肩で息をしていた獄寺の呼吸が整ってくると、背中に回されていた綱吉の腕がそろそろと離れていく。
体から離れていく綱吉のぬくもりを寂しく思っていると、腕を取られた。
先ほどから荒縄で縛られたままだった手首がようやく自由になる。
「痛かっただろ、ごめんね」
縄が擦れて赤くなった手首に唇をそっと押し当て、綱吉が謝罪の言葉を口にする。
「大丈夫です」
獄寺がそう返すと、少しムッとしたような表情を綱吉はした。
「大丈夫なわけないだろ。こんなに真っ赤になって。太股だって……」
と、こちらも荒縄が擦れて赤くなった太股を、綱吉の指がつーっ、となぞる。
「……っっ」
途端に獄寺の体がビクン、と跳ねる。
「なに、まだ足りないの?」
顔を覗き込まれて、獄寺は咄嗟に明後日の方向を向いた。今の自分がどんな表情をしているか、鏡を見なくてもわかるような気がした。
「シャワー浴びようか。二人ともドロドロだしね」
獄寺の態度に気づかないふりをしているのか、綱吉はさっとベッドから降り立つ。行為の最初のほうですっかり腰が抜けてしまった獄寺の体を抱き上げると、無言でバスルームへと足を向ける。
恥ずかしかった。
こんなふうに女のように抱き上げられて、綱吉に世話をされるのが悔しくてならない。自分だって男だ。体格でも、体力でも、一般の成人男性としては並か、それ以上のものを供えていると思う。でも、だからこそ、綱吉にはこんなふうに丁寧に扱ってほしくなかった。
「自分で……」
気まずいながらも何とか声を出すと、綱吉は微かに笑う。
「後でね。今は、オレに運ばせて?」
納得いかないとばかりに唇を噛みしめ、それでも獄寺は大人しく綱吉に運ばれることにした。
部屋を出る時にちらりと時計に視線を向けると、ちょうど日付がかわろうとしているところだった。
バスルームの床に下ろされると、獄寺は綱吉にしがみついたままシャワーを浴びた。
そうでなければ、立っていることすらできなかったのだ。
腰がガクガクして、今も尻の中に何かが入っているような感じが残っている。
「中のものを掻き出してあげるから、壁に手をついて」
やんわりと、しかし明らかな命令口調で告げられて獄寺は戸惑いながらも壁に手をついた。
シャワーの湯が足下からゆっくりと腰のほうへと上がってくる。
「……っ」
ビクン、と獄寺の体が揺れる。
綱吉の手が尻に触れたかと思うと、するりと窄まった部分に触れてきた。
「あの……十代目、やっぱり俺、自分で……」
言いかけたところで獄寺は、ビク、と大きく体を揺らした。
綱吉の指が、襞を掻き分け中へ潜り込んできたのだ。
節くれ立った指が内壁をなぞり、奥に触れてくる。
「ぁ……」
獄寺の奥に留まったままの残滓をグチュグチュと掻き混ぜられると、それだけで恥ずかしくてたまらなくなる。獄寺としては、頭を下げてじっと壁に掴まっていることしかできない。
「もうちょっと足、開いてくれる?」
淡々と事務的に綱吉が告げる。
獄寺はじりじりと足を開き、震えながら綱吉のほうへとさらに尻を突き出した。
中に潜り込んだ指は、二本に増やされていた。精を掻き出すためにくい、と鉤状に指を折り曲げて中を引っ掻かれる。獄寺の腰がビクビクと跳ねて、前のほうに熱が集まってくる。
「っ……く」
ブルッと大きく体を震わせると、知らず知らずのうちに綱吉の指を締めつけていたらしい。ぐい、と内壁を大きく広げられ、奥のほうから残滓が伝い下りてくるのが感じられた。
「あ、ひっ……」
思わず洩らした声が聞こえたのか、綱吉はシャワーを止めた。
中に潜り込んでいた指が抜かれて、獄寺はホッと息をついた。
「痛かった?」
尋ねながらも綱吉は、獄寺の後孔をじっと凝視している。舐めるようにねっとりとした視線を感じて獄寺は、足を閉じようとした。
