ひと仕事終えてからの帰宅はひっそりとして、寒々しいものだった。
はあぁ、と大きなため息をついた綱吉は、着ていたものをそこここに脱ぎ散らかしたまま、部屋着に着替える。
疲れていたし寒気も感じたから、風呂もシャワーも使わないまま、真っ直ぐにベッドに潜り込む。もう一歩も歩けない、指一本だって動かしたくない。そんな状態だというのに、それなのに目が冴えて眠れない。
ベッドの中で何度も寝返りを打ち、ため息を零す。
眠れないのは、自宅へ戻る直前に嗅いだ血のにおいのせいだ。
気が高ぶって、眠れない。
あの、甘ったるいような鉄の錆びついたような、いやらしいにおい。あのにおいのせいで綱吉はいつになく興奮していた。
苛々とベッドの中で体の向きを変えてみるものの、一向に眠気は訪れてはくれない。
鼻の中に残る、あのにおい。
ギリ、と唇を噛み締め、また寝返りを打つ。
眠れない。腹立たしいほどに頭の中は冴えて、シンとした部屋の静けさまでもが、綱吉の苛立ちを募らせようとしているかのようだ。
はあ、ともう一度、ため息をついた。
獄寺のいない部屋は寂しくて、静かだった。
彼の吸う煙草と、微かなコロンのにおいがない。それだけで孤独感はいや増し、一人でいる寂しさをひしひしと感じる。
こんな夜は、一人でいたくない。
本当なら今夜は、久々に獄寺と二人きりの夜を過ごしていたはずだ。
軽くふざけあったり、お気に入りのDVDを見たり……そのままいい雰囲気になればもちろんセックスをしていただろう。
二人して別々の任務を請け負うだなんて、考えもしなかった。
これは立派な時間外労働だ。苛々とした気持ちを押さえ込むように、綱吉は無意識のうちに拳を握り締めた。
綱吉はつい先ほど屋敷に戻ってくることができたが、獄寺はまだ、任地にいる。とっぷりと日も暮れてそろそろ仕事を終えようかという時間になって急な任務が飛び込んできたため、本来ならば部下たちで事足りるような瑣末事だったが、二人とも即座に屋敷を後にした。部下に任せなかったのは、彼らのことを信じていないからではない。
飛び込んできた任務は、同盟マフィアと準同盟マフィアとの間で発生したトラブルの鎮圧だった。
当たり前のように部下を招集しようとした雲雀を押しとどめたのは、他でもない綱吉本人だ。時間も時間だから召集はなしだと言い放ったのだ。
そのせいだろうか、まるで嫌がらせのように綱吉と獄寺の二人にトラブルの収拾を押しつけた雲雀は、後の雑事は草壁に任せ、さっさと自分の屋敷に引きこもってしまった。
だから、文句を言うことはできない。
自分たちがやると言ったのだから仕方がない。
はあぁ、と溜息をつくと綱吉は、ゴロンとベッドの中で何度目になるかもわからない寝返りを打った。
獄寺が屋敷に戻ってきたのは、深夜を随分と過ぎた時刻になってからだった。
今夜は二人で過ごす予定をしていたのに当てが外れてしまった。残念で仕方がないと思いながらも綱吉は、戻ってきた獄寺を労わる。
ざっとシャワーを使った獄寺は生乾きの髪のまま、ベッドに潜り込んできた。
ひんやりとした冬の空気と、石鹸の匂い。それから、綱吉自身の鼻の中に残る血のにおいで、頭がくらくらしそうだった。
背中を向けて眠る体勢を取った獄寺を、綱吉は背後から抱きしめた。途端に綱吉の頬にひんやりとした髪が触れる。
「……ひゃっ、冷たい!」
声をあげてぎゅう、と獄寺の体を抱きしめる。
「ちゃんと温まってきた? まさか頭から水をかぶっただけじゃないだろうね」
夏場ならともかく、今は真冬だ。水浴びだなんて、考えただけでも鳥肌が立つ。
「さすがに水は無理っスよ」
ははは、と笑って獄寺は告げた。
生乾きの髪が綱吉に触れないよう、体をずらして離れようとする。気にしなくてもいいのにと、綱吉はますます力を込めて獄寺の体を抱きしめる。
「ちゃんと温もらないと、風邪ひくよ?」
大事な恋人兼右腕だ。風邪なんてひかせられないと綱吉は、獄寺の首筋に唇を当てた。
「……っ、ん」
甘えるように獄寺は、自分の腹のあたりに回された綱吉の手を掴み、指を絡めていく。
「こんな時間だけど……する?」
綱吉のほうからお伺いを立てると、ほぼ九割方、獄寺は従順に体をひらく。
考えるように獄寺は、綱吉の指をそっとなぞった。
「十代目はお疲れではないですか?」
逆に尋ねられ、綱吉は「大丈夫だよ」と返した。
体にこもった熱が苦しいのだとは言えず、ごまかすように獄寺の尻に自分の股間を押しつけていく。
