グチュッ、グチュッ、と湿った音が足の間でしている。
シンドバッドの指と、舌が、ジャーファルの後孔を犯している。
節くれ立った指は執拗に内壁を擦り上げ、もうすっかり暴かれてしまっているジャーファルの弱いところを何度もなぞっていく。舌は、後孔からするりと移動してジャーファルのほっそりとした竿をぱくりと口に銜えた。先端を舐めしゃぶり、竿全体を口角をきゅっと締めて扱かれる。
腹筋がヒクヒクとなって、ジャーファルの腰のあたりに溜まった熱の塊が、解放を求めて血管の中を駆け巡っている。体が熱い。
「あ…あ……シン……シンドバッド……」
男の髪に指を差し込んで、思うまま掻き乱した。頭を股に押し付け、少しでも気持ちがいいようにと腰を揺らすと、竿を銜えたまま男が低く喉を鳴らすのが感じられた。
「ん、……っふ」
このままイってしまいそうだ。ジャーファルは男の髪を引っ張り、顔を上げさせた。いくら気持ちいいからといって、主の口の中に放ってしまうのはどうだろう。
「シン、私にもあなたのを舐めさせてください」
四つん這いになってシンドバッドのものを舐めようと起きあがりかけたところで、ぐるん、と体をひっくり返された。
元の仰向けの姿勢をずらして横になると、シンドバッドのペニスがジャーファルの鼻先にぐい、と押し付けられる。少し乱暴なそのやり方は、まるで年端のいかない子どもがむずかる仕草のようにも思えて、ジャーファルは呆れながらもシンドバッドの性器を口に銜える。
「んぁ、む……」
エラの張ったシンドバッドのものは大きくて、浅黒い色をしていた。先走りは濃く、青臭いえぐみがあって、何度飲まされてもこの味に慣れることはないだろうとジャーファルは思っている。だが、それでもジャーファルはこれを飲むのが好きだ。濃くきついにおいの精液を口の中に出され、飲み干す時のゾクゾクとする感じは何ものにも変えられない。きっと自分はどうかしているのだ。こんなものをおいしそうに飲み干すだなんて、ただの淫乱だろうとジャーファルは思う。
唾液をたっぷりと絡めて竿を舐めると、チュバッ、と音がして恥ずかしい。それでも口に入りきらないほと大きなものを舐めしゃぶっていると、ジャーファルの下肢に触れるか触れないほど微かなシンドバッドの指先が、ゆっくりと肌を這い回りだすのが感じられる。
互いに相手のものに舌を這わせて、必死になって舐めしゃぶっている。どうしてこうも必死になる必要があるのだろうか? これは別に、男女の愛の睦み合いではない。単なる性欲処理の手段でしかないというのに、ここまで相手に気を遣う必要があるのだろうか?
舐め上げた竿の先端、鈴口の窪みに溜まった先走りを舌先で掬い上げ、ジュルリと吸い上げると、竿の側面がピクピクと震えるのが感じられる。熱くて、濃い精液を口の中にたっぷりと注がれたい。さらに気を入れて竿をねぶっていると、下肢のほうに顔を向けているシンドバッドが悪戯をしかけてくる。
ジャーファルの淡い陰毛に指を絡め、玉袋を口に含んだシンドバッドの指が、後孔の浅いところをグリグリと擦り上げてくる。クチュン、と後孔が湿った音を立てるのが恥ずかしい。
「ん……く、ふぁ……ぁっ」
太股の筋肉がピクピクとなり、ジャーファルの腹筋が震える。
「ゃ……」
尻に力を入れると、前への刺激がいっそう強くなったように感じられ、ジャーファルはシンドバッドのものを銜えたまま、啜り泣くようにして呼吸を繰り返す。
「んんっ……」
腹の底で渦巻いていた熱塊が、暴れている。熱くて、気持ちよくて、もう、何も考えられない。
口元を涎とシンドバッドの先走りでベタベタにしたままジャーファルは、快感につま先をシーツに押し付け、滑らせる。ピリピリと痺れるような快感が全身に広がっては腹の中の熱塊へと集まってくる。
「ん、ふ……ぁ!」
不意に、足がシーツを大きく蹴った。
「あ、ぁ……」
銜えていたシンドバッドのものが口から外れ、ブルン、とジャーファルの頬を打つ。シンドバッドはジャーファルのものを銜えたまま、面白そうに目を細める。
それにも気付かずにジャーファルは、シンドバッドの口の中に自分のものを放っていた。
白い体がシーツの上で快感に捩れ、震えている。
シンドバッドの口の中に放出された熱の塊は、トロリとした甘露のようだった。さっき、蜜のにおいがすると言ったが、それよりも夕飯の時に口にした果汁で割ったアラックのようだと訂正しながらシンドバッドは、丁寧にそれを嚥下していく。すべて飲み干すと、今度はジャーファルの先端の窪みに溜まった精液を吸い上げ、仕上げとばかりに尿道口に舌をねじ込み、残っていた精液をすべて啜り取ってしまった。
ビクビクと白い体を震わせて悦楽に浸る青年の額に、シンドバッドは唇を落とす。鼻先に散るそばかすが愛しくてたまらない。そのひとつひとつにくちづけていると、鬱陶しそうにジャーファルの手がそれを払い除けようとする。
「キスぐらいさせてくれ」
耳元に囁きかけると、首の後ろを掴まれ、ぐい、と引き寄せられた。
睨み付けてくる眼差しは艶めかしく、いつまでも見つめていたいような気分にさせられる。水を思わせる碧い瞳は光の加減で孔雀の羽のように鮮やかな若葉の色にも、澄み渡る空の色にも変化して、人を魅了する。
「嫌です」
