同居五夜目

  帰宅してドアを開けた向こうには、タオル一枚で腰のあたりを覆っただけの綱吉が立っていた。
  まだ濡れたままの髪からはポタポタと雫がしたたっていて、風呂から上がったばかりだからだろうか、今夜の綱吉はいつも以上に色っぽく見える。
「た……ただいま帰りました、十代目」
  綱吉の裸なんて見慣れているはずなのに、やけにドキドキするのはどうしてだろう。
「おかえり、獄寺君」
  素知らぬふりで綱吉は返してくれる。
「残業、大変だったね」
  言いながら綱吉は、獄寺のほうへと近づいてくる。
「はい……あ、いえ、そんな大変じゃなかったんスけど……」
  もごもごと口の中で言い訳を並べながらも獄寺は、ジリジリと後退する。何となく気まずいような感じがしてならないのは、どうしてだろう。
「ほら、早く靴脱いで」
  そう言うと綱吉は、獄寺の手を取った。強い力でぐい、と手を引かれ、獄寺は玄関先に靴を脱ぎ散らかしたまま、部屋に上がる。
  自分の部屋でもあるというのに、綱吉の格好が獄寺を居心地の悪い思いをさせている。
  正直なところ、目のやり場に困ってしまうのだ。綱吉にしてみれば気にならないのかもしれないが、獄寺のほうはそうはいかない。好きな相手の裸に興味はあるが、まじまじと凝視するのは憚られる。かといって知らん顔をすることもできず、獄寺は意識して綱吉のほうを見ないようにした。
「──……獄寺君?」
  不意に肩を掴まれ、獄寺の体が大きく震えた。綱吉のことを意識するあまり、ボーっとしていたらしい。
「獄寺君、どうかした?」
「はっ……はいっ、十代目!」
  反射的に返事をしたものの、声が裏返ってしまった。これでは、綱吉のことを意識していることがはっきりとわかってしまうだろう。
「……もしかして、疲れてる?」
  顔を覗き込まれ、またしても獄寺は反射的に首を横に振ってしまう。
「いえ、疲れてなんて……」
  そう言いかけると、ホッしたように綱吉が笑った。
「じゃあ、今ここで抱いても大丈夫だよね」



  背後から抱きしめてくる綱吉の吐息は熱かった。
「ごめんね、獄寺君」
  耳元でポソリと囁かれると、それだけで獄寺の産毛がぞわりと総毛立つ。
「……っ」
  ベルトを外され、スラックスの中からシャツを引きずり出されたと思ったら、綱吉の手が下着の中に潜り込んできた。
  いつになくがっついているように思えるのは、どうしてだろう。
「……十代目?」
  ピタリと密着した腰にあたっているのは、綱吉の高ぶりだ。布越しにも硬くなっているのがはっきりと感じられる。
「ごめんね。今、余裕ないんだ」
  苦しそうな綱吉の呟きに、やんわりとではあるものの抵抗しようとしていた獄寺の手が止まる。
「何かあったんスか?」
「……聞かないでくれるかな」
  チュ、と音を立てて首の後ろを吸い上げられた。痛いほどきつく吸われて、獄寺の背筋がゾクゾクとする。痛いのに、気持ちがいい。
  その間にも綱吉の手は獄寺の下着を手際よく引きずり下ろし、後孔に触れてくる。たいして慣らしもせずに、窄まった部分へ綱吉の性器が押し当てられた。
「じゅ、ぅ……」
  後ろ手に綱吉の手を取ると、了承の印と受け取ったのか、綱吉の腰が押し進められる。綱吉の手が獄寺の太股を掴み、じわじわと膝裏を掬い上げてくる。穿たれたものがズルリと挿入され、獄寺の体が痛みとその向こう側の快感を期待して、ブルリと震える。喘ぎ声を洩らすと、獄寺の口の端から涎がたらりと零れ落ちた。
「ぁ、あ……」
「気持ちいい?」
  尋ねられ、コクコクと獄寺は頷く。
  玄関にあがってすぐの廊下で散々、後ろから綱吉に突き上げられた。
  初めは痛みのほうが大きかったものの、いつしか快感に支配され、獄寺の性器は硬く勃起していた。先端からたらたらと先走りを滴らせると、綱吉の手が意地悪く触れてくる。
  壁に手をつき、尻を綱吉のほうへと突き出すと、中を大きく穿たれる。
  壁や廊下にドロリとした白濁を飛び散らして、獄寺はイッた。



