LOVE IS 2−3

  エースとルフィの兄弟がバラティエに亡命してきたのは確か、サンジが十二、三歳の頃のことだ。
  当時のバラティエは美しい緑に囲まれており、宮廷は華やかだった。
  まだ、先代の補佐官が健在で、子どもたちは朝早くから日が暮れるまで、領内を気ままに馬で駆け回って遊ぶことができた。
  あの頃のサンジは、年上のエースに惹かれていた。
  フーシャの戦乱を生き延びてきたエースは、サンジの知らない世界を知っていた。
  人々が争う中で、どうやって自分の命を守るのか、どうすれば穏やかな時間を手に入れることができるのか、エースは知っていた。
  宮廷でぬくぬくと育った自分に比べると、体格も歳もずっと大人の男に近いエースに、サンジは憧れていた。
  今から考えると、あれは恋愛感情とは違うものだったと、サンジは思う。
  あの頃の自分は、自分よりも大人に近いところに立っているエースに憧れていたのだ。もしもそれがルフィだったとしても、或いは他の誰かだったとしても、サンジは惹かれていただろう。
  一日でも早く大人の顔をしてゼフ王の隣に立ちたいと、そんなふうにサンジは思っていたのだ。
  だから、自分よりも大人に近いところにいるエースに惹かれた。
  だから、エースがフーシャに戻っていった後で、新しくやってきた王の補佐官に惹かれたのだろう。
  そうだ。
  自分は、早く大人になりたいといつも思っていた。
  ゼフ王と肩を並べ、対等に渡り合いたいと思っていたのかもしれない。
  それだけ深く、サンジはバラティエを愛していた。
  自分が産まれ育った故郷のために、一日も早くゼフ王のような立派な王となり、国を治めたいと思っていたのだ。
  すべては、バラティエのため。
  大人になることがすべてなのだと、あの頃のサンジはそう信じていたのかもしれない。



  フーシャの戦乱が終息に向かいだすと、途端にエースは落ち着きがなくなっていった。
  その頃にはエースはすっかり若者になっており、サンジやルフィの体格とは明らかに違う体格をしていた。声変わりもまだのルフィとは比べものにならないぐらいに逞しく、見ていて惚れ惚れするほどだった。
  宮廷に出入りする娘たちの視線はこれまで以上にエースに注がれ、それがサンジには何となく面白くなかった。
  乳臭さの残るルフィと遊ぶよりもサンジは、年上のエースと一緒にいることを好んだ。
  二人でこっそりと宮廷の中でも使われていない部屋に行っては、いつまででも話をした。
  フーシャの話や、シャンクスのこと、これからのことをエースが語る時、その瞳はきらきらと煌めいた。いつかルフィを連れてフーシャに戻り、シャンクスの手助けをしたいと言ったエースが、サンジには羨ましかった。
  エースと同じようにサンジも、ゼフの隣で手助けをしたいと思っている。それなのに自分は、まだまだ幼い。エースのように逞しい体もなく、立ち居振る舞いにも幼さが残る。
  いつになったらゼフ王の隣に立つことができるのだろうかと、サンジはこっそりと溜息を吐いたものだ。
  それからしばらくして、ベックマンがバラティエにやってきた。
  エースとルフィの二人をフーシャに連れて帰るために来たのだ。
  別れの前日に、サンジは初めて、エースと深いキスを交わした。
  最初は、単なる好奇心からだった。それまでにもキスを交わしたことはあったが、いつも唇に触れるだけの軽いものばかりだった。
  生まれて初めてサンジは、他人の舌を自分の口の中に招き入れた。
  不思議な感じがした。
  自分のものではない舌が、まるで生き物のようにうにうにと口の中を蠢く。舌を吸い上げられると、おおよそ自分のものとは思えないような鼻にかかった甘ったるい声が洩れて、恥ずかしかった。
  バラティエで過ごした中で、初めてのスリリングな体験だった。
  誰にも見つからないようにいつもの使われていない部屋に行き、キスをした。
  キスの合間にエースの手がサンジの体をまさぐり、するりと下衣の中に潜り込んでくるのを感じた。
  それでもサンジが抵抗しなかったのは、エースに対して好意を持っていたからだ。
「自分で、触ったことは?」
  耳元で、エースが問いかける。
  サンジが首を横に振ると、エースは喉を鳴らして笑った。
「ここを触ると、気持ちよくなるんだぜ」
  どこでそんな知識を仕入れてきたのか、エースの手は、下着の布越しにサンジの性器をやわやわと握りしめている。最近のエースは、バラティエの兵士たちとよく一緒に行動を共にしていた。もしかしたら、彼らから仕入れてきた知識かもしれないと、頭の隅でサンジは冷静に考える。
「んっ、ぁ……」
  硬く張り詰めた前が、熱かった。
  もぞもぞとサンジが体を揺すると、ぐい、と引き寄せられ、エースの膝の間に座らされた。



