『セックスよりも深く』



  クスクスと笑いながら、二人でサニー号のラウンジに忍び込んだ。
  新年のカウントダウンで浮かれていた仲間たちは、思い思いに飲み食いし終えて今はぐっすり眠っているはずだ。
  仲間たちが寝静まるのを待っていたようにサニー号に忍び込んできたエースは、サンジに手を引かれて水槽の前のソファに腰を下ろした。
「まさか、待っててくれるとはね」
  ふざけたようにエースが胸の内を告げると、サンジはクスクスと笑いながらキスをした。
「俺が他のヤツらと同じように寝ちまってたら、どうするつもりだったんだ?」
  今夜のサンジはしたたかに酔っていた。少し舌っ足らずな喋り方で、互いの鼻先がくっつきそうなほど近くに顔を寄せて、尋ねかけてくる。
「……さあ。どうしたかな」
  どうするもない。仮にサンジが眠り込んでいたとしても、だ。エースなら何とかしてサニー号に忍び込んで、サンジにそれとわかるようなメッセージを残していくぐらいのことは易々とやってのけるだろう。
「バーカ。そういう時は、寝込みのひとつやふたつ、襲えよ」
  言いながらもサンジの目はトロンとして眠たそうだ。
「こら、酔っぱらい。寝るならちゃんと……」
  エースが言いかけたところへ、サンジの唇が近付いてきた。チュ、と音を立ててサンジは、エースの下唇を吸う。
  猫のように喉を鳴らして笑いながら、サンジは何度もエースにキスをした。キスをしながらサンジは、エースの体をソファの背もたれに押し付けていく。エースの両腕を背もたれに押し付けると、またひとしきりキスをする。エースが腕を動かそうとすると、サンジは笑ってその腕を背もたれに縫い止めた。
「勝手に動くな。手は、ここ」
  と、サンジは、エースの腕を背もたれにぐいぐい押し付けていく。
「なあ。それはそうとサンジ。このままだと、脱がせないんだけど……」
  苦笑しながら、エースが呟く。
  シュル、と音を立ててサンジはネクタイを外した。エースが見ている前でサンジは、ゆっくりとひとつずつシャツのボタンを外していく。
「別に構やしないだろ」
  次は、ベルトだ。ネクタイと一緒に床に落とすと、ボトムのファスナーを焦れったそうに下まで一気におろした。
「……脱がす楽しみがなくても、触る楽しみはあるんだから、さ」
  ペロリと唇の端をひと舐めするとサンジは、ニヤリとエースに笑いかけた。



  ソファの上でじゃれ合った。
  エースの腕を背もたれに押し付けたまま、サンジは何度もキスをした。
  甘くついばむようなキスを繰り返しながらエースの膝の上に乗り上げると、ボトムの布越しに股間が固く張り詰めているのがはっきりとわかった。
「中に、入りたいか?」
  喉を鳴らしてサンジは言った。エースよりも少し高い目線で見おろしたサンジは、微かに笑いながら返事を待っている。
「そうだな……その前に、この手をはなしてくれよ」
  そう言うとエースは顔を、サンジのほうへと寄せた。唇を掠めるか掠めないかの距離を保ちながら、サンジは後ろへ身を引く。エースがさらに追いかけると、サンジは淡い笑みを浮かべたまま逃げた。エースの腕を押さえている分、サンジの動きは制限されている。そんなやりとりを何度か繰り返した後に、とうとうエースの唇がサンジの唇を捕らえた。
  チュ、と音がした。
「……手、はなしてやるから。触れよ、エース。」
  ゆっくりとサンジが片手をはなすと、エースの手が指先をやんわりと掴んだ。
「どこ、触ってほしい?」
  サンジを見つめるエースの目の端には、悪戯っぽい光りが宿っている。
「じゃあ……」
  もう片方の手をはなしたサンジは、その手で自分のボトムをずらし、床に蹴落とした。それから掴まれたままのエースの手を自分の口元に持っていくと、指先に唇を押し付ける。
「どこでもいいから、アンタの好きなトコ触ってくれよ」
  エースの指先をひと舐めすると、サンジはするりと手を振り解いた。



