『カボチャと柚子風呂 2』



  二人で食事をする。
  エースの豪快な食べ方を見ていると、時々サンジはルフィを思い出す。あのガツガツとした食べ方はエースの食べ方にも似ていて、やはり兄弟なのだなとサンジは思わずにはいられない。
「カボチャ食えよ、カボチャ」
  エースの取り皿におかわりを盛りながら、サンジは幸せそうに口元を緩めている。
  もともと、料理を作るのは好きだった。そのうちにそれが誰かのために作るようになり、いつしかこうして一人のために作ることになろうとは、少し前までは考えもしなかったことだ。
「クソうめぇだろ?」
  サンジが声をかけると、エースは顔をあげてニッ、と大きく笑った。口いっぱいに頬張った飯粒が、口の回りにポツポツとついている。
「口の回りに飯粒付けて笑ってんじゃねえよ」
  ああ、もう──小さく呟いたサンジは、エースの口の回りの飯粒を指でぬぐいとって自分の口に入れた。
「ほら、汁物も食え。うめぇぞ」
  勧めるだけ勧めておいて、サンジ自身は機嫌良く笑っているだけだ。目の前に並んだサンジの料理は、ほとんど手付かずのままになっている。エースはサンジが勧めるカボチャに箸をつけると、サンジの口元へと持っていった。
「アーン、ってしてみな?」
  頬杖をついてエースが言うと、サンジの頬がパッと赤らんだ。
「なっ……」
  恥ずかしげもなくこういうことをされると、困ってしまう。
「口、開けてみな?」
  もう一度催促されて、サンジはまごつきながらも口を開けた。甘辛く味付けしたカボチャが口の中に入ってくる。実の部分はほんのり甘く柔らかく、皮は表皮の部分が瑞々しい歯ごたえをしているのがサンジの好みだ。
「ん……」
  閉じた口の間から、箸がするりと引き抜かれた。
「メシの後は風呂なんだろ?」
  尋ねられ、サンジは伏し目がちに頷いた。



  台所の洗い物はエースがしてくれる。
  一足先にバスルームに向かったサンジは、柚子の浮かんだ湯船に肩までつかると目を閉じた。
  柑橘系の甘く爽やかな香りが鼻いっぱいに広がり、穏やかな気分になっていく。
  一日の疲れも、嫌なことも、何もかも忘れてしまうことができる至上の時間だ。
  少し遅れてエースが脱衣場にやってきた。しばらくごそごそとしていたようだが、すぐにバスルームに入ってきた。
「サンジ、ちゃんとぬくもってるか?」
  声がかかり、サンジは目を開けた。
「お疲れ」
  慌ててサンジは声をかける。
「いい香りがする」
  バスタブの縁に顎を乗せてぼんやりとしているサンジに、しゃがみ込んだエースが顔を寄せて囁いた。
「寄るな。魚臭い」
  すかさずエースの頭を押しやり、サンジは舌を突き出す。
「ちゃんと流してからつかれよ」
  少しきつい口調のサンジに、エースは笑って「はいはい」と返した。
  背中を向けると、エースはシャワーを流し始める。腕を動かすたびに、肩の筋肉が盛り上がり、蠢く。シャワーの湯が肌の上を流れ落ちていく。全体的に引き締まっていい具合に筋肉の乗った体つきは、同じ男として羨ましくもある。
  黙ってサンジは、エースの後ろ姿を眺めていた。
  コンプレックスを持っていないわけではないサンジの体は、痩せ気味だ。決して筋肉がついていないというわけでもなかったが、太る体質ではないのか、いくら食べても体型がかわることはない。肌の白さも気にかかることのひとつだ。皆が日焼けしてこんがりと小麦色になっている時にも、サンジの肌はほんのりと赤らむ程度で、それ以上焼けることはなかった。
「──何見てんの?」
  髪の先から水滴を垂らして、不意にエースがくるりと振り向いた。
  ドキン、と、サンジの心臓が大きく脈打った。



