裸になった獄寺は、綱吉の体の下に敷き込まれた。
  微かに香る綱吉のコロンのにおいに、まるで女のようにドキドキとしている自分がみっともなくもあり、恥ずかしくもあった。
「あ、の……」
  言いかけた獄寺の唇を、綱吉の唇が塞ぐ。
  ざらりとした舌に歯列をなぞられ、ゾクリと背筋が震えた。
「ん、ふ…ぅ……」
  裸の肩にしがみついて獄寺は、声をあげた。
  綱吉の手が優しく獄寺の肌を這い回り、太股をなぞりあげる。
「もしかして緊張してる?」
  尋ねられ、獄寺はちらりと綱吉を見つめ返した。
「はい……少し」
「俺も、緊張してる」
  誤魔化すように笑いながら、綱吉は正直に告白した。
  少し困ったような、いつもの綱吉の笑みだと獄寺は思った。
  わずかな時間のうちに綱吉に言いくるめられてしまった自分がいる。少し翻弄されただけで獄寺の体は、すっかりふにゃふにゃになってしまっていた。まるでクラゲか溶けかかったゼリーのようだ。
  それだけではなく、気持ちまでもが懐柔されてしまっている。
  これではいけないと思うのだが、体はなかなか言うことを聞いてくれず、そんな自分を獄寺は歯痒く思った。
  いっそ拒んでしまうことができたらすっきりするのにと、思わずにいられない。拒むことができないから、歯痒い思いをしなければならないのだ。綱吉に組み敷かれ、体中あますとこなく触られて、歓喜に打ち震えている自分がいる。これではいけないのに。
「ねえ、言ってよ」
  駄々をこねるように綱吉が言う。
  抱きしめてくる綱吉の肩口に額を押しつけ、獄寺は掠れた声で呟いた。
「……好きです、十代目」



  もう、どうにでもなれと獄寺は思った。
  綱吉を好きな気持ちにかわりはない。
  いつまでも意地を張っているよりも、綱吉の言葉に従い、心の奥底で獄寺自身が望んでいるように行動してもいい頃ではないだろうか。そもそも今回の一連の火事騒ぎは、自分の心の内を隠そうとしたことに端を発しているのだから。
  自分自身に素直にならなければ、いつまで経っても現状のまま、堂々巡りの繰り返しを続けるばかりだろう。
  綱吉の背中に手を回して抱きしめると、あたたかな体温が感じられた。獄寺は綱吉のにおいを鼻腔いっぱいに吸い込んでみる。
  しがみついたまま離れようとしない獄寺の銀髪に、綱吉は何度も唇を押し当ててくる。やさしいキスの感触に、獄寺の胸の中に熱いものがこみあげてくる。
  この人は自分のものなのだと、獄寺は思った。
  獄寺の頭のてっぺんから足の先までが綱吉のものであるように、綱吉のすべては自分のものだと言いたかった。この人は、自分のものだ。誰にも渡さない。心の中でそう思うと、獄寺は全身で綱吉にしがみついていく。
「そんなにしっかり抱きつかれたら、続きができないよ」
  少し困ったように綱吉が告げる。
「す…すんません」
  返した獄寺の声は、微かに震えている。
  好きな人と肌を合わせるのが初めてだからだろうか、心臓の鼓動はうるさいほどに鳴り響いている。
  二人の体の間にできたわずかな空間に、綱吉は手を差し込んだ。肋骨のあたりから脇腹をなぞり、下腹部へと手を滑らせた。湿り気を帯びた陰毛の中に勃ちあがった獄寺のペニスを逆手に握りしめると、強弱をつけて何度か扱いた。
「さっきイッたばかりなのに、もうこんなになってるよ」
  そう言って綱吉が手を動かすと、グチュ、と音がした。
「ん、ぁ……」
  綱吉にしがみついた獄寺は、足を立て膝にして足を開いた。すかさず綱吉は、獄寺の足の間に手を差し込んだ。蟻の戸渡を指先でするりと撫でて、尻の窄まりを探った。
「ここに……挿れてもいいかな、獄寺君?」
  耳元に尋ねかける綱吉の声は、どことなく不安そうだ。
  獄寺はにこりと笑みを浮かべると、綱吉の体を抱きしめた。ぐっと力を入れて綱吉の体を抱きしめると、髪に、顔に、何度も唇がおりてくる。
「……中に、いっぱいください」
  そう言って獄寺は、綱吉の唇に自分の唇を押し当てた。



  舌と舌とを絡め合い、深いキスを交わす間に、獄寺の窄まりの縁に綱吉の指がかけられた。幾筋もの皺を引き延ばすかのように周囲の皮膚をなぞりながら、ゆっくりと窄まりの中に指が突き入れられる。
「ん、んっ……」
  獄寺の先走りだけでは心許なかったのか、綱吉はどこからかローションを取り出して獄寺の後ろに塗り込めた。
  ベタベタとした不快感よりも、綱吉の指が触れているのだと思うと、それだけで獄寺の体は熱を持つ。触れてもらえることが嬉しくてたまらなかった。
  グチュ、グチュ、と湿った音が部屋に響く。
「獄寺君……」
  名前を呼ぶ綱吉の声も、どことなく艶めいて色っぽい。
「……早く」
  綱吉の手を掴むと獄寺は、自分でその手をぐいぐいと動かした。
  内壁に与えられる快感を貪欲なまでに堪能しようとする獄寺の動きに、綱吉は目を丸くしている。
「獄寺君……」
「早く、中に挿れてください」
  一分でも一秒でも早く繋がりたいと獄寺は思った。指ではなく、もっと質量のあるもので貫いて欲しい。ぐちゃぐちゃになるまで揺さぶられたら、胸の中の足りないピースが埋まるような気がしてならなかった。
  開いた足を自分でさらに大きく開脚させ、獄寺は綱吉を誘っている。
  綱吉は獄寺の窄まりから指を引き抜いた。
  自分の体の中から綱吉の指が引きずり出される感覚に、獄寺は目眩を感じた。
  いつの間にか、先走りを滴らせていた獄寺の性器が、プルン、と大きく震えた。