「ほら、中から出てきたから、もうちょっと踏ん張って」
もういちど二本の指で襞のふちを広げた綱吉は、顔を近づけ、空いていたほうの手で窄まりに指をねじ込んだ。中指か、薬指か……襞の中心に突き入れられた指が、グチグチと湿った音を立てながら、中の残滓を掻き出そうとしている。
「あ、あ……もう、やめて……抜いてください、十代目」
壁に縋りついた手も、足も、ブルブルと震えてこれ以上は力が入りそうにない。
半泣きになって獄寺が訴えると、綱吉は立ち上がって震える体を自分のほうへとクルリと向き直らせた。
「オレにしがみついていればいいから」
耳元にそう囁くと綱吉は、またもや獄寺の中に指を突き立ててくる。
執拗なぐらいに中を引っ掻かれた。もう何もないから、残っていないからと泣いてぐずっても綱吉はしつこく獄寺の中をまさぐった。
そのうちに、自分の太股にあたる獄寺の性器の状態に気がついたのか、意地の悪い動きで中を擦り上げ始めた。
「も、綺麗になりましたから……だから、指を抜いてください」
お願いですからと獄寺が言うのに、綱吉は止めてくれようとしない。それどころか太股で獄寺の硬くなり始めたものに触れてくる始末だ。このままでは綱吉のいいように流されてしまう。獄寺がわずかに抵抗を示すと、綱吉の指がズルリと後孔から引き抜かれた。
「んっ……」
衝撃にふらついた体を綱吉が支え直してくれたように思えたものの、すぐにそれは間違いだったことに獄寺は気づいた。
腰を支えていた手が素早く獄寺の尻をなぞり、太股を這い下りた。向かい合ったままの格好でぐい、と片足を持ち上げられたかと思うと、綱吉の勃起したペニスが獄寺の後孔を一息に貫いてくる。 「ひっ……あ、あ……!」
先ほどまで中を掻き混ぜられていたからか、綱吉の竿に穿たれても痛みはなかった。だが、まさかこの状態で犯されることになるだろうとは思ってもいなかった。
「じゅ…っ……」
嫌だとも、やめてくれとも口にすることもできないままに獄寺は、綱吉のいいように体の中を突き上げられる。
下から緩慢に突き上げてくる綱吉の竿は、熱かった。寝室であれだけ放ったのに、まだ硬く張り詰めていることが信じられない。もっとも、自分の性器だってさっきから高ぶっているから、綱吉ばかりを責めることはできないのだが。
獄寺は、綱吉にしがみついたまま体を揺さぶられ続けた。
綱吉の竿が内壁を擦りながらズルズルと引き抜かれていく。
ぐったりとした状態で獄寺は、体の中ではなく、太股にかかる熱い精を感じていた。尻から太股にかけて、ドロリとした感触に覆われていのを感じると同時に獄寺も達していた。
「──…ひどいです、十代目」
そう言って綱吉を睨みつけると、彼は悪びれもせずに笑い返してくる。
「でも、獄寺君だって気持ちよかっただろ?」
ストレートに言われてしまうと、獄寺には返す言葉が見つからない。
あー、とかうー、とか口の中でもごもごと言っていると、今度は浴槽の淵に腰かけた綱吉の膝の上に座らされた。
「このまま、もう一回、シよ?」
耳元で囁かれ、まだするのかと獄寺はげんなりした。
だが、体のほうはそうでもないらしい。白濁にまみれた自身の性器を綱吉の手で包まれると、それだけでまたしても新たな熱が集まり出す。
肩口にかかる吐息と、腰に押しつけられる硬い高ぶりとに、獄寺の尻がもぞもぞと揺れる。
「このまま、自分で挿れてごらん」
チュ、と首筋にくちづけられた。何度か首の皮膚を甘噛みされたかと思うと、不意にきつく吸い上げられる。
「んっ……ん、ぁ……」
背を逸らすと、乳首をきゅっと抓られた。摘み上げられ、こねくり回され、乳首の奥のほうからジンジンとした疼痛がこみ上げてくる。
「早く」
再度、綱吉に促されて獄寺は、そろそろと腰を持ち上げた。