  二人で湯船につかるには、バスタブは少々狭かった。
  エースが腰まで湯につかるかつからないかのうちに、バスタブからザアザアと湯が溢れていく。
「もったいねぇ……」
  呟きながらもサンジは、バスタブの片側で流れ出そうとする柚子を次から次へと取り上げ、腕に抱える。
「ああ……やっぱり、いい香りだ」
  ふと気付いたようにエースが、サンジの肩をぐい、と引き寄せて言った。
「あ?」
  手にした柚子をエースの頬にぐりぐりと押し付け、サンジは抗ってみせる。
「やることがオヤジ臭せぇんだよ、お前は」
  ぷう、と頬を膨らませてサンジが言うと、エースは楽しそうにさらに体を密着させてくる。
「そんなにオヤジ臭いか?」
  ふざけたようにエースが尋ねると、サンジはムキになってエースを押し返す。
「臭せぇよ、お前。オヤジ臭プンプンだ。この、エロオヤジ」
  柚子でエースの顔をぐい、と押す。するとエースは、嬉しそうに湯船の下から手を伸ばして、サンジの下半身へと指を這わせた。
  咄嗟にサンジは膝を閉じようとした。
「おい、どこ触ってんだ」
  ギロリと睨み付けるサンジをものともせずにエースは白い太股をなぞりあげると、股間でまだ力無く項垂れているペニスを捕らえ、きゅっ、とてのひらに包み込んだ。
「オヤジで結構。俺はエロオヤジだ」



  エースの手が、サンジの腕を掴んだ。
「一緒に風呂に入りたかったんだろ?」
  尋ねられて、サンジの力がふっ、と緩んだ。すかさずエースはサンジの手を握り締め、チュ、とキスをした。
「外に声が聞こえたら困るから、喧嘩はなしな」
  へへっ、と笑って、エースが提案する。
  渋々ながらサンジは頷くより他なかった。
  バスルームで乳繰り合うと、声が反響して他の部屋にも聞こえるのではないかと気になってしかたがないのだ、サンジは。もちろん、喧嘩にしても同じだ。とにかくバスルームで必要以上大きな声や大きな物音を立てると、バラティエのコック仲間や養父に音が筒抜けになるのではないかと、サンジはそんなことを心配していた。
  何も困ることはないのにと、エースは思う。
  男同士ではあったが、二人は正式にパートナーとなった。ゼフだけでなく、バラティエの従業員たちの前で、披露宴もした。何を今更と思うのだが、時々サンジは何を恥じらってか、頑なにエースを拒むことがあった。
  エースの言葉で自分たちがバスルームにいるのだということを思い出したサンジは、急に大人しくなった。それまでの激しい抵抗はどこへやら、今度は声を押し殺し、バスタブの縁にしがみつくとエースの手の動きに翻弄されないよう必死に何かを堪えている。
「サンジ……」
  エースが、名前を呼んだ。
  手の中でくたりとなっていたサンジのペニスが、少しずつ固さを増してくる。
「サンジ、掴まるなら俺にしとけよ」
  そう言ってエースがペニスを握る手にきゅっ、と力を込めると、サンジの体が小さく跳ねた。



「あっ……」
  悲鳴のような小さな声が洩れた。
  エースの肩口にしがみついたサンジがビクビクと体を震わせると、その度ごとに湯船が波立つ。
「ほら、そんなにしてるとお湯が零れるって」
  からかうようにエースが言い、サンジのペニスを大きく扱き上げる。エースの手の中で性器がビクン、と脈打ち、サンジがいっそう強い力でしがみついてくる。
「……口、あけて?」
  唇をぎりりと噛み締めたサンジに、エースは何度もキスをした。唇と唇が触れ合い、時折エースはペロリとサンジの唇を舌で舐めた。
「サンジ」
  宥めるように名前を呼ばれ、サンジは微かに唇を開けた。
  するりとエースの舌がサンジの口の中に入り込んできた。クチュ、と湿った音がして、舌と一緒に唾液を吸い上げられる。全身が痺れていくようなピリピリとした感覚に、サンジは慌ててエースの首の後ろにしっかりと腕を回した。
「んっ、ん……」
  夢見心地のままキスを繰り返しているうちに、エースの手が、サンジの足を抱え上げていた。バスタブの縁に片足をかけると、サンジの体は浮力でゆらゆらと頼りなげに揺らぐ。
「……いい香りがする」
  低く囁いてエースは、サンジの白い項に口付けた。
  軽く吸い上げると、それだけでサンジの肌に朱色の跡が残った。



To be continued
(H20.1.2)



         


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