戯れ1

  審神者に夜の伽を言いつけられた。
  滅多なことではそういったことで刀剣男士たちを困らせることのない審神者だったが、一期一振には弱味があった。
  前に、大倶利伽羅との関係を審神者に知られてしまったのだ。
  以来、何かにつけて審神者からは性的な悪戯を仕掛けられている。
  今夜もおそらくそうなのだろうと一期一振は、肩を落として審神者の部屋へと足を運ぶ。
  審神者のことは主として尊敬しているし、それなりに好意を持ってもいる。
  だが、それと伽を言いつけられることとはまた別なのだ。
  部屋の前に立つと一期一振は、覇気のないぼそぼそとした声をかけた。
  すぐに中から審神者の待ちかねたような声が「お入り」と返ってくる。
  重苦しいため息をひとつつくと一期一振は、のろのろと襖を引いた。
  部屋の中は薄暗かった。
  部屋の隅に灯されたあかりは薄暗く、どうにか人影が判別できる程度だ。
「主……?」
  てっきり蚊帳の中で横になっているのかと思っていたが、そうではなかった。
「来てくれて嬉しいよ、一期」
  耳元で声がして、ドキリとする。
  後退ろうとすると、素早く手が伸びてきて一期一振の体を抱きしめてくる。
「あ、主……あのっ……」
  一期一振の鼻先をくすぐっていくのは、焚き染めた香のにおいだ。少し甘ったるいようなかおりがしている。
「今夜は、一期に楽しんでもらえるように趣向を凝らしてみたんだよ」
  間近にかかる審神者の吐息は酒臭かった。酔っているのかと顔を見れば、ニヤニヤといやらしい下卑た笑いを返された。
「ほら、おいで」
  主に背後から抱きすくめられたまま、一期一振は蚊帳の中へと連れ込まれた。
  褥にはすでに誰かが寝ているようだった。部屋に入ってきた時に審神者が休んでいるように思ったのは、気のせいではなかったのだ。別の誰かが寝ているとは思わなかったから、一期一振はてっきり審神者が休んでるのかと思ったのだ。
 着ているものを素早く脱がされ、裸のままで一期一振は褥に横たえられた。
 浴衣姿の主は、ニヤニヤと笑いながら一期一振の体をくるっとひっくり返した。
 すぐそばで休んでいる誰かは、よく眠っているようだった。ほんのりと、酒のにおいがしている。もしかしたら、審神者と飲んでいて眠ってしまったのかもしれない。
「一期、ここに四つん這いになるんだよ」
 言いながら審神者の手が、一期一振の尻をぎゅっと掴んだ。
 ヒッ、と一期一振の喉が鳴る。
「四つん這いになって、力を抜くんだ」
 そう言うと審神者は、丁子油を用意する。刀剣男士たちを手入れする時に使うものだが、夜伽の時にも使われることがある。今夜はこれを使うらしい。
 一期一振は項垂れ、四つん這いになった。
 自ら進んで足を開くわけではない。好んでこういった行為をするのではない。尊敬する主君ではあっても、自分が肌を重ねたいと思うのは審神者ではないと、一期一振は唇を噛み締める。
 そんなことは露ほども気付かない審神者は、手に取った丁子油を一期一振の尻に塗りこめていく。
 つぷ、と指が一期一振の窄まった部分に押し込まれ、内壁をぐにぐにと確かめるように押し返す。
「……ん」
 はっ、と一期一振の唇から息が零れた。
「うん、やっぱり締まりがいいね、一期は」
 呟きながら審神者は、一期一振の太腿に唇を押し付けてきた。ちゅ、と音を立てて肌を吸い上げられ、一期一振の腰がわずかに揺れる。
「声は出しなさい。ちゃんと私にも聞こえるように」
 そう言って審神者は、一期一振の窄まりに突き立てた指でぐりぐりと中を掻き混ぜた。丁子油がぐちゅぐちゅと湿った音を立てる。その卑猥な淫音に一期一振は、思わず声を上げていた。
「ん、あ……あ……」
 床についた手で敷布をぎゅっと握り締めて、少しでも審神者の指から逃れようと腰を動かす。
「色気のない声だが……まあ、いいか」
 呆れ声でそう呟くと審神者は、一期一振の中から指を引き抜く。ずるずると指が引きずり出される瞬間に、ちゅぽっ、といやらしい音が響く。
「おや。いい音が出たな」
 指のかわりにすぐに審神者は、硬くて太い屹立を押し当ててくる。
 男ばかりの本丸で性欲を解消しようとすれば、刀剣男士たちが交代で伽を務めるしかないことはわかっている。望まないことでも、日々の内番のひとつと思えばまだ我慢をすることもできた。
 だが、正直なところやはり一期一振にはできるような気がしなかった。
 自分はすでに大倶利伽羅と気持ちを添い遂げている。何度も肌を合わせて、互いの気持ちを確かめあった。
 それなのに、こんなふうにして別の男に体をいいように弄ばれるのは、大倶利伽羅を裏切っているような気がしてならない。
 何度もこれは義務だ、務めなのだと自分に言い聞かせても、どうにも納得することができないのだ。
「ぅ、あ……」
 ぎち、と一期一振の窄まりが大きく広げられた。審神者の竿が尻に押し込まれ、ぐりぐりと中を擦り上げてくる。
「や……」
 審神者の竿は大きかった。
 あまり慣らしていないからかもしれないが、硬くて大きくて、そして気持ち悪かった。
 先端はすでにぬるぬるとしていて、それがために一期一振の体は易々と審神者の性器を飲み込んでいく。それすらも吐き気がするほどおぞましく感じられて、一期一振はすぐそばで休んでいる誰かのほうへと思わず手を伸ばしていた。
「あ……あぁ……」
 喉の奥から呻くような声が出た。
 ヒクっ、と体を震わせると、さらに深いところへと竿が押し込まれていく。
「主……主っ……」
 やめてくださいと懇願しそうになり、慌てて一期一振は唇を噛み締めた。
 これは、自分に課せられた義務なのだ。務めを果たせない臣下は、審神者のそばにいる資格などない。そんなことになったら、自分は大倶利伽羅と一緒にいることもできなくなってしまうだろう。
「あ、あ……」
 内臓がせり上がってくるような感覚がして、一期一振は軽くえずいた。
 上体がかくん、と褥に沈み込み、敷布の上を滑った指が休んでいる誰かの着物の裾に触れた。



