戯れ2

「……お戯れを」
 一期一振は顔を引き攣らせて呟いた。
 何やら嫌な予感しかしないのは、気のせいだろうか。
「お前はここでじっとしていなさい」
 やんわりと、しかし命令口調で審神者に告げられ、一期一振は裸のままでその言葉に従うしかなかった。
 審神者は一期一振から離れると、大倶利伽羅のほうへと膝でにじり寄っていく。
「あの酒がよく効いているはずだ。あれは、私でも飲みすぎると前後不覚になるほど強い酒だからな」
 自分に言い聞かせるようにそう言うと審神者は、大倶利伽羅の手を取った。
「どういうつもりだ?」
 怪訝そうに尋ねる大倶利伽羅の問いには答えずに、審神者は自分が着ていた浴衣の腰紐を片手でシュルッと解く。
「手を出して。そう、手首を合わせて」
 ぴたりと合わせた手首を腰紐で縛ると、審神者はとん、と大倶利伽羅の肩を突いた。
 体勢を崩した大倶利伽羅は褥に仰向けに転がった。
「大倶利伽羅殿っ……」
 慌てて一期一振が大倶利伽羅のそばに寄ろうとする。しかし二人のちょうど間にいた審神者が一期一振の体を捕まえ、ぎゅっと抱きしめる。
「大倶利伽羅が心配か?」
 耳元で尋ねられ、一期一振はコクリと頷いた。
「そばについていてやりたいか?」
 また、尋ねられる。
 大倶利伽羅は、いったいどれほど強い酒を飲まされたというのだろうか。今すぐ介抱したほうがいいのではないだろうかと逸る気持ちをぐっと押さえ込んで、一期一振はまた頷く。
「……はい」
 小さく首を縦に振ると、耳元に男の酒臭い息がかかった。
「そうか。お前はそんなに大倶利伽羅のことが心配なのか」
 嫉妬ではない何か別の感情によって、審神者は一期一振を困らせているようだった。たとえば、お気に入りの玩具を見せびらかしたいような、そんな傲慢で高飛車な一面がちらりと見えたような気がする。
「では、そばについててやるといい」
 そう言うと審神者は、一期一振の体を大倶利伽羅のほうへと押しやった。
 浴衣姿で褥に横たわる大倶利伽羅の上に、一期一振は身を屈めた。
「大丈夫ですか、大倶利伽羅殿?」
 声をかけると、大倶利伽羅が大丈夫だと言うかのようにふっと淡く微笑む。微かに酒のにおいがしたが、審神者の吐息のように嫌悪感が込み上げてくることはなかった。
 今さらながら、自分が何も着ていないことが恥ずかしい。一期一振はちらりと背後へと視線を向けた。自分が着ていたものは、あそこにある。審神者の手によって脱がされたが、裸でいるのは自分だけだ。せめて前だけでも隠せないものかと思ったが、ニヤニヤと笑いながら審神者がこちらを眺めている。
 一期一振は大倶利伽羅のほうへと向き直ると審神者にはわからないように小さく溜息をついた。
「どうした、一期。介抱してやらないのかい?」
 尋ねながら審神者は、一期一振の腰をぐい、と鷲掴みにした。
「やめてください、主」
 少しきつめの語調で一期一振は諌めたが、審神者は気にもしていないようだった。そのままピタリと体を寄せてきたかと思うと、一期一振の太腿に腰を押し付け始める。審神者が腰を動かすと、ヌルヌルになった竿が一期一振の太腿や尻になすりつけられた。丁子油と審神者の先走りが入り混じったものが自分の体を汚しているのだと思うと、鳥肌が立ちそうになる。
「主、今はやめ……」
 そう言って背後の審神者を振り返ろうとした一期一振の窄まった入口に、硬いものが押し当てられた。審神者の性器だ。襞の隙間を探るようにして、先端部がぐりぐりと窄まりを押してくる。
「やっ……」
 ビクッ、と一期一振の体に緊張が走る。
