その日、もう随分といい時間になってから綱吉の執務室に呼び出された。
昼間、獄寺が提出した報告について、確かめたいことがあるからすぐに来てほしいと言われたのだ。ちょうど獄寺が帰る間際のことだった。
書類仕事は元々、苦手ではない。了平や山本はしょっちゅう何かしらやらかしていたが、獄寺が呼び出しを受けるのは滅多なことではない。
どこか抜けてでもいただろうかと考えながら、獄寺は執務室に入る。
灯りのついた執務室には、綱吉しかいなかった。
当然だろう。時間はそろそろ九時になろうかという時刻だ。部下の大半はとっくに帰宅しているし、残っている者たちにしても警備担当の者がほとんどだ。事務方を中心とする非戦闘員がこんな時間まで残っているわけがないし、綱吉の執務室にいるはずもない。
「何かありましたか」
ドアを開けると同時に獄寺は尋ねかけた。
綱吉と同居を始めてから獄寺は、他人の目がある場所ではできるだけ接触を控えるようにしている。常に一定の距離を保ち、こちらからは不用意に近づかないようにしている。
そうしなければ、家にいる時と同じように、綱吉に接してしまいそうな瞬間があった。
綱吉と恋人同士だということに負い目を持っているわけではなかったが、知っている人間は多くない方がいいだろう。むしろ知らせずにすむなら、そのほうがいいに決まっている。
「この報告書なんだけどね、獄寺君」
言いながら綱吉は、くい、くい、と手招きをする。
仕方なく獄寺はドアを閉め、綱吉のそばへと近寄っていく。
執務机をぐるりと回った獄寺は、綱吉の斜め後ろに立った。
「どこでしょう」
わざと堅苦しい言葉遣いをすると獄寺は、綱吉の差し出してくる書類に目を這わせた。昼間、自分が提出したばかりの報告書だ。一言一句とは言い難いが、内容はほぼ頭の中に入っている。
夢中になって報告書を眺めていると、不意にさわ、と尻を撫でられた。
「十代目」
やんわりと上司を睨みつけると、綱吉は悪びれた様子もなく、ニコニコと笑っていた。
「たまには場所を変えてみるのもいい刺激になるかもよ?」
普段の綱吉なら口にしないのではないかと思われるような言葉を吐き出したかと思うと、ぐい、と腰を引き寄せられた。
気がつくと獄寺は、綱吉の膝の上に座り込んでいた。
腰を引かれた途端に大きくよろけて、体勢を立て直そうとしたところを強引に掴まえられてしまったのだ。
「……ビアンキがさ、オフィスでするのも恋人同士のイベントのひとつだから、って言ってたよ」
耳元に綱吉が息を吹きかけてくる。
「あ、姉貴のやつ……」
言いかけたものの、綱吉の腕にしっかりと抱えられているせいで、獄寺は立ち上がることができない。
「このまましてみない?」
甘く低く、綱吉が囁きかける。
もしやこれは、よく耳にする、オフィスラブとかいうやつだろうか。昼間、事務方の女性陣が騒いでいた。残業中に席を外したら、一緒に残業をしていた誰と誰がいい雰囲気になっていて……だとか、帰り際に給湯室の隅でキスをしていただとか、そういったくだらない話がしょっちゅう聞こえてくるのだ。
あの噂話の発端は、もしやビアンキなのだろうかと頭の中でグルグルと考えているうちに、獄寺のベルトがカチャカチャと音を立てて外された。スラックスの前を広げられ、下着の中に綱吉の手が潜り込んでくる。
「じゅっ……十代目!」
体を捩り、綱吉の手から逃れようとすると、首筋に唇を押しつけられた。
「大丈夫。警備担当以外はもう、誰もいないから」
性急に求められることが嫌なわけではない。ただ、場所を考えてほしかったのだ。
職場で、いつ、誰が入ってくるとも知れない綱吉の執務室で、こんなことを始めたくはなかった。ドアに鍵がかかっていないのも気にかかる。
「……帰ってからじゃ、駄目っスか?」
振り返り、上目遣いに尋ねると、チュ、と唇の端にキスをされた。
「ダメ。オレは今、ここでしたい」
