男のくちづけは、ひどく熱っぽいものだった。
唇に触れた肉の薄い唇が口元から耳たぶ、喉元へとおりていくのを感じながら、獄寺は甘い溜息を零す。
「急がないでください」
もっとゆっくりして欲しいと、獄寺は思った。
お互い、任務の合間の逢瀬だから限られた時間しかないことはわかっていたが、それでも、服を脱ぐのももどかしいような、そんな忙しないセックスはしたくないと思った。
「もっと、ゆっくり……?」
からかうように尋ねられ、獄寺は小さく頷いた。
「……はい」
柄にもなく恥ずかしくなって、獄寺はうつむいた。
綱吉と恋人同士になって、もう十年にもなる。数え切れないくらいセックスをした。人には言えないようなことをしたこともある。それなのに、こんなふうにさりげなく触れられたり耳元で囁かれるだけで、恥ずかしくてたまらないことがある。
「じゃあ、ベッドでちゃんとしよう」
綱吉は言った。
獄寺は従順に頷くと、綱吉の腰に手を回す。
触れるだけのキスをして、素早く綱吉から体を離した。
短期滞在中のイタリアの景色はのんびりとしていた。
アパートの窓から外を見下ろすと、通りを駆けていく何人かの子どもの後ろ姿が見えた。街で生活する人々は大らかで呑気だ。アパートに面した通りは観光客が多く、日が暮れたこの時間になっても行く人かのグループが通りをうろついている。
カーテンをさっと閉めると獄寺は、薄明かりの中で綱吉の姿を捜した。
シャワーを使った後に喉が渇いたと言っていたから、キッチンにでもいるのだろうか。
「十代目?」
声をかけると、思った通りキッチンから声が返ってきた。
「ねえ、獄寺君。このアイス、もらってもいい?」
尋ねられ、獄寺は「どうぞ」と返す。アイスぐらい、いくらでも食べればいいのにと獄寺は思う。
長期任務のためにこのアパートを借りて早数ヶ月が経とうとしている。獄寺がずっとこの部屋を生活の拠点にしているのに対して、綱吉は時折、気紛れにこの部屋を訪れるだけだ。定期的に彼はボンゴレの屋敷とこの部屋とを行き来している。それが任務だとはわかっていても、やはり寂しく感じることもある。
アイスを手にした綱吉が部屋に戻ってくるのに、獄寺は小さく笑いかけた。
「ベッドでするんじゃなかったんスか?」
なかなか戻ってこない綱吉に焦れたように、獄寺は言った。
焦らされているのがわかるから、余計に体の熱を感じてしまう。ベッドにごろりと仰向けになると獄寺は、片足を立て膝にする。
「なんて格好してるんだよ」
獄寺が素っ裸なのに気付いた綱吉は、呆れたように言う。
綱吉こそ、シャワーを浴びた後に腰にタオルを巻いただけの姿で部屋の中を行ったり来たりしていた。お互い様ではないかと獄寺はやんわりと反論した。
近付いてきた綱吉の手から丸棒のアイスキャンディを取りあげると、獄寺は見せつけるように舌で先端をチロチロとねぶった。ソーダの味がする。中に、ラムネが入っているやつだ。時折、先端を口の中に含んではニヤニヤと笑ってみせる。
「煽ってんの?」
綱吉が尋ねる。
獄寺は、黙って綱吉の目を覗き込んだ。榛色をした綱吉の瞳は穏やかだった。照明の仄暗いオレンジ色を反射して、今は優しい色をしている。
「煽ってるように見えませんか?」
その言葉が合図だった。
ベッドの上でキスを交わし合う。
手にしたアイスキャンディをシーツの上に投げ出すと獄寺は、綱吉にしがみつく。
「アイス、食わねえんスか?」
尋ねると、綱吉はチュ、と獄寺の額に唇を押し当てた。
「食べるのは獄寺君だよ」
