保健室のカーテンの陰に隠れて、互いの体を抱きしめ合った。
秋だというのにジリジリと照りつけるように暑い午後の日差しから逃れるようにして、二人は保健室へと逃げ込んだ。競技ごとの進行具合を確かめている最中に綱吉が転んだのを言い訳に、そそくさとグラウンドを離れることができたのは獄寺が機転を効かせたからだ。
ぎゅう、と背に回った腕の力の強さや、体操服の布越しに感じる汗ばんだ肌や、汗と砂埃のにおいに目眩がしそうだと獄寺は思う。
力いっぱい綱吉にしがみついて唇を突き出すと、チュ、と音を立てて唇が合わさった。かさついた唇にはほんのりと血の味が滲んでいる。
「ん……」
くちゅ、とわざと湿った音を立てて唇を離すと、抱き締めてくる人は、照れたように目元をほんのりと赤らませて視線を逸らした。
「……そろそろ戻りましょうか」
窓のほうへと視線を向けて、獄寺は尋ねる。
開け放たれた窓の向こうに広がるグラウンドからは、賑やかな声が聞こえてきていた。体育祭の練習に余念のない生徒たちの様子に、どこかしら冷めた眼差しで獄寺はため息を零す。
「今日は一日中あんな感じなんでしょうね、アイツら」
馬鹿馬鹿しいと思う。あんなふうにむきになって運動をしたからといって、どうなるというのだ。
「二人でサボっちゃおっか」
不意に、ふざけた口調で綱吉が呟いた。
獄寺は口を噤むと、じっと綱吉の横顔をうかがう。そんなことを本気で望んでいるわけではない。ただほんの短い時間でいいから、綱吉に抱き締めてほしかっただけだ。
「や、でも、やっぱりそろそろ戻ったほうが……」
気まずそうに獄寺が言いかけるのを、綱吉は視線ひとつで遮ってしまう。
「ダメかな?」
困ったような綱吉の眼差しに、獄寺はハッと息を飲む。
獄寺と出会うまでの綱吉は、引きこもり気味の不登校生徒だったと聞く。体育祭の練習はあまり好きではないようだったが、綱吉なりに努力をしていたことは獄寺も認めている。押しつけられた実行委員としても充分に動き回っているから、余計に獄寺は手を貸したくなる。
だからだろうか、最近の綱吉は、どこか疲れたような表情をすることが多くなったような気がする。
実行委員も、体育祭の練習も、そう嫌じゃないんだよ──と、綱吉は言った。獄寺がいるし、山本も笹川京子もいる。綱吉の周囲には友人が溢れており、彼一人ではとうていできそうにない無理難題が目の前にあったとしても、皆が協力してなんとか片づけてきた。
それでも、疲れる時は疲れるだろう。
獄寺は苦笑して、綱吉にしがみついていく。
「……そうっスね、十代目。たまには二人でサボりましょうか」
そう言って獄寺は、綱吉の首筋にかぷりと白い歯を立てた。
保健室のベッドの上で、獄寺は四つん這いの姿勢を取らされていた。
下着とハーフパンツは膝のあたりまでずりおろされ、シャツは胸のあたりまでたくし上げられただけの状態なのがいやらしく感じられて、恥ずかしい。
クチュクチュと湿った音がするのは、綱吉が獄寺の後孔を舌と指とで弄っているからだ。襞の縁をやんわりと指が開いて、その隙間から舌がニュルリと中へと入ってくる。ヌルヌルとして、熱くて、ざらついた感触に、獄寺の体がブルッと震える。
「ぁ……ひ、んっ……」
クチュ、クチュッ、と湿った音がひっきりなしに耳の中へと飛び込んでくる。
体の中も外も熱くて、むずむずとしている。焦れったいほどに時間をかけて指が内壁を擦り上げている。
「やっ……ダメ……ダメです、十代目……」
うわごとのように呟きながら、獄寺は腰を揺らした。
綱吉の指が中でうごめき、獄寺のいいところを探っている。
前立腺の周囲を執拗になぞられ、擦り上げられると、それだけで四肢がぷるぷると震えてくる。だらしなく口を開けると、唇の端から口の中にたまっていた唾液がたらたらと零れ落ちる。みっともない姿をさらしているという自覚はあったが、自分ではどうにもできないのだから仕方がない。
綱吉の指の動きにあわせて腰を揺らし、声を上げた。
今、誰かが保健室にやって来たらどうしようという考えは、これっぽっちも頭の中には浮かんでこなかった。それよりも、綱吉の指がもっと奥のほう、獄寺のいいところを的確に指の腹で押してくれないかと自分から進んで身を捩る自分の浅ましさに羞恥心がこみ上げてくる。
「十、だ……」
ガクガクと四肢が震えて、勃起したペニスがはち切れそうなほど固くなっているのが辛くてたまらない。先端から先走りをタラタラと溢れさせ、もどかしさに獄寺はまた腰を揺らす。
