夢も見ない1

  ベッドの上に正座して、二人して向き合うのは妙な感じがする。
  そもそも、男二人で港近くの安宿にしけこんで、昼間っからこんなことをしているほうが不健全なのだ。
  ウソップはどうしたものかと思案しながらも、深呼吸をしてサンジをじっと見据えた。
「よっ……よよよ、よろしくな、サンジ」
  声が震えているのは、恐いからではない。これは、アレだ。武者震いというやつだ。自分にそう言い聞かせて、ウソップはそっとサンジの頬に手を添える。
「おう、任せた」
  鷹揚にサンジは頷いて、微笑んだ。
  いつもは自分からすすんでキスをしてきたり、ベタベタとウソップに触れてきたりするサンジは、今日はウソップにすべて任せるつもりでいるらしい。じっと、ウソップにされるがままになっている。
  キスをする瞬間、サンジが目をそっと閉じるのが見えた。長い睫毛だ。眉毛のグルグルはあまり見ない形をしているが、見栄えとしてはそう悪くもない。そんなことを考えながら、唇を合わせた。
  サンジの唇は柔らかくて、ほんのり煙草のにおいがした。下唇を甘噛みして舌でペロリと湿らせてやると、唇の隙間からちろちろと赤い舌をつきだしてきた。
  すかさずウソップは、サンジの舌を前歯で捕まえる。
「ん……」
  サンジの、鼻に抜けるような声が、ウソップを誘っている。
  ウソップが舌でサンジの舌をつつくと、口の中へと誘い込まれた。あたたかいサンジの口の中で、舌と舌とを絡め合う。相手の唾液を吸い上げるようにして、サンジの舌を自分の口の中に招き入れながら、ウソップはサンジの服に手をかけた。
  天井では、大きなファンがのんびりと回転している。
  暑いのは暑いのだが、それだけではないような気がする。ウソップの手はじっとりと汗ばんでいて、もしかしたらサンジはそんな汗でべたついた手を嫌がるのではないだろうかと考えてみたり、しかしもう少ししたらそれどころじゃないぐらいに暑くなるかもしれないしと開き直ってみたりと、ウソップの思考はめまぐるしく移り変わっていく。
  きっちりと着込んだスーツの上っ張りを脱がすと、ウソップはベッドの下に静かに落とした。ネクタイを外し、シャツと一緒にこれもベッドの下に追いやった。
「もっとだ……」
  そう強請られて、ウソップは軽めのキスで何度も唇に触れる。
  サンジは安心したようにウソップのオーバーオールを脱がしにかかった。



  二人とも裸になってしまうと、それはそれでどこか気恥ずかしい感じがする。
  夜ならば灯りを消して、暗がりで……ということも可能だろうが、今は昼間。カーテンを閉めても部屋の中は薄明るく、相手の表情の細かな部分までしっかりと見ることができる。
  ベッドに押し倒した男の顔は上気して、ほんのりと目元を朱色に染めていた。
  浅黒いウソップの肌に比べて、サンジの肌は色白だ。胸元に口づけ、軽く吸い上げただけで朱色の花が咲く。あんまり跡はつけられないなとウソップは、今しがた自分のつけた朱色の跡をペロリと舐めた。
「んっ……」
  ピクンとサンジが身体を震わせるから、きっと感じているのだろう。
  ゆっくりと唇で、サンジの肌に触れた。
  まだ、ウソップには信じられなかった。年上で、自分と同じ男、それも自分じゃちょっとやそっとではかないそうにもない強い男が、自分の腕の中にいるのだ。甘えるようにこちらを見ては、もっともっととキスを強請る
  どうしようかと一瞬、ウソップは考える。
  それから、ちゅ、と音を立ててサンジの顎にキスをすると、器用な手つきでサンジの身体するりと撫でる。脇腹のあたりからはじまって、肋骨を撫であげた。胸の飾りにはわざと触れずに、鎖骨のあたりをそろそろと指の腹でなぞった。
「……慣れてるな」
  はぁ、と息を吐き出しながら、サンジが尋ねる。
「そうかぁ?」
  どこか楽しそうに、ウソップは返した。
「まさか……どこかで経験済みだとか?」
  さらにサンジが尋ねてくるのに、ウソップは心外だと言わんばかりの眼差しで睨み付ける。
「いくら俺でも怒るぞ」
  男も女も、ウソップは経験がない。キスも、セックスも、何もかもサンジが初めてなのだ。
「ああ、はいはい」
  自分から尋ねておいて投げやりにサンジは返した。
「んで、次は?」
  手や指や唇で身体のあちこちに触れてはいても、肝心なところにはなかなか触れようとしないウソップに、サンジは焦れたように唇をとがらせる。足で、ぐい、とウソップの腰を捕らえると、勢いよく首にしがみついていった。
「早く、来い。待ちくたびれた」
  二人の腹の間で、硬くなり始めた互いのものがぶつかり合った。



