綱吉の部屋に移ってきてまだ三日しか過ぎていない。
それなのに獄寺は、日ごとに自分が綱吉の体を求めずにはいられなくなっていっていることを実感している。
こんなはずではなかった。
綱吉とのセックスが目的で同居を決心したわけではなかったはずだ。
それなのに体が疼いて仕方がないのはどうしてだろう。
リビングのソファに腰掛けた獄寺は、はあ、と溜息をつく。
シャワーを浴びてさっぱりとした獄寺の髪からは、ポタポタと水滴が落ちるほど湿っている。いつもならさっさとドライヤーをあてて乾かしてしまうのだが、今日はそんな気分にはなれない。
綱吉との同居を決心した時も半ばなし崩しに決心させられたようなものだったが、その時のモヤモヤとした感じが今になって獄寺を苛んでいた。
軽率だったと思わずにはいられない。あの時、どうして自分は綱吉の言葉に同意してしまったのだろうか。
嫌なわけではない。
綱吉と一緒に過ごすことができるのだからそれはそれで嬉しいのだが、どうしても自分はこの状況に慣れることができないでいる。
「……どうしたものかな」
ポソリと呟いて、また溜息をつく。
シャワーを浴びてさっぱりした獄寺と入れ替わりに綱吉はバスルームに消えていったから、もうしばらくは戻ってこないだろうが、そう長くはかからないはずだ。
空になったビールの缶をくしゃりと握りつぶすと、ソファの背もたれに背を預け、目を瞑る。 ただ嬉しいだけだと思っていた同居だが、実はそうではなかった。
なんと言うか、獄寺が思っていたようなものとは少し違っていただけだ。
ガツガツとしたセックスを自分のほうから求めているような今の生活なら、続ければ続けるほど綱吉に負担がかかっていくのではないだろうかと心配になってくる。自分の淫乱さを綱吉に押しつけてしまっているのではないだろうかと、不安になってしまうのだ。
テーブルの上に放り出してあった煙草の箱を手に取ろうとして、しかし獄寺は気が変わったのか、はあ、と溜息と共にその手を引っ込める。
ここは、綱吉の家だ。自分はあくまで同居させてもらっている立場だから、家具に煙草のにおいをつけるわけにはいかないだろう。
禁煙だ、禁煙──口の中でそう呟いて獄寺は、不機嫌そうに目を閉じる。
綱吉と同居を始めて距離は近づいたものの、なんだか他人行儀になってしまったような感じがする。別々に暮らしていた時よりも互いの精神的な距離が遠くなってしまったような気がして、少し寂しい。
目を閉じたまま、もうひとつ溜息をつく。
遠くでドアの開閉する音が聞こえる。綱吉が風呂から上がったのだろう。
それでも獄寺は目を開ける気にはなれなくて、じっと目を閉じたままでいたのだった。
「獄寺君、もしかして疲れてる?」
近づいてきた綱吉が、不意に声をかけてくる。
「あー……」
咄嗟になんと言えばいいのか、獄寺にはわからなかった。
口の中でボソボソと呟いていると、パジャマ姿の綱吉がソファに腰を下ろしてくる。獄寺の隣にごく自然に座ると、冷蔵庫から取ってきたミネラルウォーターをゴクゴクと喉を鳴らして飲み干していく。
綱吉の喉仏が上下して、口の端から零れた水が、たらりと顎を伝い落ちていく。
色っぽくて、たまらない。
獄寺はそっと手を伸ばすと、綱吉のパジャマの襟元に触れた。
「零れてますよ、十代目」
そう言ってパジャマの内側に手を侵入させると、直に綱吉の肌に触れてみる。
シャワーを使ったせいでしっとりと湿った肌は熱くて、ほんのりとボディソープの香りがしている。
「今日は、ここでする?」
綱吉の顔が近づいてきて、獄寺の耳たぶをそっと甘噛みする。
「っ……」
寝室以外の場所で抱き合ったことは、まだない。
躊躇いつつも綱吉の目を覗き込むと、恋人は期待に満ちた眼差しでじっと獄寺を見つめ返してくる。
「……十代目が、お望みでしたら」
綱吉に求められるのは嫌ではない。むしろ求められることを獄寺は嬉しく思っている。ただ、ここがリビングなのだということに戸惑いを感じているだけだ。
「じゃあ……」
と、綱吉はソファに横になった。
「今日は獄寺君が、してくれる?」
肘掛けに頭をもたせかけた綱吉は、獄寺の手を取って自分の股間へと導いた。
「ぁ……硬くなってますね、十代目」
パジャマの上から触れた綱吉の股間は、わずかに硬くなりかけていた。竿にそって手を這わせ、二度、三度と手を動かすと、綱吉の性器はあっと言う間に硬さを増していく。
「舐めてほしいな」
