『Sweet Valentine 2』



  きつく吸い上げられた瞬間、サンジはゾロの口の中に白濁した液を放っていた。
  身体を反らすと、背に、見張り台の縁があたって痛い。
  ゾロの喉が鳴っている。喉を渇かした野良犬だか野良猫だかが、必死になって水を飲んでいる時のようだ。
  最後の一滴までも飲み干してしまうと、ゾロは最後に唇の端を窄めてサンジの竿をきゅっ、と扱いた。まだ硬いままのサンジのものがピクン、と揺らぎ、それに合わせるかのようにしてサンジの背もしなった。
「はっ……ああっ……!」
  恥ずかしさを通り越してしまうほど、気持ちがよかった。
  一息も二息もついてから力の抜けた足を何とか引きずり寄せると、サンジは床から腰を浮きあがらせた。それに気付いたゾロが、サンジの身体を支えるようにして腰に腕を回す。
「すっかり冷えちまったな」
  ゾロが呟く。
「──……挿れてくれよ」
  サンジは逞しいゾロの肩口に顔を埋めると、小さく囁いた。



  ゾロの手を握り締めたサンジは尻の狭間へとその手を持っていく。
「挿れてくれ。このままじゃ、眠れやしねぇ」
  もう一度、今度は語調を強めてサンジが言った。
「駄目だ」
  即座にゾロは返した。
「こんなところでヤるつもりかよ、ああ?」
  どこか呆れたように、ゾロ。彼の生真面目さは、どうやらこの場所で最後まで行為を続けることが許せないらしい。
「今日はもうこれ以上はしない」
  そう告げると冷めた表情でゾロは、サンジをまっすぐに見つめた。
  サンジは困ったようにゾロの口元を凝視している。中途半端に熱を持った身体が、恨めしい。こんな風に中途半端に行為をしかけてきたゾロが、恨めしい。
  やんわりとゾロを睨み付けると、サンジは掴んだゾロの手を尻の奥へと引き寄せる。
「……お前はよくても、俺はまだ足りねぇんだよ、クソッ」
  ぐい、とゾロの手を窄まりへと押し付けた。
「なあ、挿れてくれよ」
  囁きながらゾロの耳たぶを甘噛みする。
「指でいいから……お前のでなくていいから、挿れてくれ」
  そのまましばらくじっとしていると、長い沈黙の後、ゾロが低く返してきた。
「今日はしねぇ。中に突っ込んだら、こっちの歯止めまで効かなくなりそうだからな」



  最後通牒を突きつけたゾロだったが、それでもサンジの尻に指を這わせた。
  襞の盛り上がりを指の先でやわやわと転がすと、サンジは深い溜息を吐いた。小さな、悲鳴にも似た喘ぎが混じり出すようになるまで緩やかな愛撫を繰り返し与えていく。星明かりの下、ふと気付くと、サンジの目尻にきらりと光るものが見えた。
「は……っ……」
  しがみついてくる指に力はなく、膝から崩れ落ちていきそうな状態のサンジを、ゾロは腕一本で支えている。
「指だけだぞ」
  もう一度、念押しとばかりにゾロが囁く。
  朦朧としかかった意識の中で、サンジは何度も頷いた。
  何でもいいから挿れてほしかった。今すぐに、満たされたい。身体の中に突き入れて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて欲しい。
  どうせ、このマリモ頭の筋肉バカには「バレンタイン」なんてイベントは理解できないのだから。だったら、自分自身が満足できるような形で納得すればいいだけのことだ。バレンタインを過ごす世間一般の恋人同士のように、サンジとてたまにはいちゃついてみたい時もあるのだ。
「もっと……もっと、かき混ぜろ……」
  腰を振りながら、サンジは口早に言った。
  前立腺の裏を刺激する一本の指と、内壁を押し広げようとする二本の指が、サンジの中を大きく引っ掻いた。
「…ひぁっ……あ、あ……」
  両腕ごとゾロの身体にしがみついても、まだ足りない。もっと満たされたい。身体の内側からゾロのものでいっぱいに満たして欲しいと、サンジは切に願った。
  いつの間にか勃ち上がったサンジのものが、先端からねっとりとした白露を零していく。ポタリ、ポタリ、と床に落ちる音がやけに大きく二人の耳に響いた。



  寒気がして、サンジはブルッ、と身体を震わせた。どうやら、ゾロに抱かれながら気を失っていたらしい。
  元通り衣服を着込んだサンジをあたためるかのように、ゾロの腕が身体に回されている。毛布の裾が頬にあたってちくちくと痛い。
「──…あ……」
  何か言おうとすると、掠れたか細い声が喉の奥から出た。
  ゾロがもぞもぞと動き、サンジの顔を覗き込んでくる。
「よお、気がついたか」
  見張り台の上はまだ闇夜が広がっており、星たちが儚い光を投げかけていた。
「てめっ。本当に指だけで終わらせてんじゃねえよ、クソマリモっ!」
  しがみついた瞬間のゾロの厚い胸板を思い出しながら、サンジ。耳たぶから頬にかけてがやけに熱いのは、照れているからだ。
「何言ってんだ。これ以上すると後が辛いのはそっちだろ」
  フン、と鼻を鳴らしてゾロは返した。
  本当はゾロだって、求められれば飽きるまででもサンジを抱いていたいのだ。その気持ちを抑えているのは、自分たちが普段は船の上で生活をしているからだ。密接した生活の場に、恋愛感情を持ち込みたくないというのがゾロの正直な気持ちだった。ほんのわずかな気の緩みから、船上での生活の風紀が乱れきってしまうのはあまりいいことだとは言えなかった。
「別に、それでもよかったのに」
  ふい、と横を向くとサンジは唇を噛み締めた。
「俺は、抱いてほしかったんだよ、てめぇに」
  バレンタインだから、とは、さすがのサンジも言えなかった。女性に対してならともかく、同じ男であるゾロに対してそういったことを口にしたくはない。
  ゾロが気付かないならそれでもいいと、サンジはそう思っていた。
  バレンタインだからといって、特に何かをする必要はないはずだった。男同士だということもあったし、何よりゾロがそういったことには疎いから、あまり気にしないようにしていた。だからもうこのあたりでおしまいにして、後はキスの一つでもしておくべきだと、サンジはそうも思った。
「バーカ。盛ってんじゃねぇよ、エロコック」
  軽く拳を握り締めたゾロが、拳骨の先でサンジの頭を小突いた。
「おう。お前が相手なら、俺は二十四時間いつでも臨戦態勢に入れるぞ」
  照れもせず、サンジはゾロを見つめた。
  ゾロの表情は穏やかだった。落ち着いた眼差しが、じっとサンジを見つめている。
  それから、どちらからともなく口付けを交わした。






END
(H16.2.1)



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