年下の恋人1

  仲間の目を盗んで逢い引きするのが簡単になった。
  サニー号の広さに慣れて仲間と鉢合わせをする機会が少なくなったことと、二年が過ぎて皆少しは大人になったことが原因だろうと思われる。
  キッチンカウンターの向こうで夜食を口に運ぶ年下の恋人へと、サンジはちらりと視線を向けた。
  今日はドレッドヘアーを後ろで一つに束ねた長鼻の恋人は最近、際どい大人のジョークにも平然と切り返すことができるようになってきた。それが正直なところ面白くなくて、サンジは小さく鼻を鳴らす。
  ウソップは何も気付かないのか、サンジが用意してくれた海鮮パスタを心ゆくまで味わうつもりらしい。イカリングとパプリカをつつき回す面持ちは、随分と神妙なものだ。
「足りるか?」
  声をかけると、ウソップは頬を緩めてサンジのほうへと顔を向けてくる。
「おう。充分だ」
  フォークを振り回し、嬉しそうに返してくる恋人の笑顔が愛しい。
  このところ忙しくて、ウソップとは軽いハグやキスを交わすだけの時間しか持つことができていない。水回りの片付けを手早く終わらせてしまうと、待ちに待った恋人との時間の始まりだ。カウンターを後にしたサンジは、恋人の元へとそそくさと足を運んだ。
  今日こそは、キスよりも先に進むのだ。
  この二年間、ずっと耐えてきた。恋人とは離れ離れで、たった一人で──厳密に言うと一人ではなかったが──修行に耐えてきた。男として、海賊としてさらに磨きをかけて仲間たちと再会した。
  二年前にはキスを交わすだけでおっかなびっくりだった恋人も、随分と成長したように見える。セックスのたびに緊張して真っ赤になっておどおどしていたあの、初な男はもういない。
「早く食っちまえよ」
  言いながらサンジは、ウソップの太股に片膝を乗せていく。
「食い終わったら、ご褒美の時間だ」
  流し目を送っても、ウソップがへこたれることはもうない。
「ふぅん」
  もったいぶった返事の後、年下の恋人はニヤリと男臭く笑い返してくる。
  悔し紛れに頭を傾けて素早くウソップの唇を奪うと、クリームソースの味がした。
「すぐに食っちまうから、待てよ」
  赤面することもなく、ごく自然にサンジの頬に指先で軽く触れると、ウソップは再び目の前のパスタと格闘しだした。



  ウソップが食べ終えたパスタの皿はそのままにして、キスをした。
  唇と唇を深く合わせると、クリームソースの味が口の中に広がる。夜食にクリームソースはいささか胃に重たかったかと気になるところだが、これからしっかりと運動をすればいいことだ。
  舌と舌とを絡めてちょっとした駆け引きを楽しむだけの余裕も、この年下の男はいつの間にか覚えたらしい。
  いったいどこで誰と、と気にならないでもなかったが、追求すればきりがないこともまた、サンジは理解している。適当に流して、適当に納得するのが一番だろう。
「ん……ん、ぅ……」
  恋人の頭を両腕で抱えて、深く深く唇を何度も合わせる。
「もっ、と……」
  離れていた二年分を埋めるぐらいの勢いで、執拗に舌を絡める。絡めた舌をきつく吸い上げると、男の手がそろり、とサンジの腰から尻へと回されていく。
  こういった性的なことに対して臆病だった年下の恋人が、自分の知らないところで手際よくできるようになったことが少し悔しい。できることならこの二年をウソップと一緒に過ごしたかった。二人でいろいろなことを経験して、ウソップが恋人としての知識を増やしていくところを、男として成長していくところを、この目で見たかった。
  クチュ、と音を立てて唾液ごと舌を吸い上げると、ウソップの手がサンジのシャツをたくし上げてきた。もそ、とシャツの下の肌に直接触れてきたかと思うと、スラックスの中に手を忍び込ませようとしてくる。
「直に触りてぇか?」
  意地悪く尋ねると、年下の恋人はサンジの唇をペロリと舐めてきた。
「触ってほしいんだろ?」
  自信満々にニヤリと笑われ、つい反射的にサンジは恋人の唇にかぷりと噛みついていく。
  気持ちを込めてやわやわと甘噛みを繰り返し、下唇を唾液でたっぷりと湿らせてやる。ペロリと舐めて、唇の端に残っていたクリームソースを舌で丹念になめとってやると、くすぐったいのかウソップは喉の奥で小さく笑った。
  その笑い方がやけに男臭くて、エロティックで、サンジはぞくりと体を震わせる。
  片手で自身のベルトの端を掴むと、すぐにウソップの手がバックルに触れてくる。
「なあ。ここですんのか?」
  お伺いを立ててくるところは昔と変わらないが、この余裕が何と憎らしい。
「さあ……どうすっかな」
  焦らすようにサンジが返すと、ウソップはゴクリと音を立てて、口の中にたまっていた唾を飲み込む。
  その様子を見て、やっぱり年下は可愛いとサンジは思う。
  バックルごとウソップの手を指の腹でするりとなぞり、気を持たせるようにしてゆっくりとベルトを外す。ついでスラックスの前を広げて、下着の中から自身の性器を掴み出した。
「……どうする?」
  さすがにこれにはウソップも参ってしまったらしい。
  一瞬で恋人の顔が真っ赤になっていく。
「やめとくか?」
  耳たぶも首筋も真っ赤にした年下の恋人は、ブンブンと首を横に大きく振る。
  言葉も出ないほど驚いた割には、ちゃっかりしている。
  まあ、そんなところも含めて全部好きなんだけどなと心の中で呟くとサンジは、男の頬に片手を添えてチュ、と音を立ててキスをした。
「邪魔が入らねえうちに、さっさとすましちまおうぜ」
  邪魔を入れるつもりもないし、さっさとすます気もないのに、さらりとそんなふうに言い捨てるとサンジは、シャツの前もボタンを外した。