  後孔を穿っていたものを綱吉が引き抜くと、獄寺の体はしがみついた壁づたいにズルズルと崩れ落ち、廊下に座り込んでしまった。
「足も腰も立たなくなっちゃった?」
  獄寺の前に跪いて綱吉が尋ねてくる。
「……すんません、十代目」
  綱吉の目を見て、獄寺は降参ですとばかりに弱々しく笑った。
「じゃあ、寝室まで運んであげる」
  獄寺の体を横抱きに抱き上げると綱吉は、危なげもなく寝室へと向かう。今夜の綱吉は本当に、いったいどうしたのだろう。綱吉の胸にもたれかかりながら獄寺はこっそりと思った。
  こんなふうに強引なところもたまにはいい。だが、どこか自棄になっているように思えないでもない。自分がいない間に、もしくは自分の知らないところで、もしかしたら何かあったのかもしれない。
「十代目、あの……」
  言いかけた獄寺の体を綱吉は、やや乱暴にベッドの上に放り出した。
「大人しくしててね」
  そう告げるなり綱吉は、あらかじめ用意していたのだろう、ベッドの下からごそごそと荒縄を取り出してきた。
「暴れないで。痛くないように縛ってあげるから」
  綱吉の手が獄寺の足を掴みぐい、と胸につきそうなほどきつく折り曲げてくる。
  躊躇いつつも獄寺が大人しくしていると、綱吉は満足そうに唇を合わせてきた。チュ、チュ、と唇をやんわりと啄んでは、素早く太股を縛り上げた。
「痛い?」
  尋ねられ、獄寺は首を横に振った。
  荒縄が皮膚に食い込んで、擦れるとヒリヒリしたが、今のところ痛くはない。ただ少し、不自由なだけだ。
「じゃあ……こっちも」
  と、綱吉の手が、今度は獄寺の手首を一纏めにして縛り上げてしまう。
「あの、十代目……?」
  どうしてこんなことを、と尋ねたかった。だが、今の綱吉には尋ねることも憚られるような何かいつもとは異なるオーラが漂っていて、獄寺には尋ねることができなかった。
「濡れてるから、大丈夫だよね」
  先ほどの挿入でわずかに緩んだ後孔に、綱吉は強引に押し入ってくる。
「いっ、ぁ……」
  太股と腕を縛る荒縄が、獄寺の皮膚に食い込んで痛痒い。
「すぐに好くしてあげるから」
  掠れた声で囁くと綱吉は、獄寺の腰を激しく突き上げた。ズッ、ズッ、と熱の塊が獄寺の後孔を穿ち、中を掻き混ぜる。痛みと快感と、荒い息。綱吉の額に浮き上がった汗が獄寺の肌にポタリと滴り落ちた。
「あ……あ、あ……」
  縛られているのに、気持ちよかった。いつもより気持ちいい。あられもない声を上げると、獄寺の後孔がきゅうっ、と締まる。綱吉の突き上げがさらに激しくなる。
「っ……イく……」
  たらりと見えた自分自身の性器は硬く張り詰めて、ヌルヌルとした先走りで濡れている。
  自由になる足の先を丸めて全身の筋肉で綱吉を締めつけると、奥深い部分をズン、と大きく擦り上げられる。あと、もう少し……二回か、三回か。大きく深く突き上げられたら、獄寺は呆気なく達してしまうだろう。
「イき、た……」
  掠れる声で懇願すると、綱吉はふと腰の動きを止めて、獄寺の中から自身を引きずり出してしまう。
「ぁ……?」
  身じろいだ獄寺が綱吉に視線を向けると、腹のあたりに精液がかけられた。
  ドロッとした白濁の感触に、獄寺も少し遅れて達した。
  二人分の精液が自分の腹の上で混ざり合う心地よさに、獄寺は満足そうに喘ぎを洩らす。



