水玉模様の欲望

「上手にできたらご褒美をあげるよ」
  ほんのりとからかいの色を含ませて綱吉は、獄寺を見下ろす。
  わずかに躊躇いながらも獄寺は、綱吉の命令通りに着ているものを床に脱ぎ捨て、下着だけの姿になった。水玉の柄が子どもっぽいということはわかっているが、綱吉がこの柄を気に入っているのだから仕方がない。朝、登校前に綱吉から、今夜はこの下着をつけて奉仕してほしいと言われた。男同士とは言え、実家の財政難を何とかするために獄寺は綱吉の元へ売られたようなものだ。綱吉の言葉は獄寺にとっては絶対で、自分が拒絶したり抵抗することはあり得ないと思いこんでいる節がある。
  綱吉の言いなりになって下着一枚の姿でベッドに上がると、髪をくしゃりと撫でられた。
「嫌だったら、嫌って言うんだぞ」
  まるで幼い子どもに言い聞かせるようなそのやり方に、獄寺はむすっと口元を尖らせた。
「大丈夫っス」
  挑むように綱吉の目を睨み返すと獄寺は、肩で大きく息を吸う。
  それから、一糸纏わぬ姿の綱吉の股間に顔を寄せた。
「苦しかったら途中でやめていいからね」
  しつこく綱吉が声をかけると、うるさいとばかりに無視された。
  最近、獄寺はようやく自己主張ができるようになってきた。そのやり方が少しばかり子どもっぽいということに本人は気づいていないのかもしれないが、綱吉からするとそれが可愛くて仕方がない。猫かわいがりしたくなる衝動をぐっと堪えると、自分の性器を片手で掴んで獄寺の鼻先へと突きつける。
「……じゃあ、舐めて」
  四つん這いになった獄寺の肌は白く、艶めかしい。痩せ気味ではあったが、ほどよく筋肉がついていて、将来が楽しみだ。
「失礼します」
  ボソボソと呟くと獄寺は、綱吉の性器に舌を這わせた。チュッ、と音を立てて先端を吸い上げると、まだくたりとして力のない性器を口の中に含む。
  唾液と舌とを竿に絡めながら頭をゆっくりと前後に動かしていく獄寺のそのやり方がぎこちなくて、見ていてたまらなく愛しく思えてくるから不思議だ。
「少しは上達したよね」
  獄寺のうなじのあたりから首のあたりを優しく撫でながら綱吉が呟いた。
  最初は、それはもうへたくそで、色気の欠片すらなかったのだ。それが、ここ一年ほどで随分と上達したものだと綱吉は思う。
「ん……そぅ……っスか?」
  綱吉の性器から口を離すと、獄寺の口元から唾液零れて糸を引いた。それを指の腹で拭ってやりながら綱吉は、眼差しで続きを催促する。
  今夜の綱吉は、水玉のトランクスを身に着けた獄寺を隅から隅まで可愛がるつもりでいる。朝からそのつもりで、ずっと夜になるのが待ち遠しくてたまらなかった。
「うん、上手になったよ」
  先端だけでなく、喉の奥まで含んで竿全体を舐めることもできるようになった。玉袋を唇でやんわりと噛んだり、フェラチオをしながら自分の性器を弄ることも覚えた。
  いくら家のためとは言え、同じ男相手によくここまでできるようになったものだと綱吉は感心してもいる。当初は、愛情なんてどうやったら感じることができるのか不安に思えた政略結婚だったが、自分にはこの結婚が合っていたのかもしれない。
  硬くなってきた綱吉の性器の側面を唇で甘噛みしながら獄寺は、竿の根本のほうへと顔をずらしていく。
  唾液でベトベトになった綱吉の性器を片手で獄寺がそっと握ると、さらに硬度が増す。張り詰めた性器の先端を指でくすぐるようにしてなぞると獄寺は、再び顔を上げた。
  ちらりと綱吉の目を覗き込んで、何か言いたそうにしている。
「上手にできたら、ご褒美だ」
  聞き分けのない部下に命令を下す時のように、ややきつい口調で綱吉がそう告げると獄寺は、ゴクリと口の中に溜まった唾を飲み込んだ。
  獄寺の、思い詰めたような、どこか怯えた眼差しがいい。
  どうするだろうと思って見ていると、獄寺はゆっくりと綱吉の性器に手をかけ、また口に含んでいく。今度は、さっきのように先端だけでなく、喉の奥に先端があたるほど深く飲み込んだ。
「苦しくない?」
  尋ねると、獄寺は視線を綱吉のほうへと向けてきた。何も言ってくれるなというような眼差しに、綱吉は口元にふっとやわらかな笑みを浮かべる。
  獄寺は綱吉の竿を口の中でじわじわと愛撫した。口いっぱいに含んでいるから、唇の端から涎がたらたらと零れてくる。そのうちに綱吉の性器が先走りを滲ませ始めると、獄寺は大胆に顔を前後に動かすようになった。時折、喉の奥に綱吉の先端があたる。角度によっては苦しいのか、えずきながらも綱吉の性器を口から離そうとしない。
