チュ、チュと湿った音がしている。
獄寺はきつく閉じていた目をうっすらと開けると、自分の上にのしかかる男の様子を観察した。
平らな胸を唇で啄む綱吉の表情は、真剣そのものだ。きつく吸い上げたかと思うと舌先で胸の尖りを押し潰され、そのたびに獄寺はこみ上げてくる声をこらえなければならない。
唇を噛みしめ、綱吉から顔を逸らすと獄寺は、握りしめた拳を口元へと持っていく。
少しは声を押し殺す役に立つだろうか。手の甲に歯を立てていると、察しのいい恋人は素早く獄寺の手を取って、頭の上で一纏めにしてしまう。
「じゅっ……」
「噛まないの」
メッ、と軽く睨まれたかと思うと、どこにあったのか、バスローブの紐で獄寺の腕を縛り上げ、ベッドのヘッドボードに括りつけてしまった。
「気持ちいいなら、ちゃんと声出してよ、獄寺君。オレ、獄寺君の声聞くの、楽しみなんだから」
チュ、と唇の端にキスを落とされ、獄寺は伏し目がちに頷く。
恥ずかしいのは、自分が抱かれる側だからだ。裸になって綱吉に体を開くと、それだけで何もかも全てを見透かされているような気になってくる。好きな人に抱かれるというのは、こんなにも恐いものなのだということを獄寺は、二十歳を過ぎた今になって初めて知った。
一緒に暮らすということは、相手のいいところも悪いところも見えてくる。裏を返せば自分のいいところも悪いところも相手に見えてしまうということで、だから獄寺は、綱吉に自分の悪いところが見えているのではないかと不安になってしまうのだ。
「じゃあ、頑張って声出してもらわないとね」
嬉しそうに告げる綱吉に、頑張らなくていいですと返すとまたやんわりと睨みつけられる。
それから綱吉は、ゆっくりと獄寺の胸に顔を伏せてきた。さっきの続きだ。胸を舐めたり舌先でつついたりする合間に、もう片方の乳首を指でこねくり回される。ピリピリとした痺れるような感覚がして、獄寺の体のそこここに快楽の火が灯りだす。
「ぁ……」
ぬるぬると舌が肌の上を這い回る。唾液を絡めた乳首に綱吉の吐息がかかると、それすらも気持ちよくて、獄寺は思わず体を捩った。
「気持ちいいんだね」
優しく尋ねられると、居たたまれない。恥ずかしくて顔を背けると、綱吉は微かに笑ってまた顔を伏せる。今度はゆっくりと舌で肌をなぞりおりていくことにしたのか、みぞおちから臍のあたりを一気に舌が這う。触れるか触れないかのタッチで臍の脇を舐められると、下腹部に熱が集まっていく。こそばゆいような、気持ちいいような、もどかしい感覚に自ら片膝を立てると、足の間に綱吉の体を招き入れる。
「じゅ……ぅ……」
上擦った声は、明らかに綱吉を誘っている。媚びたような自分の声色を、綱吉はどう思って聞いているのだろう。
「ここも、舐める?」
三角形の繁みを指でくしゃりと乱されて、獄寺は大きく息を喘がせた。
「や……」
ダメです、と言いかけて、しかしそれよりも早く綱吉の唇が獄寺の太股に触れていた。
大きく割り開いた太股の内側に舌を這わせながら、綱吉の手は獄寺の陰毛を撫でている。性器には触れてくれないことがもどかしくて腰を揺らすと、綱吉は声も立てずに笑った。
太股に触れる吐息が、熱くて、気持ちいい。
喉の奥でくぐもった喘ぎを獄寺が洩らすと、綱吉は太股の付け根に唇を押しつけていく。 ピチャリ、と音を立てて舐められた。
獄寺の欲望をわざと煽るように、焦らしながら舌が肌の上を這い回る。
「ん、ぁ……」
ゾクゾクとするような感触が獄寺の背筋を駆け抜ける。何度も、何度も。
後孔の縁に綱吉の吐息がかかり、窄まった部分がヒクヒクと収縮する。綱吉が見ているのだど思うと、恥ずかしくてたまらなかった。
「あ……」
ここも、舐められるのだろうか。
胸を執拗に舐められたように、ここも……綱吉の舌が這い回り、襞の縁をつつき回すのだろうか。
「獄寺君、すごくいやらしい顔してるよ、今」
不意に綱吉が言った。
ハッとして上体を起こそうとしたが、縛られた腕が邪魔をして起き上がることができない。
「……言わないでください、十代目」
自分はきっと、すごく情けない顔をしているはずだと獄寺は思った。
綱吉に嫌われたくない。みっともなく愛撫をせがむようなことをして、綱吉に軽蔑されたらどうしよう。そんな思いが獄寺の頭の中をグルグルと回り出す。
「でも、本当のことだよ」
そう言うと綱吉はサイドボードの引き出しの中からジェルを取り出した。手のひらに零したジェルを獄寺の後孔に塗りつけ、少しずつ窄まった部分を解していく。
「……ん」
声を出すのは嫌だ。腕に顔を押しつけようとしてももう、遮られることはない。今度は綱吉も見逃してくれるらしい。
そのかわり、後孔に潜り込んだ指がグチュグチュと淫らな音を立てているのが聞こえてくる。
「あ、ぁ……」
指で内部を掻き混ぜられると、獄寺の腰が揺れた。ジェルが立てる水音が恥ずかしくてならない。
身を捩って綱吉の指から逃れようとすると、足を掴まれた。両足とも綱吉の肩にかけられ、腰の下に綱吉の膝が潜り込んでくると、獄寺の後孔が露わになった。じっと見られているのだと思うと、それだけで獄寺の体温がじわりと上昇する。
