しあわせホワイトボックス 2

  先走りでヌルヌルになった綱吉のペニスが、獄寺の窄まった部分に押し当てられた。
  中途半端な格好で抱かれるのが恥ずかしいのは、今が真っ昼間だからだろうか。おまけに綱吉は着衣のままだ。わずかにハーフパンツをずらした状態で、獄寺に覆い被さってきている。
「は……っ、……んっ!」
  ずぷっ、と音がして、固くて太いものが獄寺の体の中にねじ込まれてくる。熱い。痛い。ぐいっ、と埋め込まれると、内臓がせり上がってくるような感じがして気持ち悪かったが、エラの張った部分が内壁を擦り上げるごとに、獄寺の体は跳ね上がりそうになる。痛みではなく、その向こうにある快感が見え隠れしているのを幸いに、獄寺はきゅっとシーツを握りしめる。
「じゅ…代……」
  綱吉の腰の動きに合わせて獄寺は、自分も腰を振った。
  太いものに貫かれたままで腰を揺らすと、じわん、と下腹に快感が広がっていくような感じがする。痛みばかりでなく気持ちいいと思える。
「十、だ……」
「……獄寺君」
  耳元で綱吉が囁いた。
「こういう時の獄寺君って……可愛いと思うよ」
  言いながら綱吉は、ぐいぐいと腰を押し進めてくる。
「あっ……ああ、ぁ……」
  じゅぷっ、じゅぷっ、と湿った音を上げながら、綱吉の竿が自分の中を出たり入ったりしている。
「こんなに広がってるよ、獄寺君のココ」
  結合部の襞を指でなぞられて、ヒッ、と喉に詰まったような声が出た。
「や、め……触らないで……」
  襞が収縮して、中に潜り込んだ綱吉の竿をぎゅう、と締めつける。敏感になっているからだろうか、綱吉の指が表面のむき出しになった部分に触れると、それだけでピクピクと内側が震えてくる。
「ん、ん……」
  膝がカクカクとなって、シーツの上を滑りかけた。綱吉の手が太股をぐい、と押しやると、獄寺はベッドの上で四つん這いになったまま、ひしゃげたカエルのようなみっともない姿勢になった。
「やっ……」
  お尻を突き出した格好がみっともなくて、恥ずかしい。もぞもぞと身を動かすと、綱吉の腰が大きく突き出され、獄寺の奥まった部分を突き上げた。
「は……あ、ぅ……」
  肉と肉とがぶつかって、パン、と音がしたような気がする。太股に、綱吉の太股が密着している。それだけではなく、背後から綱吉に覆い被さられた部分はどこもかしこも肌と肌とがピタリとくっついているような感じだ。
「……気持ちいい」
  ポツリと綱吉が呟いた。
「獄寺君の中、とっても気持ちいいよ。熱くて、ヌルヌルしてて……ずっとこのままくっついていられたらいいのにね」
  綱吉の下で、獄寺はもぞ、と体を動かした。中がヒクヒクしているのが自分でもわかる。恥ずかしいぐらいに綱吉を締めつけ、奥へ奥へと竿を飲み込もうとしているかのようだ。動いてほしい、と獄寺は思った。突いてほしい。中を擦り上げて、もっと気持ちよくしてほしい。



「ぁ……」
  先走りが先端から溢れるのを感じた獄寺は、肩で綱吉の体を押し返した。
  ガチガチになった前は、何度か扱けばすぐにでも弾けそうな状態だ。自分で触れば、あっと言う間に気持ちよくなれるだろう。
「さ……触っ、て……」
  焦れたように獄寺が体を揺らすと、綱吉の手ががしりと前をわし掴んでくる。袋ごと根本を揉みしだかれ、快感が背筋を走り抜ける。
「ひ、あっ、あ……」
「好きな時にイッていいよ」
  そう言うが早いか、綱吉の竿がズルズルと引きずり出され、獄寺の襞の入り口をヌチヌチと攻め始めた。前に回された手は、まだ獄寺の竿を扱いている。もっと先のほうにも触ってほしい。獄寺が腰を揺らすと、背後で綱吉が淡く笑った。
「やっ……前、もっと……っ!」
  もっと強く扱いてほしいと言いかけたものの、咄嗟に獄寺は唇を噛みしめる。
  綱吉の手が、獄寺が告げるよりも早く竿全体を激しく扱きだしたからだ。痛いほどに強い力で扱かれて、先端からかタラタラと先走りが溢れて止まらなくなる。綱吉の手を伝い、シーツの上にみっともない染みを増やしていく。
「あっ、あっ……」
  手の動きに合わせて獄寺が腰を揺らすと、綱吉の腰もそれに合わせるようにしてゆっくりと動き出す。
「っ…ん……」
  少し前までは余裕があって、グラウンドのざわめきが聞こえてきていたのに、今はそれが聞こえない。獄寺の耳に聞こえてくるのは自分自身の嬌声と、綱吉に触れられて立てる湿った淫猥な音、それから綱吉の荒い息。
  肌に浮かんだ汗が不快だと獄寺は思った。
  背中を捩ると、綱吉の舌が首筋に浮かんだ汗の粒をベロリと舐め取る。その舌のざらつきさえもが、気持ちいい。
「ふ……ぅ、ん……」
  体の中には綱吉の性器を埋め込まれ、前を激しく愛撫され、獄寺の頭の中は次第に真っ白になっていく。
「イきそう?」
  尋ねられて、素直に獄寺は頷いた。
「イく……」
  腹筋が震えて、獄寺の内部に蠕動となって広がっていく。綱吉が低く呻く。奥を突き上げていた綱吉のペニスを締めつけ、うねうねとまとわりつく自分の襞がなにかとてつもなくいらやしいもののように思われる。
「十、代目……イく……イきそ、っス……」
  口の端から垂れた涎までもが、シーツの上に染みを残す。
「も、イく……!」
  うわごとのように呟きながら獄寺は、腰を大きく揺らした。綱吉の先端がもっと奥のほうを突き上げてくれるように、いちばん気持ちのいいところを擦ってくれるように、グダグダになった四肢で踏ん張って、尻を大きく揺らす。
「イッていいよ、獄寺君」
  綱吉も、腰の動きを激しいものへと変えていく。
  夢中になって獄寺は尻を振った。
  自身の荒い息、綱吉の荒い息。涎が零れて、汗が肌を伝い、先走りは綱吉の手を伝っていく。グチュグチュと湿った音がして、太股にあたるのは綱吉の太股なのか、それとも袋なのか。ひっきりなしに上がる嬌声を、綱吉はいつも喜んでくれる。エロいと言って、褒めてくれる。だからだろうか、理性が吹き飛んだ後の獄寺はいつも以上に素直で、思うままに声をあげ、綱吉を喜ばせる。
「十代目……!」
  ビクンッ、と大きく体を痙攣させると獄寺は、綱吉の手を白濁で汚していた。
  綱吉の手を濡らして、シーツを濡らして……青臭い精液のにおいがあたりに広がって、一瞬、体が強張ったようになったかと思うと、目眩がして体からすべての力が抜けていくような感じがした。



