同居四夜目

「それじゃあおやすみ、獄寺君」
  そう告げると綱吉は、さっさとベッドに入ってしまう。
  今夜もまた綱吉に抱かれるのかと思っていた獄寺は肩透かしをくらったような気がして、一瞬、反応が遅れてしまった。
  少し……期待、していたのだ。
  それなのに綱吉ときたら、今夜は獄寺に触れもしないで寝てしまうつもりらしい。
  キスさえもせずに。
  獄寺は眉間に小さな皺を寄せると、そっと息を吐き出した。
  いくら恋人同士とは言え、四六時中いっしょにいたら疲れる時だってあるだろう。同居を始めたばかりで盛り上がっていた綱吉の頭も、今日になってようやく冷えてきたのかもしれない。
  いや、それよりも、だ。
  もしかしたら飽きられてしまったのだろうか、自分は。
  美人は三日で飽きると言うし、もしかしたらそういうことなのだろうか、これは。
  自分は男だから美人でもなんでもないが、それでもやはり、綱吉の気持ちが自分から離れていくのではないかと不安に思えてくる。
  どうしたらいいだろう。
  どうしたら、綱吉の気持ちを自分に繋ぎ止めておくことができるだろう。
「獄寺君、寝ないの?」
  声をかけられ、獄寺はハッと我に返った。
「あ……すんません、十代目。ぼんやりしてました」
  そう返すと獄寺は、のろのろとベッドに潜り込む。
  綱吉の隣で横になると、肩口が軽くぶつかる。しばらくもぞもぞとしていた獄寺だったが、綱吉にセックスをする気がなさそうなのを感じ取ると、諦めて目を閉じるしか他はなかった。



  真夜中に目が覚めると、どこかしら物足りない感じがした。
  ごそごそと寝返りを打つものの、獄寺の目はいっそう冴えていく。
  物足りない。このままでは、体に熱が溜まっていくばかりだ。
「十代目……」
  十代目が抱いてくれないからですと小さくなじると獄寺は、ケットの中に潜り込む。
  布団の中は息苦しかったが、綱吉の腰のあたりに手を添えて、下着ごとパジャマ下をずり下ろした。
  手で太股や股間をなぞると、陰毛の中でくたりとなった綱吉のペニスに指先が触れた。
  獄寺は、口の中に溜まった唾を飲み込むと、綱吉のペニスを口に含んだ。
  ちゅる、と音を立てて竿ごと吸い上げると、わずかに硬さを増す。舌を這わせ、唾液を絡め、吸い上げたり先端の割れ目を舌先でつついたりしているうちに、ムクリと大きくなってくる。本人は眠っていても、こんなふうに体は反応するのだと思うと、嬉しくなってくる。
「んっ、ん……」
  音を立てて綱吉の竿を必死になって舐めしゃぶっていると、いつしかケットが捲れ上がってくしゃくしゃになっていた。邪魔だとばかりに獄寺はケットをベッドの端に投げ出すと、またしても綱吉の性器にむしゃぶりついていく。
  おいしかった。
  硬くなった先端にじわりと滲む先走りの青臭い味も、自分の唾液をたっぷりと絡めた竿も、コリコリとする玉袋も、どこもかしこもおいしく感じられる。
「ふ……んっ」
  両手で竿を扱きながら、先端をチロチロと舐め上げると、尿道口から新たな先走りが溢れてくる。
「じゅっ……十代、目……」
  綱吉のものを舐めているうちに、獄寺の股間に熱が集まってくる。いつもより熱くて、痺れるようなジンジンとした感じがする。
  不意に、綱吉の手が獄寺の手首を掴んだ。
「獄寺君……ナニやってんの?」
  戸惑いを含んだ綱吉の声に、獄寺はハッと息を飲んだ。
  今の自分は、浅ましいことこの上ない。綱吉がぐっすりと眠っているのをいいことに、彼の股の間に体を割り込ませ、夢中になってフェラチオをしていた。自分のしでかしたことが恥ずかしくてたまらない。
「あのっ……これ、は……」
  なんと言えばいいのだろう、こういう時は。
  慌てて顔を上げたものの、獄寺の口の中はカラカラに乾いてしまって言葉が出てこない。
「そんなにセックスしたかったんだ、獄寺君」
  いやらしい、と綱吉が小さく吐き出した言葉が、獄寺の胸に針のように突き刺さる。
  何も言い返すことができずに獄寺がじっとしていると、綱吉は手首を掴んだ手に力を入れた。獄寺の体がぐい、と引き寄せられ、綱吉の腹の上に乗り上げる。
「ちょっ、十代目……!」
「あ……獄寺君、勃ってる」
  思いもよらず綱吉の腹に自分の性器を押しつけた体勢を取らされた獄寺は、居たたまれない気持ちになった。いつの間にか自分が勃起していたことを綱吉から指摘されるだなんて。
  綱吉の手が、咎めるように獄寺の腰骨をやんわりと撫でた。
「っ……あ」
  咄嗟に声が出て、獄寺はいっそう恥ずかしい思いをする。
「せっかく獄寺君がフェラしてくれたんだから、オレもお返ししなきゃね」
  そう言うと綱吉は、獄寺の体をシーツに押しつけた。
「舐めてあげるから、獄寺君もオレの、舐めて?」
  言うが早いか綱吉は獄寺の上で四つん這いになる。ぽってりとした唇が、獄寺のペニスに触れ、焦らすようにしてじわりじわりと口の中に飲み込まれていく。
「あ、あ……っ」
  喉の奥に先端がつきそうになるほど深く銜えられたかと思うと、クチュ、と湿った音を立てて綱吉は、竿を口の端で扱きだす。口の中の粘膜に包まれた獄寺の竿はあっと言う間に硬さを増し、気持ちよくなっていく。体を捩りつつ獄寺は、綱吉の竿に手を伸ばし、唇で触れてみた。
「ん、ぁ……む」
  自分も同じようにクチュクチュと湿った音を立てながら綱吉のペニスを舐める。全身が気持ちよくて体がどうにかなってしまいそうだ。
「じゅ、ぅ……」
  舌先で綱吉の亀頭をべろんべろんと舐め回すと、獄寺の口の回りが涎でべっとりとなった。それでも構わずに獄寺は、綱吉の竿を夢中で舐めた。
「獄寺君、その舌の動き、いやらしいよ」
  綱吉の声が聞こえた。
  恥ずかしいことにかわりはなかったが、獄寺の理性はもうグダグダになってしまっていた。綱吉の精液を口の中に出して欲しくて、必死になって先端を舐め回す。
「がっつきすぎだよ、獄寺君」
  やんわりと窘められたかと思うと、綱吉の指先が尻の窄まりを押し開くようにして潜り込んでくる。
「んふっ……あ……」
  ゾクリ、と獄寺の背中を快感が駆け抜ける。
  先走りがトロリと溢れると、綱吉が待ってましたとばかりに獄寺の竿を吸い上げる。
「や、ん……んっ!」
  爪先をシーツに押しつけ、ぐっと腹に力を入れて堪えていると、綱吉が指を引き抜き、離れていく。
「ぁ……十代目?」
  してくれないんですかと、喉元まで言葉が出かかりそうになって、獄寺は慌てて唇を噛みしめた。これ以上の浅ましい姿は、みっともなくて見せられない。
「薄暗くて獄寺君の顔が見えないのは嫌だな」
  溜息をつきながら綱吉は小さく呟き、ベッドの上にゴロリと寝そべった。



