VS乙女心 アダルトVer. 2

  エレベータが止まる寸前に唇を離すと、ハルの膝がカクン、と揺れた。
「手、繋いでよっか?」
  耳元に囁きかけると綱吉は、ハルの手を取る。エレベータのドアが開くと、二人はそのまま縺れ合うようにして廊下を進んだ。
「ツナさん……」
  ねだるようなハルのしっとりと濡れた声に、綱吉の手がじんわりと汗ばむ。
  片手はハルの手をしっかり握りしめたまま、空いているほうの手で綱吉はポケットの中の部屋の鍵を探す。
「手、離します?」
  ハルが尋ねる。
「いや、いい。すぐに開けるから」
  不器用な手つきで鍵を外し、ドアを開ける。
「どうぞ」
  綱吉は、繋いだハルの手をくい、と引っ張る。
「おじゃまします」
  恥ずかしがるように小さな声でそう告げるとハルは、綱吉に手を引かれて部屋に上がった。
  ドアが閉まるよりも早く、綱吉はハルの体を抱きしめた。
  首筋に鼻先を寄せ、クン、と鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。ほんのりと甘いにおいがしているのは、香水のにおいなのか、それともハル自身のにおいなのか、どちらだろう。
「……会いたかった」
  はあ、と綱吉は溜息をつく。
  ここしばらく、すれ違いが多かった。互いに忙しかったのと、ハルをボンゴレ・ファミリーの一員と見なす輩から遠ざけておくために故意に接触を避けていたことが原因だ。
  その間、どんなにハルに会いたかったか。会って、やわらかな体を抱きしめて、その髪に触れたいと思ったことか。
「ハルも……会いたかったです」
  綱吉の体に腕を回してハルが掠れた声で囁く。もしかして、泣いているのだろうか?
  顔を上げると、ハルの目と視線が合った。



  ゆっくりと唇を合わせた。
  エレベータの中での性急なものではなく、啄むような甘いキスを繰り返す。いつものようにほっそりとしたうなじにかかる髪に触れようとして、綱吉はふと顔を上げた。
「あ……髪、今日は括ってるんだね」
  昔を思わすポニーテールを結わえるリボンは、昔、綱吉がハルにプレゼントしたものだ。縁飾りのレースがついた、薔薇色のリボン。指先でリボンの端を摘んで引っ張ると、シュルリとリボンが解け、ハルの髪がさらさらと肩の上に零れ落ちてくる。
「ああ、やっぱりハルはこっちのほうが似合う」
  綱吉の言葉に、ハルは半信半疑の様子で小首を傾げる。
「そうですか?」
  零れ落ちた髪を指で梳くと、気持ちがいい。サラサラとしていて、シャンプーの甘い匂いが微かに匂い立つこの髪が、綱吉は気に入っていた。いつまでも指で触れて遊んでいたいような気になる。
「うん」
  頷くと綱吉は、ハルの体を抱きしめたまま寝室へとじりじりと移動を始めようとする。
  ハルのほうも綱吉の意図に気づいたのか、足並みを揃えてくれる。まるでチークダンスを踊るかのように、互いの体に腕を回し、ゆっくりと寝室へと向かう。
「リボン……」
  不意に綱吉が口を開いた。
「持っててくれたんだね」
  あのリボンをハルにプレゼントしたのは、中学生の頃のことだ。まだ、持ってくれていたのだろうか。
「はい。だってツナさんにもらったものだから……あれは、ハルの勝負リボンなんです。お仕事で気合いを入なくちゃならない日は、あのリボンを身に着けていくと、なんだか頑張れちゃうんです」
  言いながらハルの手が、綱吉の腕にしがみついてくる。
「嬉しいな。そんなふうに大事にしてもらえてるのなら、プレゼントした甲斐があったよ」
  それに、唇も……と、綱吉はハルの唇に親指を押し当て、そっとなぞった。
「オレの贈ったルージュも、つけてくれてるんだよね?」
  確かめるように、唇を軽く合わせる。
「はひっ……んっ」
  チュ、と音を立てて唇を離すと、ハルは綱吉の胸を軽く叩いた。
「もうっ、今日のツナさんはどうかしてます。エロいです」
  ぷう、と頬を膨らませるハルに、綱吉は小さく笑った。
  肌を合わせるようになっても恥ずかしがるところが、可愛いらしい。子どものように純真で、一途で、愛しい。
「そうかな? ハルだってもっとエロいことしてるのに、そんなこと言うんだ?」
  言いながら手を、ハルの胸に這わす。ブラウスの上から触れたハルの胸は柔らかかった。ブラジャーのラインをゆびで辿り、手のひらに膨らみを包みこむ。
「ぁ……」
  困ったような表情が、可愛らしい。
「ハルの胸、気持ちいい。ずっと触ってても飽きないぐらいだよ」
  片手で胸を撫でながら、もう片方の手でブラウスをたくし上げる。裾のほうから綱吉がその手を差し込み、肌に直接触れると、ハルは小さく体を震わせた。
「……っ」
  丸みのあるやわらかな体が、愛しい。触れると甘く優しい匂いがして、いつまでもハルを抱きしめていたいような気がする。
「ツナさん……」
  掠れた声が綱吉を誘っている。
  ぎゅう、と華奢な体を抱きしめて、綱吉は思いの丈を込めてくちづけた。



  寝室の灯りはつけずに、抱き合った。
  窓から差し込む月明かりがハルのシルエットをぼんやりと浮かび上がらせ、とても綺麗に見える。
「ツナさんてば、胸、好きですよね」
  ベッドの上で正座をしたハルは、綱吉の頭を抱きしめて呟く。
「そう?」
  ショーツとブラジャーを着けただけの姿でハルは、抱きしめた綱吉の髪に指をさしこみ、優しく撫でた。
「だって……さっきからツナさん、ハルの胸しか触ってないです」
  そんなことはないよと綱吉は笑う。
  唇だって、髪だって、触れている。ハルの体ならどこに触れても気持ちいいと思う。その一方で、ハルに触れられるところはどこもかしこも気持ちよくて、それだけで気持ちが穏やかになっていくのが感じられる。こういうのをきっと、満たされているというのだろう。
「これからもずっと一緒にいような、ハル」
  呟いて顔を上げた瞬間、月明かりに照らされたハルの嬉しそうな笑みがぼんやりと綱吉の目に映る。
「……はい、綱吉さん」
  小さな小さな囁きがハルの唇から洩れたのを綱吉は、聞き逃さなかった。



(2014.2.25)
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