「あ……ふ、ぁ……」
  シーツに沈みこんだ獄寺の体は、ヒクヒクと震えていた。自分ではどうにも出来ない震えは、快感からくるものだ。気持ちよくて震えるなんてみっともないと思いながら獄寺は、のろのろとした緩慢な動きで背後の綱吉を振り返る。
「少しだけじっとしてて」
  そう告げると綱吉は、獄寺の腰をがしりと両手で固定した。
  一度、中に埋め込んでいた竿をズルズルと入り口近くまで引きずり出したかと思うと、ぐい、と大きく中へと突き入れてくる。
「ヒッ……!」
  衝撃に獄寺の体がビクン、と大きく跳ねる。
「すぐだから……」
  ごめんねと綱吉が囁いた。
「すぐ、終わらせるから」
  申し訳なさそうな口調とは裏腹に綱吉は、ガツガツと獄寺の中を突き上げてくる。容赦なく擦り上げられ、突かれて獄寺は、またしても嬌声を上げるしかなかった。
  イッたばかりで敏感になっている体を貪られは、抵抗することもできない。
「あ、あ……ダメ……ダメ……十代目……」
  シーツにしがみついてみっともなく懇願すると、ひときわ大きく中を突き上げた綱吉の竿がズルリと抜け出ていく。
「は……っ……」
  は、は、と息を荒げて体の熱を冷まそうとする獄寺の尻のあたりに、熱いものがパシャ、とかけられる。
「あ……」
  青臭い、獄寺自身のものとはまた異なったにおいがしている。綱吉の精液が、自分の尻にかけられたのだ。
「……十代目」
  掠れた声をなんとか絞り出すと、ドサリと綱吉の体が獄寺の隣に伏せってきた。
  綱吉のこめかみに浮かんだ汗が、たらりと肌を伝い落ちていく。獄寺は咄嗟に手を伸ばしてその汗の粒を指の腹で拭い取っていた。
「気持ちよかったっスか、十代目」
  自分は、充分に気持ちよかった。綱吉に好かれているという自信満々の獄寺にしてみれば、気持ちよくないセックスなどあり得ない。
「ん……気持ち、よかった」
  獄寺のほうを向いた綱吉の榛色の瞳が、悪戯っぽく笑っている。
  まるで共犯者のような秘密めいた眼差しに、獄寺はドキドキと胸を高鳴らせる。
「俺も、気持ちよかったっス」
  正直に今の気持ちを獄寺は告げた。
  尻にかけられた綱吉の精液が嬉しい。乾いてしまうとそれはそれで困るから、早めに始末をしたほうがいいことはわかっている。だが、体は心地よい疲労感に包まれていて、そんな状態ではなくなってしまっている。
「寝ちゃダメだよ、獄寺君」
  言いながら綱吉も眠たそうにあくびをしている。
「……十代目だって」
  言い返した獄寺のほうも、何度か瞬きをして、こらえきれずに目を閉じたり開いたりする。
「に、しても。眠いっスね……」
  ポソリと告げると獄寺は、大あくびを連発する。
  後のことはどうとでもなれと思う。
  きっと十代目がなんとかしてくださるはずだ。そんなふうに自分に都合のいいように考えて獄寺は、重い瞼をあっさりと閉じたのだった。



(2012.10.1)
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