精液を飲んだあなたとキスをするなんてと正直に白状するものだから、シンドバッドは敢えてその可愛げのない唇を自分の唇で塞ぎ、まだ少し精液のにおいが残る唾液をジャーファルの口の中へと送り込んでやった。好きな子ほど虐めたいという、あの心境だ。
「ん、う……ぅ……」
ドン、と胸を拳で叩かれ、それでも唇を合わせたままでいると、とうとう唇に噛み付かれてしまった。ガリ、という生々しい音がして、血の味が口の中に広がっていく。
「あ……あなたという人は……」
口の端から唾液をたらりと零しながらジャーファルは主をなじった。信じられない。精液を飲んだ口で、くちづけてくるだなんて。主とは何度も寝ているが、どちらかが相手の精液を飲んだ後にくちづけを交わすことは意識してしないようにしていたと思う。どんなに乱暴なことをされても、ジャーファルが覚えている限り、そういったことをしたことはない。
「お前の精液は、アラックのように濃い味がしていたぞ」
笑いながらしれっと男が言うものだから、ジャーファルは顔を真っ赤にしてぷい、と横を向いてしまう。なんて恥ずかしいことをと思うと同時に、平気な顔をして人の精液を飲んでしまうこの男も、自分と同じ気持ちでいてくれるのだろうか、と考える。もしそうだとしたら、これほど嬉しいことはない。性欲処理のための行為だと割り切りつつも時々ジャーファルは、この男に愛されることを望んでしまう。高望みをしているということはわかっている。相手は自分の主で、一国の王だ。片や自分は……と考えると、どうにも思考が後ろ向きになってしまい、ともすると落ち込んでしまうこともしばしばある。
ジャーファルが静かになったことでシンドバッドは先へ進める気になったのか、白い肢体を抱き寄せ、自分の膝の上に跨らせる。
「悪いな。まだ酔いが抜けきっていないようだから、このまま上に乗ってくれ」
自分よりも華奢な白い体を抱きしめてそうねだると、ジャーファルは嫌そうに顔をしかめた。
「私は、酔っぱらいの相手をするためにここへ引き込まれたのでしょうか」
本音を言うなら、それでも構わないとジャーファルは思っている。性欲処理の対象として、もっともお手軽な相手に自分を選んでもらったのだ。光栄だと思いこそすれ、卑下するようなことは決してない。だが、気持ちはどうだろう。自分の気持ちはおそらく、もうずっと長いことシンドバッドに向いている。恋愛感情とは少し違うような気もするが、この人こそ自分にとってのただ一人の主と決めた時から、彼に対する愛情のようなものを胸の片隅に持っていたような気がする。
だが、彼はどうなのだろう。シンドバッドにしてみれば、自分は大勢いる部下の一人、性欲処理の相手の一人にすぎないのだろうか?
もしそうだったら、悲しすぎる。自分の立場も、想いも、それでは報われそうにない。
「違うぞ。俺の相手をするために、俺の側にいるんだ」
そう言って男はジャーファルの腰に腕を回し、尻を持ち上げさせる。
男の言葉の意味がどうとでもとれることが、悔しい。ジャーファルはうつむいて唇を噛み締めると、男の肩口に額を押し付けた。
後孔に押し付けられるものの熱さに、ジャーファルは体を一瞬、緊張させた。
熱くて、固い……ついさっきまでジャーファルが口の中でもてあそんでいた肉棒が、今度はジャーファルの体の中を穿つため、窄まりの入口を行ったり来たりしている。先走りが襞の隙間に塗り込められ、グチュグチュと音を立てている。
男の筋肉質な肩に腕を回し、心の準備をする。
「……いいですよ。挿れてください」
ごくごく事務的に何でもないふうを装って告げると、シンドバッドはフッ、と小さく笑った。その笑いは、何を意味しているのだろうか。考えようとしたがしかし、それよりも素早く、シンドバッドの性器がジャーファルの後孔を押し開き、勢いよく襞を擦り上げていく。
「あぁ……」
ズッ、ズッ、と固いものが内壁を満たしながら、奥へ奥へと侵入してくる。
体を開かれる瞬間の痛みに、思わずジャーファルは男の肩に爪を立てた。
「っ……く、ぅ……」
痛みと、男の吐息と、汗と、香炉から立ち上る重たい煙に、ジャーファルは頭痛を感じた。首を左右に振り、男の肩から背中にかけてを何度も引っ掻くことで、たった今、自分が感じているすべての痛みをやり過ごそうとする。
「い……っ」
痛い、と叫び出しそうになるのをぐっと堪えて、自らシンドバッドの竿の上に腰を落とした。すでに飲み込んでいたものを、体の奥深くへと誘うために。めりめりと音を立てて、体が引き裂かれるような感じがする。そんなはずはない。シンドバッドとは何度も抱き合っているし、もっと無茶な抱かれ方をしたこともある。大丈夫だと自分を叱咤し、いつになく強引に腰を蠢かす。
「あ、あ……ぁぁ!」
脂汗がこめかみを伝い、目尻に涙が浮かんでもジャーファルは、自ら進んで甘い責め苦を享受する。か細い声を上げながらもジャーファルは、根本まで男のものを体の中に納めてしまった。
「潔いな、お前は」
こめかみに唇を寄せたシンドバッドは、浮き上がった汗の粒を舌でべろりとねぶり取る。それがくすぐったくて、少しだけ嬉しくて、ジャーファルはようやくはあ、と大きく息を吐き出すことができたのだった。
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