  目尻にうっすらと浮かんだ涙がいじらしくて、愛しくて、綱吉はもっと獄寺に口での奉仕をしてほしいと願ってしまう。
  もっと可愛がりたいとすら、思ってしまう。



  獄寺の髪を鷲掴みにすると綱吉は、頭を前後に強く揺さぶった。
  あたたかな口の中で、歯や舌に性器が擦れて、気持ちいい。喉の奥を先端で突いてやると獄寺は何度もえずいた。涙と涎と、最後には鼻水までも垂らしながら獄寺は、綱吉の白濁が口の中に放たれるのを待った。
「ん、ぐ……っ」
  何度もえずきながら、それでも綱吉の白濁が口元から顔に飛び散ると、獄寺は嬉しそうにそれらを受け止めた。
「目、開けないで」
  枕元に用意してあったフェイスタオルで獄寺の顔を手際よく拭ってやる。
  あまり従順すぎるのも考え物だが、これはこれで可愛く思うのもまた事実で、綱吉はこっそりと小さな溜息をつく。
「さ、綺麗になった」
  綱吉が声をかけると、獄寺は恐る恐る目を開ける。前に顔にかかった時は、慌てたために白濁が目に入ってとんでもなく痛い思いをした。それをいまだに警戒しているのだろう。
「じゃあ次は、獄寺君が気持ちよくなる番だね」
  そう言うと綱吉は、獄寺のトランクスに手を伸ばした。
  布地の上から股間をやんわりと掴むと、獄寺のものは既に硬くなっていた。先走りが溢れて、布地がほんのりと湿り気を帯びている。
「オレのを舐めながら、気持ちよくなってたんだ」
  耳元でからかうように囁くと、獄寺は恥ずかしがって首筋のあたりから顔を真っ赤にする。
  布越しに獄寺の性器を撫でていると、湿っていた部分が染みになってくる。
「濡れてきたね」
  水玉の模様の中に、歪な丸い染みができる。綱吉はその部分を爪でガリガリと掻いてやった。
「ん……く……」
  ビク、と腰を揺らして獄寺が逃げを打とうとするのを綱吉は、腰に腕を回して引き留める。
「気持ちいいんだろ?」
  ほそっこい体をぎゅっと抱きしめてから綱吉は、獄寺を解放してやる。
  立て膝にして足を開かせると、トランクスの上から自分で自分のものを扱いてみせるように命令する。
「獄寺君がどんなふうに気持ちよくなるのか、見ててあげるよ」
  ここまでは、いつもと変わらない。これぐらいなら何度かやらせたことがあるから、恥ずかしがっていてもできるはずだ。
  さあ、と綱吉が促すと、獄寺は躊躇いながらも自らの股間に手を伸ばし、布の上からマスターベーションをし始めた。
  こんもりと盛り上がった布地の下で、獄寺の性器はいったいどんな様子をしているのだろう。綱吉は目を細めて、獄寺の手をじっと凝視する。
「ぁ、あ……」
  立て膝にした獄寺の足がカクカクと揺れている。子どもでも大人でもない、すらりとした足に綱吉は手を這わせた。
  足首を撫で、すねを指で辿って膝、太股とてのひらでなぞってやった。
  その間にも獄寺の股間はさらに張り詰めて、今やトランクスの色が濃くなった部分がはっきりとわかるほどになっている。
「すごいね。中、ドロドロなんじゃない?」
  もう一方の手で獄寺の手ごと性器を掴むと、ガシガシと扱いてやる。
「やっ……あ、っ……」
  カクカクと揺れる膝がシーツを蹴って、綱吉の太股にあたる。
「ほら、暴れない」
  獄寺の片足を掴むと綱吉は、トランクスをずりおろす。思った通り、下着の中は獄寺の先走りでドロドロになっていた。
「今日はこれ、はいたままでする?」
  獄寺の顔を覗き込むと、真っ赤になったまま、困ったようにではあったが綱吉の目を覗き込んでくる。綱吉がどの程度本気でいるのか、彼なりに探っているのだろう。
「……は、はいたまま、のほうが……いいんスか?」
  つっかえながら尋ねる顔が何とも恥ずかしそうな様子で、綱吉は小さく笑った。
「この水玉のパンツをはいた獄寺君が気持ちよくなるところが見たいな」
  言いながらも綱吉は、トランクスを少しだけ太股のほうへとずり下ろした。
「これならいいかな」
  呟き、獄寺の手を掴むと尻のほうへと持っていく。
「はい、触って。今日は自分で後ろを触って、気持ちよくなるところを見せてもらうよ」
  何でもないことのようにさらりと綱吉は告げる。
  ベッドの上で膝をついて半立ちの姿勢になった獄寺の背後に回ると綱吉は、腰に手を添えて支えてやる。
「さあ、やってみせて」
  やんわりとでも命令口調で告げると、獄寺は拒むことができない。おずおずと手を伸ばし、自分の後ろに指を這わせたところでまたしても綱吉のほうをちらりと見る。
「本当に……ですか?」
  まだ躊躇いが残っているのか、獄寺は困ったように綱吉を見つめてくる。自分で後ろに指を入れてしてみせることに、抵抗があるのだろう。
