも聞きたくなるのだ、獄寺は。
「……いい、ですよ」
  警戒しながら獄寺が頷くと、着ているものを脱ぐように綱吉は命令してきた。
「全部っスか?」
「そう。全部、脱いで」
「あの、灯りは……」
「このままで。獄寺君が脱ぐところ、見ていたいんだ」
  言われるがままに獄寺は、着ていたものを脱いでしまう。
  獄寺が裸になるのを待って綱吉も同じように、裸になる。
「オレ、今日はすごく疲れたから、獄寺君が上に乗ってくれる?」
  見ててあげるからと言われてようやく獄寺は、自分が綱吉の思い通りに動かされていることに思い当たった。
「あ……」
  しまった、と気づいたところで今さら遅かった。
  ベッドの上で仰向けに寝そべった綱吉は、じっと獄寺が動くのを待っている。
「上に……乗れば、いいんですか?」
  できるだけ事務的に尋ねると、綱吉の腹を跨ぐ。腹の上に座りこんでもいいものかどうかを尋ねようとちらりと綱吉の顔を見ると、大きな手がぐい、と獄寺の太股を掴んで引っ張った。
「もっとこっち、獄寺君」
  綱吉の言葉に獄寺は、躊躇いながらものろのろと膝立ちになって前進する。腹を過ぎ、胸のあたりまで進んでもまだ、綱吉はそれでいいとは言ってくれない。
  たまりかねて動きを止めると、太股を掴んだままだった手に力が入り、まだだと言うかのように引っ張ってくる。
「あの、十代目……」
「獄寺君の後ろ、見せてくれる?」
  そう言うが早いか、太股を掴んでいた綱吉の手がさっと離れ、獄寺の尻を鷲掴みにした。



