『Private Birthday 2』



  挿入したままの態勢でサンジは、ゾロの膝を肩に担ぎ上げた。
  互いの結合部がいっそう深くつながり、ゾロは口元に淡い笑みを浮かべ、サンジを見上げる。
「……」
  言葉は一言も発していないというのに、サンジには、ゾロが「満足か?」と尋ねたように思えた。もしかしたら実際に、ゾロはそう尋ねたのかもしれない。しかしサンジはゾロの唇が動くところを目にはしていない。どう返そうかと考えあぐねているうちに、ゾロの締め付けが自然と強くなった。
「動かないのか?」
  焦れったそうにゾロが訊く。
「ああ……そうだな」
  そう言ってサンジは、ゆっくりと腰を揺さぶった。焦らすように、殊更ゆっくりと腰を動かすと、ゾロが喉の奥で鳴くのが聞こえてきた。まるで獣のようだ。生と死の境で蠢く、雄の、獣。
  何度かの突き上げの後、サンジはゾロの脇に手を差し込み上体を引き上げた。
  肩に担ぎ上げられたゾロの足が、不安そうにゆらゆらと揺れている。
「あっ……あぁ……」
  上体を起こすと同時に、ゾロの後孔はひくついてサンジを締め付けた。
  重心のかかる一点へと向けて快楽が忍び込んでいく。
  誘うようなゾロの眼差しは、しかし獣じみた色合いを含んでおり、時折、血に濡れた手負いの野獣を思わせた。



  胸の傷にそってサンジの指が肌を這うと、ゾロは小さく震えた。
「んっ……」
  開け放った窓から陽の光が射し込んでくる。
  中庭から微かに聞こえてくる、仲間たちの騒ぎ声。部屋に流れ込んでくる風の音。二人の喘ぎ声。
  サンジが、ゾロの乳首を唇できゅっ、と吸い上げた。
「はっ……ぅ……」
  絡みつく腕と足。互いの肌を汗が伝い落ち、シーツにしみこんでいく。
  咄嗟に抱きしめたサンジの頭からほんのりとシャンプーのにおいがして、ゾロは軽い目眩を感じた。
「……暖めてほしかったんだろ?」
  しっかりとサンジの頭を抱きしめて、ゾロが問いかける。
「ああ。暖めてくれよ」
  と、サンジ。
「なら……しっかり抱け。もっと、強く──」



  部屋の中に流れこんでくるやわらかな風の音で、サンジは目を覚ました。
  ゾロは、いない。
  ベッドに寝ているのが自分一人だけだということに気づき、サンジは何となくホッとしたような気分になった。
  中庭から聞こえてきていた声も今はなく、夕暮れ時の空は藍色に染まり始めている。
  上体をベッドに起こす。喉が渇いていた。疲労感に包まれて、サンジは裸のままで床に降りた。水が欲しい。水でなくとも、喉の渇きを癒してくれるものなら何でもよかった。
  薄暗い部屋の中を手探りでシャワールームへと向かう。
  途中、椅子か何かの足で脛をしこたまぶつけた。涙が出そうなほどの痛みに耐えながら、シャワールームのドアをあけた。
  部屋の中よりもいっそう暗いシャワールームで、洗面台の蛇口を捻った。ザアザアと流れ出る水を両手ですくい、ごくごくと飲んだ。
  一息ついてから初めてサンジは、ゾロの体温を感じ取ることが出来ないことを寂しく思った。
  いったいどこにいるのか──もしかしたらゾロは、ルフィやウソップたちと……仲間たちと一緒にいるのかもしれない。そう思うと何やら自分だけ置いてけぼりを喰らったような気分になり、いっそうサンジは落ち込んだ気分になった。
  深い溜息をシャワールームに吐き捨てて、サンジは部屋に戻った。
  ベッドに戻り、ぼんやりと闇の中で目を凝らす。いつの間にか陽は沈み、あたりは真っ暗になっていた。
  開け放った窓から、ひんやりとした風が入ってくる。
  ゾロが側にいない。
  たったそれだけのことだというのに、酷く悲しいことのように思えて、サンジは小さく身震いをした。
  目が覚めるまで、側にいてほしかった。一緒にベッドに転がって、二人でごろごろしていたかった。
  せっかくの誕生日なのだ。それぐらい望んだとしても構わないだろうと思っていたのに。
  耳を澄まし、目を凝らし、じっとしていると、ドアの開く音がした。
「ゾロ……」
  口をついて飛び出した声は力のない、何とも情けない声になってしまった。



「なんだ、情けない声出して」
  鼻で笑って、ゾロが言う。
「……るせぇっ」
  言い返したものの、自分がどんなに情けない声を出したかわかっているサンジは、決まりが悪いのか暗がりでもぞもぞと布団の中に潜り込んだ。
「悪い、遅くなった……」
  そう言ってゾロは、ゆっくりとサンジのほうへと近づいてくる。
  ゾロがベッドに腰を下ろすと、スプリングが軋み、その振動がサンジの身体へと伝わった。
「なあ」
  と、ゾロはケットを軽く捲り、サンジの首筋に軽く唇を押しつけた。
「誕生日、おめでとう」
  低く囁かれると、それだけでサンジの腹の奥に熱が溜まり始める。
  それから。
  ピタリと、サンジの背中にひんやりとした感触のものが押しつけられた。
「うおっ?」
  慌ててサンジが飛び起きると、暗がりの中でゾロがにやにやと笑っているのが微かに見えた。
「仕切り直しだ」
  ゾロが言った。
  手に掲げた酒瓶の栓を歯でこじ開けるとゾロは、栓を床へ吐き捨てた。蓋の開いた酒瓶をサンジの鼻先に押しつけ、また笑う。
「飲めよ。悪い酒じゃねぇ。お前のために買ってきたんだからな」
  寂しいと思っていたことが馬鹿馬鹿しく思えるような、あっけらかんとしたゾロの笑みに、サンジは小さく苦笑した。
  あれこれ思っていた自分がバカらしく思えてしまう。
  どうやら誕生日の主賓だからと、少しばかりいい気になっていたようだ、サンジは。
  ゾロは、こんなにも自分を見てくれている。仲間たちもそうだ。皆、サンジの誕生日をちゃんと祝ってくれているというのに、いったい何の不足があるというのだろう。
  ゾロの差し出した酒瓶を受け取り、ぐい、と一口あおる。そう強くないアルコールのにおいが口の中にひろがり、心地よい熱を放ちながら喉の奥へと落ちていく。
「そうだな。誕生日だもんな」
  そう返して、サンジはゾロにキスをした。
  もう一度、抱かせてもらえるだろうかと密かに期待を寄せながら。






END
(H16.3.29)



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