ひっきりなしに聞こえてくる湿った音が、恥ずかしくてたまらない。
こんなこと、何度だって経験しているというのに、何年経っても獄寺は慣れることができないでいる。
何度も抱かれて、何度もイかされて……キスだって数え切れないくらいしているし、それと同じくらいたくさん、恥ずかしいこともされ、恥ずかしい姿を晒してきた。
なのにいまだに、慣れることができない。
見せかけや態度の割に、はすっぱなことろがないからだろうと獄寺のことを評したのは誰だっただろう。
さんざん舌で濡らされて慣らされた獄寺の後孔に、綱吉の指がかかる。襞を押し広げ、入り口のあたりでぐにぐにと指を動かされると、獄寺の襞が期待するかのように収縮を繰り返す。
「んっ……ん、ふ……」
クチ、クチ、と湿った音がしている。
恥ずかしい。暗がりで見えないのに、どうしてこうも綱吉は獄寺のことをうまく翻弄させるのだろう。それに、体が熱くてたまらなかった。熱を逃すように身じろぐと、綱吉の腕がぐい、と獄寺の腰を引き寄せようとする。
「あ……ぁ、んっ」
綱吉の両手が獄寺の腰を抱え直したかと思うと、すぐに熱いものが押し当てられた。ガチガチに硬くなった綱吉のペニスの先走りが、獄寺の窄まった部分に塗り込められるようにして何度か行き来する。ヌチュッ、という音のひとつにさえ、獄寺は体をヒクつかせる。綱吉の性器がゆっくりと、獄寺の襞の中へと埋もれていく。ゆっくり、ゆっくり……
「あ、あ……あ……」
痛いのか、気持ちいいのかわからないような奇妙な感覚が押し寄せてきて、獄寺の腹の中がじわじわと圧迫されていく。内臓が迫り上がってくるような感じに、獄寺は微かな吐き気を覚える。
「ひっ……あ、あ……」
首を左右に大きく振ると獄寺は、ぐっと四肢に力を込めた。と、同時に後孔がきゅっと締まり、中に埋め込まれている綱吉の性器をきつく締めつける。
「くっ……」
耳のそばで綱吉の低い呻き声が響く。吐息が耳たぶにかかり、獄寺の背筋がゾクリと震える。
「あっ……ん……ぅ……」
腹筋が震えて、腹の中におさめられた綱吉の性器がやけにリアルに感じられる。形がわかるような気がして、獄寺はこの上なく恥ずかしかった。
グチュッ、グチュッ、と湿った音が暗がりに響いている。恥ずかしくてたまらないのに、その一方でこの行為を望んでいた自分がいる。
綱吉に抱かれるのは、嫌ではない。怖くもない。むしろ毎日でもこんなふうに抱かれていたいと獄寺は思っている。
綱吉のもので貫かれ、内壁を擦り上げられ、貪り尽くされるのなら本望だ。
求められることが嬉しい。抱かれて、ぐちゃぐちゃになるまで激しく揺さぶられて、なにもわからなくなってしまえばいいと思う。
「じゅ……じゅ、ぅ……」
気持ちよすぎて呂律が回らない。獄寺はもどかしそうに肩越しに背後を振り返った。暗がりの名で綱吉の顔が見えるはずもなかったが、それでも闇の中に必死に綱吉の顔を探す。
「もっと?」
優しく尋ねられ、獄寺はコクコクと頷く。見えるはずもないのに、必死になって首を縦に振る。
「も……もっと! 十代目、もっと……くだ、さ…い……」
震える声で獄寺が強請ると、綱吉の手が腰骨をなぞった。
「ん、ああっ……!」
背を反らして、足の先にぐっと獄寺は力を入れる。
ビリビリと、電流のような強い快感が全身を駆け巡るのが感じられる。その後に全身へと広がっていく酩酊したような感じが、たまらなくいい。
もっと、と、獄寺は胸の内で呟いた。
もっともっと、強く抱きしめてほしい。綱吉の動きに合わせて腰を揺らしながら獄寺は、足をさらに大きく開いた。
上体をシーツにペタリとつけると、片手で自分の陰茎を握りしめる。おびただしい量の先走りに濡れた先端をてのひらに擦りつけるようにして何度も押し付けると、いっそう激しく腰が揺らめく。 腰をがしりと掴む綱吉の手が、肌に熱い。
「じゅっ……」
はあっ、と息を吐き出した獄寺は、もう一方の手でシーツに縋りつく。そうしていないと、なにもかもすべてが流されてしまいそうだった。体も、感情も、なにもかもすべてが。
窄まった部分を犯す綱吉のストロークが、次第に熱を帯びてくる。スピードが上がり、激しく中を擦り上げられる。痙攣したように獄寺の腹筋が震えると、綱吉は苦しそうに低く呻く。その声が好きだと、ぼんやりと紗がかかったような頭の中で獄寺は思う。
感覚は研ぎ澄まされ、快楽だけを追うように、獄寺の意識はひとつところへと集まっていく。
自分を犯す男の陰茎と、息遣い、それから指先。肌はじっとりと汗ばんで、あたりには精液の青臭いにおいが漂っている。
腰を抱えていた綱吉の手が獄寺の腹を撫で、胸のあたりに触れてくる。なぞるだけの手の動きに、獄寺は焦れったい思いをする。もっと触れてほしい。強く胸の尖りを嬲ってほしい。
「はっ、ああ……っあ……」