綱吉の目の前にさらけ出された部分に、熱い塊が押し当てられた。
「もっと声出してよ、獄寺君」
ぐい、と綱吉の性器が獄寺の中に埋められた。
「ヒッ……ぅ……」
指で慣らされたものの、まだ硬さの残る部分に押し込まれた性器が、獄寺の内部を圧迫する。
ズッ、ズッ、と押し込まれ、性急に突き上げてくる感覚に獄寺は目眩を覚えた。
結合がいつもより深いような気がして、逃げたくても逃げられない。
乱暴に腰を突き上げられ、獄寺の体もベッドの上で大きく跳ねた。
綱吉のほうへと手を伸ばしたいと思ったが、ヘッドボードに固定された腕はビクともしない。
「ゃ……」
恋人の体を力いっぱい抱きしめたかった。汗と、熱い吐息をもっと間近で感じたかった。 「じゅ……だ……」
綱吉が獄寺の腰を掴んで突き上げると、結合がいっそう深くなった。
ガツ、と腰骨の当たる音が聞こえるような気がした。
ひとしきり綱吉のいいように体を揺さぶられ、獄寺はイッた。
白濁を獄寺は、自分自身の腹の上に飛び散らせた。綱吉は嬉しそうにそれを指で掬って引き延ばしている。乳首にもつけられた。ヌルリとした精液を乳首に塗り込められ、獄寺は尖った部分をさらに硬く凝らせる。
「まだ、したい?」
獄寺の中に竿を納めたまま、からかうようにやんわりと、綱吉が腰を揺らす。
「も、やめ……」
中にたっぷりと注ぎ込まれたのはつい今しがたのことだ。
綱吉自身だってわかっているはずなのに、今夜はなかなか離そうとしてくれない。
「腕、離してください、十代目」
括りつけられた腕が痛かった。
柔らかな生地だから皮膚が擦れたりすることはなかったが、ヘッドボードに括りつけられたままで腕が痺れてしまっていた。それに、これではいつまでたっても恋人を抱きしめることができない。 それとも綱吉は、獄寺に抱きしめられたくないのだろうか。
「あ、ごめん。縛られた獄寺君があんまりにもいやらしく見えたから……」
言いながら綱吉は、また腰をぐいぐいと押しつけてくる。
精を放ってもなお硬度を保ったままの綱吉のペニスが、ぐりぐりと獄寺の中を擦り上げてくる。
「じゅっ……っ、ぁ」
咄嗟に唇を噛みしめて声を堪える。
「だめだよ、獄寺君。声、ちゃんと出して」
言うが早いか綱吉は、獄寺の中から自身を引きずり出す。グチュッ、と音がして、獄寺の後孔がヒクヒクと収縮する。
「やっ……」
尻に力を入れようとしている隙に綱吉は、獄寺の体をひっくり返して四つん這いにさせた。
「ごめん、もう一回」
そう言うと綱吉は、獄寺の中に自身を突き立てた。ジュプッ、と卑猥な水音が立つ。
後ろから激しく突き上げられ、獄寺はいつの間にかヘッドボードにしがみついていた。腰を掴む綱吉の手が熱かった。
「あ……っ、あ……」
抉るように中を突き上げられ、獄寺の口からひっきりなしら嬌声が上がる。
口の端からたらりと涎が零れ落ちていく。
硬く尖った乳首をてのひらで転がされ、もう一方の手で前を扱かれた。
何度も何度も突き上げられ、中を擦り上げられ、獄寺の頭の中が一瞬、真っ白になった。 気持ちがよすぎて、ヘッドボードに掴まったまま自分から腰を振った。綱吉の動きにあわせて腰を突き出すと、内壁をぐり、と擦り上げられる。途中から意識が途切れ途切れに飛んでいるような感じがして、自分でも何をしているのかわからなくなってくる。
「じゅ……ぅ……」
ぐい、とひときわ大きく中を突き上げられると同時に、獄寺の中が熱い迸りでいっぱいに満たされていく。
「あっ、ぁ……」
中がひくついて、まだ精を放っている最中の綱吉の竿をぎりぎりと締めつけながら獄寺もイッた。
前も後ろも精液でドロドロになっていく。
綱吉の精液と、自分の精液とでベタベタになってしまった自分の下肢へと獄寺は目を馳せた。
「……すごいよ、獄寺君。中から溢れてきてる」
上擦った声で背後の綱吉が感心したように呟いた。
綱吉が竿を引き抜こうとすると、結合部から放たれたものがトロリと溢れてくる。太股を伝うなまあたたかい感触に、獄寺はまた後孔に力を入れた。
「獄寺君……今日はもうおしまいだよ」
そう言って綱吉は、ズルズルと竿を引き抜いてしまう。
ジュプッ、と泡立つような音がした。
「あ……」
見ないでほしかった。浅ましい姿だと自分でもわかっている。だが、綱吉に見られていると思うことで、いっそう気持ちよく感じるのもまた事実だった。
戸惑うように獄寺が腰を揺らすと、綱吉は小さく溜息をつき、改めて竿を突き入れてくる。
今度は最初から容赦のないピストン運動を繰り返し、獄寺の体を激しく揺さぶり続けるだけのものだった。
それでも気持ちいいと思うのは、自分が淫乱すぎるからだろうか。
綱吉の熱をみたび体の中に感じながら獄寺は、意識を手放した。
ぼんやりとかげっていく獄寺の翡翠の瞳に最後に映ったのは、淡い笑みを口元に浮かべた綱吉の満足そうな表情だった。
「──愛してる」
綱吉がそう囁いたような気がして、獄寺も途切れていく意識の中で微笑み返したような気がするが、実際のところはどうだったのかは、よく覚えていない。
(2013.12.14)
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