「十代目……」
獄寺は嫌だとは言わなかった。
しかしいいとも言わなかった。
綱吉は黙って獄寺の耳の後ろを舐め上げた。耳たぶを唇で挟んでクチュ、と湿った音を立ててやると、恥ずかしそうに微かな喘ぎ声を獄寺は洩らした。
潤滑剤をたっぷりと手に取ると綱吉は、獄寺の後孔に塗りこめた。
ドロドロになるまで中をたっぷりと指で愛撫する。何度も潤滑剤を注ぎ足しているうちに獄寺の尻だけでなくシーツまでぐしょぐしょになるほど、たっぷりと濡らした。
これから自分がそれ以上に獄寺を汚すのだと思うと、綱吉の体温は否が応でも高まっていく。
「獄寺君……」
耳元で名前を呼ぶと、それさえも気持ちいいのか、獄寺が甘く擦れた声で「早く」とせがんでくる。
獄寺の股間へと手をやると、先走りと潤滑剤が混じってベタベタになっていた。竿を伝って陰毛までも濡らしている。
「すごいね、獄寺君。前、ドロドロになってる」
そう言うと綱吉は、獄寺の陰茎を握り締め、ニチャニチャと湿った音を立てながら扱き上げた。
「ん、あ……あ、あ……」
甘い声をあげながら獄寺は、腰を揺らしている。指で中を弄りながら前を扱いてやると、獄寺は啜り泣きながら綱吉の体に腕を回してきた。
「じゅ…っ……十、代…目……」
すがりつきながらもぐいぐいと綱吉の体を押し返し、ベッドの上にごろりと転がすと、獄寺は綱吉の腹の上に跨ってくる。
「……も、我慢できません」
濡れた声で囁いた獄寺は、綱吉の高ぶりに尻をなすりつける。
「今日は俺が……自分で……」
綱吉の竿を後ろ手に掴んだ獄寺は、慎重に腰を下ろしていく。いつもは綱吉にリードを取らせてくれる獄寺が、焦れたように腰をくねらせる姿がひどくいやらしく見える。
白く肌理の細かい獄寺の肌に手を滑らせ、綱吉はわき腹のあたりをやわやわと撫でてやる。時々、腰骨をなぞりおりては三角形の繁みの中で先走りを滴らせるペニスに指を絡め、先端をぐりぐりと擦ったり、竿を扱いたりした。
「やっ……そんな、触らな……」
はあっ、と息を乱して獄寺は懇願する。
自分の下で乱れる獄寺の姿は何度も見てきたが、こんなふうに綱吉の上に跨った姿からは、また違った色気を感じる。綱吉は満足そうに自分の唇をペロリとねぶってから、獄寺の陰茎を強く扱いた。
「ああっ……あ!」
腹をはさむようにしていた獄寺の太股の付け根が、ピクピクと震えている。
「獄寺君、早く」
早く、繋がりたい。獄寺の中に潜り込んで、突き上げ、擦り上げたい。腰を揺らして窄まりを突くと、クチュン、と湿った音がする。
「挿れるとこ、早く見せて」
綱吉の言葉に獄寺は、小さく頷いた。
窄まった襞の間に綱吉の先端を押し当てると、獄寺は自ら腰を落としてきた。潤滑剤を使っていても、男だから辛いことにかわりはないはずだ。眉間に皺を寄せ、時折、小さく呻きながら獄寺が腰を落としてくる。
綱吉はじっと獄寺の様子を見ていた。
手は、貸さなかった。
自分ですると獄寺が言ったからだ。
じりじりと時間をかけて、自分の性器が獄寺の中に埋め込まれていく。めまいがしそうなほど気持ちよくて、綱吉は低く呻いた。
獄寺の中はあたたかかった。いつもよりヌルヌルしていて、内壁はねっとりと絡みつくように綱吉のペニスを包んでくる。先端の張り出した鰓の部分が獄寺の内壁を押し広げていく。ヌチャリと湿った音がすると、そのたびに獄寺は動きを止め、息を潜めた。その動作がまた、色っぽい。
自分の腹の上で腰を振って、身を捩る恋人の痴態に綱吉はゴクリと唾を飲み込んだ。
「獄寺君……全部、入るよ」
掠れる声で綱吉は囁いた。
「言わ、な……」
目元を赤く染めて、獄寺が返す。
綱吉の性器がズブズブと湿った音を立てながら獄寺の中に飲み込まれていった。根元までしっかりと性器を咥えこんだ獄寺の後孔は、きついほどに綱吉を締めつけている。
綱吉が手を差し出すと、獄寺も同じように手を伸ばし、その手にすがりついてきた。
「……十代目」
獄寺の声は微かに震えていた。
窄まった襞はヒクヒクと蠢いて、綱吉を締めつけるのに忙しそうだ。
繋いだ手を綱吉がゆっくりと引っ張ると、獄寺の体は前のめりになる。
「動いて」
綱吉が優しく命令すると、獄寺はますます目元を赤く染めて、躊躇いがちに腰を浮かせた。
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