  節くれ立った指が、獄寺の尻を揉みしだく。
「じゅっ……あのっ……」
  尻を掴む手に力が入り、獄寺は自然と膝でじりじりと綱吉の顔の上まで移動させられてしまった。
  下から見られているのだと思うと、恥ずかしくてたまらない気持ちになる。自分ですら目にしたことのない部分を、綱吉のねっとりとした視線が、凝視しているのを感じる。
「あのっ……あんまり見ないでください、十代目」
  片手で自分の性器を隠してしまうと、少しは恥ずかしさも薄れるような気がする。が、次の瞬間、獄寺は太股から尻にかけての筋肉がヒクリとなるのを感じた。
「あ、やっ……」
  クニ、と綱吉の指が、獄寺の後孔に触れてきたのだ。
  指の腹で窄まった部分をマッサージするようにやわやわと触れられ、獄寺の腰がわずかに揺れる。
「腰、揺れちゃってるね」
  そう言うと綱吉は、後孔をなぞりながら獄寺の太股に唇を這わせてくる。最初は啄むように、それから舌を這わせたり、肌に軽く前歯を立てたりされると、獄寺の手の中の性器が硬く張り詰めてくるのが感じられた。
「前ももう硬くなってるんだろ、獄寺君」
  やめてくださいと言いかけて、獄寺は唇をぎり、と噛みしめた。取り繕ったところで綱吉にはすぐにバレてしまうことだ。後ろをヒクヒクさせて、前を硬くして……綱吉には見えないだろうからと、竿の先っちょのほうを自分でそろそろと擦っているのだから、綱吉に何を言われても仕方がない。
「後ろ、舐めてあげるからもう少し腰おろして?」
  平然とした顔で綱吉は命令するばかりで、ずるい。自分は、ちょっと綱吉に見られたり触れられたりしただけで、もうぐずぐずに体が溶けそうなほど熱くなっているというのに。
「……はい」
  返事をして腰をおろすと、すぐに綱吉の舌が獄寺の後孔に押し当てられた。なまあたたかいものがザリザリと窄まりをなぞる。襞の隙間を舌の先でつつかれると、獄寺の腰は跳ねそうになる。
「んっ、ん……」
  腰が揺れると、獄寺の手の中の性器がさらに硬くなる。手のひらに先端を押しつけると、先走りが滲んでヌルリと指先を掠めていく。
「獄寺君、自分一人で気持ちよくなってちゃダメだろ」
  顔を離して綱吉は、指先をやんわりと獄寺の後孔に突き立てた。指の第一関節のあたりまでが後孔に潜り込み、内壁をぐりぐりと擦ってくる。
「あっ、や……ぁ」
  きゅう、と尻の筋肉に力を入れると、綱吉がフッと小さく笑うのが感じられた。吐息が太股に触れるその感触だけで、獄寺の性器が張り詰めて、新たな先走りを滲ませる。
「もう、挿れる?」
  尋ねられ、獄寺はコクコクと頷いた。
  自分の恥ずかしい場所が綱吉の目に晒されているのだと思うと、言いようのない羞恥心が襲ってくる。
  カクカクと震える太股を綱吉に支えられ、獄寺はゆっくりと膝立ちのまま移動した。最初にこのあたりだろうかと跨った腹のあたりまできたところで、綱吉が上体を起こした。
「もっと気持ちよくしてあげるからね」
  言うが早いか綱吉は、獄寺の体を反転させた。
  あまりにも素早すぎて獄寺には、何が起こったのかわからなかった。ベッドの上で四つん這いにさせられたかと思うと、抵抗する間もなく綱吉に貫かれていた。舐めてもらったとは言え、獄寺の体が綱吉を受け入れるだけの準備はまだできていない。引きつれるような痛みに、獄寺は喉の奥で低く呻いた。
「……ごめんね、獄寺君」
  のしかかってきた綱吉が耳元で囁き、それからまた獄寺の体がフワリと浮き上がる。
  貫かれたまま今度は背面座位の姿勢を取らされ、膝の裏を掴まれた。
「ああ……っ!」
  ズブズブと埋め込まれた綱吉の楔が、獄寺の自重でさらに深く沈んでいく。
「っ……く、ん」
  足を大きく開かされ、ゆさゆさと体を揺さぶられる。
「や、め……」
  言いかけた獄寺の手に、綱吉の手が重なる。
「自分で触って。上手にイケるところ、見せて」
  いつもより意地の悪い言い方に、獄寺はゾクリと背筋を震わせた。困惑と、それから密かな期待とが入り混じった感情に、どんな表情をすればいいのかわからなくなってしまう。
「できるよね、獄寺君」
  こんなふうに断定されてしまうと、そうせざるを得なくなってしまう。
  そろそろと手を伸ばして自分の竿を掴む。硬くなった先端から溢れた先走りを手のひらに馴染ませるようにして亀頭をなぞる。その手の動きに合わせるようにして綱吉が腰を揺らしてくる。
「っ、ふ……」
  穿たれた部分が熱くて、むず痒いような感じがして、たまらない。もっと動いて欲しいと獄寺は思う。もっと強く、奥のほうを擦って欲しい。
  そうして……中に、綱吉の熱いものを注ぎ込んで欲しい。
「すごいね、獄寺君。いつもよりキツくて熱いよ、中」
「ぃ……言わ、ないで……くだ、さ……」
  ゆるゆると腰を揺さぶられ、獄寺は足をピン、と伸ばした。シーツに触れた足の先にまで痺れるような感覚が走り抜け、全身の筋肉を硬くする。広げた足がカクカクとなって、首や耳たぶに触れる綱吉の吐息が湿っぽく感じられてくる。
  はあっ、と息を吐き出すタイミングを読み取ったのか、綱吉の腰が下から獄寺を突き上げてくる。
「も、ゃ……」
  手の中の竿を強く擦り上げると、獄寺の瞼の裏でチカチカと光が走った。
「あ、あ……」
  イく、と呟いて獄寺は、自らの手の中に精を放った。と、同時に尻の筋肉がきゅっと締まり、中に潜り込んだ綱吉の性器が膨張するのが感じられた。
「……っ」
  綱吉が低い呻き声を洩らし、獄寺の中にドロリとしたものが広がっていく。内壁が濡れる感触がして、結合部からトロリと溢れてくる。
  甘えるように綱吉にもたれかかりながら獄寺は、大きく息をついた。
「もっと……いっぱい、ください」
  掠れた声で囁くと、綱吉の腕がぎゅう、と獄寺の体を抱きしめてきた。



(2013.12.3)



BACK