 このままでは審神者にまた挿入されてしまう。そう思ったものの、すぐそばには大倶利伽羅がいるから下手に動くこともできない。
「ほら、早く逃げないと奥まで入ってしまうぞ」
 嘲笑を含んだ声で審神者が告げてくる。
「や、ぁ……」
 一期一振は、四つん這いになっていた。
 大倶利伽羅の脇にあたりに手をついて、無意識のうちに腰を審神者のほうに高く突き出すような格好をしていた。
 ズブズブとぬめった竿が一期一振の中を擦り上げた。腰骨がぶつかるほど深いところまで竿を飲み込まされ、衝撃でカクン、と上体が崩れそうになる。
「介抱してやりなさい、一期」
 優しい、しかし意地の悪い声が一期一振の耳元でした。
 審神者の吐息に混じる酒のにおいは吐き気がするほどの嫌悪感を、一期一振に催させた。



 大倶利伽羅の胸の上にもたれかかるようにして一期一振は、審神者に犯された。
 声をこらえると、背後から激しく突き上げられる。声をあげると髪を鷲掴みにされ、ぐいぐいと頭を押されて大倶利伽羅の耳元に顔を押し付けられる。
 今すぐにでもこの場から逃げ出したいのに、一期一振には逃げ出すこともできない。
「一期……」
 意地の悪い声だったが、愛撫する手つきは優しかった。
 色の白い一期一振の肌をそろそろとなぞる手が、太腿から尻、脇腹へと這い回り、ゆっくりと前へと回ってくる。指が繁みを掻き分け、一期一振の半勃ちの性器をてのひらにぎゅっと押し包む。
「大倶利伽羅には、いつもどんなふうに抱かれているんだ?」
 尋ねながらも審神者は腰を揺らしてくる。やんわりと内壁を擦られ、一期一振の腹の中がムズムズとした熱でいっぱいになる。
「き、かないで……くだ、さ……」
 審神者と大倶利伽羅、どちらに向けて言っているのか、一期一振自身にもわからない。
 今はとにかく、腰の奥の痺れるような感覚を何とかしてほしかった。
「そんな声じゃ、大倶利伽羅は物足りないようだぞ」
 耳元で審神者の声がする。
 一期一振に腰をピタリと押し付けたままの姿勢で審神者は、開いているほうの手を大倶利伽羅へと伸ばした。
「大倶利伽羅、腕を頭の上にあげなさい。それから……胸元が苦しそうだから、少し楽にしてあげようか」
 そう言うと審神者は、ごそごそと大倶利伽羅の胸元を大きく左右に開いた。腕を縛られているから開かれた浴衣は左右それぞれの肩のあたりに引っかかったままだが、褐色の裸の胸がはっきりと一期一振の目にも映る。
「っ……大倶利伽羅殿……」
 肌を合わせる時に見る表情とも少し違うような眼差しで、大倶利伽羅が一期一振を見つめてくる。
「一期一振……」
 まだ酔っているのか、大倶利伽羅の呂律はあやしいように思われる。
「さあ、一期。腰をもっと動かして。大倶利伽羅に、お前のいやらしい姿を見てもらいなさい」
 一期一振の前へ回された審神者の手が、竿を大きく扱き始めた。一期一振の竿は審神者から与えられる刺激によってすぐに硬さを増していく。先端にじんわりと透明な先走りが滲みだすと、指の腹で執拗に小さな孔を弄られた。
「やっ……ん、ぁ……」
 大倶利伽羅の胸にもたれかかると、乳首が擦れた。体を揺さぶられながら乳首を押し付けていると、一期一振の乳首だけでなく、大倶利伽羅の乳首も硬くしこっている。
「あっ、あ……」
 一期一振は無意識のうちに自身の乳首を大倶利伽の乳首に擦り付けていた。
「前がこんなにトロトロになってきたぞ」
 竿の先端は、クチュクチュと湿った音を立てている。孔の縁につぷりと盛り上がった先走りを掬い取ると審神者は、その指を見せつけるように大倶利伽羅の口元へと持っていった。
「私に犯されているのに、一期はなんていやらしいのだろう」
