胡坐をかいたままの同田貫は、しばらく呆然としていた。
密かに想っていた男にマスターベーションの現場を覗き見された上、その手でイかされてしまったのだと思うと、恥ずかしいやら悔しいやらで、とにかく頭の中がごちゃごちゃになってしまったのだ。
のろのろと鶴丸のほうへと視線を向けると、彼は顔にかかった同田貫の白濁を指で拭い、あろうことかその指に付着したものをペロリと舐り取っているところだった。
「あ……アンタ、何やってんだ、汚い!」
下肢を剥き出しにしたままの同田貫が声を荒げても鶴丸はどこ吹く風だ。
楽しそうに目を細めると、同田貫の肩に手を置き、ぐい、と力をかけてくる。
「なっ……う、わっ!」
ドン、と後頭部が畳にぶつかった。
これまで何人もの男や女と経験してきたからだろうか、鶴丸は妙に手際がよかった。同田貫を畳の上に転がしたかと思うと、もう早々と下着ごとジャージを剥ぎ取っている。下半身が剥き出しになった同田貫が慌ててジャージを取り返そうとすると、今度はするりと上衣を脱がされる。いったいどこでこういうことを覚えてくるのだと、性的な経験の浅い同田貫には不思議でならない。
「お、さすがに尻は日焼けしてないな」
畳の上に四つん這いになった同田貫に、鶴丸は声をかけた。
背後から尻のあたりをじろじろと見られているのがわかるから、いっそう腹立たしく思えてくる。
自分はこの男のことが好きだったが、あれは幻想だったのだうか。単なる憧れで、現実にこういった性的なことをこの男としようと考えてはいなかったのだろうか?
そんなことを考えていたら、尻をベロリと舐め上げられた。
「ひっ!」
反射的に声があがった。
「綺麗な色してるなぁ、同田貫。尻のあたりだけ肌の色が薄いぞ。それに、ココ……」
と、鶴丸の手が、双丘にかかる。ぐい、と左右に尻を押し開かれ、奥の窄まったところをじっくりとねめつけられる。
恥ずかしくてもぞもぞと四肢を動かしたら、鶴丸の吐息が尻のすぐ近くにかかった。
「ココは、もっと綺麗だな。淡いピンク色をしている。ヒクヒクと蠢いて、まるで男を誘っているようだ」 いやらしい声でそんなふうに言われるのは初めてのことだ。
そもそも、鶴丸とはこういった本格的な行為に及んだことはなかった。これまでは嫌がらせの延長線上にあるようなペッティング止まりで、いつも同田貫が拒絶すると、鶴丸は素直にやめてくれた。その分、同田貫がいない時を見計らって誰彼構わず連れ込むのだが。
だからだろうか、自分が性的な対象として見られているとは、同田貫も本気で考えてはいなかったのかもしれない。
「何しよう、ってんだよ」
腹の底から声を出すと、鶴丸はくく、と喉を鳴らして笑った。
「セックス。お前がいつも嫌がるから、最後まではしないように気を遣ってきてやったけど……これ以上は我慢できな…──」
「嘘吐け!」
自分でも思った以上の声が出た。
「生憎と俺は、アンタの遊びに付き合ってやるほどお人好しじゃねぇんだよ」
誰が遊びのセックスで尻を貸すものかと憤れば、鶴丸はまじまじと同田貫を見つめ返してくる。
「では、本気ならいいのか?」
本気、なら。
その言葉に同田貫は、またも思考を奪われてしまう。
ほのかに想いを抱いていた相手も、自分のことを好いてくれているのなら……だったら、これは遊びのセックスにはならない。
本気のセックスなら、いい……のか?
眉間に皺を寄せた同田貫は一瞬、鶴丸から逃げることを忘れてしまう。
その隙に鶴丸の唇が同田貫の首の後ろに降りてきて、皮膚をこれでもかときつく吸い上げた。
チリ、とした首の痛みに、同田貫は顔をしかめた。
四つん這いになったままで身じろぐと、背後でカチャカチャとベルトを外す音がして、すぐに尻の狭間に硬いものが押し付けられた。鶴丸のペニスだ。早々と先走りでヌルヌルになった先端を擦り付けながら鶴丸は、同田貫の様子を背後から観察しているようだった。
「……早くやれよ」
硬い声で同田貫が低く唸る。
鶴丸は喉の奥でちょっと笑ってから、いったん腰を離した。
クチュクチュという湿った音がして、今度は鶴丸の手が尻にかけられる。指の先がくにゅ、と窄まった部分を割り開いたかと思うと、自身の先走りで濡らした指を器用に動かして、鶴丸は同田貫の内壁を擦りあげてきた。
「ひっ……ん、ぁ……」
腰が跳ねそうになるのを堪えて同田貫は畳に爪を立てた。ガリガリと音を立てて畳を引っ掻く。
「なんだぁ? 気持ちよさそうにしてるじゃないか、同田貫」
言いながら鶴丸は、大きく同田貫の中を擦りあげた。指の腹で内壁を押し開き、爪の先で硬くしこった部分をカリ、と引っ掻く。同田貫の体は壊れた玩具のようにブルブルと震えた。
「やっ……やめっ……!」
