迷路のようなボンゴレ基地を歩き回っていると、どこからかピアノの音が聞こえてくる。
足音を立てないようにそっと通路を歩いていくと、細くドアの開いた部屋に行き着く。
中を覗くと獄寺くんがピアノを弾いていた。
流行りのラブソングをドラマチックな切ない曲に仕上げ、かすれた声で歌っている。
「……格好いいな、獄寺くん」
呟いた途端、ぴたりと音が止んだ。優しい歌声はどこかえ消え失せ、ただ静けさだけがその場には残されたような感じがする。
「じゅっ……えと、十代、目……?」
恐る恐る尋ねてくるのは獄寺くんだ。
「あの……」
続きを歌ってほしいなと、オレは小さな声で言う。
「はっ、はいっ! 十代目のためなら喜んで!」
ほんのり顔を赤らめた獄寺くんはそう言うと、今度はテンポを速めて同じ曲を楽しそうに演奏し始めた。喜びに満ち溢れた曲が紡がれ、艶めいた声がラブソングを歌い上げる。
ああ、なんて色っぽい声なんだろう。
君に、参ってしまいそうだ。そんなふうにオレは、密かに胸の内で思ったのだった。
(2017.8.26)
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