「ほら、粕汁飲みなよ、獄寺君。体あったまるからさ」
そう言って綱吉は、獄寺に粕汁を勧めてくる。
「や、俺、粕汁はちょっと……」
苦手なので、と言いかける獄寺の目の前に粕汁の汁碗を突きつけて、綱吉はニコニコ笑っている。
「どうぞ召し上がれ、獄寺君」
無理だと言いかけたものの、綱吉のこんな表情を目にしてしまえばさすがに獄寺も断ることができない。 「──い……ただき、ます」
躊躇いがちに碗を手に取ると獄寺は、白く濁った粕汁をずっ、と音を立てて啜り上げる。
どろりとした粕汁の風味は嫌いではない。具材の人参や大根が食べられないというわけでもない。苦手というよりも、むしろ……。
「獄寺君、意外とお酒に弱いよね」
仕方なさそうに粕汁を啜る獄寺に、綱吉はさらりと言ってよこす。
洋酒ならそこそこいけるのだが、日本酒となるとどうも酔いの回るのが早いらしい。それと似たような理由なのか、粕汁にも獄寺は弱かった。
「違います、十代目。十代目が作られた粕汁だから、酔いが早いんすよ、きっと」
返しながら獄寺は、自分の呂律が少し怪しいことに気がついている。
「ホントだ。顔が赤い」
からかうでもなく綱吉は、そう言って獄寺の頬をそろりと自分の手の甲で撫で上げてきた。
「もう、酔ってる?」
尋ねられて獄寺は、小さく頷く。
実を言うと綱吉に粕汁を勧められた時から獄寺は、少し酔っていた。彼の……綱吉の、あまりにもキュートな笑顔に、獄寺のハートはすっかり酔いしれていたのだから。
(2013.11.10)
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