夜も昼も 3

  目を開けると夜明けが近かった。
  窓の外は灰色の靄に包まれており、そのずっと向こうのほうに夜の名残の空が広がっている。
「ああ……」
  身動きをしようとして、Gは腕の中の存在に気づいた。
  裸のままで眠るジョットは自分と同い年だったが、こうして眠っているところなどは年下に見えないでもない。まるで少年のようなあどけない表情でジョットはぐっすりと眠っている。
  結局、自分はあのまま眠ってしまったようだ。
  いや、そうではない。
  ジョットは自分で体を洗い、Gの傷を手当てし直してくれたらしい。解けた包帯は新しいものに取り替えられていた。
  また自分だけ眠ってしまったのだと思うと、悪いような気もするが、仕方がない。
  夕べは疲れていた。そして、怪我のせいで体力も落ちていた。ジョットと行為を始める前に飲んだ鎮痛剤が悪かったのだとGは思う。
  それから、小さく溜息をついた。
  朝がくれば恋人は、自分の手の届かない存在になってしまう。
  ボンゴレのボスとして、自分などが軽々しく手を触れていい存在などではなくなってしまうのだ。
  すぐ目の前にいるというのに、触れることができないのは辛くもある。
  眉間にわずかばかりの皺を寄せるとGは、ジョットの体をしっかりと抱きしめる。
「ん……?」
  眠たげにジョットが身じろぐのを腕の中に閉じこめて、こめかみにキスをした。
「……くすぐったい」
  不機嫌そうな、それでいてどこか舌足らずなくぐもった声で文句を言うと、ジョットは腕の中から抜け出そうとする。
「まだ寝てろ」
  ぐい、と頭を押さえつけて自分の肩口へと抱き寄せる。癖のある金茶の髪がふわりと顔にかかりくすぐったい。
  肩の傷が疼いたが、我慢できないほどではない。黙ってジョットの髪に手を這わせていると、包帯越しに指が触れてくる。
「痛むか?」
「いいや」
  つっけんどんにGが答えると、包帯の上から傷のあたりをじわりと押された。
「やせ我慢をするな」
  鼻で笑うとジョットは、さらに傷口のあたりに爪を立ててくる。
「おい……」
  肩口に頭を寄せる恋人をじろりと睨み下ろすと、彼は柔らかな笑みを浮かべていっそう強い力で傷口を押した。
「やせ我慢をするなと言っている。痛むのだろう?」
  どうあっても「痛い」と言わせたいのだろう。小さくGが呻くと、ジョットはそれ見たことかと言わんばかりに満足そうに喉を鳴らす。
「夜が明けたら医者に行こう」
  ジョットの言葉にGは、鼻白んだ。
  心配されているのだということはわかっているが、どうしても素直になることができない。
  肩の手当ひとつとってもそうだ。必要ないと自分が思っているのだから、放っておいてくれればいいものをと思わずにはいられない。
  ムッと唇を引き結んで黙りこくっていると、チュ、とジョットの唇が触れてきた。
「自分判断で放置せず、手当を受けておけ」
  プイ、と顔を背けたものの、夜が明けたら自分は医者に行くことになるだろう。
  傷は熱っぽくジクジクとした痛みを訴えていたし、ジョットは本気で自分を医者へ連れて行くつもりのようだ。諦めるしかないだろう。
  わざとらしくGが溜息をつくと、肩口に顔を押しつけたジョットが微かに笑うのが感じられた。