「サイドボードの灯り、つけてくれる?」
  綱吉に頼まれ、獄寺は素直に身を起こしてサイドボードの灯りをつけた。薄暗い光ではあったが、急に明るくなったことで一瞬、獄寺は眩しくて目を閉じる。
「このまま見ててあげるから、上に乗って?」
  そう、綱吉は言った。
  甘くて苦い綱吉の言葉に、獄寺は眉を潜めた。
「上に……乗るんスか? 俺が?」
  仰向けになった綱吉は、楽しそうに瞳を煌めかせて獄寺を見つめている。
「そうだよ。煽ったのは獄寺君だからね、責任取ってもらわなきゃ」
  恥ずかしいという思いと、綱吉の上に乗って気持ちよくなりたいという思いが、獄寺の中で交差する。淫乱だと軽蔑されないだろうか。男に跨って腰を振る淫乱だと、そんなふうに綱吉は思わないだろうか。
「ほら。おいで、獄寺君」
  綱吉は獄寺のほうへと手を差し伸べてきた。
  吸い込まれるように綱吉のほうへと獄寺は、手を伸ばす。指先がぶつかりあったかと思うと、綱吉の手に掴まれていた。くい、と軽く力を入れて引かれると、それだけで獄寺は綱吉の言う通りにしようという気になってしまう。
  獄寺はそろそろと綱吉の腹の上に跨った。後ろ手に綱吉の竿を掴むと、ゆっくりと腰を下ろしていく。
「ゆっくりでいいよ」
  綱吉の手が、獄寺の太股や脇腹に触れ、やわやわと撫でさすってくる。
「……は、ぁ」
  獄寺の股の間で勃起したペニスがふるりと揺れる。
「触らなくてもイけそうだよね」
  そう言った綱吉の視線は、獄寺の股間に釘付けになっている。あんまり見つめないでほしい。見られているのだと思うとそれだけで獄寺の性器は硬く膨れて先走りを滲ませる。おまけに、後ろに飲み込んだ綱吉のエラの張った部分が内壁を擦り上げてきて、たまらなく気持ちいい。
「ダ、メ……」
  触らないでくださいと懇願すると、綱吉の手はいたずらに獄寺の太股のきわどいところをなぞってくる。
「や……」
  腰を上げるとズプッ、と音がした。恥ずかしく思いながらも腰を下ろすと、今度はクチュッと音が立つ。
「もっと動いてよ、獄寺君」
  太股の内側をなぞり上げ、陰毛を指先に絡めた綱吉の声が誘っている。
「やっ、も……」
  綱吉の胸にペタリともたれかかっていくと獄寺は、腰だけを動かした。互いの腹の間に挟まれた性器が擦られ、先走りでドロドロになっていく。
「ダメ……十代目、も、イきたっ……!」
  しがみついて尻の筋肉に力を入れると、中に飲み込んだ綱吉の性器がぶわりと膨れあがるのが感じられた。
「あっ、あ……!」
  ビクン、と獄寺の体が大きく震え、腹の間に白濁が飛び散る。と、ほぼ同時に腹の中に綱吉の迸りを感じ、獄寺は何度か体を震わせ、中に出されたものを搾り取るように内壁を収縮させた。



  繋がったままでしばらくの間、二人はじっとしていた。
  そのうちに綱吉の性器が力をなくし、くたりとなって獄寺の中から抜け出ていく。
「あ……」
  ヒクン、と震えた獄寺の後孔から、トロリと綱吉の放ったものが伝い落ちてくる。
  その感触に獄寺は、いつになく大きな満足と幸せを感じた。



(2014.1.31)



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