そう言うと綱吉は、楽しそうに笑い声をあげる。
投げ出したアイスを手に取ると綱吉は、先のほうを獄寺の肌にそっとあてた。ひんやりとした感触に、獄寺の体が竦む。
「んっ……」
ブルッと体を震わせると、綱吉が喉の奥で笑うのが感じられた。
「冷たかった?」
尋ねながらも綱吉は、獄寺の肌の上にアイスを滑らせる。するりと肌をなぞられて、獄寺の口から思わず声が洩れた。
アイスが肌をなぞっていく。胸の尖りをやんわりとつつき、そのまま下腹へと肌を滑りおりた。綱吉の舌が、アイスの後を追って同じように肌をなぞっていく。乳首の周囲をベロリとねぶり、そのまま先端をきゅっと吸い上げられた。
「ぁ……」
小刻みに体を震わせると、綱吉の手が宥めるように獄寺の性器に触れた。
「ね、今ので勃った?」
耳たぶをペロリと舐められ、獄寺は咄嗟に唇を噛み締めた。そうでもしなければ、いやらしい声が洩れてしまいそうだった。
「じゅ…代、目……」
はぁ、と大きく息をつくと、獄寺の肩が忙しなく上下する。
アイスがゆっくりと、獄寺の陰毛をなぞり、硬くなり始めたものに触れた。
「ひっ……んんっ!」
あまりの冷たさに、体を大きく捩ると獄寺は綱吉の手の届かないところへ逃げようとする。
確かに煽ったのは獄寺のほうだが、アイスの感触が冷たくて楽しもうにも楽しむことができない。四つん這いになってベッドの端へ移動しようとすると腰に腕を回され、引き戻された。
「ダメだよ、獄寺君」
そう言うと綱吉は、ゆっくりと獄寺の太股に舌を這わせた。熱い。アイスの冷たさとは正反対で、綱吉の舌は熱かった。
「あっ」
四つん這いになった獄寺の体が揺れる。
「冷た……」
アイスがまた、獄寺の体に押し当てられた。膝の裏のあたりからゆっくりと、どうやら今度は太股の付け根のあたりへと向かってアイスを滑らせているらしい。
その一方で、綱吉の唇は獄寺の太股や尻に触れてくる。時折、舌で肌をベロリと舐められた。
「ん……ぁんっ」
声を出した途端、獄寺の背がしなった。わずかに開いた太股の間にもう一方の手を差し込むと綱吉は、獄寺の窄まりの周囲を指でまさぐった。
「アイス、溶けちゃうかな」
そう言うと綱吉は、フフッと笑った。
四つん這いの姿勢のまま獄寺が振り返ると、綱吉の唇が窄まりを舐めるのが見えた。
「あ、あぁ……」
腰をぐい、と綱吉のほうへ突き出すと、心持ち太股を開いた。窄まりの奥がはっきりと見えるように、上体を低くする。
すぐに綱吉の舌が、襞の縁をベロベロとねぶりだした。舌先でつつかれ、獄寺の襞の中心が解れていく。
太股をなぞるアイスが、尻の狭間に辿り着いた。
チュ、と音を立てて綱吉の唇が、獄寺の尻を吸い上げる。
「跡……つけないでください」
いくら人目につかないところだからといって、自分の目に見えない箇所に痕跡を残されるのはあまりいい気分はしない。獄寺がそう告げると、綱吉はわかっていると返した。
チュ、チュ、と音がする。湿った、卑猥な音だ。
綱吉の舌と指が、獄寺の窄まりに潜り込んでくる。
「ああっ、ぅ……」
もっとよく見えるように、四つん這いになったまま獄寺は足を開いた。
クチュクチュと音を立てながら、指が獄寺の内壁を出入りする。異物感はあるものの、不快ではない。すぐに気持ちよくなることがわかっているから、獄寺は足をめいっぱい大きく広げる。
アイスが、ゆっくりと獄寺の窄まりをなぞった。
チュ、と綱吉はアイスに唇を寄せる。
「ちょっと冷たいかもしれないよ」
そう言うと綱吉は、ゆっくりとアイスを獄寺の中へと挿入した。