「うん、本当に。オレ、その水玉パンツ姿の獄寺君が気持ちよさそうにしているところが見たかったんだ」
  うんと乱れてくれればいい。自分で自分の尻を弄りながら、前をパンパンに膨らませて悶える姿を見たい。自分で後ろを弄るように命令するのは初めてのことだから、恥ずかしさも相まって躊躇っているのだろう。
「ねえ、獄寺君。三日前に君がそのパンツをはいていたのを見た時からオレ、ずっと今日のことを考えてたんだ。このパンツ、君にとてもよく似合ってるよ」
  綱吉はそう言うと、太股のあたりでもたついている水玉模様のトランクスの上からそっと獄寺の足を撫でる。
「ジェル塗ってあげるから、自分で指を入れて、弄ってごらん」
  怖がらせないように獄寺の耳元に優しく声をかけてやる。耳たぶをチュ、と啄むと、気持ちいいのだろう、小さく喉を鳴らして腰を揺らめかせる。
  手元に用意してあったジェルの蓋を器用に片手で開けると綱吉は、さっそく獄寺の窄まった部分にそれを塗りつける。
「ぁ……」
  ビクビクと体を震わせる獄寺が可愛くて、頬、目尻、鼻先とくちづけ、最後に唇に辿り着く。クチュ、と湿った音を立てながら獄寺の口の中に舌を差し込むと、やわらかな舌が従順に絡みついてくる。
「ん、ふ……」
  獄寺の意識がキスで逸れている間に綱吉は、素早く窄まった部分にジェルを塗りつけた。襞の縁に塗り込めるようにして濡らしてやると、すぐに湿った淫猥な音が聞こえてくる。
「ほら、用意できたよ」
  唇を離して促してやると、観念したのか獄寺はおずおずと手を自分の後ろへ回した。
「あ……っ」
  くぷ、と音がして、獄寺の指が窄まった襞の中へと飲み込まれていく音がした。
「や……やっぱ、無理……十代目、無理っス」
  腰を支える綱吉の腕に片手でしがみついて、獄寺が早々に音を上げる。
  目尻にうっすらと浮かんだ涙がいじらしい。
「指、自分で動かしてごらん。オレがする時みたいに、中を擦って」
  ゆっくりでいいからと告げると、獄寺は恐る恐る指を動かし始めた。おそらく、本気で嫌がっているわけではないのだろう。綱吉の言葉には従うが、本当に無理だと思ったら獄寺はもっとはっきりとそれを口にするはずだ。
  クチュ、クチュ、と獄寺の後ろから湿った音が聞こえてくる。ぎこちない手の動きと、時折、獄寺が洩らすくぐもった微かな喘ぎ声が、綱吉をこの上なく興奮させた。
「すごいね、獄寺君」
  つー、と獄寺の先端から新たな先走りが溢れ出すと、綱吉は指で亀頭の裏を軽く弾いた。途端に獄寺は腰を揺らして綱吉にしがみついてくる。
「やっ……触らな……っ」
  涙声で懇願しながらも獄寺は、綱吉に言われたとおりに自分の指で後ろを弄り続けている。
「自分の指でもちゃんと気持ちよくなれるんだね」
  ヒクヒクと震える獄寺の竿に手をかけると綱吉は、先端を指の腹で擦ってやる。強弱をつけて亀頭の縁をぐるりと指でなぞってから、尿道口に指の先をぐい、と押し込む。
「あ、や……ぁ!」
  がくん、と膝立ちになった獄寺の足が崩れかかるのを綱吉は支えてやりながら、執拗に性器を愛撫した。
「ダメ……十代目、ダメです……も、俺……」
  先走りが溢れて、ポタポタと水玉模様のトランクスに白い染みを落とす。
「いいよ。後ろだけじゃ苦しいだろうから、前はオレが触っててあげる。このままイクとこ、見せて?」
  ふるふると首を横に振りながらも獄寺は、気持ちいいのだろう、指を動かし続けている。最初は申し訳程度に一本だけ、それも先端だけだったのに、いつの間にか二本の指で、自分の中を擦っている。
「ん、は……ぅ……」
  自ら腰を揺らし、指を大きく出し入れしながら獄寺は、綱吉によりかかった。
「やっ、イく……」
  あっ、と小さく悲鳴のような声をあげたかと思うと、獄寺の口の端から涎がたらりとこぼれ落ちていく。
  ほっそりとした体が大きく跳ねて、綱吉の手の中の性器がひときわ大きく膨張したように感じる。ビュッ、と先端から温かい精液が溢れたと思うと、水玉模様のトランクスに白く大きな染みを作り出す。二度、三度と白濁を飛び散らして、獄寺は達した。
  綱吉によりかかったまま、ズルズルと獄寺の体がずり下がっていく。ペタリとシーツの上に尻をつくと、それだけでも感じるのか、獄寺は小さく喘いだ。
「上手にできたね、獄寺君」
  イッたばかりで軽く放心状態に陥った獄寺の額に唇を落とすと綱吉は、その体を優しく抱きしめてやった。



(2014.5.6)



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