「十代目、触って……前、触ってくださ……」
言い終えるか終えないかのうちに、綱吉の空いているほうの手が、獄寺の前へと回った。きゅっ、とペニスをてのひらに包み込み、やわやわと上下に動かし始める。
「ひぁっ……!」
唇がゆっくりと太股の付け根に押しつけられ、皮膚を吸い上げる。痛いほど吸われて、獄寺は「あっ!」と声をあげてしまった。
綱吉の唇は、獄寺のその声を合図にゆっくりと離れていく。それから尻にもチュ、と唇を押しつけてから、今度こそ本当に綱吉の唇は獄寺から離れていった。
前を弄る手が、湿った音を立てている。卑猥な音だと獄寺は思う。この音のせいで自分の体は余計に熱く、淫らになっていくような気がする。弄られて気持ちよくなって、甘えたような女のような声を上げる自分のみっともない姿を、綱吉はいったいどう思っているだろう。淫乱だと思われるのは嫌だ。だが、もっともっと、気持ちよくなりたい。綱吉のペニスを体の中に突き立てられ、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜられ、白濁した熱いもので汚されたい。
「あ……ぁ……」
無意識のうちに体に力が入り、中に潜り込んだ綱吉の指を締めつける。綱吉の指の長さ、節くれ立った指の関節までわかるような気がして、恥ずかしい。
「やっ……ん、ぁ……」
ビクビクと体が震える。
「も、イきそう?」
耳たぶに綱吉の吐息がかかる。
うなじのあたりをベロリと舌で舐め上げられると、反射的に体の中にあった綱吉の指をさらにきつく締めつけてしまう。
「イく……イきそ、です……」
唇を噛みしめ、少しでも声をこらえようとするのに、綱吉の指が内壁を引っ掻くようにして抜け出ていくのを感じて、またしても獄寺はあられもない声を上げてしまう。
「挿れていい?」
尋ねる声が耳の裏側にかかると、背筋がゾクリとする。
「っ……ダメ……今日は、ダメです……」
この後もまだ授業がある。これが自分の部屋だったならと獄寺は思った。自分の部屋なら、思うままに乱れて好きなだけ綱吉に突き上げられ、たっぷりと汚してもらったところなのに。
もじもじと尻を揺らすと、綱吉が喉の奥で低く笑うのが感じられた。
見られているのがわかっているから、余計に恥ずかしいのだと獄寺は思う。
ヒクついている尻の穴と、勃起してタラタラと先走りを零す性器と、四つん這いになって腰を高く掲げて、綱吉に後ろからすべて見えるようにしている自分の姿を思うと、体が熱くなってくる。焦れったくて、早く触れて欲しくて、先端からトロリと先走りを溢れさせると、糸を引いて零れていくものを綱吉の指が掬い取る。先端をぐり、と指の腹で擦られて、カクカクと膝が震える。
「あ……く、ぅ……」
獄寺はぎゅっとシーツを握りしめる。保健室独特の消毒のにおいが鼻につく。シーツも枕カバーも、なにもかもが消毒臭い。
「じゃあ、挿れない」
そう言って綱吉は、やんわりと唇で獄寺の太股を辿り始める。チュ、チュ、と音を立てながら唇は、太股を移動していく。窄まったあたりまでくると今度は、舌で襞の隙間をくすぐったり、舌先をねじ込んだりしてくる。
わざと焦らされていることがわかったから、獄寺は誘うように腰を揺らした。
「や……」
首を左右に振ると、張りつめた前からポタポタと先走りが滴り落ちる。シーツの上にできた染みが、獄寺を嘲笑っているかのようだ。
「挿れて欲しい? それとも、挿れて欲しくない?」
綱吉のてのひらは獄寺の先端を包み込んだまま、ぐりぐりと亀頭を愛撫する。熱くてむず痒いような感じがしたかと思うと、ヌチャッ、と淫猥な音がてのひらの中で上がる。
「ぅ……うっ」
腰を揺らしながら獄寺は、綱吉のてのひらに先端を押しつけようとする。いいところを触ってもらいたくて仕方がない。窄まった部分がヒクヒクとするのも感じていた。きっと綱吉からはこういった淫乱な姿が丸見えなのだろう。
だけど、この体に溜まった熱を放出しなければ、獄寺もどうにかなってしまいそうだった。切羽詰まって腰を大きく揺らすと、綱吉がゴクリと唾を飲む音が聞こえてきた。
「……ごめん、獄寺君。中で出さないようにするから、挿れさせて」
欲情して掠れた声に、綱吉も切羽詰まっているのだと思うと、獄寺はたまらなく嬉しかった。
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