「やっ……ひ、あ、あ……!」
痛みではなく、冷たさに体が震えた。
シーツを握りしめ、それでも綱吉によく見えるよう、ぐっと尻を突き出す。
「冷た…い……」
首を横に振り、獄寺はうわごとのように口走る。
「いい子だね」
宥めるように綱吉は声をかけた。
アイスキャンディを獄寺の中に突き立てると、そっと動かしてみる。
「ぃ……」
すぐに、アイスは溶けてくるだろう。
獄寺の中の熱によって、ぐずぐずに溶けてシーツに染みを作るのも時間の問題だ。
ゆっくりとアイスが獄寺の体を出入りする。溶けてきたのか、中がベタベタして気持ち悪い。カクカクとなる膝で体を支えようとした途端、獄寺は溶けかけたアイスに混ざるコロッとした小さな塊に気付いた。
「や、ぅ……」
意識したわけでもないのにきゅっと尻が窄まり、アイスを締め付ける。
溶けたアイスがたらりと太股を伝い落ちていく感触に、またしても獄寺の体が震えた。
「気持ちいい?」
のんびりとした綱吉の声に、獄寺は弱々しく首を横に振った。
「気持ち悪ぃ……っス」
だから抜いて欲しいと獄寺が言うと、綱吉はすぐにアイスを引き抜いた。
ズルズルと引き抜かれる瞬間、アイスの中に紛れている小さな塊のようなものが獄寺の内壁を刺激する。ラムネだと、獄寺は思った。
「あ、ぁ…ん、ぁ……」
不自然なほどに尻に力が入る。綱吉がぐい、と棒の部分を引くと、溶けかけてグズグズになっていたアイスは獄寺の中に大半を残したまま引き抜かれてしまった。
「や、あぁ!」
はーっ、はーっと息を荒げる獄寺の太股を、溶けたアイスが伝い落ちる。
足を広げたままの獄寺の窄まりに、綱吉はチュ、とキスをした。
中に残る異物感に、獄寺は顔をしかめる。アイスのベタベタとした感触と、ラムネの残存感が気持ち悪くてたまらない。
「甘いよ」
そう言って綱吉は、獄寺の太股を伝うアイスの汁にベロリと舌を這わせた。
「ん……」
中途半端に煽られ、高ぶった体が熱くて仕方がないとばかりに獄寺息をつく。
綱吉の指が悪戯をしかけるかのように獄寺の窄まりの縁にかかり、ぐい、と皺を引き伸ばす。
「ダメです、十代目!」
フルッと体を震わせたかと思うと獄寺は、今度こそ綱吉の手から逃れようとした。熱い指に触れられて、獄寺の体が大きく震える。
「だって、まだ終わってないだろ?」
綱吉の指がズルリと中に潜り込んできて、体内に残っていたラムネを探し当てる。素早く指を曲げると綱吉は、ぐりぐりとラムネを中から掻き出そうとする。
「やあ……、やめっ、十代目」
コロコロと体の中を移動するラムネの粒に、獄寺は泣きそうになった。
気持ち悪かった。不快感と、ラムネが与える刺激とに、体が揺れる。綱吉の指が、なんども獄寺のいいところをなぞっていくのも嫌だった。これでは自分は、快楽に溺れて腰を振っているようにしか見えないではないか。
「んん、ぁ……」
不意に、排泄感がこみあげてきて獄寺は全身に力を入れた。
出そうだと思った。
「や……十代目、もう、や……」
中を掻き混ぜる綱吉の手を慌てて押さえたが、遅かった。
綱吉の指がラムネの粒を一粒、二粒、掻き出してくる。
「ああああぁ!」
握りしめたシーツが、獄寺の手の中でくしゃくしゃになる。
ポトリ、とラムネの粒がシーツの上に落ち、獄寺の体は深い脱力感に襲われた。
気がつくと、いつの間にイッたのか、シーツの上には白濁した染みができていた。
(2010.8.21)
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