言いながらも同田貫の腰はゆらゆらと揺れている。鶴丸の手の動きに合わせて腰を捩りながら、内側の媚肉で指をきつく締めつける。
「やめてじゃなくて、気持ちいいんだろう?」
言いながら鶴丸は、同田貫の尻を打った。ペチン、と音が響き、同田貫は声にならない声をあげた。
事実、恐ろしいほどに気持ちよかった。
窄まりに潜り込んだ指がくちくちと音を立てながら蠢いている。そこに尻を打つ痛みが合わさると、自然と腰が揺れてしまう。
「初めてでこれか?」
耳元に囁きが吹き込まれ、ついで耳朶をべろりと舐られた。耳の中に鶴丸の舌が入ってきて、湿った音を立てながら中を舐め回される。
同田貫はガクガクとなる四肢で必死に堪えている。鶴丸の指と舌と吐息が、初めてだというのに気持ちよくて怖かった。背筋を駆け上る快感も、腹の底で燻る快感も、鶴丸の想いの深さがうかがえて、怖くてたまらない。
いや、そうではないのかもしれない。鶴丸はただ、同田貫を抱きたいだけなのかもしれない。これはいつもの遊びや悪戯の延長にしか過ぎず、同田貫だけが自分勝手にこれは本気のセックスなのだと思い込んでいるだけなのかもしれない。
「っ……ぁ……」
腰が揺れて、耳の中からと下肢の間からは、ひっきりなしに湿った音が響いている。
時折、鶴丸の指が中を大きく抉るのがどこかもどかしい。指の動きに合わせて腰を揺すると、鶴丸の指がいいところに当たる。内壁を優しくカリ、と引っかかれるのが気持ちよくて、同田貫は夢中で腰を振っていた。
「気持ちよさそうな顔してんなぁ」
潜り込んだ複数の指が、同田貫の中を執拗に擦り上げる。さらに奥に触れてもらおうと腰を揺らすと、背後の鶴丸が声をかけてくる。
「お前、男は初めてなんじゃなかったのか?」
どこか呆れたような声色に、同田貫ははっと我に返った。
快楽を追うのに夢中になっていた自分のことを、鶴丸は浅ましいと思っているかもしれない。指だけでここまで感じておいて男は初めてだと言ったところで、信じてもらえるだろうか。
「は……はじ……っ、ん……」
くちゅん、と音を立てて鶴丸の指がまたしても中を擦りだす。今度は指を大きく動かして、内壁を強く押したり引っ掻いたりしてくる。
「あ、あ……」
ガクガクとする四肢を突っぱねて、同田貫は快感をこらえた。
ポタポタと音がして、ふと下見ると、畳の上に同田貫の先走りが一滴、二滴零れている。
「いいなぁ、この締め付け具合。たまらないね」
言いながら鶴丸は、同田貫の片足をぐい、と引き上げ、ちゃぶ台の上に乗せた。ちょうど、犬が小便をする時のような格好だ。
「ばっ……何しやがる!」
慌てて足を下ろそうとすると、強い力で腰を掴まれた。同田貫の中を弄っていた指が引き抜かれ、かわりに鶴丸の性器があてがわれる。一息に根本まで突き入れられ、声を出すこともできないままに同田貫は大きくのけぞった。
ずぷっ、と淫猥な音が部屋に響いた。
尻に、鶴丸の腰骨が当たる。水音が響いて、そのまま激しく腰を揺さぶられた。
「ひっ、あ……」
畳をひっかきながら同田貫は、下腹が熱く燻ってきたのを感じていた。
今までの快感よりももっと大きな快感が、体の底からこみあげてくるような感じがする。
「やめ……っ」
上擦った声で懇願しても、鶴丸はまったく聞き入れてはくれない。同田貫の中を激しく突き上げながら、いつしか片手が前へと回ってくる。先走りにまみれた同田貫の竿を握り締め、扱きあげるのに、ぬちゃぬちゃという湿った音までもが入り混じってくる。
指で中を擦られた時よりも気持ちがいいのが怖かった。
鶴丸の竿は硬かった。同田貫自身よりも大きなサイズのペニスが、体の中を擦り上げ、突き上げてくる。先のほうの鰓の張った部分が内壁を擦ると、同田貫の腰は知らず知らずのうちに大きく揺れていた。 硬く張り詰めた同田貫の前は、鶴丸にしっかりと握られていた。痛いほど強く擦られると、その度に先端からはだらだらと先走りを滴らせる。まるで涎のようだ。
「いっ……ぁ……」
快感が同田貫の体のそこここを駆け抜けていき、腰から背筋にかけてがゾクゾクとなった。
「も、イく……」
うわごとのように同田貫が舌足らずに口走ると、さらに強い力で竿を扱かれた。
同田貫の性器が先走りを滴らせ、畳の上の染みが大きく広がっていく。
「いいねえ。こんな身体は初めてだ」
上擦った声でそう言うと鶴丸は、いっそう激しく同田貫の中を突き上げ始める。
同田貫は腰を高く掲げ、鶴丸の動きに合わせて尻を振った。鶴丸の手の中の同田貫自身がヒクヒクと震えて、先端から先走りとは異なるものが溢れだした。
琥珀色をしたそれは、小水だった。
(2015.3.25)
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