言いながらも綱吉の手は、すでに獄寺の性器を扱き始めている。力無く項垂れていたものに手を添えて、こねくり回されると、あっと言う間に獄寺の性器は張り詰めていく。
「でも、鍵が……」
「気にすることなんてないよ。誰も来ないんだから」
そう言って綱吉は、もう一方の手をシャツの下の肌に這わせた。するりと脇腹をなぞられると、獄寺の体がビクン、と震える。喉の奥でくぐもった声を漏らした途端に、クスッと小さく笑われた。 「ほらね。獄寺君だって、ソノ気になってる」
いつもの綱吉らしくないが、恋人に求められれば嬉しいのもまた事実だ。抵抗することを諦めた獄寺は、綱吉の手に体を委ねることにした。
スラックスと下着を剥ぎ取られ、床に落とされた。
綱吉はまだスーツを着たままだ。
「十代目は脱がないんですか?」
首を傾げて尋ねると、「後でね」と返された。
かわりに獄寺が、一旦膝の上から下りると綱吉のベルトを外し、スラックスの前を広げた。綱吉の足の間に跪いて下着の中から性器を取り出すと、ペニスは既に硬く張り詰めていた。少しだけ舐めて濡らしてから、獄寺はその上にコンドームを被せた。その上から、ねっとりと舌を使って竿に唾液を絡めていく。
それからもう一度、獄寺は綱吉の膝の上に座り直した。綱吉の胸に背を預けて、ゆっくりと腰を下ろしていく。
このところ毎晩のように抱かれているからだろうか、無茶さえしなければ痛みを感じることもほとんどなくなってきている。窄まった部分に綱吉の性器の先端を宛い、意識して体の力を抜く。そうするとそれだけで先端は、難なく獄寺の中に飲み込まれていく。
「ん……ふ」
全て飲み込んでしまうと獄寺は、浅く短く呼吸をして、恋人の竿が体に馴染むのを待った。
肘掛けが邪魔だったが、気になるほどでもない。密着した感じが余計にそそられる。
「服、脱がしてあげようか」
獄寺の呼吸が整ってきたところで、綱吉が声をかけてきた。ネクタイを緩め、シャツのボタンを外し……それでもまだ、綱吉自身は服を着たままだ。
「ズルいです、十代目」
そう言って獄寺は、体を捩った。
自分はシャツとネクタイだけの格好をしているのに対して、綱吉は前を広げただけなのだ。不公平だと言わんばかりに唇を尖らせると、シュルリとネクタイが外されそうになる。
「十代目も脱ぎましょう」
拗ねたような口調でそう告げると、足を掴まれた。
「こっち向いて、獄寺君。もっと気持ちよくしてあげるから」
ぐい、と足を持ち上げられ、獄寺は昨夜のことを思い出す。
昨夜も、足を掴まれて体の向きを変えさせられた。あの時は中に潜り込んだものがぐりぐりと内壁を抉るような感じがして、たまらなく気持ちよかった。
「ダメです」
意識して足に力を入れると、中に穿たれた綱吉の竿を締めつけてしまった。これでは逆効果だ。それなのに、中を締めつけたまま綱吉のほうへと体の向きをかえさせられた。
「ん……っ」
鼻にかかった声をあげ、トサと綱吉の胸にもたれかかると、綱吉は笑っていた。
「すごい締めつけてきてる。離れたくないって、言ってるみたいだね」
熱っぽく囁かれ、獄寺は頬を赤らめた。
そんなつもりはなかったのだ。獄寺にしてみれば、ただ、ささやかな抵抗を試みただけなのだ。
しばらく綱吉にしがみついていた獄寺だが、やはり自分だけがあられもない格好をしていることが気になって仕方がない。手始めに綱吉のネクタイを緩め、シャツのボタンをひとつ、ふたつ、と外し始める。
綱吉は気にするでもなく、首にかかった状態の獄寺のネクタイの端を取り、自分のネクタイの端と合わせてひとつにまとめた。もう片方の端も同じように括ると、ネクタイで作った輪が互いの首に回されたような状態になった。
「オレたち、ひとつになってるんだよ、獄寺君」
獄寺の頬に大きな手が触れてきた。綱吉は嬉しそうに微笑みながら獄寺にくちづけてくる。
「十代目?」
首を傾げて尋ねると、もういちど唇を吸われた。
チュ、と音がして、口の中に綱吉の舌が潜り込んでくる。
