「花の咲く病」

  このところ、獄寺くんの様子がおかしい。
  何やら深刻そうに眉間に皺を寄せていることがあるかと思うと、そそくさとオレの前から逃げ出したりして、挙動不審が続いている。
  昨日は声をかけたら逃げられて、結局その後も姿を目にすることはなかった。
  オレ、逃げられるようなこと、何かしたっけ?
  とは言うものの三日どころか、一週間が過ぎても獄寺くんの挙動不審はおさまらなかった。
  最近はオレの前にほとんど姿を現すこともなく、山本やお兄さんを間に介してのやり取りとなってしまっている。
  オレのことが嫌いになったわけではないらしい。今も現に、オレのことを心配していると、山本から聞いた。
  獄寺くんに会えない日が続き、獄寺くんの姿が見えない日常が当たり前になっていきそうで、怖い。
  今まですぐそこにあった日常が壊れてしまいそうだ。手の中から水のようにするりとすり抜けて逃げていくのではないかという不安と、学生時代から続く安心感を失ってしまうのではないかという恐怖がある。
  きっとオレは、獄寺くんのいない日常に慣れることはないように思う。どうしてだかわからないけれど、そんなふうに思うんだ。
  あたりを見回せば、近くにいるだろう獄寺くんの気配を感じることができる。だけど、姿は徹底して現さない。
  腹立たしくて、会いたくて、苛々する。
  この感情は、何だろう。
  それからさらに何日かが過ぎて、獄寺くんが病気だという話を山本から聞いた。
  獄寺は内緒にしてくれって言ったんだけどな。ツナ、お前にだけは教えてやるのな。そう、山本は言った。
  花咲病だと。そう、山本は深刻そうな顔をして言った。
  何でも、体に花を咲かせる珍しい病気らしい。



(2017.8.17)
(2017.12.29改稿)



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