ぎこちなく唇を合わせた。
十四歳の綱吉のたどたどしい手つきにも、獄寺の身体はすぐに熱を孕みだす。朱を帯びた目尻が艶めかしくて、綱吉はゴクリと唾を飲み込んだ。
少し前まで綱吉の腹の底で燻っていた熱が、ジリジリと蘇ってきた。
「触ってもいい?」
尋ねると、獄寺は素直に頷く。
「……触ってください、十代目」
掠れた声は痛々しかったが、それがさらに色気を放っているようにも思われた。
この色気は、獄寺のもともとの資質だろうか? それとも、二十四歳の綱吉に触れられたことで覚えたものだろうか?
獄寺の瞳を覗き込むと、彼は恥ずかしそうに目を伏せた。
獄寺の初めてになりたかったと、そう思わずにはいられない。綱吉の唇は、二十四歳の獄寺に持っていかれてしまった。雰囲気に流されてキスしてしまった綱吉が悪いのだ。獄寺はどうだろう? 帰国子女の彼にとって、キスなんて挨拶とかわりないだろう。と、言うことは、ファーストキスなんてとっくの昔に経験ずみでもおかしくないということで。おまけに体のほうは二十四歳の自分がさっさと奪ってしまっている。獄寺の初めてになり損ねた自分というのは、なかなかに自分らしいではないかと綱吉は思う。 ダメツナと呼ばれる自分には、これぐらいがお似合いなのだろう。
欲張ってはいけない。もっともっとと、上を見てはいけない。ダメツナだから。
そう思い、自分を諫めながら獄寺の唇にチュ、とキスをした。
互いの着ているものを脱がし合い、裸になってベッドに潜り込んだ。
白い肌にはところどころ、二十四歳の自分が残した跡がある。無性に腹が立ったが、過ぎたことに腹を立てても仕方がないだろう。
照明の光度を下げると、部屋の中が薄暗くなった。
相手の顔がなんとか見える程度の暗さにすると、どことなくホッとする自分がいた。恥ずかしいのもあったが、それ以前に、獄寺の白い肌に残された跡に我を忘れてしまいそうな気がしたからだ。 ベッドの中で横向きに寝そべった綱吉は、獄寺の髪に指を差し込んだ。さらさらとした銀髪が、指に絡みついては零れていく。
「十代目……」
暗がりの中で獄寺は、不安そうに呟いた。
「俺、初めてじゃないっスけどいいですか?」
ほんの少し前に、獄寺の初めては二十四歳の綱吉によって奪われてしまっている。そのことを言っているのだと、綱吉にもすぐにわかった。
「ぜんぜん」
そう言って、チュ、と獄寺の額にキスをする。
「気にならないって言ったら嘘になるけど。それよりも、獄寺君が嫌な思いをしてなきゃいいな、って。そう思ってる」
初めてだとか、そうでないとか、そんなことはどうでもいい。確かに、初めてに拘る部分も少しはある。だが、そんなことをとやかく言っていても始まらないだろう。
「オレは、嬉しいよ。獄寺君とこうやって抱き合えることができて」
それでいいじゃん、と、綱吉は笑った。
一瞬、涙ぐみそうになった獄寺が、暗がりの中で微かに頷くのが見えた。
相手の熱を奪い取るような勢いで、なんどもキスを交わした。
体が震えるのは、気持ちがいいからだ。獄寺の手が綱吉の肩をなぞり、腕から肘へ、それからまた腕を辿って肩へと戻る。
軽く唇を触れあわせるだけのキスの合間に二人とも、ゆっくりと相手の下腹部へと手を滑らせていった。綱吉がペロリと獄寺の唇を舐める。獄寺も同じように、綱吉の唇を舐め返す。自分の行動を相手がなぞるようにして真似するのが嬉しくて、拙い愛撫を繰り返す。
「あの二人、ちゃんと仲直りしてるかな」
不意に思い出したように綱吉は、獄寺の鼻先に自分の鼻をすり寄せて呟いた。
獄寺は目を閉じ、うっすらと唇を開けていた。綱吉の手は、獄寺の竿を握っていた。やわやわと手を上下させると、それだけで獄寺ははぁ、と甘い吐息を吐き出した。自分の拙い愛撫に獄寺が感じてくれることが、たまらなく嬉しかった。
「ぁ、あ……」
喉の奥から絞り出すようにして、小さな声があがる。もしかしたら獄寺は、綱吉の呟きには気づいていないかもしれない。