ここが職場で、綱吉の執務室だということも忘れてしまいそうなほど濃厚なキスをされ、獄寺は綱吉の背中に手をやり、しがみついた。
「ん……ん、ふ……っ」
体を離そうとすると、首に回された互いのネクタイがそれを阻んだ。
キスをされたままで獄寺の足がまたしても持ち上げられ、今度は綱吉の肩にかけるような格好をさせられた。
「じゅっ……ん、ぁ……」
下を綱吉の竿に穿たれたままで、両方の足が持ち上げられた。
足に力を入れると中の綱吉を締めつけることになる。腕に力を入れてしっかりと綱吉にしがみつくと、からかうように下から突き上げられる。
上体を逃がそうとするとまたしてもネクタイに阻まれた。
背筋がゾクゾクするのは、気持ちがいいからだ。
こんなみっともない格好をしているのに獄寺は、感じていた。
綱吉から逃げることはできないのだと思うと、体中が性感帯になってしまったかのように、どこに触れられても気持ちよかった。
今、この瞬間、自分は綱吉に縛られている。縛りつけられている。離れることはではきないのだ。
「じゅ……十代、目……」
口を半開きにして綱吉を呼ぶと、唇の端にキスされた。少しずつ唇が移動してくるのがもどかしい。待ちきれなくなって舌を差し出すと、綱吉の口の中に潜り込ませた。
「ぅ、く……」
ジュルッと音がして、口の端から垂れた唾液を綱吉が啜り取るのが感じられた。
「もっと……」
言いながら舌に乗せた唾液を差し出すと、舌ごときつく吸い上げられた。
「も……イかしてください……」
綱吉の背中を強く抱きしめる。
自ら体を揺らすと、あやすように下からユサユサと体を揺さぶられた。
硬く張り詰めた獄寺の性器は綱吉の腹に当たっていた。体を揺さぶられるたびに先端が綱吉の腹に擦れて、溢れ出た先走りをなすりつける。白く糸を引いて滴り落ちる先走りを指で掬い取ると綱吉は、それを獄寺の胸に塗りつけた。濡れた指先がクニュ、と乳首を押し潰してくる。芯の奥から痛みがこみ上げてきて獄寺は声をあげた。
「っ、あ……!」
嫌ですと言いかけると、唇を深く塞がれた。ねっとりと舌で口の中を蹂躙され、声が出ない。くぐもった声で抵抗しようとすると、尻を掴まれ、下から大きく揺さぶられた。
ヒッ、と獄寺の喉の奥が鳴った。
ズッ、ズッ、と後孔を掻き混ぜられた。
両足は綱吉の肩にかかったまま、自由が利かない。四肢を使ってしがみつくような格好をするしかない。そうするといっそう後孔が窄まって、綱吉の形をダイレクトに感じることになる。
張り詰めた綱吉の竿は硬くて、側面に浮き上がった筋の一本いっぽんまでもが獄寺の内側を刺激しているようだ。
「ん、ぅ……!」
汗で滑る手に力を入れると、唇の隙間で綱吉が小さく笑うのが感じられた。
「しっかり掴まって」
低く囁かれたかと思うと、突き上げがさらに激しくなる。
グチュグチュと下肢の間で湿った音がする。獄寺の先走りは今や竿を伝い、陰毛を濡らして後ろまでもベタベタにしていた。綱吉の竿が窄まった部分を出入りするたびに、滴りが淫猥な水音を立てている。
腹の底の熱が上昇していくような感じがして、獄寺は大きく息を吐いた。
「ひ、ぁ……ん、ん」
追い立てられるように突き上げられ、責められた。
太股の付け根が小刻みに震えて、後ろに食い締めた竿をきつく締めつけている。
「もっと……」
掠れた声で獄寺がねだった。
「もっと、強く突いてください」
甘い声をあげながら獄寺は、綱吉の腹に白濁を飛び散らした。
腹の中が綱吉でいっぱいいっぱいで、もう、何も考えられない。
「……もっと!」
ズン、と奥を突き上げられると同時に、中にヌルリとしたものが広がっていく。自分の中が綱吉の精液で満たされていくのだと思うと、嬉しくてたまらない。
ブルッと体を震わせてから獄寺は、綱吉にすがりついて唇をペロリと舐めた。
(2014.8.21)
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