『Sweet Valentine 1』



  見張りの最中に、物音がした。
  見張り台の柱にもたれてうつらうつらしていたゾロは物憂げに片目をあけると、マストを上ってくる音に耳を傾けた。
  月のない夜は暗く、わずかばかりの星の明かりがあたりをほんのりとぼやけた藍色に染め上げている。
  目をすがめ、見張り台の縁をじっと凝視する。
  穏やかな、しかし肌に刺さるような冷たい空気に乗って、微かな甘い香りが漂ってくる。
  床板の縁に、人影が見えた。
「よお、差し入れ持ってきてやったぞ」
  恩着せがましく告げたのは、サンジだ。
  片手にポットとマグカップを持って、にやにやと口の端を引き上げている。
「……どういう風の吹き回しだ?」
  怪訝そうにゾロが訊ねる。
  が、サンジは意味深な笑みを浮かべるだけで何も返さない。
  それどころか、見張り台に上がってくるとゾロのすぐ隣に座り込んでくる。
  しばらく黙ってサンジの様子を見ていると、手際よくポットの中身をマグカップに注ぎ始めた。
  馴染みのある甘ったるい香りがふわりと立ち昇り、ゾロの鼻をくすぐった。



「いくらてめぇが寒さに強いっつっても、この気温じゃ身体が冷えるだろ? 飲めよ。うまいぞ」
  マグをゾロの鼻先に突きつけると、サンジが言った。
「あ、ああ……悪りぃな」
  受け取ったマグカップは、ほかほかとあたたかい。
  ゾロはカップの中の液体のにおいを素早く嗅いでから、ゆっくりと口をつけた。
  甘くてあたたかい、トロリとしたものがゾロの喉を下っていく。
「うまいだろ?」
  と、サンジ。
「──…甘い……」
  ぽそりとゾロが呟くと、サンジは軽く睨み付けた。
「ったりめぇだ。ホットチョコだからな」
  それも、ただのホットチョコではない。ナミとロビンのためにサンジが手間暇かけて作ったチョコの残りで作ったホットチョコだ。リキュール入りのホットチョコは、きっと不寝番で冷えきった身体をあたためてくれるはずだ。
「酒、なかったのか?」
  憮然とした顔つきで尋ねるゾロの腹に、サンジはがっくりと肩を落とした。彼は、こんな言葉をもらうためにホットチョコを差し入れたわけではないのだ。
「アホか、お前は。アルコールならちゃんと入ってるだろ、ここに」
「どこに」
  納得いかないといった様子で、ゾロが畳みかける。
「ここ、っつったら、ここしかないだろ。チョコの中に入ってんだよ、リキュールがっ!」
  苛々とサンジが言い放った。ゾロはゾロでムッとしているのか、こめかみのあたりをピクピクさせている。それほど気に食わないのだろう、憮然とした顔つきでまだブツブツと文句を言っている。
  そんなに気に入らないのかとサンジは毒づきながら、ゾロの襟元を掴み上げた。
  瞬間、ゾロの唇に自分の唇を押し付ける。
  一呼吸置いてから、ゾロはしっかりと目を見開いた。
  自分の唇に触れているのが、サンジの唇であることを確かめようとするかのように。



  くちゅ、と口の中で音がする。
  ゾロの唇の隙間に差し込まれたサンジの舌は、そっと歯の裏を舐め取っていく。おどおどとしながらも、ひとつひとつを確かめるかのように丁寧に舌を這わせるその様子に、ゾロは小さく笑った。と、同時にサンジに対する愛しさが胸の内に込み上げてくる。
  両手で包みこむようにして持っていたマグカップを床に置くとゾロは、サンジの顎のラインをするりと撫でた。
「ん……っ……」
  あいているほうの手をシャツの下に潜り込ませると、ゾロはゆっくりとサンジの肌をなぞる。寒いのか、それともこそばゆいのか、ゾロの手が動くとは白い身体が焦れったそうに身を捩る。胸の突起をきゅっ、と摘み上げてやると、とうとうサンジはゾロにしがみついてきた。
「ぁ……」
  誘うような瞳でサンジは、じっとゾロを見つめる。艶めかしいにおいがサンジの身体から漂ってくるようだ。
「あまり声、出すなよ」
  ゾロが言った。
  ゾロのほうから何かしらの行動を起こすことは滅多にない。こくん、と頷くとサンジは、自らすすんでズボンのジッパーを下ろした。
  珍しくゾロのほうから仕掛けてきたのだ。
  ここで黙って引き下がるわけにはいかないだろう。



  緑色の髪をきゅっ、と鷲掴みにして、サンジは声が洩れてしまわないように耐えていた。
  ゾロの唇が、サンジの竿の先端を締め付けている。舐め上げる舌は肉を削いでしまいそうなほどに力強く、ざらりとしていた。竿の裏を指の腹でぐりぐりと圧迫され、亀頭に吸い付かれると、それだけでサンジの胸の鼓動は早くなる。
  しばらく亀頭に舌を這わせていたゾロだったが、何を思ったか、先走りの滲み始めた割れ目の隙間に舌の先をねじ込んだ。強く舌先を押し込むと、サンジの腰の引けるのが感じられる。
「ひっ……ぁ……」
  宙を仰ぎ、だらしなく開け放ったサンジの口の端から涎が伝い落ちた。
  痛いほどに尿道の奥を舌でかき混ぜられ、開いた膝を閉じようとするのだが、膝頭がガクガクと震えて力が入らない。
  縋り付くようにして、サンジはゾロの頭を抱きかかえた。
  先程、声を出すなと言われたばかりだというのに、サンジは思わず声をあげていた。
  切ないほどに胸が痛んだ。
  自分のものにむしゃぶりついているこの男が、愛しいと思えた瞬間でもあった。






To be continued
(H16.1.31)



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