「ドロドロになっちゃったね」
  クスリと笑いながら綱吉は、指先で獄寺の腹に飛び散った精液を混ぜ合わせる。
「ほら、こんなに濃いよ」
  そう言うと獄寺の口元に、二人分の精液でヌルヌルになった指先を押しつけてくる。
「ん……」
  ペロリ、とその指を舐めると、青臭い精液の味がした。綱吉のものか、自分のものか、獄寺にはよくわからない。どちらの精液も混ざっているから、獄寺にしてみれば別にどうでもいいような気がする。
「もっと……もっとください、十代目」
  ちゃんと中に、と言いかけた獄寺の太股を縛っていた荒縄が、シュルリと解かれる。
「欲張りだね、獄寺君は」
  綱吉の手が、獄寺の上体を引き起こした。
  ベッドの上に座った綱吉に向かい合ったまま、獄寺はその上に膝立ちでにじり寄っていく。
  手首を縛る縄は、まだ解いてもらっていない。それでもなんとか綱吉の太股に跨る。
「中に欲しいんだ?」
  思わせぶりに尋ねながらも、綱吉の指は獄寺の後孔に触れてくる。
「ココに……オレのが欲しい?」
  耳たぶに吐息を吹きかけられ、獄寺は首をすぼめながらも頷いた。
「欲しっ……十代目のが、中に欲しいっス……」
  中に。ドロドロに汚して欲しい。溢れるほどたっぷりと綱吉の精液を注がれたい。そうねだるると、綱吉は婉然と笑ってキスをしてくる。
「了解」
  短く返すとすぐさま獄寺の後孔に、綱吉の性器が突き立てられた。今しがた達したばかりだというのに、硬く天を向いているそれは先ほどよりも質感があった。ズブズブと中に押し込まれ、半ば無理矢理に飲み込まされた。
「っ、く……」
  縛られた腕が不自由で、仕方なく獄寺は、その腕で綱吉の首にしがみついていく。
  綱吉の手が獄寺の両足を自分の腕に引っかけるようにして掬い上げたかと思うと、体を大きく揺さぶられた。獄寺の奥深いところを、綱吉のペニスの先端が時に擦り上げ、時に突き上げ、引き抜かれていく。
「や……っ」
  膝に力を入れて綱吉の腕に縋りつこうとすると、獄寺の体が落とされる。
  ズッ、ズッ、とリズミカルな揺さぶりに、獄寺の唇からはひっきりなしに嬌声が洩れた。
「も、イきそう?」
  確かめるように綱吉が聞いてくる。
  何度も何度も内壁を擦り上げられ、突き上げられて、獄寺は息も絶え絶えに頷いた。
「イき……イき、た……!」
  勃起した獄寺の性器が、綱吉の腹になすりつけられる。グリ、と綱吉が獄寺の中を穿った瞬間、互いの腹の間で擦られていた獄寺の性器が白濁を放った。胸のあたりまで飛び散った精液に、綱吉が満足そうな笑みを浮かべる。
  ついで、獄寺の中がドロリとした精液で満たされる。
  綱吉もほぼ同時にイッたのだと思うと、獄寺は嬉しくてならない。
  二人ともに満足そうな吐息を吐き出すと、そのまま体をピタリと合わせてしばらくの間、じっと抱き合っていた。



(2014.3.22)



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