  ゆっくりと、ウソップの指がサンジの繁みを掻き分けていく。
  触れるか触れないかの角度でウソップの舌がサンジの乳首を掠めると、サンジの手はウソップの髪をギュッ、と掴んだ。
「触れよ、クソっ鼻」
  掠れた声で毒づくと、ウソップは顔を上げた。真剣な眼差しで、じっとサンジを見つめてくる。
「な……ん、だよ」
  上体を起こして後退ろうとしたサンジの腰に、ウソップはおもむろにしがみついた。
「オマエが言ったんだからな」
  少し怒ったように、ぶっきらぼうにウソップは告げる。
  わけのわからないサンジが見ている前で、ウソップの手がぐい、とサンジの両足を大きく開脚させた。
「止まんなくなっても、知らないからな!」
  まるで脅し文句のようだなと思いながら、サンジはニヤリと笑った。
「文句は言わねえよ。俺が、望んだことだからな」
  と、そう言いながらもサンジの手はウソップの頭を両手でしっかと掴み、自分の股間に押し付けていく。
「見ててやるから、舐めてみろ」
  優しい、低い声で命令すると、ウソップは躊躇いがちではあったが、サンジのペニスの先をチロリと舐めた。
「そう。そのまま、口に入れるんだ」
  言われたとおりにウソップは、ペニスの先端を口に含んだ。舌でペニスの裏側を舐めあげると、すでに硬くなっていたものがビクビクと震え、さらに硬度を増した。
「んっ……ぅ……」
  ウソップはちらりと目だけでサンジの様子を確認する。唇を噛み締め、声を洩らすまいと堪えているサンジが酷くストイックに見えた。
  口の中に含んだものを、口全体で強弱をつけて扱くと、サンジの手がさらにウソップの頭にしがみついてくる。
「はっ……」
  カクカクと立て膝にしたサンジの足が、揺れている。
  音を立てて先端を吸い上げると、サンジの膝の動きが一瞬止まり、それからシーツの上を滑って爪先をぐい、と反り返らせた。
「も、イきてぇ……」
  うわごとのようにサンジが呟くのを、ウソップは耳にした。
「もうちょっと待てよ」
  器用なウソップの指先がサンジの玉袋を揉みしだき、先端に滲み出た先走りの液を掬いあげる。
  お互いに初めてだからというのもあったが、ゆっくりと時間をかけて抱きたいとウソップは常々思っていた。大事な相手だから、傷付けたくなかった。それにもまして受ける側の負担を考えると、サンジが同じ男だとしても、自分の快楽だけを追って無茶をするようなことだけはしたくなかった。
  指の先をサンジの尻の挾間にさしこむと、慎重に深い穴を探ってみる。
  指の腹についたサンジの先走りをクニクニと穴になすりつけると、足を引き上げ、後ろを確認した。



「あ……ぁ……」
  ヒクヒクとサンジの尻の穴が収縮を繰り返している。
  指でぐい、と内側の皮膚を広げると、鮮やかなピンク色が見えた。
「綺麗だな、ここ」
  そう言った途端、自由なほうのサンジの足が、ウソップの肩口をしたたかに蹴った。
「余計なこと言ってんじゃねえ。それに、あんまり見るな。恥ずかしいだろ」
  そう言われて、サンジでも恥ずかしいと思うのかと、妙なところでウソップは感心した。いつも強引にスキンシップを求めてくる男が、今更恥ずかしいも何もないと思うのだが、それとこれとはまた別のものらしい。
  ウソップは、へへへ、と笑ってサンジの太股に唇を這わせた。チュ、チュ、と音を立てて太股を唇でなぞる一方で、指をサンジの中へと潜り込ませていく。痛くはないだろうか。不快に思ってはいないだろうか。そんなことを思いながらも、とうとう唇はサンジの玉の部分にたどり着き、ウソップは舌先で軽く転がしてやってから口に含んだ。
  サンジの中に入れた指をもぞもぞと動かしていると、髪をぐいぐいと引っ張られた。
「なんだよ」
  ようやく気分も乗ってきて、なんとかサンジを気持ちよくさせることに専念しはじめたところだったのにと、ウソップが顔を上げる。
「これ……使えよ」
  どこから取り出したのかローションを差し出し、サンジが言う。
「あ……ああ、わかった」
  拍子抜けしたような、気勢をそがれたような何とも言えない気分でウソップは、ローションを受け取ったのだった。



To be continued
(2007.8.6)



US ROOM