  次に目を覚ますと、あたりはすっかり明るくなっていた。
  ほんの小一時間ほど前までは自分の胸元にしなだれかかってきていた男は既に起き出しており、素っ気ない態度でちらりとGへと視線を馳せる。
「なにをしている。お前も早く用意をしろ」
  素早くシャツの袖に手を通しながら、ジョットは告げる。
  憎たらしいほどあっさりとした態度に、Gはムッとした。
  かわいげがない。自分と同い年の男に可愛いもなにもないのだが、仮にも恋人同士なのだから、少しぐらい甘えてくれてもいいのではないだろうか。
「肩が痛てぇんだよ」
  頬を膨らせて拗ねてみせると、ジョットはちらりとこちらを見る。
  まだベッドの上で裸の体を曝したままのGの額に軽くキスをすると、彼は穏やかな笑みを口元に浮かべた。
「少し、待ってろ」
  人当たりのいい優しげな表情に騙されそうになる。プイ、と横を向いたGは、無造作に脱ぎ捨ててあったズボンのポケットから煙草を取り出した。口にくわえて火を点けようとしたところでひょい、と煙草を取り上げられる。
「そんな時間はないぞ」
  冷たく告げられ、Gは眉間に皺を寄せた。
  すっかり支度を整えたジョットが、手早くGの肩にシャツをかけた。着せてくれようとしているのだと気づくと、妙に恥ずかしく思えてGは恋人から視線を逸らした。
  同い年なのに、自分のほうが子どもっぽいことをしているように思えて、悔しくてならない。
  しかめっ面のままジョットの手を取ると、Gはその手をぐい、と引っ張った。
「やっぱり、気に食わねぇ」
  倒れ込んでくる恋人をぎゅっと抱きしめたかと思うと、さっと体勢を入れ替え、のしかかっていく。
「一服させろ」
  もしくはヤらせろと、Gは胸の内で呟く。
  どうあっても一戦しないことには気がおさまらない。
  体の下に敷き込んだ恋人の唇をチュ、と音を立てて吸い上げると、ジョットが喉の奥で笑う気配がした。
「なんだ?」
  尋ねると、「なんでもない」と返される。ジョットが平然としているところが、どうにも気に入らない。
  勢いよくGはジョットの唇にくちづけた。二度、三度と深く唇を合わせると、すぐにジョットのほうから誘いかけてくる。舌を突き出し、Gの舌先をペロリとねぶってくる。
  同じようにGが舌を突き出すと、ジョットは唇を窄めてキュ、と吸い上げにかかる。
  恋人の唾液は甘かった。お返しにと突き出してきた舌をざり、と舐め、やんわりと甘噛みすると、しっとりとして艶めいた声をジョットは上げた。
  キスを交わしながらGは、少しずつジョットの体をまさぐっていく。
  ズボンの上からジョットの股間に手をやると、ほんのりと熱を持っているのがわかる。てのひらで包み込むようにしてなぞり上げると、硬くなってくる。
「ヤりてえ……」
  囁きかけると、呆れたようにまじまじと見つめられた。
「もう、日も高い」
「まだ朝だ」
  子どものようにGがごねると、仕方がないなとでもいうふうにジョットはわずかに眉をひそめ、それからぎゅう、と抱きついてくる。
「挿れるのはナシだ」
  甘い声を耳の中に吹き込まれ、ガラにもなくGはドギマギした。色っぽい。朝からこんなふうに色気を振りまいて、こんなふうに誘うだなんて反則だと思う。
「挿れねえから」
  言うが早いかGは、ジョットのズボンの前を開いた。半分勃起しかかったものを取り出すと、舌を這わせる。
  先端に舌を押し当て、割れ目の部分を舐め擦る。ジュッと音を立てて先端を啜ると、竿が震えて硬度を増した。唾液に濡れて光る先端がいやらしい。
「もっと……舐めろ」
  Gの髪に手を差し込んで、ジョットが言う。駄々っ子のような甘えた声だ。そのジョットの指先がGの髪を撫で、ついで耳の後ろや耳たぶに触れていく。
「先っちょのほうか?」
  尋ねながらもGは、チョン、とジョットの性器の先を指でつつく。片手で掴んで支えると、舌先で括れた部分をねぶった。チロチロと舌をとがらせ、亀頭の周囲をぐるりと舐めて回る。
「ん…ふっ……」
  ピクン、とジョットの太股が動いた。
  嫌がるでもなく、じっとGの愛撫に身を委ねているところをみると、このまま進めても構わないらしい。
  ちらちらとジョットの様子をうかがいながらGは、硬くなったペニスを自らの口内に収めていく。
  竿に舌を絡めて唾液ごと吸い上げると、先端にピリッとした苦みのあるものを感じた。口を離して先っちょだけを頬張り、吸い上げてやる。チュウ、と音を立てると、先端にじわりと新たな先走りが滲む。ジョットの膝が逃げるようにシーツを蹴る。
  ビクビクと動くジョットの足を片手で捕らえるとGは、腹につきそうなほどぐい、と押しやり、腕に引っかけた。この足に何度か蹴られたことがあるが、不意打ちを狙ってくるから始末に悪い。悪意があってのことではないということはわかっていたが、やはり気になるものは気になるのだ。
  先端をペロリと舐め、口を離すと手で竿を扱き上げる。強弱をつけて扱いてやると、ずり上がったシャツの隙間からジョットの腹筋が小刻みに震えているのが見えた。気持ちいいのだ。
  唇を竿の底面に押しつけ、きつく吸い上げてやると浮き上がった血管がピクピクする。
  面白くなってさんざん竿を舐め回した後で、またゆっくりと口の中に飲み込んだ。
  唇で竿を扱きながらゆっくりと含んでいく。
「あ、あ……」
  溜息をつくような優しい喘ぎ声が、ジョットの唇からは洩れている。艶やかで耳に心地のいい声だ。
  もっと声が聞きたくて、Gは丁寧に愛撫を繰り返す。
  亀頭の裏側を舌でざり、となぞると、口の中でジョットのものが大きくヒクついた。それから間をおかずして、苦みのある生暖かいものが口の中いっぱいに広がっていく。
  その瞬間、ジョットの指がしっかとGの髪を握りしめる。
「ん、んんっ……!」
  大きく四肢を強張らせてジョットは、Gの口の中に精液を放った。
  はあ、はあ、と息を乱しているジョットの目元がほんのりと赤らんでいる。色っぽくてたまらない。
  先端に残る残滓をGは丁寧に舐め取り、最後にもう一度だけ先端の割れ目をチュウ、と吸った。
  口を離し、顔を上げるとジョットが熱心な眼差しでGの仕草をじっと見つめていた。
「なあ……やっぱり…──」
  顔を上げてGが言いかけると、ジョットは少し躊躇ってから片手で髪を撫でてきた。
「挿れるのはナシだと言ったし、今日はもうヤらない」
  きっぱりと言い切られ、Gはがっくりと肩を落とす。
「これだけで、おしまいか?」
  恨めしそうにGが恋人の顔を覗き込むと、「そうだ」とあっさり返された。
「どこぞの赤ん坊のように飴玉を舐めしゃぶるだけで満足しておいたほうが身のためだぞ」
  にっこりと笑ってジョットが告げる。
「……それだけか?」
「それだけだ。これ以上、なにを望む?」
  これで満足しておけと、暗に言われたような気がした。これ以上を望むのは贅沢だと、ジョットの瞳はそう語っている。
  はあぁ、とわざとらしく溜息をつくとGは、ジョットから離れた。



          3
(2011.8.11)


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