GLAZE 2

「十代目……」
  不安そうな獄寺の声に、綱吉はクスッと笑った。
「大丈夫。何も恐いことはないから」
  そう言って綱吉は、獄寺のこめかみに唇を寄せる。
  綱吉の指が、獄寺の脇腹を撫で上げる。ぞわりと鳥肌が立った。獄寺は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「恐くないよ」
  耳元で優しい声がした。フッと息を吹き込まれ、ついで耳たぶをペロリと舐められる。
「あっ……」
  椅子の上で獄寺の体が大きく跳ねかけた。
「耳、舐められるの好きだろ、獄寺君?」
  言いながらも綱吉の舌は、悪戯っぽく獄寺の耳の中を舐めてくる。気持ち悪いような、気持ちいいような複雑な感じがする。舐められるたびに獄寺の体はビクビクと跳ねた。
「や……十代目、やめてください」
  縛られた手で綱吉の体を押し返すと、手首のあたりを掴まれた。
「手、上にあげてごらん?」
  言われるがままに獄寺は、手を頭の上にあげた。
「……こう、ですか?」
「うん、そう。そのままじっとしてて」
  言うが早いか、綱吉の手が、獄寺の肌を這い回りだす。



  いつの間にか、椅子に腰かけた獄寺の足の間に綱吉は立っていた。膝を閉じようとしても、綱吉の体が邪魔をして獄寺は膝を閉じることができない。
  獄寺が膝を閉じようとしていることに気付いた綱吉は、わざと太股を撫でてきた。手のひらで揉みしだくようにして、太股を撫でる。獄寺は、股間に熱が集まっていくのを感じて綱吉の手から逃げようと足を閉じようとした。
「じっとして、獄寺君」
  静かな、どことなく冷たい声で言われると、獄寺はその瞬間に体をごそごそさせることをやめてしまった。綱吉の言葉は、絶対だ。
  獄寺は体を動かすのをやめた。綱吉は獄寺の足の間で膝立ちになった。太股に添えた手を時折気紛れに動かしながら、獄寺のみぞおちのあたりにチュッ、と音を立ててキスをした。
「色、白いね」
  獄寺の肌は白い。西洋人特有の肌の白さが、獄寺は以前から嫌だった。綱吉はそれを褒めるでも貶すでもなく、獄寺の肌に唇を這わしていく。
  手は、拘束されたまま頭上高くあげたままにしていなければならない。膝の間には綱吉がいたから、膝を閉じることも叶わない。そして目隠しをされた視界は真っ暗で何も見えない。獄寺は眉間に皺を寄せ、甘い吐息を吐き出した。
「は……ぁ」
  声があがってしまうのは、視界が閉ざされているからだ。真っ暗で何も見えないから、余計に体が敏感に反応するだけのことだ。
  唇を噛み締め、声を堪えようとすると、綱吉の指がやんわりと獄寺の口元をなぞった。



  唇が、優しく肌を滑り降りる。
  舌でペロリと肌を舐められると、それだけで獄寺の体は熱くなっていく。
  チュ、チュ、と音を立てて、綱吉は獄寺の乳首を優しく吸った。前歯をあてがい、そっと甘噛みをする。
  獄寺の体に、電流のような何かが走った。
「ああ、あ……」
  噛まれたあとの痛みと甘い疼きが、獄寺の体を変化させていく。
  熱いと、獄寺は思った。体のそこかしこが熱くて、たまらない。
「じゅ…」
  言いかけた口の中に、またしても指が差し込まれた。
「舐めて、獄寺君」
  差し込まれた指を吸い上げ、唾液を絡ませた。クチュ、と湿った音がした。
  その間にも綱吉の唇は、獄寺の腹のあたりを好き勝手に移動していく。もう一方の手は太股を大きくなぞり上げ、制服のズボンの上から獄寺の股間を撫でた。
「んっっ……」
  足を閉じようとしたが、やはり綱吉の体に拒まれてしまう。
「ん、ぁ……」
  へそのわきを綱吉の舌先がつつき、きゅっと皮膚を吸い上げられた。
「ぃっ、ん」
  獄寺が体を揺らすと、唾液に濡れた肌に綱吉の吐息がかかった。



