「ああ、疲れた」
溜息をつきながらも綱吉は、どこかしら楽しそうに獄寺の手を取って自室に入った。
酔っているのだということを、本人は自覚しているのだろうか。怪訝そうに獄寺は綱吉の横顔をちらちらと盗み見る。
つい今しがたまで、気心の知れた仲間たちとハロウィンパーティで騒いでいた。もちろんアルコールも適度に入り、いつものごとく飲んで、食べての大騒ぎのパーティだった。
悪くはないと獄寺は思う。
楽しくて、嬉しくて、つい学生の頃を思い出してしまう。
綱吉のそばにいられるのは、自分だけの特権ではない。守護者なら誰でも、綱吉のそばにいる権利があるはずだ。
だが、恋人という特別なポジションだけは、自分一人のものだと信じている。
「大丈夫ですか、十代目」
ふらつく綱吉の体を支えながらベッドへと誘導する。
綱吉の手はいつの間にか獄寺の腰に回されていた。
ベッドを目にした途端に獄寺の体を引き寄せ、ぐいぐいとベッドに押しつけた。
「うわっ……?」
なにを、と言いかけて、唇を塞がれた。不器用なくせに、こんなことばかり慣れていく綱吉に、寂しさのようなものを感じてしまう。
そんな獄寺の気も知らないで、ベッドに転がった綱吉はクスクスと笑っている。
「……昔」
掠れた声で耳元に囁きかけると綱吉は、あの頃からすると随分と逞しくなった腕で獄寺の体を抱きしめてくる。
「獄寺君と二人で、ハロウィンの仮装した時にさ……」
ハロウィンの仮装なら、毎年やっている。綱吉が言わなくても、リボーンを始め、誰かしらハロウィンパーティをしようと声をあげ、気がつけばいつの間にか恒例行事となってしまっていた。
「いつの時のことですか、十代目」
呆れながらも尋ねると、「覚えてないの?」と、今度は絡み酒だ。
「覚えていますよ、十代目と過ごした時間ならいくらでも」
言いながら獄寺は、綱吉の頬に手をあてる。
ゆっくりと顔を近づけていくと、綱吉の唇をやんわりと吸い上げる。
「ふふっ……あの時と、逆みたいだ……」
酔っぱらいの男は楽しそうに声をあげて笑うと、そのままコテンとベッドに沈み込んでしまう。
「……十代目?」
声をかけても、綱吉はうんともすんとも返さない。かわりにスースーと、気持ちよさげな寝息が聞こえてくるばかりだ。
「十代目、眠ってしまわれたのですか……?」
恋人をベッドに押し倒しておきながらと、憎らしく思いながらも獄寺は口元を緩めた。
今日の綱吉は本当に楽しそうだった。
だったらそれでいいのではないだろうか。
「おやすみなさい、十代目」
小さな声で呟くと、獄寺は大切な恋人に抱きしめられたまま、そっと目を閉じる。
今夜はこのまま、眠ろう。
たまにはこんな夜があってもいい。大切な人と二人きりで、密着したまま朝までぐっすりと眠るのだ。
そうして朝になったら、少しだけ不機嫌を装って、綱吉のほうからおはようのキスをしてもらえばいい。
(2013.10.30)
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