  綱吉の性器が入りこんでくる感覚に、獄寺はゾクゾクしていた。
  背筋を駆け上がる快感に、唐突に獄寺の性器が白濁したものを放った。ピシャ、と湿った音がしたかと思うと、二人の腹が汚れていた。
「あ……」
  触れられてもいないのにと獄寺があたふたしかける。
「そんなに気持ちよかったんだ?」
  真顔で尋ねられ、獄寺は顔を真っ赤にして頷いた。
「す……すんません、十代目」
  一緒にイキたいと獄寺は思っていた。こんなふうに先に自分一人でイッてしまうとは、思いもしなかったのだ。
「気にしなくていいよ」
  そう告げた綱吉は、ペロリと自分の唇を舐める。
  獄寺の中に埋もれた綱吉の性器は張り詰めて硬くなっていた。律動をつけて中で動くと、そのたびごとに形がはっきりと感じられるような気がして獄寺は恥ずかしくてたまらない。
  ぐっ、と深く突き入れられたとか思うと、ズルズルと先端まで引きずり出される感覚に、獄寺は溺れそうになった。口を開けて大きく息を吸うと、綱吉の唇に唇を塞がれた。
「んっ……」
  獄寺の口腔内に差し込まれた綱吉の舌が、舌を吸い上げる。きつく吸い上げ、唾液を啜られる音が恥ずかしくて、獄寺は目を閉じた。
「目、開けて?」
  耳元で、綱吉の声がした。掠れているのは、獄寺に欲情しているからだろうか。
  そっと獄寺が目を開けると、綱吉は満足そうな笑みを浮かべた。
  獄寺の足を膝裏から抱えると、腹につきそうなぐらい押しやる。
  ズブズブとめり込む性器の硬さに、獄寺は唇を噛み締めた。
「痛い?」
  尋ねられ、獄寺は首を横に振った。
「いいえ」
  本当は痛かった。綱吉の性器が内壁を擦り上げるたびに、獄寺は痛みを感じている。しかしその痛みこそ獄寺が望んでいたものに他ならない。
  綱吉が腰を前後に揺さぶると、獄寺は啜り泣いた。
  痛みと、熱と、快感と、満足感とが獄寺の中にあった。
「十代目、十代目……」
  うわごとのように口走ると、綱吉の唇が宥めるように獄寺のこめかみに落とされた。
「ごめ……加減、できない」
  耳元にかかる吐息に紛れて、綱吉の囁きが聞こえたような気がした。
  全身で綱吉にしがみつき、獄寺は声をあげ続けた。
  綱吉の腹になすりつけられていた獄寺のペニスが、不意に大きく震えた。
「あ……ま、た……」
  泣き出しそうな目で、獄寺は綱吉を見つめた。
  綱吉は、獄寺を激しく揺さぶった。突き上げる律動が次第に早くなり、ぐっと最奥を突き上げた。体の中に熱いものが叩きつけられる感覚がして、獄寺の頭の中は真っ白になった。
「あ、あぁ……」
  しがみついた綱吉の背に、一筋のみみず腫れを残して獄寺は意識を失った。



  目が覚めると、獄寺の隣には綱吉が眠っていた。
  窓から差し込んでくる日差しは柔らかく、目覚めたばかりのボーっとする頭で獄寺は部屋の中を見回した。どうしてこんなところで綱吉が眠っているのだろうかと思うと同時に、獄寺の記憶が鮮明に蘇ってくる。
  そうだ、自分は昨夜、綱吉に抱かれたのだ、と。
  そのことに気付いた途端、獄寺は年甲斐もなく赤面した。
  体の奥に感じる鈍痛は甘く、全身が怠かったが、それでも獄寺は満足だった。
  獄寺の胸の奥底に黒い獣の存在感をは感じることはもう、ない。あれはやはり、獄寺の胸の奥に秘めたマイナスの想いが実体化したものだったのだ。
  謝っても許されることではないだろうが、この先、獄寺はあの黒い獣がしでかしたことの後始末をしていかなければならないだろう。元はと言えば、自分の弱い気持ちが招いたことだ。それぐらい、どうということはない。
  穏やかな寝息の綱吉に、獄寺はそっと微笑んだ。
  綱吉のことが好きだという自分の気持ちを認めることは、とても簡単なことだった。何故、自分はあんなにも必死になってこの気持ちを押し隠そうとしていたのだろう。
  怖れていたことは、すべて獄寺の独りよがりな思いでしかなかった。綱吉は真っ正面から獄寺の気持ちと向き合ってくれた。何も心配することなどなかったのだ。
「ありがとうございます、十代目」
  小さく呟くと獄寺は、まだ眠っている綱吉の目元に口づけた。



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(2010.4.10)


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