  向き合った姿勢で、前をエースに触られた。
  困ったようにサンジが視線を明後日の方に向けると、頬にくちづけられた。
「こういうの、初めて?」
  掠れた声で尋ねられる。
  頷くと、エースの手は下着の内側に滑り込み、直接、サンジの性器に触れてきた。
「エースっ……」
  制止の言葉は、出てこなかった。
  憧れの対象であるエースの行為を、拒むことができなかったのだ。
  そのままエースにしがみくと、今度は髪にくちづけられた。
「エース……痛いって……」
  向き合って座る二人の腹の間で、サンジのペニスがヒクヒクと震えている。張り詰めた竿が辛いのか、サンジは今にも泣き出しそうな表情をしている。
「痛くねえって」
  そう言うと、エースは自分の指をペロリと舐めた。
  ピチャピチャとしばらく自分の指を舐めていたエースだったが、唾液が滴るほどに手が濡れたところでサンジのペニスに触れた。
「ん、ん……」
  やってくる痛みを予測してサンジが目を閉じる。
「大丈夫だって言ってるだろ」
  やや乱暴に告げるとエースは、サンジの亀頭を指の腹でなぞった。唾液で濡れた指がビロードのような感触の亀頭を擦りあげると、サンジの腰がビクン、と大きく引けた。
「ほら、痛くないだろう?」
  ニヤリと笑ってエースが言う。頬を赤くしてサンジは、エースの手元に視線をやった。
  まだ幼さの残る性器は、ヒクヒクとひくついていた。集まってきた熱をどうにかしたくて、今にも爆ぜてしまいそうな様子だ。
「も、やめろよ、エース」
  半べそをかきながらサンジが訴えると、エースは躊躇うことなく自分の下衣の前を開けた。
「ほら、俺も一緒だ……」
  だから恥ずかしくはないだろう? と、眼差しで尋ねる。
  伏し目がちに視線を落としながらもサンジは、微かに震える手でエースのペニスにそっと触れた。


  サンジの手が、エースの性器を握りしめた。
  濃い陰毛の中で勃起した性器は、もしかしたら大人のものとそうかわらないかもしれない。サンジのお粗末な性器とは比べものにならないほど張り詰めたペニスはてらてらと黒光りしている。先端の割れ目に滲ませた乳白色の汁が青臭いきついにおいを放っており、サンジはおそるおそる亀頭のあたりを指の腹でなぞった。
  竿は、ビクン、と大きく震えると、先端にじんわりと新たな精液を滲み出させる。
「痛くないのか?」
  上擦った声でサンジが尋ねると、エースはニヤリと口の端をつりあげて笑った。
「サンジが触ってくれてるから、気持ちいいよ」
  さらりとそんなことを言われ、サンジはますます顔を赤らめた。
  顔を背けて俯くサンジの耳元に、エースが唇を寄せた。
「俺もルフィも明日にはここを発つから……だからその前に、どうしてもサンジを抱きたかったんだ」
  鼻にかかった甘い声で囁かれ、反射的にサンジは顔を上げた。
「やっぱり、明日なのか?」
  ベックマンが迎えにやってきた時から、薄々気付いてはいた。
  フーシャでの混乱が落ち着きを取り戻しつつある今、エースとルフィの二人が故郷に戻らないはずがないと思っていた。二人ともまだ子どもだったが、子どもなりにシャンクスと共に戦いたいと常々口にしていた。フーシャを守るために、いつまでも子どもではいられないのだとエースが告げたことを、サンジははっきりと覚えている。
「明日だ」
  低く、そしてはっきりとした声で、エースが答えた。
「もうこれ以上、出発の日を延ばすことはではない。だから…──」
  そう言われると、サンジには何も返すことができなくなる。
  エースの言葉を奪い取るように、サンジは唇を合わせていった。
  ぎこちないくちづけをすると、必死になって手を動かした。
  エースとの、甘くつたない思い出を忘れることがないように。
  夢中になって幼い二人は抱き合った。



  目を開けると、暗がりの中で男が眠っていた。
  ゾロだ。豪快に鼾をかいている。
  自分が夢を見ていたのだということに気付いたサンジは、ほうっと小さな溜息を吐いた。
  ひどく喉が渇いていた。
  これまでにもエースの夢を見ることはあったが、初めて抱き合った時の夢を見ることは、これまでにはなかった。
  エースが触れた唇に、そっと指をおしあてる。
  バラティエからフーシャへの道中、エースに助けられた時にもキスをされた。
  ゾロとのキスとはまた違った、優しいキスだった。
  フーシャでの再会を約束したエースだったが、サンジはまだ一度もエースとは会っていない。どうやらすれ違いが続いているらしく、なかなか会うことができないでいる。
  エースに会いたいと思うのは、怪我をしたと聞いたからだ。
  そうでなければサンジは、ゾロと一緒にいることのほうが気楽だった。それはもしかしたら、彼にだけはバラティエでのサンジの姿を知られているからかもしれない。
  軟禁状態の宮廷の中で、サンジが何をされていたのか詳しく知る者は、ゾロだけだ。
  何もかもを知られているというある種の諦めにも似たような気持ちからサンジは、ゾロに対して隠し事をすることはなかった。しかし、他の人間に対してはどこか距離を取っているような節があり、サンジ自身は気付いていなかったが、それがゾロの目下のところの気がかりでもあった。
「エース……」
  掠れた声で、サンジが呟く。
  寝返りをうった男が、ごろりと向きを変え、サンジの方へと顔を向ける。
  慌ててサンジは、ベッドに潜り直した。
  男の体温を求めて体をそっと寄せると、眠ったままのゾロの手がごく自然にサンジの体に回された。
「そう、心配するな」
  不意に、耳元でゾロが囁いた。
  眠っているとばかり思っていたのに、いつからこの男は起きていたのだろうか。
  驚いてサンジは、男の顔を見た。暗闇の中では輪郭さえもぼんやりとして、全体像を捉えにくい。
「大丈夫だから、お前がそんなに気にするな」
  そう言ってゾロは、サンジの体をぎゅっと抱きしめた。



To be continued
(2008.11.18)



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