まあ、いいかと綱吉は思った。未来の自分たちが仲直りをしていようと、してなかろうと、十四歳の自分たちには関係のないことだ。自分たちはこうして一緒に時間を過ごすことができている。それで充分ではないか。
色の白い獄寺の性器は華奢だった。明かりを落とす前に見た時に、ほっそりとして淡い色をしていることは知っていた。亀頭の縁を指の腹でぐるりとなぞると、獄寺の手も同じように綱吉の性器に触れてくる。腹の底からじんわりとした熱がこみ上げてきて、腰が揺らぐ。
いつしか、その行為に綱吉は没頭していた。自分でしているのか、してもらっているのかもわからなくなってくる。
息を荒げ、は、は、と酸素を肺に取り込みながら、必死になって獄寺のものを扱いた。
「や、ぁ……」
獄寺の腰が大きく跳ねたと思ったら、熱が弾けて、綱吉の手を濡らした。綱吉も頭の中が一瞬、真っ白になった。おそらく獄寺の手は、綱吉の先走りで同じように汚れていることだろう。
「んっ、んんっ……!」
ピン、と伸びた獄寺の足がケットを蹴飛ばした。あらわになった白い裸体が暗がりの中にぼんやりと浮かび上がった。
体を起こすと綱吉は、獄寺の喉元に唇を押し当てた。肌をペロリと舐め、やんわりと吸い上げる。
獄寺はのろのろと手をあげると、綱吉の癖のある髪に触れてきた。
「……十代目」
甘く掠れた声は、これは綱吉のために発せられたものだろうか?
唇で獄寺の肌をなぞり、胸の尖りを探し当てた。チュ、と音を立てて吸い上げると、獄寺の腹筋が震えた。痙攣するかのようにビクビクとなって、髪をぎゅっと掴まれた。
「気持ちいい?」
尋ねると、獄寺はコクコクと首を縦に振る。その仕草が可愛らしくて、綱吉は喉の奥で笑った。
「ココは……?」
と、躊躇いがちに綱吉は、獄寺の後ろへと手を這わせた。窄まりの縁をぐるりとなぞると、指の腹で襞を引き伸ばそうとする。
「ぅ……キモチ、い……」
しがみつく獄寺の手が、やさしく綱吉の髪をかき乱す。
今しがた放ったばかりの獄寺の精液を指で掬い取ると綱吉は、それを後孔へと塗りこめた。グチュ、グチュ、と湿った音がするたびに、獄寺の体に緊張が走る。怖いのだろうか? それとも……。 「ゃ、ぅ……」
首を左右に大きく振りながら獄寺は、掠れた声でうわごとのように呟いた。入れてください、と。
綱吉は襞の狭間に指をそっと押し込んだ。グチ、と音がして、獄寺の足がシーツを蹴ってピン、と伸びる。
堪えている時の表情がいいのだ。こんなふうにしてなにもかもすべてを綱吉に任せきって、それでも最後の最後、砦となる彼のプライドめいたものがそうさせているのだろうか、決して欲に溺れようとしないところが、ストイックでいい。
締めつけようとする内壁をやんわりと押し返し、綱吉は指を動かしてみた。
「あ……あ、あ、あ……──」
獄寺の足が、もどかしげになんどもシーツを蹴る。
指だけで感じてくれるのは、二十四歳の自分が獄寺にそれを教え込んだからだろうか。そう考えた自分に対して、綱吉はムッとなった。今、獄寺が目の前で乱れてくれている。それで充分ではないかと、自分に言い聞かせる。
「や、あっ……!」
カクカクと膝を揺らしながら、獄寺は足を立て膝にする。膝を合わせ、綱吉の手の動きを止めようとしてくる。綱吉は開いていたほうの手で獄寺の膝をぐい、と押しやった。観音開きに足を開かせ、その間に体を押し込むと、爪の先で獄寺の内壁を引っ掻きながら指を引きずり出す。
「ん…あ、う……」
綱吉の肩に食い込んだ獄寺の手が、心地よい痛みを与えてくる。楕円型の綺麗な爪が綱吉の肩に立てられている。
「入れてもいい?」
指ではなくて、もっと別のもの。二人がひとつになるために、綱吉は自分がどうしなければならないか、理解していた。
「いい?」
獄寺の顔を覗きこむと、彼はうっすらと笑みを浮かべて綱吉の体に腕を回してきた。
「早くください、十代目っ!」
綱吉は腰をずらして獄寺の後孔に性器を押しつけた。焦れったそうに獄寺が腰を揺らす。 「奥までいっぱいにしてください」
そう告げた獄寺の目尻に、きらりと光るものが見えたような気がした。
|