  ウソップの膝に乗り上げ、キスをした。
  ゆっくりと唇を滑らせて唇からうなじにかけてを愛撫すると、男の手が繊細な動きでサンジの肌をなぞりあげてくる。指先でつん、と乳首を弾いたかと思うと、きゅっと摘ままれた。そのままクリクリと指の腹で擦られると、ジンとしたむず痒いような感じがして、その快感が下腹部へと熱を送り込んでくるのが感じられた。
「っ、あ……」
  覆いかぶさるような格好でウソップの唇をさらに深く貪ると、唾液ごと舌を吸われて腰がふるりと揺れた。
「うまくなったな」
  恋人の耳元に、サンジは囁きかけた。
  チュ、と音を立ててサンジの唇を吸い上げると、ウソップは満足そうな笑みを浮かべて恋人の性器に指を絡めていく。
「そりゃあ、二年もあったからな」
  二年もあれば、人はかわる。
  サンジ自身も多少はかわったから、ウソップの言いたいことはよくわかる。
  サンジは喉の奥で低く笑いながら恋人の手に身を委ねる。だけどリードするのはやっぱり自分でなければ気がすまない。ごつごつとしたてのひらに自身の性器を押し付けるようにして腰を揺らしながら、自身の唇を舌で湿らす。
「今日は、どんなふうにして気持ちよくしてくれるつもりなんだ?」
  男の手の中で、サンジの性器が硬く張りつめていく。ウソップのてのひらに竿をなすりつけると、ざらざらとした皮膚が擦れてジン、とサンジの下腹が熱くなる。
「このまま、ここで……」
  上擦って掠れた声が、サンジの耳をくすぐる。
「……犯してぇ」
  熱い吐息といっしょに耳の中に吹き込まれた言葉が、サンジの背筋を駆け抜ける。
「俺を満足させてくれるんだろうな。ああ?」
  小刻みに腰を揺らしながらサンジが尋ねるのに、ウソップは掠れた笑いを返した。
「上に……乗れよ、サンジ」
  片手でサンジの腰を掴むとウソップは、自分のほうへと引き寄せる。
「乗って、どうすればいい? お前が動いてくれるのか? それとも、俺が……」
  サンジがまだ喋っている最中に、ウソップは年上の恋人を軽く睨み付けた。
「いいから乗れっての」
  言葉遊びはもうおしまいとばかりにウソップは、性急にサンジの体を引き寄せる。開いているほうの手でウソップは自身のバックルを緩め、下着の中から硬く勃ちあがり始めた性器を取り出した。軽く扱いただけで先端にトロリとした先走りが滲み上がるのが見えて、サンジは口の中にわいてきた唾をゴクリと嚥下した。
  素早くスラックスを床に落とすと狭いスツールの端のほう、ちょうどウソップの股の間にサンジは片膝をついた。思わせぶりに自らの性器を年下の恋人の腹に押し付けながら、向き合ったままの体勢でゆっくりと太腿を跨ぐ。
「このまま乗ってもいいよな?」
  確かめるように呟くと、器用に腰を浮かせてウソップの竿を後ろ手に掴む。
「動くなよ」
  どこかしら楽しそうにサンジは、浮かせたままにしていた腰を下ろしていく。
  慣らしていない後孔に、慌ててウソップが指をひっかけてきた。
「ばっ……馬鹿サンジ、慣らしてからにしろって」
  襞の縁に指をひっかけると、ウソップはグニグニと人差し指を差し込もうとする。
「ぁ……」
  節くれだった男の指に、サンジの後孔がきゅっと窄まる。
「アホか、てめぇは。これから慣らすんだよ」
  ぶっきらぼうに言い捨てるとサンジは、ウソップの竿の先端を自らの後孔に押し当て、擦り付けるように尻を揺らした。
「ん……んっ、ぁ……」
  時折、クチュ、と湿った音がするのはウソップの先走りが立てる音だ。
  腰を揺らしながら時間をかけてサンジは、ウソップの竿を飲み込もうとする。慣らしていないから痛いわけがないのだが、それでも逸る気持ちを抑えることはできなかった。



(H26.10.17)



        


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