ローションを手に取ると、ウソップはサンジの尻にたらりと垂らした。ひんやりとした感覚に、サンジがブルッと身体を震わせる。
クチュクチュと音を立てながら、ウソップはローションを丁寧に塗り込めていく。
どうすればいいのかは何となく頭の中では理解していたが、今ひとつウソップは自信がなかった。時折、尻の窪みの皺を確認するように入り口に指をかけ、ゆるゆると穴の周辺をまさぐってみると、サンジは焦れたように身体をくねらせる。そのまま奥に指をつき入れると、痛いのか、唇を噛み締めて何かをこらえるような表情をしている。
ローションを受け取る前には張り詰めていたサンジのペニスが、ウソップの指が内壁を擦るタイミングに合わせ、ビクビクと震えていた。溢れ出した先走りが、竿を伝い、陰毛をべっとりと湿らせる。
「ウソップ……」
少し掠れた甘ったるい声が、ウソップを呼んでいる。
「入れろ」
ムードもへったくれもない直接的なサンジの言葉に、ウソップは眉をハの字に寄せた。
「いいから……入れろ」
もう一度言われて、ウソップは指を引き抜いた。内壁を圧迫するように指をグイン、と曲げ、引っ掻くようにしてスライドさせると、サンジは大きく腰を突き上げるような格好をした。
「あっ……ああっ……!」
クチュ、とローションの湿った音がした。
張り詰めたウソップのものは浅黒く、先走りでてらてらと光っていた。全体的に淡い色でほっそりとしたサンジのものとは、色も形も違っている。挿入前にもう一度だけ、ウソップは自分のものとサンジのものとを見比べた。これが……自分のこのグロテスクなものが、サンジの中に入るのだと思うと、身体の芯がゾクゾクとした。
「なに見てんだよ、クソっ鼻」
焦れたようにサンジの膝が、ウソップの腰にすり寄せられる。
その生々しい感覚に、ウソップはふと我に返ってしまった。
「……やっぱ、無理だ」
ふうぅ、と溜息を吐いて、ウソップはサンジを見る。
「無理だ、サンジ。俺には出来ねえ」
涙目でウソップは訴えた。
男同士だから出来ないのではない。サンジを傷付けてしまうだろう自分がいるから、出来ないのだ。
単なる触り合いなら、恐くはない。お互いに気持ちよくなって、満足できるだろう。だけど今からウソップがしようとしていることは、それだけではすまないはずだ。自分はともかく、サンジはきっと、気持ちいいだけではすまないだろう。たった今、そのことに気付いてしまった。舞い上がっていた気持ちのままだったなら、きっとサンジを傷付けていたはずだ。そのことを考えると、無性に自分が恐くなってしまう。
「ごめ……」
震える声で、ウソップが告げた。あっという間に顔から血の気が引いていき、ガタガタと身体を震わせはじめた。
これからという土壇場にきて、意思が砕けてしまったようだった。
「仕方のないヤツだな。まったく手間のかかるヤツだよ、オマエは」
サンジは爪先でウソップの肩口を軽く蹴る。そんなに力を入れて蹴ったわけではないのに、ウソップは後方へと倒れ込んだ。
「ビビってんじゃねえよ、鼻」
仰向けに倒れ込んだウソップの腹の上に、サンジはすかさず馬乗りになる。
「今夜は眠らせてやらねえから、覚悟しとけ」
や、まだ昼だから──とは、さすがのウソップもこの状態で口にすることはできなかった。
コクコクと頷き、ただサンジの体重を感じるばかりだった。
まな板に乗せられた魚よろしく、ウソップはサンジにいいようにされている。
半泣きの状態で「ごめんな、ごめんな」と繰り返すウソップの唇を、サンジは優しく吸った。
「もういいから、泣くな」
そう言ってサンジは、後ろ手にウソップの勃起したものに手を添えた。
サンジだって初めてではあったが、ウソップのようにこの行為に対する恐怖感は持っていなかった。それよりも、お互いの気持ちを改めて確認できるのだという期待のほうが勝っていた。
「動くなよ」
釘を刺してから、サンジはそろそろと腰をおろしていく。
この日のため、途中で何が起きても困らないよう、経験者からあらかじめ話を聞いておいてよかったとサンジは思った。それから、話を提供してくれたあの男はいったいどんな顔をしてこんなことをしているのだろうという野次馬根性的な興味がふっと頭の隅っこに浮かび上がってくる。