 主の硬い竿で、一期一振は何度も中を突き上げられた。
 浅いところをぐちゅぐちゅと音を立てながら掻き混ぜたかと思うと、腰骨がぶつかるほど奥深いところを目がけて勢いよく竿を押し込まれ、一期一振は息も絶え絶えだった。
 しがみついた着物の裾を頼りに、肘で誰かのほうへと這い寄ろうとする。
 誰だか知らないが、この者が起きてくれればあるいは、主は一期一振を褥から追い出してくれるかもしれないと思ったのだ。
 規則正しく律動を刻む主の突き上げの合間に、一期一振は何とかして逃げを打とうとする。
「やっ……も……お赦しください、主……」
 掠れた声でそう口走りながら一期一振は、無意識のうちに指先に絡まった着物の裾を引いていた。
 指がひっかかってくい、と引っ張った瞬間に、休んでいた誰かが目を覚ました。
「ん?」
 低い声がして、影が起き上がろうとする。
 主と一期一振の痴態に気付いたのか、ぎょっとして影が動きを止めるのが分かった。
「あ、あぁ……!」
 咄嗟に、一期一振の口から甘い嬌声が洩れた。
 審神者の手が前へ回され、それまで半勃ちだった一期一振の性器を強く扱かれて、思わず声があがってしまったのだ。
「……一期一振か?」
 怪訝そうに暗がりの中で誰かが尋ねかけてくる。
 大倶利伽羅の声だということは、すぐにわかった。
「おや、目が覚めたのか、大倶利伽羅」
 楽しそうに審神者が声をかけた。
「どうだい、ゆっくり休めただろう? 私のとっておきの酒なんだよ、あれは」
 酒臭い息が、一期一振の首筋にかかる。
 暗がりの中ではあったが、どうやら大倶利伽羅は自分の置かれている状況に気付いたらしい。
 自分が審神者の褥で寝入ってしまっていたこと、そして一期一振が伽の相手として審神者に尻を差し出していることを、彼は即座に理解したようだった。
「一期一振……あんたが伽の相手だったのか」
 邪魔をして悪かったなと言うと大倶利伽羅は、一期一振から離れようとした。
「待っ……ちがっ……」
 慌てて大倶利伽羅の手を掴もうと一期一振が腕を伸ばした。しかしそれよりも先に審神者の手が一期一振の腕を掴み上げる。
「大倶利伽羅、退出しなくていい。そこで休んでなさい」
 まだ酒が抜けていないだろう? と、猫なで声で審神者が声をかける。
 そうしながらも審神者は腰を動かし、一期一振の中を突き上げ、擦り上げている。
「一期一振も、私と戯れている姿を君に見てもらいたいと思っているようだからね」
 ねっとりとしたいやらしい声で、審神者はそう言った。
「……戯れ?」
 怪訝そうに大倶利伽羅が尋ねると、審神者は喉の奥で低く笑った。
「そうだ。この、普段は澄ました清廉潔白な一期一振がどんなにいやらしい姿で私を虜にしたのか、見ていくといい」
 どうせ酒の酔いも醒めてないのだろう、と審神者は意地悪く笑う。
「やめ……やめて、ください……」
 掠れる声で一期一振が懇願した。
 夜伽を務めることを大倶利伽羅に知られただけでも辛いのに、これ以上審神者は、自分に何をさせようと言うのだ。一期一振は顔を上げると、背後の主を振り返った。
「このような姿を、部外者に見られるのは嫌です」
 義務だから……務めだから嫌だろうが何だろうが果たさなければならないと思って伽の相手を務めているだけだ。それ以下でもそれ以上でもない。一期一振は暗がりの中で審神者を睨み付けた。
 腰を動かしていた審神者の動きが、不意に止まった。
「……そうか、わかった」
 呟くと、審神者は一期一振の中から竿を引き抜いた。
 自身の乱れた浴衣を軽く直してから四つん這いになっていた一期一振を起き上がらせ、その白い肩口にやんわりと噛みつく。
「当事者に見られるのなら、構わないのだな」
 感情のない冷たい声で、審神者はそう尋ねた。



1     (2015.8.19)


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