「水玉模様の誘惑」

  新婚家庭の朝はいつものんびりと始まる。
  まだ学生の獄寺にあわせて、綱吉が出勤時間を遅らせるようにしたからだ。
「今朝はスクランブルエッグだね」
  フライパンを握る獄寺の手元をちらりと覗き込みながら綱吉は尋ねる。
  最近、獄寺は料理を作るようになった。簡単なものから少しずつ練習をして、カレーやシチューなら一人ででも作れるようになってきたところだ。時々、母の奈々の元へ獄寺がこっそりと通っていることを綱吉は知っている。口に出して言ってしまうと恥ずかしがるだろうから言わないが、なかなか筋がいいと母から聞いている。
「いえ、目玉焼きを作ろうとして失敗したんで……」
  すみませんと誤る少年が可愛くて、綱吉は彼の華奢な腰に手を回した。ついでにジーンズのウエストをくい、と引っ張ると、ひょい、と中を覗き込む。
  滑らかな白い肌が見え、そのさらに下に、水玉模様のトランクスがちらりと見えた。
「水玉だね、パンツ」
  ニヤニヤと笑う綱吉の手を勢いよく払いほどくと獄寺は、顔を真っ赤にして俯いた。
  こんな反応をする獄寺が可愛いと思った。素直で、純情で、自分にはもったいないぐらいだ。親友である山本からは、しょっちゅう泣かすなよと釘をさされている。自分は、子ども相手に意地悪をする人間に見えるのだろうかと軽く悩むこともあったが、たいていはからかいのネタにされているだけだと綱吉もわかっている。
「この間、母さんからもらった下着って、それだったんだ」
  ふふっ、と笑いながら尋ねると、獄寺はますます赤くなって俯く。
  こんなふうに恥ずかしがる獄寺を、無理矢理抱きたいとふと綱吉は思った。衝動的に抱きしめそうになるのをぐっと堪えると、作り笑いでその場を誤魔化す。
  母の子ども趣味は相変わらず健在のようだが、水玉模様があまりにも可愛らしくて、微笑ましく思えた。と、同時に下着一枚の姿の獄寺を見てみたいと綱吉は思った。下着だけの格好で口で奉仕させるのもいいかもしれない。それから、そのままの格好であれやこれやと……と、不埒な妄想に耽っていると、ドン、とマグカップが目の前に突き出された。
「コーヒー、はいりました」
  いつになくぶっきらぼうな獄寺の様子に、綱吉はもう一度小さく笑った。
  照れているのだ、これは。
「ありがとう」
  マグカップを受け取りながら素早く獄寺の頬にキスを落とすと、今度こそ苛立った獄寺の声が部屋中に響き渡った。



(2014.4.30)



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