『キマグレ』



  いちど開き直ってしまうと、後はもうどうでもよかった。
  ゾロは黙ってサンジのしたいようにさせた。
  もしかしたら、自分が拒むからサンジが抱いて欲しがるのかもしれないという考えに思い至ったからだ。放っておけば、そのうちにサンジも飽きてしまうのではないだろうか。一過性の知恵熱のように、ゾロとのことは単なる気紛れでしかなかったのだと、そんなふうに思う日がやってくるのではないだろうか。
  もしそんな日がやってきたなら、自分はどうするだろうか。
  正直、少しは寂しく思うだろう。
  しかしそれ以上の執着はないように、ゾロには思えた。
  外見も性格も異なる二人だったが、互いに後腐れのない付き合いを前提にしているところだけは共通していた。それもこれも、根本のところでは二人が似ているということの証なのかもしれない。だからといって、今のこの二人の関係が遊びだというわけでもないのだ。
  二人とも、彼らなりに真剣だった。



  ゾロがじっと見ている前で、サンジは股を開いた。
  何も言わずにゾロの上に跨ると、見せつけるかのように後ろ手に自らの尻の穴へと指を差し込んでいく。
「ぁ…くっ……ぅ……」
  くちゅり、と湿った音がした。いつの間に塗り込んだのか、先ほどゾロが放ったものをサンジはあらかじめ自分の後孔になすりつけていたらしい。
「縄を解け」
  ゾロが言った。
「いや……だ…──」
  と、サンジ。
  言いながらサンジは、指を引き抜いた。それからゆっくりと、味わうようにゾロのペニスを身体の中へと納めていく。
  自分の中に潜り込んでくる太くて張りのあるものは、大きな圧迫感をサンジにもたらした。その質感、その硬さ、火傷しそうなほど熱いゾロのものが、解放されたくてヒクヒクと蠢く。そのたびにサンジは挿入の動きを止めて、今にも身体の中で暴れようとしているものの波をやり過ごさなければならなかった。
「縄を解け。俺の手で触ってほしいんじゃないのか?」
  ゾロはそう言いながら、腕を縛り上げているロープの一部をなんとか指にひっかける。サンジの視線から逃れるようにしてこっそりと。サンジがどうやって縛ったのかはわからないが、力任せに引きちぎろうとすると肉にロープが食い込んできた。しばらく考えた末に、片方の関節を外してみる。指が入るだけの余裕があるなら関節を外して抜けることができるのではないかと考えていたのだが、無理だった。どうしても抜けることができない。手を動かすだけのわずかな余裕があるというのに、ほんの少し力を加えるだけで、ロープは固く肉に食い込んでくる。
「お前なんかに触らせてやるものか」
  小馬鹿にしたようににやりと笑うとサンジは、すでに勃起しててらてらと精液でぬめる自分のペニスを扱き始める。
  淫猥な湿った音が耳を打つ。
  ゾロはじっとサンジの手つきを見ていた。視線で、指先の細やかな仕草までも追いかける。そうしながらも時折、下から腰を突き上げ、サンジの口から甘い悲鳴を零れさせた。



  包み込むようにサンジの肉襞が押し寄せてきては圧迫する。
  意識してやっているのか、それとも無意識のうちにしていることなのか。
  どちらにしてもゾロのペニスは今にも爆ぜてしまいそうだった。
  腕を拘束されることがこんなにももどかしいことだとは思ってもいなかった。今すぐにでも抱きしめたいのに、そうできないのは辛すぎる。
  焦れているのはゾロ一人ではなかった。
  ふと見ると、眉間に皺を寄せたサンジが自分のものを扱いていた。白く濁った精液で濡らした手は、くちゅくちゅと卑猥な水音を立てている。
  誘うように、サンジの指先が踊る。自らの竿を片手で包み込み、もう一方の手は親指の腹で亀頭をなぞっている。白い液が先端から溢れてきて、ポタリ、ポタリ、と落ちてくる。
「……見てねぇでお前も動けよ、クソ野郎」
  サンジの目が、ギロリとゾロを睨み付ける。
「だからロープを解けと言ったんだろうが」
  呆れたような口調でゾロが言う。
「なんだと?」
  売り言葉に買い言葉で、サンジは咄嗟に手を伸ばしてロープの一端をくい、と引っ張っていた。
「つっ……!」
  ゾロの手首に一瞬、摩擦熱による痛みが走る。
  はらりとロープが落ち、自由になった手首には、うっすらと赤い跡がついていた。



  自由になった手で、ゾロはサンジの腰を抱き寄せた。
  結合部がすれて、湿った音がした。
  陰毛のこすれる痛みに小さく笑うとサンジは、ゾロの唇の端に口付ける。
「これでも文句あるか?」
  問いかけるようにサンジが片方の眉をくい、と動かすと、ゾロがこめかみに唇で触れてきた。
「終わりまでお前がしてくれるのか?」
  ごつごつとしたゾロの指が、そっとサンジのペニスを握り締める。
「んっ……ぅ……要求の多い奴だな、お前は」
  サンジはちらりとゾロの手に視線を馳せると、深い溜息を吐き出しながら言った。
「お前が……俺とセックスするのが嫌じゃないのならな」



── END ──
(H15.10.5)




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