草むらで中腰になって、ごそごそと歩き回る。
十分も経たないうちに腰が痛くなってきたが、やめるわけにはいかない。
苛々と足下の雑草を踏みにじりながら、綱吉は背の高い枯れ草を掻き分けた。
「ボール、どこにいったんだろ……」
立ち上がったり中腰になったりしてあたりを見回してみるが、ボールはどこにも見当たらない。
そもそもの原因は、獄寺だ。
獄寺と山本、それに自分の三人でキャッチボールをして遊んでいたのは、この草むらから少し離れた河川敷だ。山本の投球のコントロールの良さにムキになった獄寺が、まるで対抗するかのようにして投げたボールがこの草むらのどこかにある。
探さないとと思うものの、あまりにもその範囲が広すぎて手に負えないのが実情だ。溜め息をついて、綱吉はまた腰を屈める。
草むらを移動すると、ガサガサと音がする。
ススキやセイタカアワダチソウの間をガサゴソやっていると、背後からもガサガサと音が聞こえてきた。 山本だろうか、それとも獄寺だろうか。
背後に気をつけて、尚もボールを探す。
ふと気づくと、ドン、と何かが綱吉の尻にぶつかってきた。
「えっ?」
驚いて立ち上がった綱吉は、自分と同じように慌てふためく獄寺の姿を目にした。
ボールを探すのに夢中になるあまり、いつの間にか二人の距離が縮まっていたらしい。
先程から背後でガサガサとする音が聞こえていたから気をつけていたつもりだったが、どうやらお互いに自分のことしか考えていなかったらしい。
「ごっ……ごめんっ、獄寺君」
尻を押さえながら綱吉はボソボソと謝った。
獄寺のほうはというと、彼は照れ臭そうな、どこか恥ずかしそうな表情をして綱吉を見つめている。
「あの……俺のほうこそすんません、十代目」
気まずくてたまらないのは、どうしてだろう。
何か喋らないとと口を開こうとしたその刹那、河川敷に近い草むらから間延びした山本の声が聞こえてきた。
「ツナ〜、獄寺〜! ボール、見つかったのな〜!」
その声を耳にした途端、ぎくりと綱吉は身をこわばらせる。
「ボッ……ボールあったみたいだね」
なんとかそう言ったものの、声は裏返り、みっともないことこの上ない。
「そ、そーっすね」
言葉を返す獄寺の表情も、どこかぎこちない。
しばらくその場で見つめ合っていた二人だったが、そのうちに山本が草むらの中から出ようとしない綱吉と獄寺に気づいたらしい。
ガサガサと騒々しい音を立てながら山本はやってくると、生い茂るススキとセイタカアワダチソウを掻き分け、二人の前へと姿を現した。
「あれっ、二人してお見合いか?」
「ちっ、違っ……」
そうではないと言いかけたものの、なんと言えばいいのかわからず、綱吉は口ごもってしまう。
「ええと、その……」
ボールを探すのに夢中になるあまり、お尻とお尻がぶつかったのだと言ったところで、山本は信じてくれるだろうか。
「獄寺のほうは顔が赤いし……二人してアヤシイのな」
ニヤニヤと笑われると、それだけで綱吉のほうも頬がカッと熱くなってくる。
「や、違うんだよ、誤解だよ、山本!」
悲鳴のような声をあげると、山本は怪訝そうに綱吉を見つめてくる。
「誤解? なにが?」
顔を覗き込まれた綱吉は、どさくさに紛れて自分が余計なことを口走ってしまったことにはたと気づいた。
「違っ……」
否定しようとして一歩を踏み出した途端、足下の枯れ草に足をとられてよろけてしまう。
「うわっ!」
支えを求めて両腕を振り回しながら、自分はさぞかしみっともない姿をさらしているのだろうなと綱吉は思う。
大きくよろめいて仰向けに転びそうになったところを、素早く獄寺が支えてくれた。同時に山本も、綱吉の手を掴んで転ばないように引っ張ってくれている。
「あ…──」
やっぱり山本は親友だし、獄寺は大切な……仲間、だ。こういう時は断然、頼りになる。
よろめいた体勢を立て直した綱吉は、ほぅ、と安堵の溜息をついた。
「ありがとう、獄寺君、山本」
「気にするなって」
あっけらかんと山本は笑い飛ばす。山本のこういうところが自分は好きなのだ。気まずい気持ちが一瞬にして吹き飛んでしまう。
だけど……。
支えてくれた獄寺の顔をちらりと盗み見ると、彼は相変わらず赤い顔をしていた。さっきのことをまだ、獄寺は気にしているのだろうか。
「それにしても獄寺、顔赤いままだぜ」
からかうように山本が言った瞬間、顔だけでなく首筋や耳たぶまで真っ赤にして獄寺は、いつもの調子で声を荒げる。
「うっせ! しつこいぞ、野球馬鹿」
(2013.10.25)
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