太股に跨った状態で尻をわずかにうかせると、後ろ手に綱吉の性器を探った。先走りでぬめる先端を自らの窄まりに押し当てると、ゆっくりと中へ飲み込んでいく。
「ぅ……あ、く……」
硬く、そして熱い綱吉の高ぶりに、つい体が強張りそうになる。
自らの重さで奥深いところまで綱吉を飲み込んでしまうと、獄寺ははぁ、と大きな溜息をついた。
「まだ、休んじゃ駄目だよ、獄寺君」
そう言って綱吉は、獄寺の膝に手をかけた。そのまま足を大きく左右に広げられる。綱吉の手を拒もうとすると、前を向くように命じられた。
綱吉の言葉に渋々従った獄寺は、顔を前に向けた。
二人の正面の壁には、姿見が嵌め込まれていた。ところどころ湯気で曇っているのがいやらしく見えて、獄寺は咄嗟に目を背けかける。
「ほら、前を見て」
羞恥に満ちた獄寺の瞳の色を知っているくせに、それでも綱吉は命令する。
鏡の中の青年は、浅ましくも欲にまみれた淫蕩な表情をしていた。後孔に綱吉の性器をいっぱいいっぱいに含んだ獄寺は、大きく足を広げてじっと鏡の中の自分を見つめている。
「……あ、ぁ」
上擦った声が喉の奥から出た。
「ココ、すごく気持ちよさそうにしてるね」
言いながら綱吉は、獄寺の窄まりを指でなぞった。襞をカリ、と指で引っ掻くと、竿にそって指を中に潜り込ませようとする。
「ひっ、ん……」
逃げ出したいと獄寺は思った。
獄寺が腰を浮かせかけると、綱吉の手が膝を掴んできた。ぐい、と開いたままの足を持ち上げられ、浴槽の淵に足の裏を乗せられた。股を大きく開脚したままで、両足とも浴槽の淵に足をかけて……なんて卑猥な格好をさせられているのだろう、自分は。
それでも獄寺は、綱吉に命じられれば黙って従ってしまう自分を嫌というほど理解していた。
「腰、動かしてみて」
鏡越しに目を見つめられ、獄寺は素直に腰を動かした。ゆっくりと、捻るように腰を回すと、綱吉の竿が中を大きく擦った。抉るように内壁を圧迫しながら、グリグリと獄寺の中を擦り上げてくる。
「ん、は……っ」
だらしなく口を半開きにして腰を揺らした。
勃起した獄寺の性器は腹につきそうなほど大きく反り返り、先端からダラダラと先走りを滴らせている。
綱吉の手が獄寺の腰を支え、動きをよりいっそう淫靡なものにさせている。
こんなふうに淫らな格好をしながらも自分は、気持ちいいと思っている。もっともっと、綱吉の手で気持ちよくして欲しいと心の底では切望している。
「……イきたい?」
不意に尋ねられ、獄寺は素直に頷いていた。
「じゃあ、そのまま足をこっちに……」
綱吉の胸にもたれた込んだ獄寺の足が、大きな手に掴まれた。浴槽の淵からようやく片方だけでも足を外してもらえたのだとホッとしていると、反対側の足も掴まれ、そのまま体の向きを変えるようにと言われた。
「無理……です。できません」
泣きが入りそうになった獄寺の足を掴んだまま、綱吉が「ほら、大丈夫だから」と体の向きを変えさせようとしてくる。
「ぁあ……」
中に綱吉のものをおさめたまま体の向きをかえるだなんて、無理だ。
それでも鏡越しにこちらを見据える綱吉の眼差しは厳しく、獄寺はやはり自分が渋々ながらも言うことを聞いてしまうのだと観念せざるを得なかった。
綱吉に掴まれた足について体をゆっくりと動かした。獄寺の中で、綱吉の竿がグリグリと内壁を擦っていく。
「ん……やっ……」
体の向きを変えた勢いで、綱吉の膝からずり落ちそうになる。恋人の片膝に何とか乗り上げ、落ちないように肩口にしっかりとしがみついた瞬間、ヒク、と獄寺の後孔が収縮する。
「ん、ん……っ!」
ビクビクと震えながら獄寺は、綱吉の腹に白濁をぶちまけていた。
(2014.8.14)
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