 嘲笑交じりの声でそう言うと、審神者は大倶利伽羅の唇の端に掬い取った先走りを擦り付けた。
「ほら、一期。大倶利伽羅の口が汚れている。綺麗にしてあげなさい」
 そう言って一期一振を促す間にも、審神者は腰を揺らしている。いつの間にか大倶利伽羅の浴衣は下のほうも肌けていた。かろうじて布地で隠れた腰のあたりが盛り上がっているのが、一期一振にもはっきりとわかった。
「ん? 何を気にしている?」
 反応の鈍い一期一振の視線の先を辿った審神者は、ああ、と小さく呟いた。
 大倶利伽羅の腰に一期一振の腰が当たるように位置をずらしてやると、背後からがしがしと突き上げる。
「やめっ……主……だっ……」
 一期一振の竿が、布越しに大倶利伽羅の竿に触れた。布地の下の大倶利伽羅の性器は硬く勃起していた。目の前の恋人が反応しているのだと思うと、それだけで一期一振の先端から新たな先走りがトロトロと溢れ出した。
「そんなに洩らしたら、大倶利伽羅の浴衣に染みが残ってしまうぞ、一期」
 言いながら審神者は、大きく腰を押し付けてきた。ぐりぐりと奥を突かれ、一期一振は思わず嬌声を上げていた。すかさず審神者の手が一期一振の頭を掴み、大倶利伽羅の耳元で押さえつける。
 審神者の動きで体を揺さぶられると、それにあわせるようにして腰のあたりで大倶利伽羅の腰も揺れる。一期一振の性器が擦れて、大倶利伽羅の浴衣はあっという間に先走りでヌルヌルになってしまった。
 一期一振は目尻に涙がじんわりと滲むのを感じた。
 背後から審神者に犯されているため下肢は自由にならず、おまけに快楽に流された上体は大倶利伽羅の乳首に感じて今もジンジンとと痺れたようになっている。
 後ろから突かれ、前からもやんわりとした刺激を与えられ、わけがわからなくなりそうだ。
「お、おくり……か、ら……」
 はあっ、と息を吐き出すと同時に、審神者の竿が最奥を突き上げてきた。
 ヒッ、と喉を詰まらせたような声をあげた一期一振は、大倶利伽羅にしがみついていた。
 触って欲しかった。大倶利伽羅の手で、前を……硬くなった自身の竿に、それから乳首にも、触れて欲しかった。
 啜り泣くような声を大倶利伽羅の耳元で上げると、腰のあたりが大きく波打ったような気がした。
「やっ……触って……触ってくだされ、大倶利伽羅殿……」
「っ……」
 大倶利伽羅の唇が微かに震え、低く呻くような声が一期一振の耳に吹き込まれる。
「大倶利伽羅、もっと動いてやれ。一期がねだっているぞ」
 一期一振を犯しながら、審神者は命じた。
 ぐい、と手を伸ばした審神者が大倶利伽羅の腰のあたりでもたついていた布地をはらりと開くと、その内側は既に白濁でドロドロになっていた。
「おや。これしきの刺激でイってしまっていたのか」
 呆れたように呟くと、せっかくの趣向なのに興醒めだとか何とか審神者はブツブツ言いながら、一期一振の奥へと吐精した。
 腹の奥に注がれる白濁に怖気を感じながらも一期一振も、審神者につられるようにして大倶利伽羅の腹の上に精を放った。
 一瞬、大倶利伽羅の目が見開かれ、愛しそうに一期一振を見つめてくる。
 背後から審神者に体を揺さぶられながら一期一振は、自らも腰を揺らして大倶利伽羅の竿に自身の竿を擦り付けた。
 トロトロと吐き出す自身の白濁が大倶利伽羅のくたりとなった竿を汚していくことに、一期一振は背徳の色を感じて体を大きく震わせた。



     2 (2015.8.19)


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