自分は、綱吉の言葉に逆らうことはできない。恋人の求めに応じるべく獄寺は、綱吉の足の間に体を潜り込ませると、下着ごとパジャマの下衣をずり下ろした。勃起したペニスを目の前にして獄寺は、口の中に唾が沸き上がってくるのを感じた。舐めたい。舐めてしゃぶって、口の中で綱吉の迸りを受け止めたい。口の中の唾液をゴクリと嚥下すると獄寺は、目の前の性器に手を添えた。先端にそっと唇を押しつけ、じわじわと口腔内へと招き入れる。
ちゅくっ、と音を立てて亀頭を吸い上げると、綱吉が喉の奥でくぐもった声をあげた。
「……気持ちいいっスか?」
おそるおそる声をかけると、綱吉は熱っぽい眼差しで獄寺を見つめ返してくる。
「もっと、して?」
髪を撫でられ、頬に指を這わされて、獄寺は頷くかわりに目の前の性器をまた口に含んだ。
ちゅぱっ、ちゅぱっ、と音を立てながら先端を舐めしゃぶり、先走りが滲んでくるのを待つ。時々、竿に回した手をスライドさせて扱いてみると、綱吉の性器はいっそう硬さを増し、先端に青臭い先走りを滲ませる。
このまま口の中に欲しいような気もしたが、それよりもやはり、中に欲しいと獄寺は思った。
「ん、ぅ……」
ジュルッ、と音を立てて竿を吸い上げてから唇を離すと、綱吉は満足そうに獄寺を見つめている。
「美味しい?」
綱吉の榛色の瞳が、探るように獄寺の目を覗き込んでくる。
「……美味しいっス」
正直にこたえると、綱吉の手が獄寺の頬を撫でた。
その手を取ると獄寺は、指先にくちづける。
「獄寺君、ここに」
綱吉は指先を獄寺の指に絡め、そっと自分のほうへと引き寄せる。獄寺はゆっくりと膝立ちになり、綱吉の太股に跨った。ソファのスプリングが小さく軋む音が聞こえて、獄寺は恥ずかしくて目を伏せた。
「上に、乗って?」
強要されているわけではない。だが、綱吉の言葉には強制力がある。甘い鎖に囚われてしまったような感じがして、獄寺は吐息を吐き出した。
それから綱吉のペニスを手で支えると、時間をかけて腰を下ろしていった。
獄寺は、後孔に押し当てたものをじわじわと飲み込んでいく。
綱吉の性器は既に硬くなり、先走りを滲ませていた。獄寺が口の中でたっぷりと唾液を含ませて舐めしゃぶったこともあって、すんなりと窄まりの奥へと飲み込まれていく。
「……っ」
ズッ、と体の奥を穿つ質量に、獄寺は体を震わせる。
下から綱吉に見られているのだと思うと、獄寺の体はいっそう熱くなる。
「十代目……」
片手を掴まれたまま、獄寺は腰をゆるゆると揺らす。
綱吉の竿が獄寺の中を擦り上げ、圧迫する。エラの張った部分が内壁を擦るたびに獄寺の中にいくつもの快感がこみ上げてくる。
「十代目も、動いてください」
掠れる声で懇願すると、綱吉は微かに笑って獄寺の腰を揺さぶってくる。強弱をつけて揺さぶられると、獄寺の背中はしなり、後ろへ倒れ込みそうになる。
「あっ……ぁ……」
狭いソファの中で密着しているから余計に、動きが制限される。それがもどかしくて、逆に興奮してしまうのだろうか。
挿入したまま獄寺が体の向きをずらすと、綱吉が片膝を立てた。もう片方はソファからずり落ちかけている。
「獄寺君が動いてるとこ、後ろから見たいな」
言いながら綱吉は、膝を立てたほうの足をソファの背もたれにひっかける。
体の向きを変えた獄寺は、やや前傾の姿勢をとると綱吉の片足を両腕で抱え込んだ。そのまま抱えた足に密着すると、綱吉の太股に獄寺の玉袋やペニスを押しつけることになる。腰を動かしながら獄寺は、綱吉の太股に自分の股間を強く押しつけていく。
「あぁ……」
気持ちよかった。
綱吉の手が獄寺の腰や胸を撫でるのに合わせて腰を揺らすと、そのたびごとに結合が深くなるような感じがする。
ソファの上でなければもっと自由に動けるのにと、獄寺はもどかしげに腰を揺らす。
「もっと……」
荒い息をつきながら獄寺は口走った。
「もっと、十代目……」
奥を突き上げる綱吉の力強さに、獄寺の尻の筋肉がきゅう、と締まる。
綱吉の太股に押しつけ、なすりつける獄寺の性器の先端からは、先走りがとめどなく溢れてくる。
「も……イく……!」
綱吉の足にしがみついて、獄寺はイった。
息を荒げたままふと下腹を見おろすと、獄寺の放ったものが綱吉の太股にべったりとついていた。
(2013.12.31)
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