ヒクッ、と獄寺がしゃくり上げると、埋め込まれた綱吉のペニスがぐん、と嵩を増す。鰓の張った部分で内壁を擦り上げられると、怖いほどに体が感じてしまう。
自分で自分の陰茎を扱いていると、そのうちに綱吉の手がそこへと辿り着く。
「ね、自分でずっと触ってたの?」
オレが抱いているのにと、言外に咎めるような雰囲気を滲ませて綱吉が訊く。
「ひぁっ……ん、んっ……」
先端の先走りを指に絡めると綱吉は、その指で獄寺の腹をなぞった。先走りがなくなると、また先端をなぞり、先走りを掬い取って今度は胸の先へと指を走らせる。先走りを塗り込めるようにして乳首を押し潰され、獄寺はあられもない嬌声を上げた。
耳の後ろで綱吉がクスッと笑ったような気がする。
「……っ、……もっと」
掠れた声で獄寺は訴えた。
「もっと……いっぱい、触ってくださ……っ!」
綱吉の指が、ゆっくりと獄寺の肌を這い回る。
気持ちよくて、頭の中がどうにかなってしまいそうだ。
いっぱいいっぱいに足を広げられ、カエルが押し潰されたような格好をして獄寺は、背後から綱吉を受け入れている。自分で自分のものを扱いていた手は、いつの間にか綱吉の手によってシーツに縫いつけられている。仕方なく獄寺は、腰を揺らす。シーツにペニスをなすりつけて、腰に集まった熱を逃そうとする。
綱吉の指先が意地悪く獄寺の肌を辿っていく。敏感な脇の下や乳首のまわりをなぞるだけなぞって、肝心なところへは触れてはくれない。
焦らされて、泣きが入った自分のこの姿を、綱吉はどう思っているだろう。男のくせに、自分と同じ男に犯されてよがるあさましい淫乱──そんなふうには思われていないだろうか。
それにしても、綱吉の手が恨めしい。触れてほしいところはいくつでもある。胸の突起に触れてこねくり回してほしい。脇腹の柔らかなところ、それからもっと下、三角形の繁みの中でたらたらと先走りを零しているペニスにも、触れてほしい。袋ごと揉みしだいて、竿を扱いてほしい。それなのに綱吉は、さっきからその周辺にやわやわと触れるだけで、直接、触れてほしいところへは手を出してくれないのだ。
「んっ……う、ぅ……」
獄寺は、自分の手に重ねられた綱吉の手に指を絡めた。ぎゅぅ、と握りしめ、それから自分の口元へと引き寄せる。
「じゅ、だ……」
譫言のように呟きながら、綱吉の手に歯を立てた。ガリ、と音がするまで皮膚を囓ると、口の中に鉄の味がじわりと広がっていく。
滲みだした血を味わうようにして、獄寺はピチャリと音を立てて綱吉の手を舐める。二度、三度と獄寺が舌を這わせると、さらに綱吉の突き上げが激しくなった。ガシガシと腰を揺さぶられると、湿った音がいっそう大きく部屋に響く。
「あ、あぁ……んっ」
綱吉の手を掴む獄寺の手にも、知らず知らずのうちに力がこもる。獄寺はそのまま、綱吉の指先に舌を絡めた。チュパッ、チュパッ、と音を立てて吸い上げる。綱吉の竿を思って、舐め、吸い上げ、唾液を絡ませ啜り上げる。フェラチオをする時のように歯を立てないように気をつけながら口の中に出し入れする。
「んっ、んくっ、ぅ……」
綱吉の指が、獄寺の口の中を掻き混ぜる。まるで後ろの孔に指をつっこまれてグチャグチャに掻き混ぜられているような気がして獄寺は、苦しそうに呻き声をあげる。苦しいが、愛しくてならない。上も下も同時に可愛がられているような気になって、いつも以上に獄寺は興奮した。
「ぐ……ん、む、ぁ……」
湿った音がどこからしているのか、獄寺にはわからなくなっていた。自分の口の中を掻き混ぜる複数の指と、襞の中を擦り上げ、掻き混ぜる陰茎と。どちらも同じように湿った音を立てている。獄寺の身体を苛み、貪り、食らい尽くそうとしているかのようだ。
「あ、んんっ……じゅ、ぅ……」
目を強くつぶっているのに、獄寺のまぶたの裏側にチカチカと閃光が走る。
「やっ……イ…イク!」
ああっ、と切羽詰まったような声をあげて獄寺は、体を強張らせた。シーツに押しつけた性器がピクン、と大きく震える。次の瞬間、シーツに白濁が飛び散り、あたりをたっぷりと濡らしていく。 獄寺の中を突き上げる綱吉のペニスもそれにつられたのか、ぐん、と嵩を増し、腹の中で熱いものが勢いよく弾けた。
「あ……あ!」
きゅぅ、と獄寺の全身が弛緩する。ビクビクと体が震えて、体の中に放たれた綱吉の精液を最後の一滴まで搾り取ろうとしてか、内壁が蠕動を繰り返す。
綱吉も獄寺の深いところをさらに突き上げ、腰を回すようにして揺さぶり、残滓を注ぎ込む。
獄寺の気持ちが満たされていく。
握りしめた綱吉の手をしっかり抱え込んだ姿勢のまま、獄寺はゆっくりと意識を手放していく。
最後に意識が途切れる寸前に、綱吉が耳元でなにか囁いたような気がしたが、獄寺には理解できなかった。
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