どうなのだろう──などと呑気に思いながらサンジは、ウソップのペニスの先っぽを、自分の尻の穴に押し付け、なすりつけた。
「ぁ──」
自ら体重をかけると、ズルリ、と身体の中に、肉を掻き分け入り込んでくる痛みと異物感が感じられた。
「あっ、くぅ……」
身体が揺らぐのに任せて、サンジは一気にウソップのものを身体の中に受け入れた。途端に腹の中にズン、と体積が満ちる。
「あ……サンジ……」
ウソップが手を伸ばして、サンジの脇腹に触れた。
「んっ……」
サンジが声をあげると同時に、尻の筋肉が締まり、ウソップのものを締め付ける。その質感や形が、サンジの中で微妙に形を変えることがわかった。
「ウソップ、手ぇ出せ」
そう言うとサンジは、ウソップの手を手繰り寄せ、自分の股間へと導いた。
「ここ、触って」
痛くなかったと言えば嘘になるが、この男の熱をこうして感じることができるのは嬉しかった。サンジは喉を鳴らしてゆっくり腰を蠢かせた。
一方のウソップも、一度サンジの中に挿入を果たしてしまうとようやく気持ちが定まったのか、遠慮のかけらも見せずにサンジの身体に触れてくる。
ウソップは、サンジのペニスを片手で扱いた。あいているほうのもう一方の手は、立て膝にしたサンジの足首を掴んで、自らの口元へと持っていく。
ペロリとサンジの足の指を舐めると、ペニスをキュッ、と締め付けられた。
「バ…カ……」
心持ち後方へ身体を傾けて、サンジが切なそうな表情をする。
ウソップは、サンジが身体を預けられるようにと両膝を立てた。太股がサンジの背に触れると、サンジはすぐにウソップの足にもたれかかってきた。
「そこっ、キモチよすぎ……」
はぁ、と息を吐きながら、サンジが口走る。
足の指の股が弱いのか、ウソップがチロチロと舌先で舐めると、それだけでサンジの息が乱れる。合間に、亀頭の部分を指の腹で優しく擦ってやる。先走りがニチャニチャと音を立て、ウソップはそれを尿道口に塗り込めるようにして指先でぐっと押した。
「ぅ……ああっ!」
くい、とサンジの足に力が入り、小刻みに揺れる。
「ぁ……──」
トロリと精液が溢れ出したと思った瞬間、ビクビクと竿を震わせながらサンジは射精した。
「やばっ……」
ウソップは慌てて腰を突き上げた。捕まえたサンジの足は自分の肩に担ぎ、ぎこちなくはあったが腰を上へ上へと突き出す。
「っ……ぁ……」
いやいやをするように、サンジが頭を振った。金髪がハラハラと凪いで、ウソップの目に残像を焼き付けていった。
奥へ……奥へ……直腸の最奥を目指して、ウソップは突き上げを繰り返す。
息も絶え絶えといった様子のサンジは、口を半開きにして目を閉じて、ウソップの足に後ろ手でしがみつくような格好をしている。
気持ちいいのだろうか? サンジは本当に感じてくれているのだろうか? そんなことを考えながらも、ウソップは突き上げを次第に激しく、早くしていった。
ふと目を開けると、部屋の中は薄暗かった。
開け放った窓の外には星が瞬いている。時折、涼しやかな風が入ってきては火照った肌を鎮めてくれる。
あれからどれぐらい時間が経ったのだろうか。
結局サンジは、ウソップの二度に渡る突き上げに耐えきれず、三回目でとうとう失神してしまった。
ウソップのほうは、三度目を終えた後にサンジの身繕いだの、自分のことだのでバタバタしていたため、眠りについたのは夜遅くになってからのことだった。
「ははっ……なんだよ、サンジ。今夜は眠らせてやらねえ、とか言っといて、自分が先にダウンしてるじゃん」
呟いて、ウソップは口元にニヤニヤと笑みを浮かべた。
まあ、いい。そのおかげでサンジの寝顔を至近距離で見ることができたのだからと、ウソップは鼻を鳴らす。
「ぐっすり眠れよ、サンジ」
恋人の耳元でそう囁いて、ウソップはもう一度目を閉じる。
朝まで、もう一眠りできそうだった。
END
(2007.8.8)
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