「気持ちいい?」
  ねっとりとした声で問われ、獄寺は頷いた。
  恥ずかしくて言葉を返すことはできなかった。
「嫌じゃない?」
  尋ねながらも綱吉は、股間をなぞる手の動きを休めようとしない。布越しに獄寺の性器が硬くなっていくのを、綱吉は感じているだろうか?
  体が熱くてたまらない。
  獄寺ははぁ、と息を吐き出した。
「ぅ……ああ」
  獄寺の唾液が、綱吉の手を伝い落ちていく。ポタリ、ポタリ、と腹やズボンの上に零れ落ちるのが自分の唾液だということに、獄寺は気付いている。
「んっ、ん……」
  小さく首を横に振った途端、口の中に入っていた綱吉の指がスルリと外へ出ていった。
「十…代目……」
  先ほどから頭の上に掲げたままの腕が怠かった。思い切って両腕を下ろすと、すぐに綱吉が気付いた。
「ダメだよ、獄寺君。腕、上げとかなきゃ」
  やんわりと言いながらも綱吉は、獄寺の腕を取る。
「や、十代目……も、腕が怠くてムリです」
  それに、いつまでもこんな格好をしているのも嫌だ。獄寺は微かに震える唇を噛み締めた。
  綱吉の溜息が耳に届く。気分を害したのか、あまりいい雰囲気ではない。
「じゃ、腕は後ろに回そうね」
  いったん獄寺の腕はネクタイを解かれたものの、それはどうやら後ろ手に縛り直すためだったらしい。
  獄寺の腕は、椅子の背もたれに後ろ手に縛り付けられた。
「大丈夫。痛いことはしないから」
  耳元に囁きかける綱吉の声に、獄寺は首を竦めた。



  背筋がゾクゾクした。
  自分はこれからどうなってしまうのだろう。
  獄寺は噛み締めた唇にさらに強い力でぎり、と犬歯を立てた。そうでもしなければ、声が洩れてしまいそうだ。
  綱吉に聞かれると恥ずかしくてたまらないような、甘い声だ。
  自分の声ではないと獄寺は思った。こんな声は、断じて自分の声ではない。こんな……女のような声を自分が出すなんて、信じられない。
「ね、痛くないだろ?」
  綱吉が尋ねかけてくる。
  仕方なく獄寺は頷いた。躊躇いがちに首を縦に振ると、股間をなぞる手が、硬く張り詰めた性器に爪を立てた。布の上からとはいえ、獄寺は体をビクン、と震わせた。
「ああっ!」
  声を上げた瞬間、綱吉が笑う気配が感じられた。
「ほら、痛くないだろ?」
  そう言って綱吉は、布の上から唇を押しつけてくる。
「やっ……」
  身を引こうと獄寺が椅子の上で身を捩る。
「逃げないで、獄寺君」
  優しい声がする。それさえも、獄寺の体に振動として伝わり、熱となり、腹の底へと集まっていく。
「でも……」
  体が熱かった。綱吉の顔が自分の股に押しつけられ、布の上から硬くなった性器に触れている。目隠しをされている獄寺が実際には見ることのできない光景が頭の中で再現され、恥ずかしくてたまらない。
  しかしそれ以上に恥ずかしいのは、綱吉に、布の上からではなく直に触れて欲しいと思う自分自身だった。
「も……やめてください、十代目」
  そう告げた獄寺の声は、震えていた。
  これ以上、綱吉に触れられたらおかしくなってしまう。自分が自分でなくなってしまい、何を言い出すかわかったものではない。
  それでも綱吉は、獄寺の性器を執拗になぞり上げている。獄寺はもぞもぞと足を動かした。
「もう……ふざけんのは……おしまいです、十代目……」
  そう言った瞬間、しかし獄寺は下着の中にドロリとしたものが放たれたのを感じた。
  痙攣したように足がピクンとなり、濡れた不快感が下着の中に広がっていく。
「あ、ぁ……」
  今にも泣き出しそうな声で獄寺は、小さく声を上げた。



END
(2010.2.28)


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