  はだけたシャツの隙間から、エースの手が忍び込んでくる。
  肋骨に添って手を這わされると、サンジの背筋がゾクゾクとなった。
「は…っ……」
  ビクン、とサンジの体がしなると、エースはニヤリと笑う。獲物を狩る時の肉食動物の笑みだ。
  首筋にキスをされた。あたたかいエースの吐息がかかると、それだけでサンジの体は小さく震えた。
  繋がりたいとサンジは思った。
  自分を翻弄する指を持つ男と繋がって、ひとつになりたい。体の奥深くに男が穿たれ、熱い精液をぶちまけられたいと思った。ただそれだけで、サンジの心は満たされる。単なる肉と肉との繋がり以上のものが、そこには確かに存在しているはずだった。
「エー…ス……」
  掠れた声でサンジが名前を呼ぶと、エースは小さく口元に笑みを浮かべてサンジを見遣った。
「アンタも、脱げよ」
  言われてはじめてエースは、自分がまだ下衣を身につけたままだったことに気付いた。
「ああ、忘れてた」
  焦れったそうにサンジはエースのボトムに手を伸ばした。少し乱暴にエースの前をくつろげると、サンジは驚いたようにエースの顔を見た。
「なあ、下着は?」
  ボトムの中で窮屈そうにしているエースの性器は、ヒクヒクとひくつき、先端の割れ目に先走りを滲ませていた。下着は、つけていなかった。
「ああ……それも、忘れてた」
  悪戯っぽくエースが笑う。
  つられてサンジも、クスクスと笑った。



  エースがボトムを床に脱ぎ捨てると、裾がソファの端にひっかかった。それをサンジは足で押しやると、満足そうに喉を鳴らした。
「中に、欲し……」
  掠れ気味の声でそう囁くとサンジは、エースの肩に額を押し付けていく。
  二人の間で既に固くなっていたペニスを互いになすりつけ合うと、あっという間にどちらのものかわからない先走りが腹の間で糸を引き始める。
  小さく口を開けてサンジが、エースの唇を吸う。
  アルコールと煙草が混ざり合った何とも言えないにおいのするキスに、エースは顔をしかめた。
「こら、酔っぱらいめ」
  柔らかな口調でそう言うとサンジの腰を引き寄せ、尻の奥へとエースは指を這わせる。暗く乾いた窪みの中にそっと指を差し込むと、サンジが微かに身じろぎをした。
「……ジェル、持ってるか?」
  エースが尋ねるのに、サンジは首を横に振る。
「持ってねぇ」
  嬉しそうに告げるのに、エースは困ったような顔をする。
「そうか……」
「いいさ、なくても。そのまま挿れろ」
  多少の痛みは覚悟の上だ。それに、どうせ中に収まってしまえば痛みよりも快楽のほうに支配されることになる。サンジは後ろ手にエースのペニスを握り締めると、ぐいぐいと腰を押し付けていく。
「あ、こらっ……」
  慌ててエースがサンジの腰を両手で押さえつけ、ついでぐい、と腕の中に抱き込んだ。
「そういう無茶な抱き方はしたくねえんだ」
  きっぱりと言い切ると、エースはさらにサンジを強く抱いた。



  焦らすようにエースの指が、サンジの尻を這い回る。
  女の柔らかい肉とは違う筋肉質な尻だが、固くて、よく引き締まっている。穴の縁に指をかけると、焦れたようにサンジが腰を揺らめかせた。
  エースは自らの先走りを指で掬い取ると、サンジの尻に塗り込めた。クチュ、と湿った音がするほどにたっぷり潤わせると、中へと指を潜り込ませる。
「あっ、あ……」
  目を閉じて、サンジが喘いだ。
  反り返らせた白い喉がやけに艶めかしくて、エースは喉仏のあたりを舌でざり、と舐めあげた。喉元を震わせながらサンジが掠れた声を洩らした。
「そんなに締め付けられたら、指が抜けなくなりそうだ」
  からかうようにエースが低く告げる。
  サンジの中で指をグリグリと動かすと、まるで追い縋るかのように内壁がエースの指を締め付けてくる。
「指じゃないのが、欲しい……」
  ちらりと赤い舌をひらめかせて、サンジが強請った。
  うっすらと見開いた目が、獣のような光りを放ち、エースを見つめている。
  体の奥深いところに、もっと太いものが欲しい。サンジはエースの唇に噛みつくと、口の中へと舌を押し込んだ。自らの唾液をエースの口の中へと流し込むと、きつく舌を吸い上げた。
「ん…はっ……」
  エースの指が、サンジの内壁を引っ掻き、掻き混ぜる。その指の動きが、サンジの思考を奪い取っていく。
「エース……」
  唇がはなれていくと、今にも泣き出しそうな眼差しで、サンジがエースを見つめた。





To be continued
(H20.1.1)



        

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